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魔法教師ロイズ・ロビンは、その距離測定中  作者: 糸のいと
最終章 その距離

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94話 全力を出し切れ、もっと!!



「へ? きばくぅ? なになに~? ユアの顔、おもしろい~」

「それ!! 起爆!! スイッチぃい!!」

「バカリラ! おま、おま、マジで!?」

「カリストン、魔力込めたの!?」

「なんか可哀想な魔法陣ちゃんが浮かんでたから、心を込めて魔力を込めましたぁ~♪ てへぺろ」


 過去最恐の、てへぺろである。


「込めるのは心だけにしろよ! このバカリラ!!」

「そもそもに、何故、起爆魔法陣を放置していたんだろうか。不可思議だな」

「冷静かよ」

「リグトの言うとおり、これは不祥事ね」


 やんややんやと騒ぐ五学年。ロイズがいるからどうせ大丈夫だろう、と緊張感をほぐしまくっていた。

 しかし、当の本人であるロイズは青ざめていた。ゼアも切腹覚悟の上で白目を向いている。これは教師としても魔法省職員としても、完全なる不祥事である。


 すると、ピカピカ点滅をしている魔法陣から、ヘイトリーらしき声が鳴り響く。本人は不在であるため録音であろう。


『はぁい♪ 起爆魔法陣に魔力が込められました。あと60秒くらいで爆発します』


「60秒!? ゼアさん、人間の避難は!?」

「避難済みです」


 ロイズが侵入禁止魔法を崩したあと、第一魔法師団はこっそり人間を避難させていた。そのため、ゼア・ユラリスの登場が遅れて、舌打ち交じりに雷を落とす魔王ロイズが降臨してしまったわけだが。


「なんだ、余裕余裕~。じゃあ、俺が特大の防御壁で爆発を抑えるんで、ゼアさんは生徒を連れて転移し……」


 そこで、またもやヘイトリーのアナウンスが響く。


『九年間、毎日毎日、恨みと魔力を込めて作った爆発魔法でございます。そんじょそこらの爆発じゃあございませんので、ご了承くださいませ。はっはっはー! 飴色、爆発しろぉおお!!』


 やたら楽しそうなアナウンス。きっと深夜に酒を飲みながら録音したのだろう、完全にハイである。とてもじゃないが、ご了承できやしない。


「九年!? 九年分の魔力は無理~!!」

「まじ? 魔王ロイズでも無理なのかよ!」

「え? 魔王? 俺のこと?」

「あ、ナンデモナイっす」


 先の戦闘の後半、雷を落としまくるロイズを見て、フレイルとリグトは『魔王ロイズ降臨』と心の中であだ名をつけて身震いしていた。ロイズがロイズで良かったと、二人は心底安堵したのだ。かしこみかしこみ。

 身震いする男子生徒の横、ユアは胸キュンしていたが。『怒ったロイズ先生、超ステキ、超クール! 私にも舌打ちして!』恋する乙女のメンタルは強かった。舌打ちはご褒美だった。


 と、そんな魔王ロイズでさえ、白旗をあげる状況というわけだ。


「どうすんだよ、バカリラ!」

「フレイルこわいー! びえーーーん!」

「詰んだな」

「ゼアさんと二人でもヤバいかも! うわぁ、どうしよう! やばい~」


 ロイズは両手を広げて「人間都市、人間、探索」と言った。人間都市に残された人がいないか、探索魔法で確認をしているのだ。もし誰もいなければ、ロイズは人間都市を捨てるつもりであったが。


