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魔法教師ロイズ・ロビンは、その距離測定中  作者: 糸のいと
最終章 その距離

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98話 四年越しのネクタイ



 カーテンが取り払われた窓。眩しい朝日が直撃して、ユアはいつもより早く目が覚めた。


 起き上がって、顔を洗い、軽くお化粧をして、髪を整える。父親から貰ったネックレスを付けて、制服を着る。いつものように。

 紺色のシャツに袖を通し、上までキチンとボタンを止めた。紫色に赤ラインのネクタイを結び、膝丈の白いスカートにふわりと足を忍ばせる。白いジャケットは、着ると勝手にピッタリサイズになる不思議なジャケット。最後に鏡の前でクルリと一回り。


 今日で、この制服を着るのも最後。


 すると、耳元で甘く囁く声がする。


『ユラリス、おはよう』

『ロイズ先生、おはようございます』

『渡したい物があって、朝食前に五学年の講義室に来れる?』

『はい、今から行きます』

『待ってる』


「……渡したいもの? 何かしら? 花束とか??」


 ユアはまだ寝静まっている寮の廊下をソロソロと歩いて、五学年の講義室に向かった。



 ガラガラガラ。

 

 五学年の講義室。ドアを開けると、教壇を降りたところにロイズが立っていた。今日は卒業式だ。スーツ姿のロイズにトキメキMAX、ガン見した。


「(大好きな)ロイズ先生、おはようございます」

「おはよ~。朝早くごめんね」

「いえ、早く起きちゃったので、大丈夫です」


 ユアの顔色が良いことを確認して、「寝不足じゃなさそうだね~」なんて、過保護なことを言うロイズ。


「この講義室も、今日で最後だと思うと寂しいです」

「……左端の一番前、か」


 ロイズは少し寂しそうにポツリと言葉を落として、その席を愛おしそうに一つ撫でた。


「この席に座る姿は、もう見られないんだね」


 いつも綺麗な姿勢で座っていた、左端の彼女。早く卒業してほしいと思っていたはずなのに、そうなってみると寂しく思える。そう思えるほどに、気持ちを傾けていた。


「ロイズ先生は、四月からもここに立つんですね」


 ユアはタタッと軽快に教壇に上がった。木製の台がコツコツコツと鳴って講義室を彩る。


「私は、この教壇が憎かったですけどね」

「あはは! そんなこと考えてたんだ」

「同じ目線に、なりたかったんです」


 ロイズは小さく笑って、ユアに近付く。教壇に上らずに、高さをそろえて目線を合わせた。


「渡したいものがあるんだけど」


 そう言って、ロイズはポケットからネクタイを取り出した。紫色に青のライン。男子用のネクタイだ。


「これは……?」

「俺のネクタイ」

「え!? でも、だって、ありませんでしたよね? 卒業式が終わって、中庭に出てすぐに無くなってましたよね!?」


 四年前、ロイズの卒業式のネクタイ争奪戦。その開始直後に、彼のネクタイは無くなっていた。そりゃあ、ロイズ・ロビンのネクタイだ。御利益ありまくりだ。競争率は高いに決まっている。

 

