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 私たちは、お祖母さんに別れの挨拶をすると、病室を後にした。


「お祖母様、落ち込んでいましたわね」


 医師の指示で横になった瞬間、今までの快活さが失われ、ぐったりとしていた。


「拠点を放棄したっていう話が、よほど堪えたみたいだね」


「ええ。あの話の後から、目に見えて元気が無くなっていました……」


「またレイちゃんが顔を見せに行けば、少しずつ元気になってくれるよ」


「……だといいのですが」


「あれ?」


 などと話しながら、後藤さんと昭一郎さんとの合流先へ向かっていると、榊さんを見かけた。


 てっきり、もう帰ったものだと思っていたけど。


 榊さんは私たちに気づくと、「お」と声を上げ、こちらに近づいてきた。


「さっきは、割り込むような形になって悪かったね。実はついさっきまで、別室で担当の先生に、傷の具合を詳しく聞いていたんだ。雲上院さんに直接聞いても、はぐらかされそうだったからね」


 なるほど、担当医の人はその話を終えてから、病室に様子を見に来たのか。


「そうだったんですね。私たちは面会を終えて帰るところです。お祖母さんは、動き過ぎたので休憩されています」


 と、お祖母さんの様子を伝えておく。今、病室に行っても会えないからね。


「そうか。まだ無理はしない方がいいな」


「あの、お祖母様の容体はどうなのでしょうか?」


 ここでレイちゃんが心配そうな顔で榊さんに尋ねた。


「ああ、心配いらないよ。雲上院さんが答えた通り、二~三週間で退院だそうだ。そこからリハビリをして様子見といった感じになるそうだよ」


「そうですか、良かった……」


 ほっとした表情を見せるレイちゃん。


「ごめんごめん。俺が余計なことを言ったから、心配させてしまったみたいだね」


「いえ、そんなことは。わたくしもお祖母様の行動には心配していたので」


「うん、俺もさ。退院と同時に、何食わぬ顔でこっちに戻ってきそうな気がしたから、その辺のことを知っておきたくてね」


「ああ~、確かに。何ともないとか言って、やってしまいそうですね」


 お祖母さんと会った回数は少ないが、どういう感じの人かは何となく分かった。


 榊さんの言う通り、無茶しそうな気配はあったね。


「お祖母様ならやりかねませんね」


 と、微苦笑しながら同意するレイちゃん。


「フフ……、だろ? そこでしっかり止めることができないとね。もしものことがあったら大変だ。雲上院さんは、俺らの希望だからな」


 という榊さんは、遠くを見つめながら嬉しそうに微笑む。


「希望ですか?」


 どういう意味だろう。


「そうだ。君たちは今の北海道がどうなっているか知っているかい?」


「確か、妖怪が大量にいて、ほとんど人が住めない状態になっているんですよね」


「昔行われた掃討戦で敗走した妖怪が棲み着いていると、習いましたわ」


 私たちは知っていることを、それぞれ答えた。


 といっても、概要を知る程度だ。詳細なことは何一つ知らない。


「そうだ。もう何十年も前になるが、全国に妖怪が大量に発生したことがあった。それらは次第に徒党を組み、組織だって行動して人々を襲い始めた。そこでこちらも、各地の霊術師が連合を組んで対応したんだ。南から順に掃討作戦を展開し、群れを北へと誘導しつつ狩っていく。はじめは順調だったが、戦いが続くにつれてこちらの被害も増え、北陸に到達するころには危険な状態となった。そのため、北海道に追いやった時点で追撃を休止。戦力の回復を待つという言い訳で、そのまま放置だ。放置された北海道は、大量の妖怪が居座ったせいで人が住めない場所がどんどん増えていった。今ではほとんどが妖怪に奪われてしまった状態なんだよ」


 榊さんが、今に至るまでの話を要約して説明してくれる。


 なるほど、そういった感じだったのか。


「それでも、偉い所からの指示で定期的に霊術師が派遣されていて、せん滅作戦をしているんですよね?」


 そんなニュースを、テレビで見た記憶がある。


 かなりの戦果を謳っていたし、少しずつ改善傾向にあるのではないだろうか。


「あれはパフォーマンスだよ。実際には一番守りの堅い所を視察して回るだけさ。そもそも戦力の回復のために休止と言って、もう二十年も経つんだ。それもおかしいと思わないかい?」


「そうですわね。いくらなんでも時間が経ちすぎていますわ」


 榊さんに問われ、レイちゃんが、首肯する。


「初めからやる気がないんだよ。いや、昔はあったのかもしれない。でも、今は責任者が代替わりしていく中で、責任逃れが横行しているんだ。行けば被害が出るのは分かっている。妖怪どもが本州に攻めてくる気配がないから及び腰なんだよ」