「……いる。まだ残ってる!」


 ロイズとゼアは、視線を合わせた。


 残された人間を探し出して助けに行っても、もう間に合わない。九年分の魔力だ、ロイズとゼアが全力で抑えても難しいかもしれない。

 生徒たちを避難させたいが、生徒たちは疲労困憊。転移魔法を使う余力があるかどうか。ロイズかゼアが転移で生徒を避難させ、戻ってきたのでは間に合わない。


 さあ、スーパーてんやわんやタイムの到来だ。


「誰か、転移魔法を使える余力がある人!? ユラリス……あー、ゼアじゃなくて、ユアの方! いける!?」

「……フレイルは、いけるかしら?」

「なんとかいける」

「じゃあ、カリラとリグトをよろしく。私は残るわ。時間がない、早く」

「ちょちょちょっと待って! ユラリスも転移で逃げて!!」

「私は残ります」

「だめーー!!」

「ユア、言うことを聞きなさい!」

「ロイズ先生とお父さんの二人でも、九年分の魔力は厳しいですよね? 残ります。フレイル、早く行って」

「いやいやいや、行けるわけねぇだろ!!」

「フライス、無理矢理連れてって!」

「わかった! ユア、ちょ、暴れんな!!」

「離して! 私は、残らないといけないのよ」

「ガリ勉がすぎんだろ! このままじゃ、死因がガリ勉になるぞ!?」

「ユラリス!! 本気で怒るよ!?」

「いいじゃーん♪ ユアは残った方が良いよ~♪ 楽しそうだし、私も残ろーっと!」

「どうでもいいが、腹減った」

「って、おぃいいい! リグトもカリラも手伝えってぇぇええ!!」



『時間です、時間です。グッバイ、飴色!!』



「あ……」



 ズズズズ……と、()を這う呻き声のような轟音が、()()から聞こえてきた。

 そして、閃光の後、炎の塊……いや、炎の海とも言える赤い爆発が襲ってきた。


「防御壁!」


 ロイズが特大の防御壁を出すと、ゼアも魔法陣を一瞬で描き上げて同じく防御壁を出す。都市全体を覆う、超巨大な防御壁だ。


 耳を劈くような轟音と、骨まで焼かれそうな熱。炎の海と防御壁がぶつかり合った。


「うっわ……ダメだ……っ!」


 ロイズは目の色を変えて、防御壁に魔力を注ぎ込む。ものすごい風圧に、飴色の髪が大きく乱れた。

  

「九年、重っ……!」


 押されないように、耐えるだけで精一杯なのだろう。こんなに余裕のない状況は初めてだった。九年分の魔力、色んな意味で重すぎる。


「やば、持たないかも! フライスっ! 早く、転移!」

「く……っ! いや、魔法都市よりもっと遠くに転移すべきです。この威力、魔法都市にも被害及ぶ!」

「まじすか!?」


 ゼアの一言で、フレイルは察した。ここで転移したところで、魔法都市にまで被害が及ぶのであれば、転移する意味はない。家族も友達も、大切なものは全て魔法都市にあるのだから。

 それより何より、目の前の炎の海をどうにかする方向に全力で梶を切るべきだ。安全地帯なんてないのだと。


「あーもー、結局こうなんのかよ!!」


 フレイルは、盾魔法を発動させた。


「焼け石に水だろうが、やるしかねぇだろ!」

「同感だ」

「私もやる~ぅ」

「カリラは、まじで、死ぬ気でやれ、まじで。後で覚えてろよ!?」

「ごめんなさいぃいー! フレイルこわいぃーー!」


 死ぬ死ぬ言いながらも盾魔法を発動する五学年。そんな彼らに、ロイズは声をかける。


「みんな、落ち着いて! 大丈夫、ここにいるメンバーは魔力相性が悪くない。守りたいものを見定めて、持てる全てを共有すれば、勝機はある!」


 その言葉で、誰もがよしと気合いを入れる。足元に広がる人間都市を見て、力のある魔法使いとして守るべきものを心に描く。身体に流れる血液を、その波打つ鼓動を合わせるように魔力を込める。


 

 人間都市の上空で、魔法使いが魔法使いと戦い、人間たちを守った。そして、魔法使いが仕掛けた大爆発を、魔法使いが食い止めようとしている。


 人間都市に残された人間たちも、避難していた人間たちも、その光景を見ていた。九年前はロイズ・ロビンだけだったのに、それがどうだろうか。今は、それだけじゃない。


 爆発に巻き込まれないように、第一魔法師団のメンバーがその背中に人間を庇っている。怪我をした人間に、優しく治癒魔法を掛けている。まだ少数ながら、元人間の魔法使いも自分にできることをやろうとする。


 持てる全てを共有し、魔力を合わせて強め合い、守りたいものを守りきる。そんな魔法使いたちが、ここにいるのだ。



 ―― 持てる全てを共有する……そうか!


 生徒たちが魔力を合わせているのを見て、ロイズはハッとした。そこで気付いたのだ。


「ユラリス!!」


 ユアが、頑なに『私は残ります』と言い張っていた理由が分かったのだ。


「私は、ロイズ・ロビンの異常値のペアです」


 そう言って、ロイズの横に立つ。


「魔力相性が良い者同士が魔力を合わせれば、その威力は倍以上になる」


 ロイズの手に、ユアのそれを重ねる。後ろにある人間都市を背負って魔力を込めた。


「それが異常値のペアなら、その威力は異常な程に強くなる!」


 ユアとロイズの魔力が合わさった瞬間、炎の海が揺らいで縮まった。


「ユラリス~~っ!!」

「残って正解でしたね」

「よし! このまま抑え込むよ!」

「はい!」


 飴色の瞳が炎に照らされて光り輝き、その色を深くした。


「ユラリス、もっと魔力出して!!」

「はい!」

「もっと全力で!」

「はいー!」

「頑張って、もっといける!!」

「え? あ、は、はい!」

「もっと!! 全力出して!!」

「え? もっと??」

「そう、もっと! ユラリスなら出来る!」

「……」


 ユアは結構ギリギリだった。魔力を全開にしているのだ、そんな気軽に『もっと!』と言われましても、魔力量が持たないじゃないですか。魔力量おばけのアナタと違うんですよ、と。


「ユラリスなら、もっと頑張れる!!」


 ユアは何か嫌な予感がした。そう言えば、つまらない嘘をついていたことを思い出す。

 

