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◆中沢冬美
私の名前は中沢冬美。
私立琴清小学校に通っています。
今年の四月で五年生になり、恒例のクラス替えと席替えがありました。
その結果、私の前の席の空席が決定した。
私の前の席に決まったのは、九白真緒さん。
名前だけは知っている。学年内で有名人だからだ。
うちの学校は家の事情で長期間休む子がそれなりの数いる。
中にはテレビ出演が理由の人や、囲碁や将棋の試合が理由の人もいる。
そんな中、ぶっちぎりで学校を休み続けているのが彼女だ。
もし、病気や怪我が理由なら、先生からそういった事情がさり気なく説明される。
だが、九白さんにはそういった配慮がない。つまり、家の事情で休んでいるのだ。
どんな理由なのか、とっても気になる。
だけどそれはプライベートなこと。
なので、どういった理由か分かるのは、直接本人に聞いて答えてくれた時だけ。
それなのに肝心の本人が全然登校してこない。
皆、暇なときの話題は、決まって彼女の欠席理由だった。
今のところ有力なのは、海外で俳優業かモデル業をやっているのでは、というもの。
次に多いのは、音楽関連。何かの奏者か歌手で、世界中を飛び回っている。
ほとんど登校できないということは、日本にいないからだろうという予測から。
そこから想像を膨らませるのが基本となっていた。
最近は、妄想を膨らませた憧れや、会話を面白おかしくすることに熱心になりすぎて、現実にはあり得ない存在になっちゃってるけどね……。
私たちの中で、九白さんは何でも出来る超人のような存在という、共通認識が完成されつつある。ごめんね、九白さん……。
そんな人の席が前になったことで、私は話題作りに助けられた。
四年生のときの友達と別のクラスになって、不安だったが九白さんのネタをフル活用して切り抜けたのだ。ありがとう、九白さん。
そんなことをしている内に、四月はあっという間に終了。
新しいクラスも五月になると落ち着き、大体のグループ形成が終わった。
そんなとき、噂の九白さんが登校してくるという話が先生からあった!
前日から、ちょっとした騒ぎになっちゃったよ。
だって、あの九白さんなんだもん!
そして、当日。そわそわとした私たちが待ち構える中、九白さんが教室に入ってきた。
――あ、なんかちょっと怖い。
初めに抱いた印象は、そんな感じだった。
といっても、顔つきが怖いわけでもないし、周りを睨みつけてるわけでもない。
多分、笑顔になると鋭利でギザギザした歯がチラリと見えるせいだろう。
あとは雰囲気? 纏っている空気が違う。オーラを感じるとでも言うのかな。
この小学校に通う一定数の子が持っている気配だ。
家柄が凄い子や、プロとしてお金を稼いでいる子が持っている雰囲気だ。
そう考えると全然怖くない。むしろ綺麗な顔立ちをしていると思う。
どちらかと言えばかっこいい系に分類されるのではないだろうか。
残念だが、九白さんからモデルをやっているような雰囲気やオーラは感じられない。
だけど私たちは、イマジナリー九白さんを膨らませすぎてしまっていたのだ。
俳優業で世界を股に掛け、モデル業で世界に羽ばたき、世界中の人々を感動させる演奏を披露する九白さん。
そんな姿を勝手に想像していたがために、勝手に落胆してしまう。
ごめんよ……、九白さん。
だけど、独特な凄味を感じるんだよね。
何か一つのことに打ち込み、プロフェッショナルの領域まで極めているかのような雰囲気をかもし出しているのだ。
これは、俳優か楽器奏者辺りだろうか。
う〜ん、気になる。
誘惑に負けた私は、休み時間に早速話しかけて聞き出そうとした。
だけどそこで、雲上院さんが割って入ってきた。
私は黙って引き下がるしかなかった。だって、あの雲上院さんなんだもの。
――雲上院礼香さん。彼女も話題の人物だ。
といっても彼女の場合は、少し事情が異なる。
雲上院さんは、ずっと休学していた。
ここだけみると、九白さんと同じ様に見えるが実は違う。
彼女の方は怪我や病気が原因なのだ。
先生は詳細を伏せた状態で、クラス全員にそういった説明をしていた。
事情があって休学していて、四年生の時は保健室通学。今年の四月からクラスに復帰する。
きっと慣れない状況だろうから、彼女に優しく接してあげてくれ、というものだった。
どういった事情なのか気になるけど、こっちは九白さんのように深く探るのは良くないよね。
そもそも相手が雲上院さんでは、私が話しかけるのは恐れ多い。
なんせ、雲上院家の一人娘なんだから。
四月からクラスに復帰した後は、うちのクラスで家格が同等にあたる、舞鶴さんのグループに入っていた。
まあ、今の時代に家格がどうこうって言うのも変な話だけど、相手が雲上院さんでは、どうしても意識しちゃうんだよねぇ。
舞鶴さんは、このクラスでリーダー的存在になりつつあった。
だから丁度いい組み合わせなんじゃないかな、と思っていた。
けど、グループ内での関係は、あまりうまくいっていないようだった。
原因は雲上院さんと舞鶴さんの口調にある。
二人とも、どこか高圧的なのだ。
あれでは仲が深まるはずもないだろう。
そもそも雲上院さんはクラスに復帰したばかりなのに、なんであんなにグイグイいく性格なんだろう、と初めは思っていた。
好奇心を刺激された私は雲上院さんと舞鶴さんの二人を観察し、根本的な違いに気付いてしまった。
雲上院さんは、単純にコミュ力が低いだけだったのだ。
何というか、ひとつの方法でしか話し方を知らないといった感じ。
それに対して舞鶴さんは、雲上院さんに対してライバル意識を持っていて、それが行動や言動に出てしまうといった感じだ。
それは雲上院さん本人に対してではなく、雲上院家に対してのものだろう。
似たような振る舞いだが、根っこは全然違う。
と、私の予想をグループ内の友達に話してみたら、賛同を得られた。
そうそう、そんな感じだよね、と。
それと同時に、相手があの二人では私たちが割って入れないよね、という結論にも至ってしまう。
どちらも名家で、どちらか一方の肩を持てば中立の立場で居られなくなるからだ。
月日が経過すると、二人の所属するグループは完全に舞鶴さんのものになっていった。
だって、雲上院さんの高圧的態度の原因はコミュ力のなさから来るもの。
次第に人は離れていってしまう。
私たちはハラハラした気持ちで雲上院さんの置かれる状況が変化していくのを見守るしかなかった。
そんな中での、九白さんが通学するというイベント発生である。
そして、雲上院さんから九白さんへの声かけ。
雲上院さんとしては、九白さんを引き入れ、新しいグループを形成しようと試みたのだろう。
だけど、九白さんはあっさり断ってしまった。
まあ、付き従うことを許すとか言われたら、断るのも当然かもしれないけど……。
だけど私なら、案外頷いていたかもしれない。
なんせ、雲上院家とお近づきになれるのだ、両親はさぞかし喜ぶに違いない。
でも、その時点で雲上院派が確定しちゃう。それはそれで悩ましい話だ。
とはいっても、向こうから話しかけてこない限り、ただの妄想で終わる話だけどね……。
さすがに自分から話しかけるは、ちょっと無理。
貴方ごときが私に何の用、とか言われたらおしまいだもん。
とにかく、お嬢様の世界は厳しいのだ。
というか九白さん。周りに全然興味がなさそうだ。
我が道を行くというか、一人でも全然平気そう。
今も雲上院さんの誘いを断ったのに、動揺を見せないどころか平然としている。
一体、休学して何をやっていたんだろう……。
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