92話 異常値のペアは、ここにいる
「……ねぇ、ユアさんってロビンのなに?」
その視線には、暗く静かな熱が込められていた。誰からも向けられたことのない強い憎悪。ユアを拘束している魔法の鎖が震えて揺れる。
「特別なのよね? ロビンの、特別。たった一人の助手。でも……ただの助手って雰囲気じゃないわよねぇ?」
「ただの助手よ」
「あら、下手な嘘はやめてよ。ロビンが描いた魔法陣でも刻んでる? ううん……違うわね。あいつの魔力石を持ってる? なんだか分からないけど……ロビンの魔力が四六時中、あなたにまとわりついてるのよね。いつ会っても、どんなときも、今も」
暗然たる視線が下から上まで何度も這う。撫でられているような感覚に、ユアはゾワリと鳥肌が立った。拘束魔法はそのままだ、腕は動かせない。危うい香りが立ち込める。命の濃度が薄くなった気がした。
ヘイトリーは楽しそうに、魔法陣を描き始めた。
「ユアさんがいなくなったら、あの飴色も絶望してくれるかしらね?」
「!?」
もしも、ここでユアが死んだら、彼はどうなるのだろうか。
指を鳴らしたいとこぼした、ロイズの掠れた声を思い出す。ロイズ・ロビンである彼が、その立場を捨てるようにして『怖い、失いたくない』と告げたのだ。
貴重な赤紫色でも、助手でも、異常値のペアでもない。彼が守りたいのは、ユアだ。
―― だめ、死ねない
ユアは、身体に刻まれた魔法陣に魔力を込める。震える声でロイズを呼ぶ。
『ロイズ先生! ロイズ先生!』
「ユラリス!」
でも、ボイスメッセージは返ってこなかった。声が聞こえたのだ。魔法越しではなく、直接空気を揺らしてユアの名を呼ぶ声が。
侵入禁止魔法の外側、その距離50m先にロイズがいた。
「ユラリス、魔力を込めろ!」
「……!? はい!」
ロイズの思惑を瞬時に理解したユアは、めいっぱい魔力を込めた。身体に刻まれた、二人だけの秘密の魔法陣に全力で注ぎ込む。
「あの飴色……ロビン!」
一方、ロイズの姿を見たヘイトリーは、愉悦にまみれた笑みをこぼす。憎らしい飴色の目の前でユアを始末できる、その喜びが彼女を笑顔にしたのだろう。
しかし、喜びが油断という隙間を生んだ。わずかに遅かった。ヘイトリーの攻撃魔法がユアに当たる直前、ロイズの指が鳴らされた。
ふわり、ストン。
ユアは侵入禁止魔法を通り抜け、その外側、ロイズの腕の中に転移をする。大好きな彼にぎゅっと抱き締められる。
でも、やっぱりロイズはロイズだった。ユアを手元に呼び寄せてすぐ、彼の注視は侵入禁止魔法に移っていた。
「よし、開いた!」
彼女を片手で抱き締めながら、侵入禁止魔法をじっと見る。そこには人が通れるほどの穴が開いていた。この機を逃すまいと、ぽかりと開いた穴に片手を突っ込む。
「すごいね。こんな厳重な魔法、見たことない。魔法陣ごと壊そうとしても、消そうとしても、何やってもダメだった。全部、弾かれたよ。俺の魔力だけは、絶対に通さないっていう執念。そこに条件を振ったのが読み取れた。でも……想定が甘かったね」
突っ込んだ手に魔力を込める。そこから魔力を押し流すと、手のひらに描かれている魔法陣が飴色に光り出す。その光は人間都市全体を覆う侵入禁止魔法を這うよう広がり、飴色に染めていく。
「やっぱりユラリスはすごいよ。あのとき、俺の侵入禁止魔法を君が解除したことを思い出した」
二人が魔力共有をした直後に、ロイズの侵入禁止魔法をユアが解除したときと同じ現象を引き起こそうとしているのだ。
ヘイトリーの侵入禁止魔法陣から、ロイズは条件を読み取った。人間を逃がさないために、内側から外側への脱出を禁止する条件がそこに描かれていた。
