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…………
というわけで交流会も無事終了し、北海道に到着した。
夜の間に移動したので、着いたのは朝。
早速、道内の霊術師協会で手続きを済ませる。
私たちがわざわざ東京から来た、ということでお偉いさんが対応してくれた。
なんでも、迷宮を処理してほしいとのこと。
でも、初めに聞いていたのは北海道の奥地へ向かえ、という内容だった。
なぜ違うのかと聞けば、本番前に実力を確かめたいから、という内容を長々と遠回しに説明された。
とにかく、迷宮を攻略できる力量がなければ、責任者として未踏破エリアの探索を任せることはできないという。
なんか、いいように面倒ごとを押し付けられた気がしないでもないけど、迷宮を攻略しないといけないことになったみたいだ。
とういわけで、早速迷宮へ向かう。
車で数時間かけてきた場所は、フェンスに囲まれた洞窟に見えた。
警備の人に事情を説明し、中に入る。
「これが迷宮かぁ。凄く明るいね」
岩を切り抜いたかのように綺麗な通路。照明もないのに光る天井。
もっと陰鬱な雰囲気を想像していたが、非常に快適な空間に見えた。
「何も聞いていなければ、人工的に作られた施設と思ってしまいますわね」
と、レイちゃんが私の言葉に同意する。
「事前に調べた感じだと大変らしいけど、ここで時間を食うのは避けたいな」
ナナちゃんの目的は未踏破エリア探索依頼を達成することだ。
ここでの滞在時間を最小限にしたいというのは頷ける。
「じゃあ、一人一層担当するってことにしない? 一人が残って、その階層の妖怪を全滅させる。残りの二人は先に進んで、次とその次の階層を担当。で、初めに残った人が攻略を終えたら、二人を追い越して次の層を担当するって感じ」
時間を掛けたくないなら、多少の無理は当然。
ということで、分散して事に当たることを提案してみた。
「いいですわね。そうしましょう」
「まあ、それなら早く済みそうだし、いいか」
レイちゃんとナナちゃんは頷きながら、戦闘の準備を整えていく。
「じゃあ、一層は私がやっとくから、先に進んでおいて」
「わかりましたわ。それでは二層はわたくしが担当します」
「なら、私が三層ってわけね、了解」
と、割と適当な感じで担当階層が決まり、迷宮攻略がスタートした。
……それから三時間後。
特につっかえることもなく、気が付けば最下層に到着していた。
「ちょっと、二人とも本気出し過ぎでしょ……」
両ひざに手を置き、荒い呼吸を繰り返すナナちゃん。
私とレイちゃんは、ナナちゃんの言葉に肩をすくめる。
「基本術式の身体強化に加えて、属性系の強化術でも身体強化を行っているんだから、これくらいの速度になるよね」
属性系強化術は、本来木属性でないと使えないが、私たちは別。
一属性でありながら、五属性全ての系統術式が使えるのだ。
その事実が判明したのは先生の疑念がきっかけだったが、今となってはありがたい話である。
「それほど力んだわけではありませんのよ。ナナちゃんの修業が足りていないだけではありませんか?」
私たちからすれば、相当余力が残っていた。その証拠に息切れ一つしていない。
そんなに頑張ってないよね? と、レイちゃんに視線を送れば、普通ですわね、という言葉が返ってくる。
「ぜっ――たい、違う!」
私たちの言葉が納得できなかったのか、ナナちゃんはちょっと切れ気味だった。
そんなナナちゃんを放置し、視線を迷宮の最奥に向ける。
そこには、妖怪を生み出す狭間があった。
「で、これが迷宮製の狭間か」
「光っていますわね。これを破壊すると迷宮も自壊していくのでしたね?」
レイちゃんの確認に、頷き返す。
通常の狭間は、その大きさによって妖怪を生み出す数がある程度決まっている。
そして、既定の数を生み出すと自然消滅する。
だが、迷宮の狭間は違う。
妖怪を生み出す数は、実質無限。ただし、霊気を当てると破壊することができるのだ。
そのため、迷宮を攻略するには、霊術師が最奥まで到達し、狭間を破壊する必要がある。
「試しに撃ってみるね。……あ、壊れた」
と、私は軽い感じで霊気を放った。
すると、ガラスが割れるような音とともに、狭間が粉々になって消失した。
「割りと脆いんだね」
「ここまでたどり着けば、破壊自体は手間ではないのですね」
狭間の消滅を見届けたナナちゃんとレイちゃんが言った。