 そのとき、ユアはものすごくガッカリした。すごく欲しかったから。出席番号1番の御利益なんていらなくて、ロイズのネクタイが欲しかった。

 もうネクタイのないロイズを、少し離れたところからずっと眺めていたことを思い出す。名残惜しくて、ずっと。


「あはは! よく知ってるね~」

「覚えてます、すごく」

「争奪戦に巻き込まれるのがイヤでさ~。卒業式が終わって、すぐに外してココにポイッと、ね」


 着ていたスーツのポケットを指差した。四年前、ロイズのネクタイをゲットしたのは、なんとポケットだったのだ。


「じゃあ、誰かに渡したっていうのは……」

「嘘です」

「ぇえ? うそぉ……?」


 四年越しの真実に、ユアは何か色々と脱力してしまった。


「あれ? もしかして争奪戦に参加してたの?」

「は、はい。中庭に出てすぐ、ロイズ()()に声をかけようと近付いて……」

「せせせ先輩!?!」


 聞き慣れない言葉に、教師と生徒の垣根がなくなって、同じ学園に通った先輩と後輩である過去が鮮明になる。ぶっちゃけ、めちゃくちゃ(たぎ)った。


「それで、30cmくらい後ろまで近付いて、どう声をかけていいか迷って悩んで……。でも、ネクタイがもう無くなってる事に気付いて、退散しました」

「そんなに近くにいたの!? なんだぁ、ユラリスが声を掛けてきたら、すぐに渡してたのに~」


 四年前、ユアが声をかけていれば、ロイズに認識されて、魔力相性の異常値に気付いたことだろう。

 そうしたら、ネクタイは渡されていた……かもしれない。いや、どうだろうか、渡してないかもね。彼と彼女は異常値のペアだったけど、そんなに簡単じゃなかった。


 『たられば』は無意味なのだ。人生は、不可逆性だから。


「なんで、声を掛けてくれなかったの?」

「だって、先輩からしたら『君は誰?』って感じでしょう? 本当に……すごく遠い存在でしたから」

「今は、こんなに近くにいるけどね?」


 同じ高さで、イタズラに笑う彼。ユアの胸がキュンと鳴る。


「よくわかんないけど、ネクタイ交換って憧れなんでしょ? ユラリスも交換したいかな~と思って。持ってきて良かった」


 赤色のラインが入ったネクタイにそっと触れて、ロイズは「外せる?」と問い掛ける。

 

「はい」


 五学年の講義室。まだ朝早い、爽やかなこの時間。放課後とも異なる、特別な空気感。


 ユアはシュルリとネクタイを外し、ロイズのネクタイをキュッと結んだ。

 ロイズは勿論、それを余すところなくガン見していたわけだが、青のネクタイをした彼女の姿を見て、なるほどと納得する。


「……ネクタイの交換なんて、欠片ほども興味なかったけど、こういう感じか~」

「どういう感じですか?」


 ―― 俺の、って感じ


 言葉にするには、まだ早い。朝も早いし、気も早い。まだ今日は生徒だ。


 ロイズは緩みそうになる思考をキュッと結び直して、もう結べない赤のネクタイをポケットにしまった。四年越しの、交換完了。


「最後の制服姿、しっかりね」


 ふわりと笑って、ふわりストン。卒業式の準備に向かった。


 




 少し温かく、晴れやかな日差しが降り注ぐ中庭。その真ん中にある、大食堂。


 ちちんぷいぷいのビビディバビディブー。魔法教師の人差し指一本で、全ての食事テーブルが取り払われ、簡素な椅子はしまわれる。

 代わりに、ベルベット素材の椅子が綺麗に並べられ、カーテンの色をシックな紫色に変えれば、あら不思議。いつもの賑やかな空気がしまわれて、厳かな雰囲気が漂うのだ。


 天井が高く、やたら広いこの大食堂は、卒業式や入学式になるとその表情を変えて、セレモニー用の大講堂に様変わりをする。


 そんな厳かな大講堂の一番前、入場口から遠い席。そこで、ロイズは担任教師として立っていた。


 ―― あ、ユラリスのご両親だ


 ロイズが会場を見渡すと、保護者席にユアの両親が座っていた。ゼアもロイズの視線に気付いたようで、やたらニコニコ笑って会釈をしてくれた。いや、ニコニコ通り越してニヤニヤだった。


 襲撃事件の後すぐ、ユアの両親に専属助手の件を話に行ったのだ。勿論、住み込みというのも含めて。


 立場上、直接的な言葉では伝えられなかったが、ユアを大切に思っていることは、それとなく伝えた。あと、セクハラ疑惑で無職になるのが怖かったので、『(今のところ)イカガワシイ関係ではないです』というのも、それとな~く伝えた。


 大切に育てた娘だ。住み込みだなんて、反対されるかもと思っていたが、もうね、飛び上がるほど喜ばれて『どうぞどうぞ!!』の大合唱。

 今日は何かの祝賀会かなという程に、両親はワイン片手に乾杯に次ぐ乾杯。パーティークラッカーも鳴らされた。

 そんなわけで、義息子確定だ。Have a nice life!




