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◆炎泉蓮司
炎泉は、全く動揺しない鳳宮未花の様子を伺っていた。
校長を人質に取り、彼女に委任状を書くよう強要したが拒否された。
書けば、圧力に屈したことになる。
四柱当主という立場であれば、絶対に受け入れてはならないのは確か。
幼いながらも、当主としての務めを果たす立派な決断と言えるだろう。
だが、鳳宮未花の視点から見れば、八方ふさがりの状況なのも事実。
そのはずなのに、感情の揺らぎがない。冷静さが失われていないのだ。
まさか校長を見捨て、一人で戦うつもりなのだろうか。
それでも、この人数相手では勝機は薄いはず。
それなのに、これだけの人数に包囲された状態で、焦った様子もない。
むしろ余裕があるように見えた。
「さて、そろそろ終わりにするかの」
「何?」
鳳宮未花は不敵に笑い、指を鳴らした。
次の瞬間、包囲の背後から大量の人が現れた。
どこからともなく現れた増援に、こちら側が背後を取られる形となってしまう。
「な、なぜ!? 今日の計画はバレていないはず。創立記念日で常駐の人間も最小限になっていたはずだ」
予想外の展開に、炎泉が驚愕の表情で口走る。
それは炎泉の部下たちも同様で、全員が戸惑い、動きに乱れが生じた。
このタイミングで、この人数。一体どうやって揃えたというんだ。
「わらわが知っておったからじゃ。だから、あらかじめ人を配置しておいただけのこと。炎泉、これだけの証人がおっては言い逃れできんぞ?」
「知っていた? どういうことだ……。まさか、裏切り者が」
「そんなものはおらん。加えて、お主の組織は結束が固く、間者を忍ばせる隙もなかった。皆、お主に忠誠を誓った立派な者たちじゃ。まあ……、それが厄介極まりないんじゃが」
鳳宮未花が裏切り者の存在をすぐさま否定し、やれやれといった表情で苦笑いする。
そうなると考えられる可能性は少ない。
「ずっと監視されていた、ということか……。四柱ともなれば、優秀な人材を囲っていてもおかしくはないか。失敗だったな」
裏切り者がいないとなれば、単純に全ての動向が把握されていたということになる。
まさか監視対象となるほど自分が危険視されていたとは……。
己の見極めの甘さを痛感する。
しかし、鳳宮未花がまたしても手を振りながら否定した。
「そんなものはおらん。そんな便利な奴がおれば、わらわがこんな前に出なくても済むように手を打っておるわ」
「ならば、どうやって計画を知ったというんだ!」
今日まで、誰にも悟られないように細心の注意を払ってやってきた。
間者も監視もなく、計画の全容を知りえるはずがないのだ。
「我ら四柱は霊力が高いだけではない。それぞれ特殊な能力を持っている。だから、四柱と呼ばれるようになったのじゃ。玄宮の結界のことはお主でも知っておろう?」
鳳宮は、大きくため息を吐いた後、こちらの疑問に答えた。
「あれは玄宮で独自開発された霊術ではないのか?」
「うむ。そういう風に周知してあるだけじゃ」
「つまりは、鳳宮家もそういった能力を有していて、その力を使って調べた、というのか」
「そんなところじゃ。さあ、校長を使って脅しても委任状は書かないし、この包囲では、お主たちがわらわを捕らえることはできん。観念するのじゃな」
鳳宮未花が投降しろと、言って来る。
だが、そんなこと出来るはずがなかった。
「ふん、ここまでやって、捕まって終わるなどありえん。こうなったら力づくだ。力で組み伏せ、全員を従わせる。この程度の人数で我々を抑えられると思ったら大間違いだ。やるぞ! 覚悟を決めろ! 北海道を取り戻す!」
「「「おおお!」」」
炎泉が檄を飛ばし、部下が発奮の大声で応える。
すると、その瞬間を隙と見て鳳宮未花が素早く動き、逃げ出してしまう。
更には、彼女の脱出に合わせるような形で、鳳宮派の人間が校長を解放してしまった。
結果、敵味方が入り乱れる形となってしまう。
「気にするな! 全員縛り上げろ!」
そして、炎泉の号令が合図となり、防御壁発生装置の前で戦闘が始まった。
◆九白真緒
笑顔が怖い薬師との面会を終えた私たちは、その足で学校へ来ていた。
目的は、校長のサイン。今回の依頼で提出する書類に校長の確認が必要なのだ。
今日は創立記念日で、休日という扱い。
だけど、生徒が休みというだけで、大半の職員は学校にいる。
なんでも、選ばれた生徒だけが強制参加になる行事があるらしい。
そんなわけで、こういう時の方がスムーズに面会できるから行け、という母からのアドバイスの元、登校したというわけである。