 榊さんの見解は、上が被害を怖がって行動に出ないというもの。


 かなり納得する内容だけど、戦力の回復を待っているという公式見解とは随分と内容が違う。


 正確な情報を得るためには、色々な方向から話を聞いて回る必要があるかもしれない。


「動きがない状態が続くというのは、周辺に住む人にとっては、たまったものじゃないですね」


「そうさ。といっても、これだけ月日が経つと、地元の人間も諦めムードが定着してきたけどね。そんな中、諦めていない人間にとっての希望の星が、雲上院咲耶さんなんだ」


 急に榊さんの声の調子が変わり、熱がこもる。


「え、お祖母様ですか?」


 それなりの年月の重みがある壮大な話の中に、急にお祖母さんの名前が出てきて驚くレイちゃん。


「ああ、あの人は一切しがらみにとらわれず、ひたすら妖怪を倒し続けたんだ。派閥にも属していないみたいだしな」


 お祖母さんは霊薬を飲んで霊術師になったから、血のつながり、組織的つながりが希薄なんだろう。


「その姿を見て、鼓舞され立ち上がった地元の人間たちが雲上院さんを支援し、少しずつだけど人の住める場所が確実に増えていっていたんだ」


「それは凄い話ですね」


 地元の人からすれば、英雄みたいに見えたのかもしれない。


「雲上院さんは北海道を取り戻すことが目的ではないみたいだけど、そのひたむきな姿勢は嘘じゃない。だからみんな付いていったんだ」


 そういえば、お祖母さんは何でそんな活動をしているんだろう。


 北海道が生まれ故郷、ってわけでもないよね?


「何年もかけて、少しずつ前進し、人が住む場所も確実に増えて来ていたんだ。今回はそんな中で、最前線の拠点を放棄してしまうことになったってわけだ。みんな悔しがってはいたが、ゼロになったわけじゃない。今まで通り、少しずつでも前に進めばいつか取り返せると考えている。誰も諦めていないんだ。だけど、その時、雲上院さんがいないと駄目なんだよ」


 真剣な表情で力説する榊さんは、自然と身振り手振りが増えていく。


 言葉の一つ一つに想いが乗り、熱量が増していく。


「みんな、あの人に付いてきた。あの人がいたから、ここまで来れたんだ。だから、無理をしてほしくなくてね。常日頃から焦っているというか、急いでいる雰囲気があったから、心配していたんだよ。雲上院さんが何かの目的があって、前に進んでいたのは、みんな知っている。それが叶ってほしいと、みんな思っている。そういうわけで無理しようとしてないか、確認のために俺が来たってわけさ」


「そうだったんですね」


 榊さんから病院に来た事情を聞き、納得する。


 お祖母さんは、本当に皆から慕われていて大事に思われているんだろう。


 榊さんの熱の入った語りっぷりを見ていると、そういう風に感じられた。


 そんな榊さんの話を聞いていくうちに、レイちゃんは黙って考え込むようになってしまう。


 どうしたんだろう?