 ユアの両親のニヤニヤ顔に、ロイズは少し気恥ずかしくなって、スーツの裾を正して気持ちを整えた。入場時間はもうすぐだ。


 ―― ユラリス、どんな顔で入場してくるかなぁ


 今朝、登校してきた五学年生徒たちに、出席番号(最終成績)が書かれた封書が渡された。それを開くのは、卒業式開始直前。まあ、一種のエンターテイメントだ。


 成績を決めたのは、勿論、ロイズ。

 下級から上級まで、魔法学園の成績判定は細則が定められているため、担任教師の主観は反映されない。ただ、今年の五学年はイレギュラーな部分が多かった。


 魔力枯渇症の研究協力、人間都市での治癒活動、心臓波形のデータ取り、異常値のペア研究への協力、極めつけは人間都市襲撃の攻防戦だ。

 魔法学園生徒の領分を超えてはいたが、魔法学園の基本は学修・研究・精神の熟成だ。それを加味すると、これらを成績に反映させないわけにはいかなかった。



 

 ぱんぱぱぱーん~♪ ちゃららりっちゃら~♪


 大きな拍手と場違いな気の抜けた音楽が鳴り響き、大講堂の一番後ろに鎮座する大扉が、ギーィと音を立てて開かれた。


 開かれた扉の先に見えたのは。


 眩いほどの光を放つ。金色の瞳、金色の髪の魔法使いであった。


「1番、フレイル先輩だ!」

「うっそ、ユラリス先輩じゃないの?」

「私、リグト先輩、推してたのにぃ!」

「ってか、ユラリス先輩、ネクタイ青!!」

「彼氏いたっけ? モテなそうなのに……」

「見て! リグト先輩とフレイル先輩は青のままだわ!」

「血を見る争いになりそうな予感で悪寒」

「フレイル先輩、1番かっけー」


 拍手に混ざって、そこかしこでフレイルの名前が聞こえる。卒業式の入場は出席番号昇順であり、一番初めに入場するのが、卒業時の出席番号1番。即ち、()()なのだ。



「リグト、ユア。1番、貰っちゃって悪ぃなー」


 全然悪びれない顔で、先頭を歩く出席番号1番、フレイル・フライス。


 夏休み前までは、ダラダラと過ごしていたフレイルであるが、夏休み中に魔法陣の開発にハマってからの彼は凄かった。今まで疎かにしてきた座学をやり直し、魔法陣の持つ魅力に染まったのだ。

 そして、魔力枯渇症患者用の魔法陣の普及率も評判も、非常に高かった。決め手に、人間都市襲撃の際に見せた類い希なる才能。出席番号1番に相応しい働きだ。


 蓋を開けてみれば、入学首席も卒業首席もフレイル・フライス。安全地帯にいることを捨て、本気になった天才魔法使いは、やはり強かったというわけだ。



 その真後ろを歩く出席番号2番、リグト・リグオールは、意外にも飄々とした顔をしていた。


「若干悔しいが、魔法省の内定は貰ってるから問題ない」


 フレイルとリグトは、極めて僅差であった。


 夏休みからずっと、リグトが行っていた人間都市での治癒バイト。金の為ではあるものの、彼は人間都市に『優しい魔法使いもいる』という意識を広めたのだ。彼の容姿の効果もあったが、人間都市で認められたのは、リグト自身の功績だ。

 そして、やはり襲撃事件の際の巨大な盾魔法。これがなければ、人間都市は殲滅していたことだろう。


 2番になってしまったのは、金のせいだ。魔法省から内定を貰った後、うっかりとバイトに明け暮れ、卒業試験のアレコレが少し疎かになってしまった。金に捕らわれた人生、数奇なことである。


 でも、ゼアと同じ魔法省に入ることが出来て大満足。次の夢は、ゼアが率いる第一魔法師団に入ること。そのうち、白い外套を身に纏う、うっとりするような美男子が見られることだろう。



