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◆九白真緒
私の前を歩く女性の刑務官が立ち止まり、横にある部屋を指さした。
「君には、ここを使ってもらう」
「へえ、広いですね」
刑務官に案内されたのは、非常に広い部屋だった。
一人部屋になると聞かされていたので、もっと狭いと思っていた。
私の感想を予想していたのか、刑務官が説明してくれる。
「独房だと狭すぎるから、四人部屋を改装した。君専用の特殊仕様だ。君は受刑者ではないし、監視の対象でもない。そのため、この部屋にカメラはないので、プライバシーはある程度守られる。まあ、出入り口が鉄格子だし、トイレに衝立がないから、納得いかないと思うけどな」
「それは、ありがとうございます?」
意外に厚遇だ。
もっと雑な扱いを受けることを覚悟していたが、かなり配慮されている。
「他の受刑者と同室にして、後で鳳宮家や雲上院家に怒られるわけにはいかんからな。それと、この収容施設は満室ではない。この部屋は、誰も利用していないエリアにある」
「じゃあ、周りに誰もいないわけですか」
これなら、多少音を立ててしまっても近所迷惑を気にしなくていい。
中々の良物件である。
「そうだ。君の事情を加味すると、そういう待遇となった。だから、この部屋にいる時は、拘束具を外させてもらう。ただし、共有施設は、他の受刑者と一緒に利用してもらうし、教科教育や刑務作業にも参加してもらうから、そのつもりでいてくれ」
「わかりました」
どうやら、最低限の偽装はするらしい。
まあ、室内だけでも、拘束具を外せるのはありがたい。
こういった所の食事には興味があるし、刑務作業は初体験なので、今から楽しみだ。
「それじゃあ、後はゆっくりしてくれ。刑務作業の参加は出来るだけ遅らせる。その分、暇になるかもしれんが、楽が出来ると割り切ってくれ」
「何から何まで、すみません」
かなり気を使ってもらっていることを察した私は、頭を下げて刑務官を見送った。
刑務官が去ると、一気に静かになった。
私は、改めて室内を見回す。
「さて……、広いのはいいけど、殺風景だな」
室内はベッドが一つあるだけ。
広い空間が確保されているだけで、何もない。
しばらくここで生活するわけだし、少し模様替えでもしたいところだ。
となると、霊気が使えないと話にならない。
だけど、この施設は結界の影響で、霊気が使いにくくなっているという。
特に三属性以下は致命的で、ほぼ使用不可能だと聞いた。
――結界。玄宮の一族が使える能力だ。
表向きは、玄宮家が独自開発した霊術となっているが、柱の一族が使える特殊能力だと聞いた。
四柱の一族はそれぞれ特殊な能力を持っている。
そして一族の当主は、その能力が進化し、さらに強力な力となる。
ミカちゃんのところの鳳宮家は直感力。それが進化して予知夢。
と言った感じだと、ミカちゃんから聞いた。
つまり、ナナちゃんのところの玄宮の一族の特殊能力は、結界。
当主は、それが進化して妖王を封じるほどの強力な結界を作る力になったという感じなのだろう。
その特殊能力が、霊術とどういった違いがあるかまでは分からない。
「本当なのかな。どういった感じなのか、一応試してみるか」
この施設に入ってから、一度も霊気を使っていない。
私は、試しに待ち針霊装を取り出し、霊気放出を行ってみた。
「あれ?」
すると、問題なく使えた。
霊装はスムーズに出し入れできる。霊気の放出も抵抗を感じない。
もしかして、ミカちゃんが手を回してくれたのだろうか。
他の受刑者と離れた所に収容されているわけだし、ここだけ結界の影響を受けていないのかもしれない。
これなら、色々できそうだ。
というわけで、まずは一つだけあるベッドを霊装でくるみ、自分の内側にある宇宙へしまい込む。
これでスッキリである。
この技は以前、未踏破エリアへ行った際に、荷物の持ち込み量に限界を感じて編み出したものだ。
霊装にくるむことにより、自分の内側にあらゆるものを収納できる。
「つまり、持ち込みも可能ってわけ」
と呟きつつ、あらかじめ準備しておいた清掃道具を取り出す。
そして、室内をピカピカにしていく。
次に、家具類を設置。トイレにも衝立を置き、外から見えないようにしておく。
締めにトレーニング器具を設置した。うん、いい感じになってきた。
バッテリーと発電機に加え、冷蔵庫やカセットコンロも持ってきたが、食事は食堂で出来るらしいので、今は出さない。
音がうるさそうだし、必要性を感じるまではしまっておく。
「うん。いいんじゃない?」
室内を見渡し、ひと言。
見違えた。
これはもう、収容施設の部屋とは言えないだろう。
鉄格子のため、風がダイレクトに来るが、そこは仕方ないかな。
一応、ブルーシートと段ボールで補強すれば、隙間風対策はできるけど……。
片づけろと言われると、始末が面倒なので聞いてからにしよう。
模様替えも終わり、やることがなくなる。
しばらくの間は食事と入浴以外は、部屋から出ることがないのだ。
「トレーニングでもしますかね」
というわけで、早速トレーニング器具を活用することにする。
ほどよい照明に、周囲は無人。音も静かでトレーニングがはかどる。
これで霊核の拡張ができれば、悪くない環境なんだけどな……。