「雲上院さんの容体を皆に伝え、これからの計画をじっくりと練るとするよ。あの人が無理をしないように、君たちも目を光らせておいてくれよ? それじゃあ」


 そう言って、榊さんは軽く手を振って去っていった。


 そんな榊さんに私は手を振り返し、レイちゃんは深く頭を下げて見送った。


「お祖母さん、すごく慕われているみたいだね」


「……ええ」


 私が話しかけても、レイちゃんは上の空。


 何か考え込んでいるようで、反応が薄い。


 そんな調子なので、元の状態に戻るのを待つことにする。


 レイちゃんは、洋扇をいじりながら真剣な表情を崩さない。


 どうしたのか、聞いてみた方がいいかな。


 そんな風に考えていると、レイちゃんの昭一郎さんと後藤さんが合流してきた。


「待たせたね。それじゃあ、帰ろうか?」


 その声を聞いた途端、レイちゃんがパチンと洋扇を鳴らす。


 そして、おもむろに顔を上げた。


「お父様! わたくし決めましたわ!」


 一大決心した表情で声を上げるレイちゃん。


「え、何を?」


 突然のことに訳が分からず、聞き返す昭一郎さん。


 ずっと側にいた私も、何を決めたのかさっぱり分からないので、今会ったばかりの昭一郎さんからすれば、「何事?」といった感じだろう。


「ですから! お祖母様のお手伝いをするのですわ!」


「病院で看病するってことかい?」


「違いますわ! 北海道へ行って妖怪を討伐するのです」


「ええ!? いや、それは……。どうだろう……」


 レイちゃんの説明を聞き、言いよどむ昭一郎さん。


 確かに、これは簡単にOKとは言えない。


 が、レイちゃんは止まらない。


「わたくし、決めましたわ!」


「決めちゃったかぁ……」


「はい!」


「私は礼香が危ない目に遭うのは賛成できないなあ。礼香、考え直してくれないかい?」


 昭一郎さんは心配なはずなのに、頭ごなしに駄目とは言わない。


 やんわりと再考を申し出た。


「取り敢えずやってみますわ! あまりに危険と判断した場合は諦めます」


「う~ん、割と柔軟。かつ、強い意志を感じる」


 全く折れないレイちゃんの態度に、昭一郎さんが腕組みして考え込んでしまう。


「この感じ、反対意見を出したり、説得したりしても、ぶれないと思いますよ」


 私は、昭一郎さんに説得が困難なことを告げる。


 レイちゃんは猪突猛進モードになってしまった。


 こうなってしまうと、心変わりはしないだろう。


「真緒ちゃんもそう思うかい? 私もだよ……」


 私の言葉を聞き、「やっぱり?」と呟く昭一郎さん。


「しっかりと護衛を手配して、警備を固める方向で考えた方がいいかと。無断で行かれちゃうと、大変なことになりますよ」


 反対を続ければ、これ以上話し合いをするのは無駄と判断して、こちらの隙を突いて勝手に一人で行ってしまう可能性もある。


 そうなってしまうよりは、どう安全を確保するかという方向で話を進めるべきだろう。


「そうだね。私が反対しても飛び出していきそうな気配がするんだよねぇ」


「私が止めても、飛び出していきそうな気配がします」


 二人揃ってうんうんと頷き合う。こうなっちゃうと仕方ないんだよ。


「北海道へ行くならレイちゃんが無茶をしないように、私も同行します」


「まあ! マオちゃんが来てくれるなら百人力ですわ! 二人で妖怪をバッタバッタと倒しましょう。そして、拠点を取り戻し、お祖母様が宿敵を倒すアシストをするのです」


 鼻息荒く、私の手を両手で強く握りこんでくるレイちゃん。


 北海道へ行くことは決定したかも同然の様子だ。


「私も真緒ちゃんが礼香の側にいてくれるのは本当にありがたい、と言いたいところだが、そんな危険なところへ行かせるわけには……。きっとご両親も反対するだろう」


 昭一郎さんが申し訳なさそうに言う。でも、私の両親なら……。


「いえ、むしろ賛成してくれるような……」


 母なら、訓練になるから全身に重りを付けて行ってこい、とか言いそうで怖い。


 そういう事がこれまで何回かあった。けど、屋外でウエイトを付けた訓練はエレベーターを使う時に面倒だから、あんまりやりたくない……。


「そ、そうなのか……」


 私の返答に何とも言えない表情で相槌を打つ昭一郎さん。


「旦那様、真緒様、それにお嬢様」


 と、ここで後藤さんが、無表情に挙手して話に待ったをかけた。


「なんですの?」


 北海道行きに水を差されたようになり、ちょっと不機嫌になるレイちゃん。


「確か、北海道で妖怪を討伐するには、許可が必要だったはずです」


「許可?」


「はい。霊術師でないと、その許可は下りないと思われます」


「それなら問題ありませんわ。つい先日、くしくも成人の議を受け、霊術師として認められたはず」


「そういえば、免許証が届いていましたね」


 成人の儀を受けた後、免許発行用の写真撮影を行った。


 出来上がった免許は、後日、郵送で届いていた。


 一応、捨てずに取ってある。


「く、そっち方面で説得するのは無理か」


 条件を満たしていることに、悔しがる昭一郎さん。


「……今調べましたが、北海道で活動するにあたり、専用の許可証が必要になるようです。そちらの許可証には年齢制限があり、18歳未満は取得できないみたいですよ」


 携帯端末に視線を落としたまま、画面に映る文面を読んだ後藤さんが答える。


 ほう、霊術師の資格とは別に、北海道専用の許可証がいるのか。


「何ですって!」


「よしっ!」


 後藤さんの言葉を聞き、驚愕の表情で固まるレイちゃんと、渾身のガッツポーズをとる昭一郎さん。


 両対称だな。


「ですが、例外もあるようですね。対象年齢に届いていなくても、霊術師として優秀と認められた場合は許可が下りるようです」


「何だとぉっ!?」


「よしっ!」


 驚愕の表情で固まる昭一郎さんと、渾身のガッツポーズをとるレイちゃん。


 動きが数秒前と真逆にしてそっくり。さすが親子である。


「優秀と認められる、ってかなり曖昧な表現ですね。何か基準みたいなものはないんですかね?」


「……それは」


 私の質問に、後藤さんが携帯端末に目を落とし……。





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