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というわけで誕生日会当日。
私は後藤さんが運転する雲上院家の車に乗せてもらい、レイちゃんと一緒に鷹羽家に向かった。
到着した鷹羽家の外観は、純和風の邸宅といった趣だ。
まあ、広さが桁違いだけど。
係の人に案内されて玄関へ向かう。すると、当主である鷹羽雷蔵が、わざわざ出迎えてくれた。
長く伸ばした白髪に、しっかりと蓄えられた白髭。
顔だけ見ればお爺ちゃんだが、体つきがしっかりしている。
和服を着用しているのに、がっしりとした体格が分かるということは、相当な筋肉量。
言葉を使わずとも、たゆまぬ鍛錬をかかしていないことを、その肉体が雄弁に語っていた。
十家の当主というのは伊達ではないようだ。
「今回は、わしの我がままで来てもらってすまんのう」
「いえ、わたくしの方こそ、毎年ご招待いただいていたにも関わらず、お断りして申し訳ございませんでした」
「いやいや、雲上院の家が多忙なのはよく分かっている。これからも予定が空いた時は是非参加してほしい」
「恐れ入ります」
「で、そちらがお友達かな?」
と、鷹羽雷蔵の視線がこちらに向く。
「はい。友人の九白真緒です」
「九白真緒です。今回はご招待いただき、ありがとうございます」
レイちゃんから紹介してもらい、頭を下げる。
「うん。ゆっくりしていってくれ」
笑顔で頷く鷹羽雷蔵。こうやって見ていると、厳格な人というより好々爺って感じだ。
でも、鷹羽家を束ねる当主だし、どうなんだろうね。
などと考えていると、突然玄関の引き戸が勢いよく開かれた。
「おい、爺さん。来たぞ!」
次いで、遠慮のない大声が響く。
声につられて振り向くと、そこには兎与田七海の姿が。
ええ!? なんでここに?
いや、鷹羽家の派閥に属しているし、電話で鷹羽雷蔵を呼びつけるくらいの仲なのだから居てもおかしくはないか。
それにしても、突然の登場だ。心構えが出来ていなかったから驚いたよ。
しかも服装がすごかった。
私たちは、パーティードレスを着用している。
自宅でのパーティーなので、カジュアルよりの装いを選択したが、それでもドレスはドレス。
しかし、兎与田七海の格好は完全な私服。
上はスカジャンにTシャツ、下はダメージジーンズにサンダル履きだ。
そして、Tシャツには、荒々しさがある達筆な筆文字で『豚骨ビッグバン』と書かれていた。
……ラーメン屋だろうか。
ビッグバンが起きそうな勢いで豚骨が爆発したら大惨事間違いなしだけど。
その服装、似合っていると言えば似合っている。
けど、マンガの因幡七海は、可愛いさが際立つファッションを選択していた。
見た目がまるで違う。ここまで来ると、原型が微塵も残っていない。
完全に別人だ。
以前は制服姿だったから、何とか気づけた。
だけど、初対面で今の格好だったら、気づけなかったかもしれない。
「おうおう、よく来たな。アキラは中にいるぞ。早く行ってやれ」
鷹羽雷蔵は慣れた様子で、家に上がるよう促す。
それを聞いた兎与田七海はサンダルを脱いでスリッパへと履き替えた。
と、そのタイミングで初めて私たちがいることに気づき、視線をこちらへ向けた。
「お邪魔しまーす。あっ……、サイコパスとメンヘラ……」
「どっちがどっちなのかな? ん?」
私は笑顔で兎与田七海に質問した。
「とても気になる発言ですわね、兎与田さん?」
レイちゃんもニッコリ笑顔で彼女に問いただす。
「いや、ごめんごめん。ついうっかり」
何がうっかりなのか。うっかり本音を言ったということなのか。
ならば容赦せんぞ。
「なんだ、この二人を知っとるのか?」
「ただのクラスメイトだよ。それじゃあ」
失言に焦った兎与田七海は、そそくさと中へ入っていく。
遠ざかっていくスカジャンの背には、厳つい虎が刺繍されていた……。
「今度、マオちゃんもああいったファッションをしてみませんか? とても似合うと思うのですが」
「レイちゃん……?」
