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魔法教師ロイズ・ロビンは、その距離測定中  作者: 糸のいと
最終章 その距離

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95/104

95話 心地良い通り越して気持ち良い




「ユラリス、大丈夫!? 家についたからね!」

「…………」


 純白のユアを抱きかかえて、ロイズは真っ白な家に転移で帰宅。どこを向いても白い。



 あの後、ゼアの部下がワラワラと現れ、生徒たちを魔法省に連れていこうという流れになった。しかし、ユアの純白さは重症だった。

 そこで、事の顛末を見ていた誰かがぽつりと言う。『異常値のペアが魔力共有すれば、一発で魔力切れが治るんじゃないですか?』と。


 というわけで、半ば無理矢理、ロイズが家に連れ帰ったのだ。だって、魔法省の医務室で魔力共有するわけにいかないからだ。だって、ねぇ?


 ―― うわぁ、あの魔力共有をまたやるのかぁ……


 あの魔力共有。そう、やたらエロい魔力共有だ。



 異常値のペアの魔力共有では、特殊な感覚が生じるというのは既に分かっている事実だ。魔法省もそれを認めてデータ取りをしている。

 匂いや音や味を感じたり千差万別。様々な感覚を感じる事が分かっているが、いずれも心地良いものばかりであると統計が取られていた。


 だがしかし、心地良いを通り越して気持ち良い感覚が生じるペアは、今のところロイズとユアだけであった。


「ユラリス、魔力……流すよ?」


 ユアの手を取って、ロイズはゴクリと生唾を飲み込んで覚悟をした。見たいが、見たくない。この複雑な感情。これがあと一か月(卒業)後であれば、るんるん気分でおてて繋いで魔力共有をするのにっ!!


 ロイズは、ふーーっと息を吐いて魔力を流し込む。すると、ユアの身体がビクンと小さく身震いした。


「ぁ……やん」


 ―― やはり、エロいっ!!!!


 さすが異常値のペア。純白のユアは一気に顔色を戻して普通のユアになった。


「ユラリス、大丈夫?」

「ん、だめぇ、せんせ」


 ロイズの『見たい、見たくない』の天秤が、ガッターーンと勢い良く傾いた。快活な良い音だった。


「……何がダメなの?」

「せんせ、の、」

「俺のが?」

「きもち、いい……」

「どんな風に気持ち良いの?」

「……ん、すごいの………」

「いっぱいになった? じゃあ、もう終わりにしよっか」

「ゃん、もっとぉ、」

「もっと欲しい?」

「せんせ、ちょぉだい? おねがい……」

「……良い。大変良い」


 悪い、大変悪い。魔法教師ロイズ・ロビン、どこいった。


「コホン。さて、ここからが問題だよね~」


 教師という事実を棚上げして、存分に堪能した困ったちゃんのロイズは本当に困っていた。


 ロイズからユアに魔力を流す分には、エロいユアを見るだけだから問題はない。いや、問題はあるが、問題にならない。

 だが、ユアがロイズに魔力を流したが最後。悶々としちゃって、問題が問題になってしまう。教師と生徒、大問題だ。


「理性が切れないように耐えて、瞬時に手を離すしかないかな~」


 脳内シミュレーションを開始。ユアから魔力を流されたら、めっちゃ我慢する。で、すぐに手を離す。うん、完璧な(ノー)プランだ。天才だ!


「……いける! 頑張れ、俺!!」


 ロイズは、ふーーっと息を吐いてエロい声で鳴き続けている最高のユアに向き直った。こんなに甘い声を出し続けていたら声が枯れてしまうだろう。すぐに魔力共有を完了してあげなければならない。急がなければと、ロイズは気合いをいれた。


「……(じーーー)」


 5分くらいガン見してようやく動いた。『一か月後にはこれが毎日見れるんだ』とか考えてはいない。デフォルトでエブリデイなのが気になるが、気にしないでおこう。


「ユラリス、俺に魔力を流せる?」

「ん、できるぅ……」

「じゃあ、どうぞ!! よし来いぃぃいい!」

 

 魔力共有とは思えない気迫であった。ユアは甘く身動ぎながら、ロイズに魔力を流し込む。

 瞬間、心臓がドクンドクンと跳ね上がる。高揚感が身体を支配し、頭の中が切れそうになる。


 ―― あ、やばい


 ダメだと頭で分かっているのに身体が勝手にユアを組み敷いていた。襲いかかるように、求めるように、首筋にキスをした。


 ―― ダメだ、耐えろ、手を離せ


 理性という名の糸の上で()渡りをするかのように右に左にグラつきながらも、ロイズは落ちないように耐えた。グラグラするが、なんとか耐えた、耐え……たえ……た? 