しかし、それは人間に対してだけ。魔法使いを排除したかったヘイトリーは、転移や浮遊魔法で脱出することを禁止条件にしていなかった。
だが、ロイズの魔力に対してだけは、別の条件が与えられていた。きっと相当固執していたのだろう。そこには『ロイズ・ロビンの魔力を一切通さない』というシンプルかつ強固な条件があった。
ロイズが内側にいることを想定していない、その強固な条件。それによりロイズの魔力は外側からも、内側からも全て弾かれてしまう。
ヘイトリーは知らなかった。ロイズの異常値のペアが人間都市にいることを。ユアの魔力は、ロイズのそれであり、彼女のそれでもあるのだ。
「この侵入禁止魔法は、異例の存在を判断できずに通してしまった。魔法は矛盾に耐えきれない。どんな厳重な魔法でも、必ず亀裂が生じる。生じた隙間は逃さない!」
ギリギリと音を立て、ロイズの魔力が流される。侵入禁止魔法が解除されていく。
「この……飴色頭が!」
ヘイトリーが攻撃魔法を放ったと同時に、侵入禁止の魔法陣が粉砕された。その攻撃は、ロイズの防御壁を前にして崩れるように消えていく。
「侵入成功~」
そう言いながら、ユアの身体に巻きついている鎖を撫でる。手のひらに描かれた魔法陣の効果なのだろう。こちらも鎖がボロボロと溶けるように消えていく。
「ユラリス、大丈夫だった?」
「は、はい」
怪我を確かめるように、ロイズはユアの全身を見る。青紫色がないことを確認すると、少し安堵した。もう二度と傷つかないように、ユアに優しく防御壁を施す。
次に、グルリと周囲を見渡す。足元の分厚い水の盾、それを修復しているカリラたち、その向こう側で震えている人間、五学年の生徒たちの煤だらけの顔。
そして、ユアの焼けた一房の髪。その焼け焦げた一房は、愛でるようにロイズが触った髪だった。誰もいない講義室で、早く卒業してねと伝えながら触れたところ。あんなに綺麗でサラサラだったのに。
グツグツと煮えたぎる怒りが、心の器からあふれ出す。心臓の奥から怒気が噴き出して、その濁流が身体中をうずまいた。
「そこの黒い魔法使い」
ロイズの声は、小さく、細く、そして鋭かった。
「俺には勝てない。どうする? こっちのルールに従って、大人しく魔法省に連行されてくれるなら、穏便に済ますけど」
雑談のように話しながら、ユアを連れて転移をし、フレイルやリグトの拘束も外す。彼らにも防御壁を施した。
「……ロビン……!」
一方、ヘイトリーは逡巡するようにガリガリと爪を噛む。彼女だって天才型の魔法使い。分かってはいるのだ、勝てないことなど。それでも引き下がりたくなかった。執念、執着。恋とは真逆の、深く濃い気持ち。
「諦められない!」
そう叫ぶと、仲間に攻撃指示を出す。
「じゃあ、そっちのルールでやり合うってことだね」
無感情に飴色の瞳を向けて、その決定を下した。ここから、人間都市の上空は天才魔法使いロイズ・ロビンの独壇場となる。
ロイズに向けて放たれた、無数とも言える攻撃魔法。そんなもの、わざわざ避けるなんて面倒なことはしない。たった一振り、ロイズは腕で払いのけるように弾いて消す。
次に、敵の目の前に高速移動すると、爪の先で防御壁を軽く弾いた。強固な防御壁はパリンと可愛い音を立てて割れる。シャボン玉みたいに、簡単に。
割れた防御壁の中にいた敵の魔法使いは、見るからに驚愕していた。それでも、青白い顔と戦慄く指先で魔法陣を描き始める。
しかし、それが完成する前に、ロイズは敵の肩付近に軽く手を翳した。たった一つの動作だけで、敵は気を失って落下していく。後には、描きかけの魔法陣だけが浮かんでいた。
