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入学式を終え、授業が始まって数日経つが、あれ以来トラブルは起きていない。
というか、誰も近づいて来なくなった。
どう接したらいいのか、図りかねているのだろう。
こちらからは無理に仲良くなろうとせず、必要最低限の接触しかしていない。
なんせ、全員属性数がどうのこうのという刷り込みを受けて接してくるため、対応が面倒くさいのだ。
唯一、兎与田七海だけは、属性数のことなど全く気にしていない。
そういう意味では一番仲良くしていきたい相手なんだけど、合格発表の一件があるせいか、距離を置かれている。
チャンスを見つけては、こちらから話しかけて誤解を解こうと試みたけど、向こうの頑なな姿勢に変わりがない。
ということで途中で諦め、距離を置かれるままとなっている。
そんなある日、帰宅後にレイちゃんが後藤さんに呼ばれ、何やら話し込んでいた。
レイちゃんは話が終わると、わざとらしい演技でヨヨヨと泣き崩れながら私の腕にしがみついてきた。
「どうしたの?」
私はレイちゃんの背中をさすりながら、事情を尋ねてみる。
「面倒ごとが舞い降りましたの」
「レイちゃんが面倒に感じるなんて珍しいね」
今のレイちゃんは、何でもそつなくこなす。
勉強、運動、社交、習い事、何でもだ。苦手なことなどほぼない。
そんなレイちゃんが、面倒に感じることって一体なんだろう。
「お誕生日会に出席しなければならなくなったのですわ」
「それだけを聞くと、さほど面倒とは思えないけど。誰か苦手な相手でも出席するの?」
「苦手な人……は、いませんね。ただ、面倒なことになるのが目に見えているのですわ」
「う~ん? もう少し内容を聞かないと分からないよ」
理由を聞いてもピンとこない。私は首を傾げながら、尋ねた。
「実は、鷹羽アキラ様の誕生日会なのです。鷹羽家というのは、社交の界隈でも有名ですし、ご存じですわよね?」
「うん、知ってる知ってる。実業家としても、霊術師としても、上位に位置する有名な家だよね。うちとは接点がないから、関連のパーティーには出たことはないけど。まったく無関係のパーティーで名前が話題に上がるくらいには有名だよ」
そういう方面でも知っているけど、鷹羽アキラはマンガのヒーローだ。
そして、兎与田七海が所属している十家の鷹羽派というのは、鷹羽アキラの実家が中心となる派閥だった。
気になって調べてみたら、そんな感じだったんだよね。
といっても、人を使って調査したわけではないので、表に出ている簡易的な情報しか知らない。
あんまり深入りして、兎与田七海にバレるとまずいから、最低限しか調べていないのだ。
「我が家は、同じパーティーに出席することがあったので、鷹羽アキラ様とは顔見知りではあるのです。それで以前、アキラ様の誕生日会に招待されて、出席したことがあったのですわ」
なるほど、今回が初めての出席ではないのか。
レイちゃんが社交に復帰したのは、私たちが仲良くなり始めてからだ。
ということは、前回出席したのも案外最近の話になるのかな。
それとも、もっと幼いころの話だろうか。
「その時に何かあったの?」
「ええ。非常に厄介な話なのですが、わたくしが出席すると、わたくし以外が先んじて鷹羽アキラ様に接すると失礼なのではないか、という雰囲気になってしまうのです」
家格的なもので自然に序列が発生してしまうわけか。
「となるとですね。わたくしが話しかけない限り、他のご令嬢は鷹羽アキラ様とお話がしたくてもできないわけなのです」
「ああ~、なるほど」
つまり、レイちゃんは鷹羽アキラに絶対話しかけないといけないわけね。
挨拶だけで済むならいいけど、そういうわけにはいかないと。
「中には、家柄を気にするけど、鷹羽アキラ様の熱狂的ファンのような方もいらっしゃるのです。そういった方の中には、そのパーティーが最初で最後の対面する機会という場合もあります。そうなると、別に親密になりたいわけではないけど、せめて挨拶だけでもしたいという方もいて……。前回出席した時は、わたくしが仲介役というか、通訳のようなポジションに落ち着いて、一人ひとりのお言葉を代わりに伝えるということになってしまったのです」
