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 真の雲上院礼香の姿がそこにあった。




 レイちゃんは、羨望のまなざしを送る皆の手綱を握り、全員に同じ未来を共有させていく。


 軽快なトークで、皆の関心を一手に引き受けていた。


 この調子で行けば、全員の不満を解消しつつ、新たな未来を提示できるだろう。


 今の話が終わるまで自分が邪魔になると判断した私は、こっそり輪を抜けた。


 ――と、そのタイミングで兎与田七海の様子をついでに見ておく。


「ちょ……」


 彼女は、並べられた料理を高速でタッパーに詰めていた。


 予想外の行動を目撃し、言葉を詰まらせる。


 何やってるんだ、あの子……。


 折角レイちゃんがいい感じにまとめようとしているのに、あんなの目撃されたら、またややこしくなりそうだ。


 しかし、私の心配は杞憂に終わった。


 なぜなら、兎与田七海の動作があまりにも素早かったからだ。


 なんというか手慣れている感じだ。


 これだけの人数がいるのに、周囲の視線をかいくぐり、誰にもバレないままに手早く仕事を終えていた。


 まあ、私にはバレたけど……。


 それにしても、見た目、性格、ともにマンガのイメージと乖離しすぎだ。


 そんな、兎与田七海の奇行を不意打ちで目撃してしまったため、気持ちに乱れが生じてしまう。


 ドッキリでも仕掛けられた気分だよ……。


 私は自分を落ち着かせるため、部屋に飾られた調度品を見て回ることにした。


 芸術品といって差し支えない品々を見ていると、気持ちが豊かになる……。


 わけもなく、なんでこれが高級品なのだ? という一般市民めいた素人的疑問しか浮かばなかった。


 そのまま適当に散策していると、部屋の一角に不自然な展示エリアがあることに気づく。


 展示されているのは、高級な焼き物や絵画ではなく、釣り具だった。


 和風な内装なのでギリギリマッチしているが、明らかに趣味全開。


 魚拓も貼られているし、そうとう凝っている様子。


 一体誰の趣味なんだろう。


「魚かぁ……」


 よく手づかみで取った記憶がある。


 先をとがらせた枝を銛代わりに使ってみたこともあったが、ゴムがないと十分な性能を発揮させることができなかった。


 色々と試行錯誤したが、自給自足状態で魚を確保する道具を作るのは案外難しかった。


 そして、たどり着いた結論、それは……。


 ――体を鍛えて、手で取るというもの。


 準備が整っておらず、どんな環境でも対応可能となると、そういう結論に落ち着くんだよね。


 こういう釣り竿でもあれば、もっと簡単に魚を捕まえることができたのだろうか。


「これに関心を示すとは、将来有望じゃのう」


 高そうな釣り竿を眺めていると、背後から鷹羽雷蔵が話しかけてきた。


 さっきまで大人の集団にいたのに、何で急に?