 ぐらぐら…た、たえ? 


 ぐらぐら、くらくら、ふらふら……らぶらぶ?


 ―― はぁ、すっごい好き。可愛い、俺のユラリス


 めっちゃキスした。めっちゃ、めっちゃキスした。もうドッロドロのやつ。やっぱりノープランだった。天才だ。


「……はぁ、ユラリス」


 見つめ合って、溶け合って。唇が重なり合う。途切れ途切れの息遣いが余計に愛しさを強めた。


 ちりりりりん♪ ちりりりりん♪


 そこで天の助け(邪魔)が入った! 突然、ロイズの頭の中に『ちりりりりん♪』と音が鳴り響いたのだ。


 ―― ちり? ちりりりりん? ちりりりりん!!!?


 糸みたいに細かった理性が少し太くなった瞬間、ロイズはバッと手を離した! プランが成功したのだ。

 ベッドの上で仰け反るように二人は距離を取る。その距離、1m。


「あぶなっ!! こわっ!!」

「ロイズせんせ……? ハッ! またしても再び!!?」

「ごめんなさい、再び!」

「こちらこそ、再び!」


 静まり返る部屋の中。熱く溶けた甘い空気の残り香が、切れない理性を刺激する。


「……えっと……ユラリス、大丈夫?」

「はい……もう大丈夫、です。でも……」


 前回はここで拗れてしまったが、今回は違う。


 言葉にしないだけで、いつだって二人の間にはキスをしてもおかしくないほどの甘い空気が漂っているのだから。


 手を離したって、手放せない。

 見つめ合って、溶け合って、近付いて。


 その距離、10cm。


「ユラリス……」

「先生、もっと……」


 ちりりりりん♪ ちりりりりん♪


「もっと?」

「もっと、したいです」


 ちりりりりん♪ ちりりりりん♪


「……少しだけ――ううん、ダメだよ」


 許してしまいそうになる。許されたくなる。


「先生、だめ?」

「……ユラリスのそれ、ズルいよね」


 ちりりりりん♪ ちりりりりん♪


「先生……おねがい」


 ちりりりりん♪ ちりりりりん♪


 ―― あぁーもぉおおお!! イイトコなのに、うるさいーー!!


「さっきから誰!?」

「先生?」

「ずっと通信魔法の呼び出し音が聞こえててさぁ。全く、誰が……ハッ!!」


 そこでロイズはハッとした。この魔力の感じ!! 思えば、通信魔法を発信できるなんて魔法使いの中でも極々わずかだ。そんなのロイズの交友関係の中で、一人くらいしかいないじゃないか!


 ロイズは大慌てで「通信魔法、受信!」と言って、ようやく通信を受け取った。


「あ、ロイズさん? ゼア・ユラリスです」

「デスヨネー! スミマセンデシタ!」

「娘の顔色はどうですか?」

「え? あ、はい、赤いです! 驚くほど真っ赤です!」

「そうですか、回復しましたか。何もなくて良かったです」

「本当に、何もしなくて良かったです……」

「さすが異常値のペアですね。カリラさんとフレイル君は回復してますが、少しグラついている状態でして」

「グラつきますよね……わかります」

「彼らの異常値のペアの方が来るまで耐えてもらわないといけませんね。リグトはケロリとして食べてますよ。美味しい美味しいって」

「僕も美味しく食べたいです……ははは」

「あと、今日は寮ではなく家に送って頂いても良いですか? 無理をして身体に障ると大変ですから」

「身体には触ってません、今回は!」

「まぁ、ロイズさんに魔力共有して頂いたので心配無用ですけどね」

「はい、心配無用です! ()()大丈夫です!」

「頼もしいです。では、宜しくお願いします」

「こちらこそ!!」


 ツー、ツー、ツー、ツー


「……(冷や汗たらり)」

「ロイズ先生? 誰からの通信魔法でした?」

「帰宅しよう、今すぐに! さぁ早く!!」

「は、はぁ……」


 背筋が凍ったロイズであった。




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