長蛇の列の先頭で、鷹羽アキラとレイちゃんが対応する様が目に浮かぶ。
握手会のアイドルとマネージャーみたいな感じかな。
「それは大変だったね。誕生日会なのに、お祝いされる鷹羽アキラの方も大変だなぁ」
「ええ……、本当に大変そうでした。わたくしのせいで余計にお手を煩わせたと思います。ですから、それ以来、誕生日会や鷹羽アキラ様が出席しそうな催しの招待が来ても、あの手この手を尽くして避けてきたのです」
「今回はダメだったんだ」
「はい……。なぜか他の社交の場で今年は鷹羽アキラ様の誕生日会に出てほしいと。それが駄目なら別の催しでもいいから参加してほしいと、他のご令嬢からお願いされることが多くなっていって……」
レイちゃんは、その時々のことを思い出し、困り顔で溜息を吐いた。
「それで断り切れなかったと」
まあ、何度もお願いされたら断るのも悪い気分になるよね。
そんな風に相槌を打つと、レイちゃんが首を振る。
「いえ、断っていたのです。断っていたのですが、たまたま当主の鷹羽雷蔵様がいらして、孫の顔を見に来てくれんかと、お願いされてしまったのですわ」
「それは断れないね」
何度か出席を断っているうえで、当主じきじきの申し出だ。
これは予定を空けて対応しないといけない案件にランクアップとなってしまう。
「はい。鷹羽雷蔵様はその辺りの事情を知らないので、熱心に誘うご令嬢や鷹羽アキラ様に気を利かせたつもりで、お誘いくださったのだと思いますわ」
「それは仕方ないね。大変だと思うけど頑張って! それが終わったら、ご褒美に何かおいしい物でも食べに行こうよ」
私はレイちゃんを目いっぱい励ました。
「いいですわね。この苦難を二人で乗り越えていきましょう!」
「あれ、今ふたりって言った?」
「はい。お友達もご一緒して構いませんかと伺いましたら、ご快諾いただきましたわ」
と、ニッコリ笑顔のレイちゃん。
「……なるほど」
まあ、困っているレイちゃんのお手伝いができるなら、渡りに船。
私に何ができるか分からないけど、側にいないと出来ないこともある。
「マオちゃん、頑張りましょうね!」
レイちゃんが私の両手を握って、ブンブンと振ってくる。
「うん、そうだね。私に協力できることがあるなら、なんでも言ってね」
私は大きく頷くと、ニカッと笑って見せた。
――ここがマンガの世界と知ったときは、主要な登場人物との接触は控えようと考えていた。
が、それもそろそろ限界かもしれない。
ヒロインである兎与田七海とは同じクラス。そして今回の誕生日会。
これから先、社交に復帰したレイちゃんに同行して他の登場人物との接触が避けられない場面も出てくるだろう。
そうなると、その場の雰囲気に合わせて臨機応変に対応していくしかないね。
さしあたっては、直近に迫った誕生日会を頑張りますか。
とはいえ、どんなイベントなのか詳細が分からない。
早速レイちゃんに、どんな誕生日会なのか聞いてみた。
なんでも、有名な家の子供が勢ぞろいするらしい。
誕生日会とはいうけど、将来の人脈づくりや結婚相手探しと考えている家も多いとのこと。
鷹羽家は実業家としても、霊術師としても有名な家。
家族全員が超多忙を極めるため、関係者のスケジュールを調整すると、誕生日にパーティーを開催するのは不可能。
そのため、実際の誕生日に開催されるわけではない。
今回は、かなり早めの日取りで開催されるらしい。
……つまり、誕生日会というのは仮の姿で、子供バージョンの社交界といった感じなわけね。
鷹羽アキラの誕生日会は開催場所が自宅と決まっているらしい。
それは、参加人数に上限を設けるためだろうと聞かされた。
なるほど、大きな会場を用意することも出来るけど、そんなことをすれば際限がない。
それだけ横に広がりのある名家ということだ。
普通なら、そんな家の誕生日会に招待されたら大喜び。
当日まで非常に楽しみだろう。
でも、レイちゃんは交通整備と通訳の仕事に行くようなもの。
そして私は、その補助。
ウキウキワクワクというわけにはいかず、粛々と準備をして当日を迎えることとなった。
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