一方、ユア、フレイル、リグトの三名は、ロイズの戦いを間近で見ながらやいのやいの言っていた。
「待て待て。攻撃魔法って腕で払えんの?」
「よく見て。手に防御壁のような魔法陣が刻まれてるわ。見たことのない魔法陣だけど……それで弾いたのね」
「まじ? 見えんの? 動態視力すごくね?」
「それより着目すべきはデコピンよ。防御壁を破壊するのにデコピンが有効だったなんて知らなかったわ。教本にも記載がなかったし、盲点ね」
「そんなわけあるかガリ勉」
「デコピン破壊法も驚きだが、肩を叩いただけで気を失って落ちていたよな? あれはどういう原理だ?」
「肩叩きにあったショックで落下したんじゃないかしら? メンタルマジックね」
「どんな魔法だよ、こえーよ」
「先生に肩を叩かれたら死ぬということだな」
「もう気軽に肩組めねぇじゃん」
「気軽に肩組んだことないじゃない」
ロイズが施した防御壁の中で、生徒たちは戦闘を楽しんでいた。緊張感どこいった。それだけ、ロイズが与える安心感は大きいということだ。
しかし、そんな和気あいあいとしていたら狙われるのも当然の運び。突然、ユアたちの目の前に敵の魔法使いが現れ、至近距離で攻撃魔法を放たれた。
「げ、こっちきた!」
「ぎゃー!」
「……っ!」
やられると思ったが、防御壁は崩れなかった。特大の攻撃魔法は、防御壁に触れた瞬間に光の粒になり、フワリと空に舞い上がって消えていったのだ。一般的に使われている防御壁とロイズのそれとは、全くの別物。生徒三人は目を丸くした。
敵は防御壁を破壊するために全魔力を込めたのだろう。魔力切れ寸前の青白い顔で呆然としていた。だが、生徒に手を出されたのでは、ロイズも黙っていられない。呆然としている魔法使いの背後に回り、少し暗い目で言い放つ。
「わかんないかなぁ? それは逆鱗なんだけど」
次いで、風魔法。それは空間に穴が開くほどの威力だった。穴が開いた部分は、一瞬だけ真空状態になっていたのだろう。敵の魔法使いの叫び声は全く聞こえず、遥か彼方まで静かに飛ばされていった。その道筋に、破れた黒い衣服がハラハラと舞っている。
ロイズは、噴き出す怒りを抑えられなかった。生徒の手前、なんとか冷静になろうとは思っていたが、こんな状況で理性的に自己を抑圧できるほど、彼は人間が出来ていないのだ。
「俺以外に手出しするの止めて欲しいんだけど」
ロイズの不満顔がお気に召したのだろう。ヘイトリーは口の端を上げて答える。
「なに甘ったれたこと言ってるの? 苦しむところを見たいから、ロビン以外を攻撃するのよ」
「……あっそ。じゃあ、ゆっくりしてらんないね。心の準備はいいよね」
ヘイトリーの言葉で、ロイズの頭はひどく冷えた。冷静さを取り戻したのではなく、それを捨てて冷淡になったのだ。準備をさせるつもりもなく、間髪入れずに「雷」と一言呟いた。
すると、目を開けていられないほどの眩い光と共に、空が割れるような轟音が鳴り響く。現れたのは、この世の物とは思えない雷柱。それは神聖さを感じるほどの光景だった。空から降りてきた雷柱に包まれ、敵の魔法使いは散り落ちる。
防御壁なんて初めから無意味だったのだ。指で弾いて割っていたのは、冷静さを取り戻すための時間稼ぎ。国一番の魔法使いという称号を得るということは、こういうことだ。
「次。もっと出力あげたやつ、いくよ」
淡々と告げる天才魔法使い。その平坦さは、一帯を恐怖に染める。黒い外套を羽織った魔法使いたちは、鋭い飴色の瞳に背中を向け始める。
「うわぁ!」
「に、にげろっ!」
しかし、敵を逃がすような良心も義理も、御生憎様、ロイズは持ち合わせていなかった。
