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◆鷹羽雷蔵
都内にある十家専用の会議場。
何か重大な決定をする場合は、ここに当主が集い、話し合いが行われることとなっている。
そこに鷹羽雷蔵の呼びかけで、十家の当主が招集された。
静寂の中、雷蔵が報告内容を淡々と話していく。
内容は大きく分けて二つ。
北海道で玄宮家の主流派の痕跡を発見したが、生存は絶望的な事。
不可解な結界を発見したこと。
「報告は以上だ」
これまでに起きたことの概要を話し終え、一息つく。
それを合図に、当主たちが口を開いた。
とはいえ、玄宮家の者たちについては情報が少なく、話せることがなかった。
生存が絶望的な上に、痕跡があったのが未踏破エリアとなると打つ手がない。
捜索しても結果が出る可能性が低い上に、被害が確実に出てしまう。
結果、話題は自然と結界の方へ移っていく。
「ふむ、妖王を閉じ込めた結界……か」
「嘘ではないのか?」
「確かめる手段がないな」
「強い個体を妖王と勘違いしているだけじゃないのか」
と、独り言のような声量で、次々に疑問の声が上がる。
そう思うのも当然かもしれない。
今回報告された内容は非常に大事であり、誰でも身構えてしまうようなもの。
そのくせ、誰もが納得する太い証拠がない。
かくいう、雷蔵自身も半信半疑だった。
だが、周囲の状況が絶妙に説得力を持っているのも事実。
「しかし、北海道に妖怪を押しやってから、妖王の目撃情報がないのも確かだ」
その事が信ぴょう性の一部を担保していた。
妖王は巨大だ。生存し、活動しているのであれば、人が生活しているエリアからでも容易に見える。が、今のところ、そういった報告は受けていない。
「そもそも、この中に妖王を実際に見た者はいるのか?」
「わしだけだな」
一同が沈黙する中、雷蔵が発言する。
全ての家が一度は代替わりしているため、掃討戦で最前線にいた者はこの場に雷蔵ただ一人。
それだけの年月が経過してしまっていた。
「鷹羽殿から見て、情報の信ぴょう性はどの程度あるのでしょうか」
「うむ……、結界が小さいというのが気になる。妖王は、件の結界に収まる様な大きさではない」
話を聞いた限り、結界と妖王の大きさが合わない。
それが懸念点であり、疑問点。信ぴょう性の低下を招いている一因だ。
「ならば、やはり虚言なのか」
「だが、結界がそんなところにあるのも不自然だ。手元にある情報だけでは、判断できないというのが正直なところだな」
妖王についての情報は、妖怪の言葉を聞いたという一点のみ。
さすがにそれだけで、全てを判断することはできない。
が、報告から想起される当時の状況を鑑みると、虚言と切り捨てるのも難しかった。
結果、当主たちから、思い思いの発言が無秩序に飛び出す。
「玄宮の現当主に助言を求めるべきでは」
「そうだな。それで真偽のほどが分かる」
「そんな嘘か本当かも分からないことに四柱当主を煩わせるのは、失礼なのでは」
「しかし、実際に妖王が閉じ込められているのなら、問題だぞ」
様々な意見が交わされるも、決定打にかける。
見かねた雷蔵は咳払いをして、けん制。皆を黙らせた。
「わしから打診してみよう。どのみち、報告の内容が真実なのであれば、その位しかすることがない」
「おやおや、消極的ですね。本当に妖王かどうか疑わしいわけですし、結界を意図的に破壊して、中の妖怪を倒そうとはお考えにならないので?」
と、参浄早雲が上げ足を取るような発言をしてくる。
「結界の中にいるのが妖王なら、準備が必要だ。ただの大きい個体であれば、結界が崩壊しても妖怪が一体、野に放たれるだけ。消極的という言葉は当てはまらんな。気に入らんなら、お前が行って倒して来ればよかろう」
「十家の霊術師が北海道へ入ることは禁じられています。私自らその禁を破ることなどできませんね」
「ならば、わしも同様だな。例外はない」
妖王であるかどうかの確認は必要だが、積極的に討伐に動くのは話が違う。
そのことに異論がないせいか、皆が黙り、発言が無くなった。
「他に何か意見はあるか」
雷蔵が問いかけるが、返事はない。
しばらく待って意見がないことを確認し口を開く。
「それでは、結界の件はわしから玄宮家に話しておこう。何かあれば、報告する。それでは、これで閉会とする」
雷蔵の宣言により、会議が終了。
結果、結界について四柱当主に意見を伺うということだけが決まった。
◆九白真緒
「呼吸は問題ないか」
護送官の問いかけに、拘束着を着用した私は静かに頷いた。
なぜ息ができるかと聞かれたのかと言えば、マスクをしているから。
着用しているのは、ただのマスクではない。噛みつき攻撃防止の金属製の固定具だ。
さらに、両腕は腕組みした状態で固定。全く動かせない状態である。
他にも、そんなところにいる? と疑問を覚える部位までガッチリ固定。
とにかくベルト、ベルト、ベルト。全身ベルトだらけだ。
お陰で動きを制限され、少しずつしか進めない。
走ることなんて、もってのほかの状態である。
「一応、恰好だけはちゃんとしておかなければならないんだ。動きづらいと思うが我慢してくれ」
護送官から申し訳なさそうな顔で説明される。
えらく気を使ってもらっている。なんか悪いね。
でも、ちゃんとした格好って、これ?
偉く仰々しい気がするんだけど……、と思って確認したら「向こうの意向だ」と、言われてしまった。
それなら仕方ないね。
「……頼むっ! 細心の注意を払って送り届けるので、鳳宮家や雲上院家には何も言わないでおいてくれ」
と、両手を合わせて、頼み込まれてしまった。
そんなことをするつもりはない。今の扱いにも不満はないしね。
私は、何もしないという意味を込めて、頷き返した。
「今日は、アンタを含めて二人だ。席は広くとれるから、寛いでくれ」
護送車のドアが開かれ、乗車を促される。
中には、すでにもう一人が席についていた。
私とは恰好が違い、オレンジの蛍光色の服に手錠というスタイルだ。
こちらを見て、ぎょっとしている。
多分、服装が違うので驚いたのだろう。
向こうの格好がこれから行く先での正装であるのなら、私は随分と意匠が違うことになる。
これは目立たないようにするためにも、集団でいる状況では気配を殺しておいた方がいいかもしれない。
今回、護送車に乗るのは私と先客の二人だけ。
短い間だけど、仲良くやっていきたい。
ちょっと話しかけてみようかな……。
やっぱり、こういう状況って私語厳禁なのだろうか。
短い間だし、なんとかならないだろうか。
話しかけて怒られたら、交渉してみようかな。