「3番になっちゃったけど、この位置も悪くはないわね」


 出席番号3番、ユア・ユラリスは真っ直ぐと顔をあげて歩いていた。この位置が、今のユアには心地良くて、少しくすぐったかった。


 赤紫色だった頃は、毎日毎日、もう必死。指が痛くなっても、足がフラついても、意識が薄れたって、魔法の練習や勉強を止めることはしなかった。死ぬ気でやっていた。


 でも、青紫色になって赤紫色を受け入れてみたら、まるで呪いが解けたみたいに心が軽くなった。肩の力が抜けたら、そりゃまあ、3位になっちゃうよね。

 でも、彼女にとってはそれが自然なことで、これで良かったのだ。


 だって、彼女はもう特別な魔法使いじゃない。天才的なセンスもないし、おばけみたいな魔力量だって持っていない。死ぬ気でやらなければならない中で生きてきた、ただの頑張り屋の女の子。


 でも、たった一つだけ、特別なことがあった。


 ―― ユラリス、良い顔してるなぁ


 国一番の天才魔法使い……いや、大好きな彼の『特別』になったこと。


 ロイズがユアを見つめていると、彼女は飴色の視線に気付いて、小さく笑って返した。その瞳が『先生、ありがとう』と伝えてくれた。


 ―― 可愛い。俺のネクタイ……良き……


 五年間、頑張ってきた晴れの舞台だ。是非、他の生徒も見てあげて欲しい。

 チラチラ通り越してジーッと、ユアばかり見るのは止めた方が良い。残念なことに、何人かに『ロイズ先生、ユラリス先輩ばっか見てない? え、もしかして?』と、気付かれているではないか。まぁ、フライングゲットってことで……。





「つ、つかれたぁ。肩凝ったよぉ~!」


 式典が終わり、一番乗りで中庭に飛び出してきたのは、出席番号40番、カリラ・カリストン。

 鉄壁の40番は最後まで守られた。前代未聞、入学から卒業までオール40番を達成だ。


 成績は悪いままであったし、魔法陣も歪みっぱなしの五年間。でも、誰も知らないが、カリラの存在はとっても大きい。


 特に人間都市の襲撃事件。あのとき、カリラがケーキを食べたいと駄々をこねなければ、ユアたちは人間都市の外に出ていた。

 外に出たのなら、もう中には入れない。あの場にカリラがいなければ、人間都市は焼け野原であっただろう。


 そして、何よりも、起爆魔法陣に魔力を込めたこと。あの魔法は、人間と魔法使いの距離を真にゼロにするスイッチだった。

 実際、このターニングポイントが、新しい善き社会を使っていくことになる。数年後、『あのとき、カリラが起爆させたから、こんな素敵な国になったのね』なんて、ユアに言われたりして。