私は、兎与田七海の外見がマンガと大きく乖離していることに呆然としてしまっていた。
だけど、レイちゃんは違う理由で彼女を無言で見つめていたようだ。
まあ、あそこまで厳ついのは持ってないけど、それっぽい服ならある。
ただ、レイちゃんと同行する際は、ドレスコードがある場所に行くこともあるので選択から除外しているんだよね。
今度、家にいる時にでも、似たような格好をしてみようかな。
「君たちも上がるといい。一緒に行こうか」
と言う、鷹羽雷蔵の案内の元、会場となっている大部屋へ。
流石は鷹羽家、普通の家には存在しない催し物専用の部屋があるのだ。
通された部屋は、完全に私生活で使う必要がない広さと内装となっていた。
全体的に和風な雰囲気を残しつつも、様々なイベントの対応を想定してか、床はフローリングだ。
調度品どころか建材の隅々まで贅が尽くされ、煌びやかな雰囲気で溢れていた。
室内は個人の自宅という印象が薄れ、ホテルの立食パーティーを思わせる。
方向性は違うけど、レイちゃんの家と同じ分類になりそう。
私は、前に立つ鷹羽雷蔵の背ごしに視線を走らせ、参加面子をサラッと確認。
ん? 参加者の十割が女性、というか女の子なんだけど。
男の子の参加者が見当たらない……。あ、一人だけいた。
「おい、アキラ。雲上院さんが来てくれたぞ」
と、鷹羽雷蔵が、今回の主役である鷹羽アキラの元まで連れて行ってくれる。
「アキラ様、ご招待いただきありがとうございます。そして、お誕生日おめでとうございます」
「ああ、ありがとう。と言っても、本当の誕生日はまだ先だがな。まあ、ゆっくりしていってくれ」
二人が挨拶を済ませた後、鷹羽雷蔵が私を紹介してくれた。
「こちらは雲上院さんの友人の九白さんじゃ。わしも初めて会うが、雲上院さんの友達というだけあって、醸し出す雰囲気が違うのう」
「初めまして、九白真緒といいます。本来なら、このような場に足を踏み入れるような人間ではないのですが、今日はお邪魔させていただきます。アキラ様、お誕生日おめでとうございます」
「ありがとう。親たちの関わりが薄い、俺の集まりだ。堅苦しい会じゃないので、くつろいでいってくれ」
鷹羽アキラと初めて話したけど、突っかかってくるでもなく、普通に応対してくれた。
そんな、爽やかスマイルを浮かべる彼をまじまじと見る。
こっちは兎与田七海と違ってマンガと同じ外見だ。
赤みを帯びた髪、少し野性味を感じる鋭い外見。まだ幼さが残るが、数年たてば原作の外見そのままになること請け合いである。
言葉遣いや服装もマンガと全く同じなので、私だけが感じられる安心感のようなものがある。
「それじゃあ、わしは隅におるから。子供が主役の会に居座るのが心苦しいが、付き合いがあるからのう」
ここまで案内してくださった鷹羽雷蔵は、隅に形成された大人たちの集団へと移動していった。
私とレイちゃんは、そのタイミングで鷹羽アキラの側から一旦離脱。
会全体の状況把握に努める。
「ねえ、レイちゃん。男女比は半々くらいって話だったけど、大分偏ってない?」
「ええ。随分と変わりましたね。以前参加させていただいた時は、本当に半々だったのですよ?」
小首を傾げたレイちゃんは、参加者の顔を見ながら黙考を始めた。
「レイちゃんが参加していない間に何かあったのかな」
さすがに不参加だった時の情報は把握していない。
「おそらく……、参加する女性陣がアキラ様に密集するためではないでしょうか。アキラ様とご友人、もしくは知り合いになりたい男性は女性に遠慮して近づけない。参加している女性から良い人を探そうとしても、全員アキラ様に付きっ切りで接触する機会がない。それで自然と男性が減って女性の割合が増えていったのかと……」
レイちゃんは、しばらく考え込んだ末、説得力のある推論を述べた。
「アキラ様の影響力が強すぎるってわけね。ざっと見た感じだと、今回の誕生日会で彼以外の男性参加者って一人だけだね」
ざっと見渡したが、鷹羽アキラ以外で男の子の参加者は一人。
彼の隣に立つ男子だけだ。あの顔にはマンガで見覚えがある。