「全力はこんなもんじゃないよ! 俺が保証する、ユラリスならもっといける!」


 五学年の生徒は思った。『鬼ロイズ発動してるじゃん……』って。フレイルたちは生温い目でユアを見てくる。炎の熱で目の奥まで焼かれそうなのに、とても生温い目だった。


「こ、これ以上は、無理ですー!」

「大丈夫、もっといける! 全力でやって!」

「全力ですー!」

「ユラリスはこんなもんじゃないよ! もっといける!!」

「くぅ……これで、全力です!」

「いや、まだいける! もっと!! 俺の異常値のペアなら、やれる!」


「……はーい、出席番号1番、今から全力出しまーす(泣)」


 ユアは、魔力切れでの死を覚悟した。もう魔力切れが怖いとか言っていられなかった。どのみち、ここで炎の海を抑え込まなければ死ぬしかないのだ。それならいっそ、やってやれ!

 全てのリミッターを外して、全身全霊をかけて魔力を込める。それを感じ取ったロイズも、呼応するように全力で魔力を込める。


 蠢くような炎が、防御壁で押し戻される。徐々にその威力が弱まり、防御壁に包まれるようにして小さくなっていく。


「よし! 今だ! ユラリス、もっと頑張って!!」

「……(泣)」


 次の瞬間、防御壁が飴色に光り輝いた。ボールみたいに丸くなった防御壁が急激に縮んでいく。中に包まれていた炎は、その勢いに飲み込まれた。

 

「潰して消す!!」


 ロイズは炎を摘み取るように手を握った。その瞬間、防御壁ごと炎は消えてなくなった。炎によって焼かれた空気だけが、天高く上昇していく。

 その上昇気流は凄まじく、都市全体を押し上げるように吹き上げ、暗い雲を貫いた。


「消えた……」


 九年分の恨み、憎しみ、怒りが込められた炎の塊が消えてなくなった。灰色だった空は炎によって熱を帯び、吹き抜けるような冬の青空に変わっていた。まるで、心に引っかかっていた苦しいものが、全部吹き飛んだような青くて爽やかな空だ。


 街に、心に、清爽な風が吹き抜ける。


 人間たちも、魔法使いたちも、皆が手放しで歓声を上げた。垣根なく手を取り合い、抱き合って、泣きながら歓喜する。


 そう、この瞬間。

 人間と魔法使いの距離は、まさしくゼロになったのだ。


 長きに渡るヒエラルキーを壊したとしても、人々の心は簡単には変わらない。傷つけられた記憶がなくなるわけではない。畏怖する気持ちや、忌避する心は簡単になくならない。

 でも、この日、炎が消えると同時にふわりストンとそれらが消えたのだ。まるで、魔法みたいに。


 そう、これは優しく勇敢な魔法使いたちが掛けた、愛ある魔法だ。




「ぜぇぜぇ、し、死ぬぅ。落ちるぅ、せんせぇ~」

「全身ガイタイ、シヌ」

「腹が、減った」

「……(黙)」


 炎と戦っていた生徒たちは魔力切れを起こしていた。リグトだけは大丈夫そうだったが。


「みんな、大丈夫!?」


 さすがのロイズも息を切らしていたが、さすがのロイズだ。落下しそうな生徒たちを浮遊させ、治癒魔法をかけていた。底なしのバケモノである。


「ゼアさん、部下の人を呼んで下さい。彼らを魔法省の医務室で診て貰えますか?」

「も、勿論です……」


 ゼアもめっちゃ青い顔であった。それでもすぐに部下を呼び寄せてくれて、一安心。


「ふぅ、何とかなって良かった良かった~。ユラリスが残ってくれて助かったよ~。……ん?」


 大満足の結果を分かち合おうとユアを見ると、彼女は青いを通り越して白かった。純白だった。


「わぁ! ユラリス、大丈夫!!?」

「……(死)」

「驚きの白さだよっ!? 魔力切れを通り越してる!? そ、そんなに全魔力量使った? でも、ユラリスって魔力量おばけだよね!? だから、もっといけるって思ってたんだけど……なんでこんなことに!?」

「ロイズ先生、ユアは魔力量おばけじゃないですけど」

「へ?」


 魔力量おばけの腹ぺこリグトが、顔色を変えずに伝える。ユアの下らない嘘に終止符を打った。


「ユアの魔力量、別に多くないですよ。普通です」

「そうなのぉおおお!?」

「……(恥)」

「ユラリスぅぅうう!?」


 ほとんどない意識の中で、ユアは思った。その伏線回収、ここですか? と。


 

 



お読み頂き、ありがとうございます!



以下、蛇足。


【ロイズの名前の由来について】


ロイズ・ロビンのスペルは、Rois・Lovingです。

初めの音であるROは

「Reverse Osmosis membrane=逆浸透膜」

の略から取りました。

逆浸透膜とは、簡単にいうと、水だけ通して不純物はろ過してしまうフィルターです。


綺麗な物だけを残せるフィルター。

転じて、『愛する心で世の中の不条理を綺麗にする』という意味を込めて名付けました。


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