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◆九白圭
私は、九白圭。
九白真緒の父だ。
娘の真緒は健やかに成長し、もうすぐ中学へ進学となる。
そんな娘には困った趣味があった。霊術だ。
娘は霊術の虜となり、修業にのめりこんだ。
一応、勉学や日常生活が乱れないように調節はしている。
が、余暇の全ての時間を修業に注ぎ込んでいる。
それだけ打ち込めるものがあるのは良いことかもしれないが、少し常軌を逸しつつある気がしてならない。
そんなたゆまぬ修業と妻の強烈な指導の結果、子供とは思えない身体能力を有するに至ってしまった。
そのお陰で、トラブルに巻き込まれても心身共に無傷で生還。
普通の子供であれば、深い傷を負っていたであろう状況なのに、ピンピンしている。
どこにも不調をきたさず健やかな姿を見れば、修業を咎めるわけにもいかない。
そんな、どこまでも元気で可愛らしい娘の真緒から、おねだりが来た。
真緒は基本的に何も欲しがらない。無欲に近い。
同年代の子が関心を持つようなものには、無関心。
お小遣いも、親が心配するくらい興味を示さない。
おねだりだって、普段は絶対に行わない。
ただ、霊術に関する事だけは貪欲だ。欲しいものも、それに関することだけ。
つまり今回のおねだりも、霊術に関する事だった。
曰く、修業に使っている採石場に住みたい、と。
つい最近、真緒から進路を変更したいと相談を受けた。
なんでも、友人の礼香ちゃんと同じ学校へ行きたいとのこと。
反対する理由もなかったので、二つ返事で了承した。
その時は詳しく聞かなかったが、後になって進路変更理由を聞いた。
どうやら礼香ちゃんは、進路変更した学校で資格のようなものを取り、それを使ってお祖母さんのお手伝いがしたいらしい。
手伝いの内容は、北海道での妖怪討伐。
真緒もそれに同行したいから、進路を変更したと言う。
ここで、先のおねだりに繋がってくる。
北海道で妖怪討伐へ行くまでに、なるべく霊力を高めておきたい。
だから、少しでも修業の時間を確保するために、採石場で生活したいということらしいのだ。
礼香ちゃんの祖母への姿勢にも心を打たれたし、娘の万全の準備をしておきたいという気持ちもよく分かる。
私は娘の要望を受け入れた。
採石場で生活することを許可しよう。
とは言ったものの、あそこには住居がない。
あるのは、簡単な雨風をしのげる程度の小さな仮設事務所だけだ。
いくら、妻の指導でサバイバル能力を磨いたとはいえ、あんな所に長期間住まわせるのは忍びない。
さて、どうしたものか。
入学までの日程が決まっているので、準備しようにも時間がない。
今から家を建て始めても間に合わないのだ。
これは困った。
と、考え込んでいると、真緒が新たな情報を伝えてくる。
礼香ちゃんも採石場に住むことを決めたというのだ。
考えているとか、迷っているわけではなく、決定事項だという。
うん……、益々困った。
あんな劣悪な環境に、雲上院家の一人娘を住まわせるわけにはいかない。
こうなったら、大型のキャンピングカーでしのぐか……。
妥協策を考えていたところ、雲上院家の方から提案が来た。
なんでも、誕生日会に備えて作っていた運べる家があるので、それを使うとのこと。
ついては、周囲を整備させてほしいという。
言っている意味は分からなかったが、とりあえず了承しておいた。
私が考えた案より、よっぽど増しに思えたからだ。
しばらくして、準備が整ったという知らせを聞き、様子を見に行く。
採石場だった場所は、綺麗な塀に囲まれていた。
豪奢な門にはガードマンが常駐していた。車内から会釈しつつ自動で開く扉を抜ける。
すると、中はアスファルトでしっかり固められ、広大な駐車場のように変貌していた。
その最奥には、豪華な邸宅が見えた。電線が見えるので、ライフラインも問題ないのだろう。
うん、たった数日でどうやったかは分からないが完璧だ。
キャンピングカーでお茶を濁さなくてよかった。
それから数日後、真緒が採石場へ引っ越した。
結果、寂しくなった。
毎日顔を合わせていると何も感じないが、しばらく会えないとなると数時間もしないうちに寂寥感がこみあげてくる。
三日も経てば、会いたい気持ちで一杯になってしまう。
今までも、長期間家からいなくなることがあったが、どうにも慣れない。
採石場での生活はうまくいっているのだろうか。
お土産でも買って、様子を見に行ってみるか。
そう思い立った私は車を走らせ、採掘場へ向かった。
道を行き、周囲から民家が消え、何もない土地が続く場所に切り替わった頃、景色の変化に気づく。
なんか、黒くて高いものが大量にそびえ立っているのだ。
私は以前、ああいう質感の物を見たことがある……。
しかし、当時とはサイズがまるで違う。
まだ採石場から大分離れているのに、よく見えるな。
周囲の景色と落差があり、観光スポットばりに目立つ。
あそこを目指して向かえばいいのか。
目的地の採石場へ着くと、高層ビルが立ち並ぶ場所へ着いたのかと疑うような薄暗さだった。
高層物があるせいで、日が当たらないのだ。顔を上げても天辺がよく見えない。
ガードマンに挨拶し、中へと入る。
黒い高層物が立ち並び、影で真っ暗になった道を走りながら邸宅の前で車を止める。
呼び鈴を鳴らすと、後藤さんが出迎えてくれたので屋内へ。
中は初めて見たが、うちより広いかもしれない。
正面にエントランスがあり、二階へ向かう階段と大きなシャンデリアが出迎えてくれる。
真緒と礼香ちゃんは二階にいるとのことで、案内されるまま階段を上った。
後藤さんがノックせずに、静かに扉を少し開ける。
そして、私に中を覗くよう、促してくる。
そこには真剣に受験勉強に取り組む二人の姿があった。
勉強しながら、あの黒い物を作り出しているのか……。
邪魔をしたら悪いと思った私は、二人に会わずに辞去した。
様子を見る限り、勉強も修業も順調そうだ。
特に心配することはなさそうである。
「これだけ暗いと、ビタミンDの生成を阻害しそうだな……」
私は恐る恐る黒い塊の間を抜け、帰途に就いた。
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