だって、彼は聖人君子よろしくヒーローになりたいわけじゃない。敵を改心させたいとか高尚なことは欠片ほども考えていない。彼はただ、守りたいものを守るためだけに戦っているのだ。
ロイズは、舌打ち交じりに言った。
「なに逃げてんの? 甘ったれたことしてんなよ。こっちは嫌々そっちのルールに付き合ってやってんだ。自分で選んだんだろ? だったら、最後までやり切れよ」
そして、何でもないように「風」と腕を横に凪払う。逃げ惑う敵が一斉にパタリと気を失って、また落下していった。
「もう一発、雷いくよ」
桁違いの魔力に、ヘイトリーは髪をくしゃりとかき乱す。
「く……っ! 待って! それ以上、攻撃をするならば人間都市全体を焼き払う。気付かなかった? 爆破魔法も施してあるわ」
「ふーん、死なば諸共ってことか」
興味のなさそうな答えを返せば、ヘイトリーは憎らしそうに一つ魔法陣を描いた。
「これが起爆魔法陣よ。これに少しでも魔力を込めた瞬間、起爆する」
「覚悟もない癖によくやるね」
「この飴色が……っ!!」
相反する天才魔法使いの二人は、お互いに譲れないところまで達していた。爆破魔法を発動されたとしても、ロイズは彼女に屈するつもりはなかったし、ヘイトリーは目に映る全てを代償にしても彼の命を奪いたかった。
ヘイトリーは怒りをそのままに、魔法陣に手を翳そうとした。しかし、それを仲裁するように、辺り一帯を淡い光が覆う。
「そこまでだ。魔法陣から手を離せ!」
突如、淡い光と共に五十を超える魔法使いが現れた。
何物にも染まらない正義の白き外套を翻し、左胸に携えた誇り高き赤紫色の紋章が輝く。彼らは魔法省の魔法使い。当然、ただの魔法使いではない。この白い外套を羽織ることが出来るのは、極わずか。
真に優秀な魔法使いである、彼らだけ。
「魔法省、第一魔法師団だ。元第三魔法師団のヘイトリー・ヘイス。人間都市襲撃の主犯として捕縛する」
白で埋め尽くされた隊列の一番前、師団長が捕縛を宣言する。
「第一魔法師団……ユラリス師団長……」
「捕縛開始!」
ゼアの一声で、白い外套の魔法使いたちが一斉に魔法陣を発動する。黒い外套の魔法使い――残りはすでに十人程度しかいなかったが、彼らも対峙するように魔法陣を描いた。
だが、第一魔法師団の戦い方が上だった。数の問題ではない。戦法が叩き込まれているのだ。
個々で戦う黒い魔法使いに対し、白い魔法使いたちは個々では戦わない。攻撃魔法、拘束魔法、防御魔法をタイミング良く発動し、誰かが誰かを守り、誰かが作った隙を逃さずに攻撃魔法を叩き入れる。
信頼関係の上に成り立っている洗練された好連携。黒い魔法使いたちは為す術もなかった。
ものの数秒で、黒い魔法使いたちは捕縛される。残りは一人。起爆魔法陣に手をかざしているヘイトリーのみ。五十を超える仲間たちは、もう誰もいない。
「近付かないで。起爆させるわよ」
彼女はひどく青白い顔をしていた。切迫しているヘイトリーを見て、ゼアが制するようにスッと手を挙げる。それを目の端で捉えた第一魔法師団員たちは、少し距離を取る。
マイペースなロイズは、ユアたちに治癒魔法を施しながら、雑談のような雰囲気で話し出す。
「もう止めときなよ。人間を全滅させて何がしたいわけ?」
ヘイトリーは憎悪よりも深い感情で、瞳を濁した。
「大嫌い。心底、嫌い。ここに来ると九年前を思い出すわ。本当、胸糞悪い」
「九年前……? あぁ、魔力補充タンクを破壊されたときか。第三魔法師団だっけ? へ~、いたんだ?」
「あら、冷たいのね。こっちは九年間、一度も忘れたことないのに」
冗談めいた言葉を吐く彼女の目こそ、ひどく冷めていた。その視線は足下にある広場――昔、魔力補充タンクが置かれていた場所に向けられる。