 おへその下に刻まれた、誰も知らない秘密の分析魔法。その魔法陣で、これからも数々の『正解』を手繰り寄せていくだろう。魔法省大臣や副大臣が頼りにするくらいに、ね。


「カリラ、卒業おめでとう」

「ユアも、卒業おめでとぉ~♪」

「よ! バカリラは安定の40番だったな。逆にすげぇわ」


 親友二人の抱擁に、会話だけで参加してくるフレイル。その胸元からはネクタイが消えていた。


「あれ、フレイルのネクタイは?」

「あー……もう一年前から予約されてたから、式終わってすぐに渡した」


 ユアに『交換しようぜ』とか言っていたが、実は既に予約がされていたという事実。断られることなんて、分かりきっていたのだろう。


「フツメンなのに意外とモテ男だよねぇ~。だれだれぇ~?」

「後輩」

「きゃー! テンションあがるぅ。女の子ぉ~?」

「言うかよ、ばーか」


 すると、真後ろで「キャー!」と黄色の叫び声が聞こえ、唐突に中庭が賑やかになった。ユアたちが視線を向けると、輪の中心にリグトが立っていた。


「レストラン無料券5枚でどうですか!」

「もう一声だな」

「こっちはパン屋の無料券20枚です!」

「少し弱い」

「食料品店の80%オフ券あります!」

「足りない」

「あんたたち甘いのよ! 仕立て屋の無料券3着分でどうですか!? 魔法省は、スーツで出勤ですよね!?」

「なるほど。よし、落札だ」


 リグトは、そう言ってネクタイを渡して、仕立て屋の無料券を貰っていた。このめでたい晴れの日、ネクタイで競売を開いていたのだ。何という金の亡者。


「リグオール~! さすがにそれはダメー!」


 遠目から眺めているだけだったロイズが割って入ると、リグトはキメ顔でロイズを見て返した。顔が良い。


「先生。死活問題です。見なかったことに」

「いや、でもね、売買行為はちょっと……」

「死ぬか活きるかの問題です。見なかったことに」

「……(だんまり)」


 ロイズはリグトの実家のボロボロ具合を思い出してしまい、何も言えなかったし、何も見なかったことにした。だって、本当にボロボロだったから……。


「あ、ロイズ先生~! 卒業ありがとうございましたぁ~♪」

「本当だよー……カリストン、相当ギリギリだったからね?(げっそり)」

「えへへ♪」

「ヒヤヒヤしたけど、みんな揃って卒業だね。ロイズ先生は、とっても嬉しいです(にっこり)」


 ロイズがニコニコしていると、ユアが手を挙げて「先生、リクエストしても良いですか?」と言った。


「リクエスト? なになに~?」

「私たちの入学式で見せてくれた、掴めないお花の魔法をもう一度やって欲しいんです」


 ユアたちの入学式のとき、ロイズは五学年の出席番号1番だった。在校生代表の祝辞を述べ、さらに魔法を見せてくれたのだ。


 その魔法は、ふわりと降ってくる花の魔法だった。花を掴もうと手を伸ばすと、不思議なことにスルリと逃げて掴めない。

 必死に掴もうとする新入生(ユアたち)に、


その気持ちを忘れずに(何かを掴もうと頑張る)、五年間を過ごしてね』


と、ロイズが言ったのだ。そのとき、彼はユアの『特別』になった。そう、恋に落ちたのだ。


「懐かしい~! あんなの覚えてるんだ?」

「はい、すごく大切な思い出です。五年間、一度も忘れたことはないです」

「大切な思い出? ……それってどういう……」

「せんせー!! 早くお花やってぇ~。見たい見たいー!」


 カリラに急かされて、ロイズはユアに聞き返すことも出来ず、「はいはい」と仕方なしに頷く。

 そして、青々と草が茂る中庭の真ん中。『いっひっひ~』と歯を出して笑ってみせる。


「準備はいいかな~? 卒業、おめでとう~!!」


 ロイズがそう言うと、青く晴れた空から色とりどりの花が降ってきた。花畑でも足りないくらいの、たくさんの花々だ。


 遠巻きに見ていた保護者たち、ネクタイ争奪戦の疲れで芝生に座っていた後輩たち、それぞれの学年の魔法教師たち。みんなが、その花々に目を奪われた。


 五年前は、それに手を伸ばして掴もうとしていた生徒たちだけど、もう誰一人として手を伸ばしたりはしない。誰に言われたわけでもなく、人差し指をピンと伸ばし、背筋を伸ばして光り輝く円を描き出す。


「風のボール!」

「土の器ー!」

「水の囲い~」

「氷のキューブ!」


 花に負けないくらい彩り豊かな美しい魔法陣たちが、中庭を埋め尽くす。掴みたいという思いと魔力を込めて、魔法で花を掴むのだ。


 だって、彼らは魔法使いだからね。



「「「先生~! ありがとうございましたー!!」」」



 たくさんの()を掴んで、それを高く掲げて、みんなでペコリとご挨拶。


 五学年の生徒たちが『一人前の魔法使い』になるために学び続けた、その距離。

 

 泣いて笑って、たくさんの思い出が詰まった、価値ある5年。




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