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私はレイちゃんと一緒に隣室へ飛び込んだ。
そこには――
巨大な檻があった。
中には大量の妖怪がギュウギュウに詰め込まれている。
「何……これ……」
「わざわざ別エリアから捕らえてきた妖怪よ! これで事故に見せかけて処分するはずだったのに! なんでこんなことに……!」
ギリギリと歯軋りしながら紫前が悔しがる。
「それは残念でした」
「残念だったことは確かね。だけど、これで私はやりなおせる!」
そう言うと、紫前は檻のロックを解除した。
途端、中に無理矢理詰め込まれていた大量の妖怪が一斉に飛び出してきた。
「くく……、これでここは滅茶苦茶になる。その混乱に乗じて逃げさせてもらうわ!」
と、紫前が檻の側で脱出計画を大声で語ってくれる。
……いや、無理でしょ。
いくら妖怪が大量にいたとしても、出入口の位置が変わるわけじゃない。
逃げる為には、この部屋を出て警察が居る出入口に戻る必要がある。
いくら大量に妖怪がいるといっても、ここは閉ざされた倉庫。
散り散りになって近隣に危害を及ぼすようなことにはならない。
倉庫の出入口を封鎖すれば、妖怪も周囲に被害を出すことなく駆除できるだろう。
そもそも、檻の側に突っ立っていたら危ないんじゃない?
なんて悠長に考えてしまう。
「な、なんて数の妖怪……」
と、驚くレイちゃん。
確かに数は多い。
あれだけの数が倉庫中に散らばると、面倒臭いことになりそうだ。
だけど今ならごちゃごちゃと固まった状態。
この状況なら、ひとまとめに処理できそう。
そう考えた私は、足首から霊装を召喚。
形状は、糸のように細く側面にかぎ爪が等間隔についたものだ。
それを伸長させ、壁を伝って天井に固定。次に先端を膨らませていく。
結果、極大の黒い塊が一瞬で部屋の上部を占めた。
「ひ、ひい……、な、なんなのこれは!」
私の霊装の出現に驚いた紫前が壁際へ逃げ出す。
紫前が圏外に逃げ出したのと同時に、霊装を地面に落っことした。
妖怪の群れは檻もろとも圧殺。よし、霊気を放つことなく処理完了だ。
省エネで中々スマートなやり方といえるのではないだろうか。
「す……、すごいですわね」
ああ、レイちゃんが軽く引いてる……。
「ありえない……。あの数を一瞬で倒すなんて、ありえない」
などと呟き、呆けている紫前。む、隙発見。
私は紫前目掛けてダッシュ。一気に懐へ潜り込むと、お腹に一撃。
グラリと揺れた所で、背後に回って腕を取り、手錠をガッチャン。
拘束終了だ。
丁度そこへ警察が駆けつけた。紫前を引き渡すと、地面に倒して再拘束。
今度は手錠だけでなく、マットのようなもので簀巻きに。これは逃げられない。
「ハナセッ! はなさないか!」
拘束されても叫び続けるので、お口もホールドされる紫前。
芋虫状にされて警察に担がれ、連行されていく。
今度こそ、一件落着だね。
紫前を見送った私たちは、両親と合流。
後始末は全て川崎さんに丸投げし、レイちゃんと昭一郎さんのいる病院へと向かった。
昭一郎さんは検査の結果、異常なし。
大きな怪我はなく、打ち身程度だったため、即日退院。
皆で無事を喜び、解散する運びとなった。
それぞれの車で帰宅する事になった時、レイちゃんに呼び止められる。
「マオちゃん」
「ん、なに?」
「マオちゃんのお陰で、誘拐から脱出できて、紫前を捕まえることが出来ましたわ。本当にありがとうございます」
私の手を両手で握り、レイちゃんがお礼を言ってきた。
「ええ? 私なんにもしてないよ!? むしろ、遅くなってごめんね」
現場にたどり着いたのはそこそこ早かったけど、突入したのは解決した後だ。
結局、私は何もできなかった。
それなのに、そんなに改まってお礼を言われてしまうと、申し訳ない気持ちになってしまう。
私の言葉を聞き、レイちゃんが首を振る。
「そんなことありませんわ」
「そんなことないって!」
と、言い合いになってしまう。
しかし、凄く真剣な顔をしたレイちゃんは一歩も譲る気配がない。
だけど、私が何も出来なかったのは事実。ここは私も譲らないよ。
結果、「そんなことない」を連呼し合う展開となってしまう。完全に平行線だ。
「――いいえ、違いません」
「もう、強情だなぁ」
「マオちゃんこそ」
そういえば、こんな風に言い合った事が前にもあったっけ……。
意図せず、以前の再現のようになってしまった。
そう感じたのはレイちゃんも同じだったようだ。
私と同じタイミングで気付いたらしく、笑いを堪えている。
そんな可愛らしい姿を見た私は、耐え切れずに噴き出してしまう。
それに釣られてレイちゃんも我慢の限界が来た。
私が「あはは」と笑えば、レイちゃんが「うふふ」と、上品に笑う。
「何にしても、無事で本当に良かったよ」
「マオちゃんも、無事で良かったですの」
と、改めてお互いの無事を喜びあっていると、「そろそろ帰るぞ」と母の声が聞こえた。
「もう帰らなきゃ」
「そうですわね」
「レイちゃん、また明日ね」
「はい、マオちゃん」
私たちは別れを告げ、それぞれの家へと帰った。