校長は行事に参加中なので、それが終わったら突撃してサインを貰うとしよう。
そんなことを考えながら校舎へ向かっていると、爆発音が聞こえた。
音が聞こえたのは体育館の方だった。目を凝らすと、白煙が上がっている。
確か、今日の行事は体育館の地下で行っているはず……。
様子が気になって体育館の方を見ていると、レイちゃんが袖を引っ張ってきた。
「今日の行事にはミカちゃんが参加されているはずです」
「事故かな? 気になるし、行ってみよう」
ミカちゃんの安否が気になった私たちは、体育館へ向けて駆け出していた。
近くまで行くと、大きく崩れた体育館の姿が見えた。
なんと、そこでは複数の大人たちが戦っていた。
いきなりすぎて、何が何だか分からない。
だが、どう見ても行事とは無関係な光景なのは確かだ。
「どっちが敵で、どっちが味方なんだろ」
判別がつかず、加勢することができない。
「敵は炎泉家の者じゃ! 炎泉家が反乱を起こしたのじゃ!」
そこへ、声を張り上げてこちらへ逃げてくるミカちゃんが見えた。
その言葉を聞き、戦っている人をざっと見る。
炎泉さんは、釣り大会で見たことがある。一人ずつ確認していくと、その姿を発見できた。
つまり、炎泉さんと同じような服装で、彼と行動を共にしている人たちが敵、ということだ。
私が状況を把握したのと同時に、レイちゃんとナナちゃんも、おおよそのことが分かったみたいだった。
逆に母は、「面倒だから全員拘束すればいいだろ」とか言い出した。
うん、まずい。
両手に銃を持って暴れまわる姿が容易に想像できた私は、じっとしているようにお願いした。
すると、いい練習になるからやってみろ、と送り出してくれる。
「邪魔にならない範囲で加勢しよう」
「承知しましたわ」
「任せて」
私たちは飛び出し、炎泉派の拘束に協力する。
すると、拮抗していた戦況が変化し、こちらが優勢となる。
一人、また一人と炎泉派の拘束に成功。
確実に相手の戦力を減らし、勝利が目前に迫ってきた。
「まさか、こんなことになろうとは……。やむを得ん。霊鎧を使う! 守りを固めろ!」
そう言って、炎泉さんが逃げ出した。それを炎泉派の人たちがガードする。
逃げ出した炎泉さんは、停めてあったバンボディ型トラックの荷台へと走り込んだ。
そして、数秒と経たないうちに鎧甲冑姿で再度登場した。
「え、凄い早着替え。どうやって着けたんだろ」
「疑問に思うところがそこなんだ」
と、ナナちゃんにツッコまれてしまう。
うう、気になったんだから、しょうないじゃん。
そこに、ミカちゃんが、やれやれといった感じで説明してくれた。
「あれは霊鎧。特殊な鎧で簡単に着脱できる代物じゃ」
「へぇ、あんな重い物を着こんだら余計に動きづらい気がするけど……」
全身鎧を着て動き回れるほどのスタミナを有している、と考えるべきだろうか。
「違う。あれは失われた技術で作られた、対妖怪用の武器じゃ」
ミカちゃんがそう説明した瞬間、鎧が巨大化。
一瞬で、十メートルを超える巨人となった。
巨人はこちらへ視線を向けると、拳を振りかぶった。
それを見て、母がノータイムで発砲する。
そして、「チッ」と舌打ち。
巨人となった体から露出している頭、首、胸、腹、の四点に銃弾が命中するも、その全てが跳ね返ったためだ。
「人に向けて威嚇射撃なしで、急所に連続発砲してる……」
と、ドン引きするナナちゃん。
ま、まあ、今は非常時だし。相手は鎧を着てるし……。
「無駄だ。これは強力な妖怪への対抗策として作られたもの。人の力で傷をつけることは叶わん。我々の目的は北海道奪還。穏便な手段は全て空振りに終わり、やむなく強硬策を選んだ我々には、もはや止まることは許されん。行く手を阻む者は、誰が相手でも容赦はせんぞ!」
炎泉さんが叫び、巨人が再び拳を振り下ろす。
私たちは散り散りになりながら、拳をかわした。
巨大な拳は強烈な勢いで地面に接触。途端、周囲に衝撃波が発生。私たちは身構えて、ぐっとこらえた。
衝撃が収まった隙を見て構えをとくと、地面にはクレーターが出来ていた。
凄まじい威力である。
でも、あれなら……。
「遅いし、対処できそうですわね」
どうやら、レイちゃんは私と同意見の様だ。
あの巨人は発砲された時、防御も回避も行っていなかった。
今の攻撃も予備動作が大きいので、回避できた。
速く動くことを考えて作られたものではないようだ。
これなら、何とかなりそうである。
「そうだね。さっさと片づけて、校長にサインを貰いに行こうか」
「ええ。行きましょう!」
霊装を構えた私とレイちゃんは、霊鎧を発動した炎泉さんへ向けて駆けだした。




