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「何かご用事ですの?」
「いや、それがさ、お前の五属性が疑わしいから、実力を示せって協会から言われてて。その関係で北海道に行かなきゃいけないんだよね」
「へえ、何かするの?」
霊術師協会から直々に依頼が来るなんて珍しい。
一体何を言われたんだろう。
「人がいない奥地まで行って偵察してこいってさ。私は属性数とかどうでもいいんだけど、行かなかったら、五属性と偽ったとして資格はく奪するとか言ってきてるからさ……」
「ふ~ん、なんか変な話だね。五属性かどうかなんてすぐ調べられるのに」
属性数なら道具で調べられる。わざわざ北海道の奥地に行く必要性が感じられない。
怪しい匂いがするのは気のせいだろうか。
「そうですわね。どちらかというと嫌がらせのように感じますわ」
腕組みしたレイちゃんが私の言葉に同意する。
「雷蔵爺さんもそう言ってた。難癖付けて嫌がらせしたいんだろうって。でも、私の生まれがややこしいから、付け込まれちゃうんだよね」
属性数は血統が色濃く出る。
五属性の人間が生まれてくるには、両親のどちらかが五属性である必要があると言われている。
そこでナナちゃんだ。
ナナちゃんは養護施設育ちで両親は不明。
しかし、属性数が五となれば話は別だ。
五属性の人間は絶対数が少ない。
そこから、子供に関する噂がある人物となれば、更に数が絞られる。
つまり、ナナちゃんの両親が誰なのか、おおよそ見当がついてしまうはずなのだ。
それなのに彼女の両親が誰なのか分からない。
これから先、ナナちゃんが成長することで、自分の身が脅かされると考えた人間はそこに目を付けた。
つまり、五属性の両親がいないのであれば、兎与田七海が五属性であるのは疑わしい。
本人を調べれば五属性ということがはっきり分かるのに、そんなこじつけを言い始めたのだ。
終いには、彼女は真の五属性ではなく偽りの五属性だ、などという者も出る始末。
そういった人たちを納得させるためという名目で北海道の偵察を行うことになったらしい。
意外にもその話に乗っかったのは、ナナちゃんと仲が良い鷹羽雷蔵だった。
真の五属性を証明するなどということはどうでもいいが、その位の功績を上げてしまえば全員黙らせることができるから、という理由で。
「……とまあ、そういうわけなんで、どうせ北海道には行かないと駄目なんだよね。で、その用事が済んだら、転校すると思う。ごめんね」
「そんなぁ……」
「ずっと会えなくなるわけじゃないしさ。また一緒に遊ぼ」
ナナちゃんは、がっくりと肩を落とすミカちゃんを抱き寄せた。
「……うん」
渋々といった感じで頷くミカちゃん。
私は、そんな二人を見ながら、依頼について気になったことを尋ねた。
「ところで、その依頼は一人で行かなきゃいけないの? 夜の見張りなんかを考えると、いくらなんでも無謀だと思うんだけど」
「ううん。私が主導となって行動すればいいってだけ。人数制限は特にないよ。でも、私にそういう伝手が少ないということも知っていて出てきた話だと思うけどね。しかもさ、私と同じ時期にタイラにも似たような依頼が来てて、一緒に行けないんだよね」
と、苦笑いしながら答えるナナちゃん。
このタイミングで兎与田先生にも強制力が伴う依頼が出ているというのなら、何か作為的なものを感じてしまう……。
「鷹羽家の方から人手を借りることはできませんの?」
レイちゃんが疑問に思ったことを口にする。
ナナちゃんは、鷹羽家の当主である鷹羽雷蔵と仲が良い。
協力を仰げば、人手は何とかなりそうな気もするんだけど。
「私と仲が良いのは雷蔵爺さんとアキラを除けば、後は数人だけなんだよね。別に鷹羽派の全員に受け入れられてるってわけじゃないの。一応、援助を求めたら検討はしてくれると思う。でも、反対意見が上回るんじゃないかな」
「なるほど、そういうことが分かっていて、出てきた話かもしれないね。なるべく戦力を低下させて任務失敗に持ち込みたいって感じかな」
うまく考えられている。そして、そのせいで失敗するかもしれないと思うと、腹立たしくもある。
できれば、ナナちゃんにはその依頼を難なく達成してもらい、そういう奴らをギャフンと言わせてやりたいところだ。
そんな事を考えていると、レイちゃんが洋扇で口元を隠し、意味ありげな視線を送ってきた。
「それならここに依頼に適した丁度良い人材が二人もいるではありませんか。ねえ、マオちゃん」
……確かに。私はニヤリと笑って応える。
「……その人たちは、霊術師の資格を持って、随伴免除証もあり、北海道で活動可能。しかも一属性だから、評価や功績はナナちゃんに付く。とってもぴったりな人選だね」
私とレイちゃんはハイタッチしたあと、ドヤ? とナナちゃんの方を同時に見る。
「二人とも……」
ナナちゃんは、驚きの表情で固まり言葉を詰まらせた。
「もともと北海道へ行くつもりだったし、問題ないよね」
「むしろ、今後のことを考えると、人が居ないエリアへ行けるのはありがたいですわ」
私とレイちゃんは、意見を交換しながら、うんうんと頷き合う。
すると、ミカちゃんも慌てて口を開いた。
「な、なら、わらわも行く!」
「何を言っているのです! ダメに決まっているでしょう!」
すかさず護衛の人が止めに入る。
「じゃ、じゃが……」
「駄目です」
ミカちゃんは納得できない様子だったが、言い返すことも出来ないようだった。
「まあ、家のことを考えると仕方ないよ。また、お土産買って来るから待っててよ」
がっくりとしょぼくれてしまったミカちゃんにナナちゃんが笑いかける。
「でも、今の話だと転校前に行くことになるんだよね」
依頼には期限が設けられているそうだ。
授業の出席などに融通が利く学校へ転校してからだと、現地で活動できる日数が減ってしまう。最悪、期限内に達成できないかもしれない。
ナナちゃんはその辺りのことも考えて、依頼を終えてから転校するつもりと言ったのだろう。
「そうですわね。学校はどうしましょう。しばらく欠席することになってしまいます」
「んん、問題ない。行ってきたまえ。霊術師として大事な仕事なのだから、気にする必要はない」
ここまで静観していた校長が、あっさりと許可を出してくれる。
それに続いて教頭が何度も頷きながら話し出す。
「そうそう、ここは霊術師の学校だからね。存分に力を発揮してきなさい。べ、別に君たちが創立記念日にいない方がトラブルの起きる可能性が減って気が楽だと思っているわけじゃないよ?」
「ああ、当日は十家の方も視察に来られるから、失礼があると大変なことになるから居ない方がいい……、などと思っているわけじゃないから。長期の欠席に関する手続きはしっかりとしておくから、こちらのことは気にせず頑張ってきなさい」
口を滑らせた教頭に、校長がフォローを入れようとして、どうしてここまで肯定的だったのか理由が判明する。
なるほど、創立記念日にお偉いさんが来るから、私たちに居てほしくないのね。
でも、創立記念日は選ばれた関係者以外は休みになるはず。
もしかして、五属性のナナちゃんが選ばれる予定だったのかな?
「すごく協力的なのに、釈然としないことを言われた気がする」
「ええ、なんだか納得できない気分ですわ」
ちょっともやもやするね、とレイちゃんと視線を交わす。
でも、結果オーライといえばオーライだ。
「まあ、いいじゃん」
私たちと違って、ナナちゃんはそれほど気にしていない様子。
そんなわけで、転校前に一度北海道へ行くことが決まった。