 私は慌てながらも、返事をする前に周囲を見て状況理解に努めた。


 誕生日会の参加者は、それぞれがグループを形成し談笑している。


 そして、私だけが一人で展示品を見ていた。


 これは……、孤立していると勘違いして声をかけてくださったに違いない。


「釣りをしたことがなかったので、好奇心につられて見ていました」


 釣り好きと言ってもすぐバレるし、ここは正直に答えるべきだろう。


「釣りはいいぞぉ。なんといっても、こう……手応えが癖になるんじゃ」


 鷹羽雷蔵は、釣り竿を持つ振りをしながら、楽しそうに語る。


 そういえばテレビでカツオの一本釣りを見たことがある。


 多分、あんな感じでガンガン獲れるのが気持ちいいんだろうな。


 沢山獲れれば飢えないし、非常に良いことである。


「へぇ、お好きなんですね。ここにも魚拓が沢山展示してありますし、相当な腕前なのでしょうね。私なんか不器用なので技術を習得するまで、凄く時間がかかりそうです」


 テレビのようにポンポン釣り上げるのは、かなり難しそうだ。


「そうでもないぞ。まあ、コツのようなものはあるが、狙う魚によって難易度も変わる。割と敷居は低い趣味の部類だと思うのう」


「そうなのですね。それなら、いつかご教授願いたいものです」


 ここは、社交辞令として無難な相槌を打っておこう。


 実際、鷹羽家の当主なんだから超多忙なのは間違いない。


 釣りなんて滅多に行かないだろうしね。


 鷹羽雷蔵が休みを取って釣りに行くころには、この話も忘れているだろう。


「そうか! なら次に釣りに行くときは必ず誘おう。といっても、爺と二人きりは辛かろう。そうじゃのぅ、アキラも一緒に来させるか」


 うぉい! とんでもない事言い出しちゃったよ、このジジイ!


 う、取り乱した。落ち着け、私。


 ……まさか、そんなに釣り好きだったとは。


 こ、ここは角が立たないように断りたいところだけど……。


「いえ、雷蔵様とアキラ様、お二人とご一緒なんて恐れ多いです。それに二人は経験者なのに、私だけ初心者では、場を盛り下げてしまいますよ。お気持ちは、大変ありがたいのですが……」


「そうじゃな! ここは釣り教室ということで、広く呼び掛けることにしよう! 君も礼香さんを誘うといい。よし、これは良い催しを思いついたぞ。ハッハッハッ」


 鷹羽雷蔵は、言いたいことだけ言って結論付けると、豪快に笑いながら去っていった。


 く……、断るどころか、イベントのサイズが大きくなってしまったよ。


 そして、この状況で私がお断りするのは角が立つ。


 これは参加決定だ。


 なんだろう、こんな展開で誕生日会に参加する羽目になった話を、つい最近レイちゃんから聞いたような気がしないでもない。


 まあ、ここは気持ちを切り替えて、レイちゃんとの釣りを楽しむか。


 そんな風に考えを改めていると、遠くから「なんで俺が……」という不機嫌マックスな声が聞こえてくる。


 声が聞こえた方へ振り向けば、鷹羽雷蔵が鷹羽アキラに釣り会の話をしているようだった。


 これで、鷹羽アキラは強制参加。流れ弾に当たったに等しい。そりゃあ、不機嫌にもなるよね。


 ほんと、ごめんよ。


 などと、心の中で詫びていると、兎与田七海が釣りに興味を示す。


 彼女がやってみたいとポジティブな反応を示したことにより、鷹羽アキラのご機嫌は瞬時に回復。


 身振り手振りを交えつつ、釣りの楽しさを語り始めていた。


 その間に、鷹羽雷蔵が釣り会の話を全員に告知。この場で参加者を募ると説明した。


 釣りの話で盛り上がる鷹羽アキラと兎与田七海の姿を目撃した資産家の令嬢の皆さんは即座に不参加を決定。


 これだけ決断が早かったのは、レイちゃんの話を聞いたためだろう。


 逆に、霊術師の令嬢の皆さんは参加の意思を示す。


 全員ではないが、それなりの人数が参加を希望しているようだった。


 というわけで、一気に参加人数が増加。


 これじゃあ、釣り会じゃなくて釣り大会だね。


 開催時期は鷹羽雷蔵が多忙のため、後日連絡するとのこと。


 参加人数からして、それなりに大きなイベントだし、準備とスケジュール調整にしばらくかかるだろう。


 という、釣り大会の参加者募集によって誕生日会は終了となった。


 帰りに、レイちゃんに事情を話して釣りに行くことが決まったことを話す。


 すると、「やったことがないので楽しみですわ」と、意外にポジティブな反応が返ってきた。


「海老を餌に鯛を釣ってみせますわ」


 と、意気込むレイちゃん。


「いや、それはことわざってだけで、実際は違うんじゃないかな」


 私も釣りに詳しくないので、ツッコミとしては微妙な精度となってしまう。


 というわけで、誕生日会終了後に色々なお土産を持たされた私たちは、追加で釣り大会の参加権という妙なお土産まで貰うこととなってしまったのだった。





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