「ねぇ、ロビン。九年前のことは覚えてなかったとしても、数か月前のことは覚えてるわよね?」
「数か月前?」
「忘れたとは言わせない。第三魔法師団の元師団長が……私のお父様が、北の荒野で記憶も魔力もない状態で見つかったの。全部覚えてなかった。言葉も、魔法も、思い出も、私のことも! 全部、忘れてた! アンタがやったのよね? そうに違いないわ。絶対に許さない」
ロイズは否定も肯定もせず、眉間に皺を寄せて嫌悪感だけを伝えた。
何をしても、何を言っても、ロイズ・ロビンには全く響かない。それを目の当たりにしたヘイトリーは嘲るように笑う。ロイズを笑ったのか、人間を笑ったのか、それとも自分を笑ったのか。
「だからね、ロビンの異常値のペアを探し出して始末しちゃおうって思い付いたのよ。枯渇症になって魔力がなくなったら、いたぶろうと思って。名案でしょう?」
ペラペラとおしゃべりをして、きゃははと高らかに笑う。人間都市の空の上。静まり返った空虚なそこで、笑い声だけが響いた。
「どんな手を使ってもロビンの異常値のペアは始末する。魔力共有される前にね」
人間都市襲撃の目的を聞いて、ロイズとゼアは一瞬だけ視線を合わせた。
ロイズが浮かぶ人間都市。この下に、もう目当ての人間はいない。たった一人のペアは、今も彼の隣にいるのだから。ヘイトリーは、それを知らないのだ。
「目的は……俺のペアだったのか」
その可能性を全く考えなかったわけではない。ロイズだって、自分の立ち位置は分かっているからだ。
しかし、ここまで執着されているとは思っていなかった。たった一人のために、人間全てを消し去っても良いと思えるほどに、歪んだ感情を向けられているとは。
でも、ロイズはそんな感情を向けられたところで何も思わない。何も感じない。ロイズにとって価値がなくて興味がないものを、彼が心の内に取り込んで傷ついたりするわけもない。
ただ、ロイズのペアは違う。ユアは、それを取り込んでしまうのだ。
「それだけ……?」
ユアの声は、小さく脆弱だった。
「ロイズ先生の異常値のペアを殺すためだけに、誘拐したり……炎をぶつけたり、したの? 全員、殺そうと……したの?」
「そうよ。それがなにか?」
平坦な返答に、ユアの血液――元赤色が沸騰した。その蒸気は、脆い心の隙間を通って立ち込める。つま先から指の先まで全身が赤く染まった。
ロイズ・ロビンのペアであることを隠していた自分が、許せなかった。
「……私よ」
「ユラリス!」
ロイズは遮るように、ユアを背中に隠そうとする。でも、ユアは黙って隠されているような良い子ではない。
「ロイズ・ロビンの異常値のペアは、私よ!」
それは絶叫とも言える声だった。
誰に聞かれても、誰に知られても構わない。元人間だとか、赤紫色だとか、父親のことだとか、そんなことは些細な事だ。それよりも、足元で泣いている人々の姿が、ユアの心を引き裂いた。痛みが喉を這い上がり、空気を震わせ、叫び声になる。
「異常値のペアは、ここにいるわ!」
お読み頂き、感謝です。
以下、蛇足。
【第一魔法師団の外套について】
ロイズが15歳の頃は、魔法省の魔法使いは全員青紫色の外套を着ていました。
ですが、9年前に人間迫害が明るみになって以降、第一魔法師団の外套は白色に変更になりました。
胸の紋章が赤紫色なのは、当時から師団長を勤めていたゼア・ユラリスが決めた色だからです。
娘の赤紫色を胸に携えることで、人間にも魔法使いにも魔法省にも、何者にも傾かない。真に中立でいることを誓っています。
当時、迫害の実態を知らずに過ごしていたゼアの、後悔と責務の表れです。




