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入学してしばらく経ち、随分とこの学校にも慣れてきた。
基本的に授業内容は、普通校と変わらない。
そこに霊術に関する授業がプラスされる感じだ。
霊術の授業は大きく分けて二つ、座学と実技だ。
座学は霊術を学ぶのではなく、歴史の授業となっていて拍子抜けした。
実技の授業も初歩的なことがメインで、実践的なことは何一つ教えない。
霊術はそれぞれの流派ごとに個性があり、詳細は秘匿されている。
その流派に所属しない限り、教わることはできないのだ。
つまり、様々な派閥が通学する学校で教えることなんてできるわけがない。
だから座学も歴史中心なのだろう。
結局、霊術の授業で学べることは何もなかった。
それなりに期待していただけに、とんだ肩透かしである。
そんな好奇心を掻き立てられない授業を受けて気づいたこともある。
どうにも生徒の霊力が低い気がするのだ。
といっても、霊力を測定する術を編み出したわけではない。
単純な比較の結果だった。
実技の授業で、他の生徒が苦戦するようなものを、私とレイちゃんは難なくこなせてしまうのである。
初めは、そのことが理解できなった。
なんせ、複数の属性を持つ人間と、まともに交流するのは初めてのこと。
きっと霊力が高くてコントロールが利かないのだと考えたりもした。
だけど放出される霊気は、ごくわずか。単純に苦戦している様子。
何度も考えた末、相手の霊力が低いのでは? という結論に至った。
余裕を持って授業についていけているのは、私たちと兎与田七海くらいだ。
これにはがっかりだ。
折角、霊気に目覚めた人間がこれだけ沢山いるというのに、実力者から目で盗むといったことも出来そうにない。
こうなってくると霊術に関することは、この学校の魅力とはなりそうにない。
そこに面倒ごとがプラスされる。
教師も生徒も、ちょっと言動に問題があるのだ。
話すたびに、「一属性が」みたいな余計な言葉を付けてくる者と一定のタイミングでエンカウントしてしまう。
放っておくと調子に乗って数を増やすし、実力行使すると指導される。
対応が非常に面倒である。
それでも、相対するたびに霊気で威嚇したせいか、最近は大分出現率が低下してきたと思う。
通常の教科は普通校と変わらないし、霊術の授業は得るものがなく、学校関係者が総じてウザい。
こうなってくると、在学する理由がフォーゲートしかない。
今日から、クラブ活動への参加が解禁されるけど、大丈夫だろうか。
一抹の不安を覚える。
――というわけで、フォーゲート部に入部した。
が、スムーズに事が進んだのは、ここまでだった。
部活動を始めて数日が経過したが、芳しくない結果だ。
部活初日から、いや、開始一秒から私たちの扱いがおかしかった。
新入部員は皆、基礎トレーニングに励んでいる。霊力が主体の競技で体を鍛える意味がどこまであるかは分からないけど、やっている。
そんな中、私たちはトレーニング参加メンバーから除外された。
秘めた才能を見出され、特別な練習を行っているというわけではない。
それとは真逆に、ひたすら雑用をやる係を仰せつかったのだ。
部室の掃除と整理、備品の手入れ、消耗品の買い出し。
競技に関することは、何一つさせてもらえない。
とにかく徹底していて、球拾いすらやらせてもらえない状態だ。
とはいえ、こういった雑用も今まで部員の誰かがやっていた作業。
そういう意味では、全く部活に参加していないというわけではない……、のかもしれない。
「いや、練習すらやってないんだから、参加してないわ!」
ハッと気が付き、つい声が出てしまう。私、騙されてる!
こういう雑用は、練習の後に当番の人がやっていたはず。
やっぱり、雑用オンリーはおかしいわ。
トレーニングに参加でなければ、身体能力の高さをアピールできない。
競技練習に参加できなければ、実力を見せることができない。
いくら雑用が上手くなっても、フォーゲートの評価には繋がらない。
これは完全な手詰まり。
この状態、改善されるだろうか……。
「マオちゃん、ブツブツ言ってないで手を動かしましょうね」
「あ、はい」
真面目に窓拭きしていたレイちゃんから、指摘を受ける。
レイちゃんは、黙々と雑用をこなしていた。
普段やらない作業だから珍しくて面白いらしく、とても楽しそうだ。
「おい一年。窓拭きは終わったか?」
と、ここで上級生が様子を見に来た。
「ええ、終わりましたわ」
やり遂げた満足顔でレイちゃんが、返事を返す。
それを聞いた上級生は不満そうな顔を浮かべた。
窓のふちに人差し指を這わせて、汚れがついていないかチェックし始める。
まるでドラマの姑みたいだ。
端から端まで指を動かしてチェック。そしてまた、別の窓枠に指を這わせる。
といった作業を何度も何度も繰り返す。
……そこまでしなくても。
「まだこんなに汚れてるじゃない!」
と、勝ち誇ったように人差し指の腹を見せてくる。
指には、一見すると何もついていないように見えた。
じっと目を凝らすと、薄っすらと何かが付いているような気がしないでもない。
いや、何も付いてないわ。
上級生にしか見えない汚れが付いているとでも言われない限り、何も付いていないわ。
「なるほど、まだ不十分というわけですわね。分かりましたわ。もう一度やり直します」
ふんすと鼻息荒く腕まくりをするレイちゃん。非常にモチベーションが高い。
でも、これ以上やっても何も変わらないんだよね。
「いや、ちゃんとできてるから。やる必要はないよ。次の作業をやろう」
ここで変な窓拭きの基準を覚えてもらうわけにはいかない。
私は慌ててレイちゃんを止める。
このままではレイちゃんが家で窓ふき小姑になってしまうよ。
最悪、雲上院家の清掃担当からパワハラで訴えられかねない。
「なんでアンタが決めてんの。私たちが、いいって言うまで窓拭きだから!」
「ええ~……。もういいでしょ」
「やれって言ってるのよ!」
怒鳴った上級生が、胸元を掴もうとしてきたので、さっとかわす。
それでも掴みかかってきたので、手首を掴んで止めた。グッと握りこみ、完全に固定する。
「ちょっ、離しなさいよ!」
「掴みかかってこないなら、離しますよ」
「何なのよ! アンタたち生意気なのよ!」
後ろにいた上級生たちも、ジリジリとこちらに迫ってくる。
「何をしているの?」
と、ここで部長が部室に入ってきた。