「よし、これで報告すればいいんだね。じゃあ、行こうか」
「はい。もう妖怪は居ないですし、上に上がるだけですわね」
私とレイちゃんは、足取りも軽く、地上へ向かって駆けだそうとする。
すると、ナナちゃんが待ったをかけた。
「ちょ……ちょっと、待って……。少しだけ休んで行かない?」
まだ息が整っていないナナちゃんが、愛想笑いを浮かべながら言った。
そんなナナちゃんを見て、私とレイちゃんは視線を交わして頷き合った。
「よし、行こう」
「競争ですわ!」
「ちょ……!」
ナナちゃんの制止を求める声が聞こえた気がしたが、気のせいに違いない。
後は、ひたすら通路と階段を進むだけ。
何か言いたいことがあったのなら、後で聞けばいいだろう。
私とレイちゃんは、ダッシュで地上へ向かった。
◆霊術師協会のとある霊術師
なぜか東京から霊術師が来ることになった。
炎泉様からの指示で、しばらく北海道に足止めしろという。
やってきたのはどう見ても子供だった。これなら時間稼ぎも容易い。
ついでだから、迷宮の攻略も押し付けてしまおう。
実力を図るとか何とか言っておけば誤魔化せるだろう。
時間稼ぎと面倒ごとの処理ができて、一石二鳥である。
きっと攻略はできないだろうが、妖怪の数は減らせるはず。
そうなったら、こちらで後を引き継げばいい。そんな気持ちで指示を出した。
子供たちは、二つ返事で了承し迷宮へ向かった。
攻略を指示した迷宮は前線に近い位置にあるため、手つかずになっていたものだ。
そのため、内部には多数の妖怪が棲み着き、少数で挑むのは危険とされている。
この辺りでは常識だ。つまり、あの子供たちの耳にも、そういった情報が入るはず。
そうなると、恐れをなして辞退してくるかもしれない。
それだと、時間が稼げない。む、困ったな。
撤退してきたら地元の霊術師を付けて戦力増強し、もう一度向かわせよう。
そんなことを考えているうちに、子供たちは三人だけで迷宮へ行ってしまった。
さすがにちょっと心配になる。知らせを聞いてから数時間経過したが、逃げ帰ってこない。
脱出不能に陥って死なれては、こちらの責任問題になりかねないのだが、大丈夫なのだろうか。
という心配をよそに、夕方ごろに戻ってきた。
やはり、あまりに危険すぎて逃げ帰ってきたか。
きっと逃げ回っていたせいで、中々脱出できなかったのだろう。
――と思っていたら違った。
きっちり攻略され、最深部の狭間も破壊してきたという。
適当に露払いをしてくれたら、こちらで後を引き継いで手柄を横取りすればいいと考えていたら、とんだ結果になってしまった。
大して時間を稼げなかったうえに、余計な手柄をたてられてしまったのだ。
しかも、三人の様子を見ると疲れている様子がない。
まるで、町で有名なお化け屋敷を楽しんできたかのような気楽さだ。
あまりに早く帰ってきたので、もう一度違う迷宮に向かわせることも考えたが、同じ結果になりそうだ。
これ以上、余計な手柄を取らせるのも癪だし、さっさと未踏破エリアの調査に向かわせよう。
だが、用意しておいた依頼内容では、すぐに達成されてしまう恐れがある。
なんせ、少し大変なキャンプのようなものを考えていたのだ。
……それでは駄目だ。今回のことを加味すると、一瞬で目的達成されかねない。
時間稼ぎが目的なので、それはまずい。
というわけで、今回の迷宮攻略の実績を元に、未踏破エリア調査の依頼内容を修正する。
まず、霊術が使えない者の参加は不可。これで戦力ダウンを図る。
そして移動距離は、持ち込める水と食料がギリギリ足りなくなる長さで。
安全なルートは避け、危険なルートを選択。
調査場所は妖怪が多数出ることが予測されるところを重点的に。
……よし、これでどうだ!
――うん、冷静に考えておかしい。
客観的に見て、イカれている内容だ。普通の依頼と比較すると死刑宣告に等しい。
地元の人間なら、死にに行けと言っている内容だとすぐ分かるレベルだ。
ふざけているのかと殴り掛かられるか、辞めてやると啖呵を切られる代物だ。
はっきり言って、強制力がなければ誰だって断るやつだ。
しかし、難関迷宮を日帰りで攻略する者たちなので、この位にしないと安心できない。
炎泉様から受けた、「時間を稼げ」という比較的簡単な指示をクリアできなかったとなると、私の評価が落ちてしまう。
……これでなんとかなって欲しいが。




