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魔法教師ロイズ・ロビンは、その距離測定中  作者: 糸のいと
最終章 その距離

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84話 魔法省、総会議室に招かれて



 夜は愛を深める絶好の機会である一方で、仕事も捗るものだ。


 ユアとロイズがイチャイチャしている、その頃。魔法省では、たくさんの優秀な魔法使いたちが仕事をしていた。ブラック勤務で有名な魔法省だ。もう21時にもなるのに、まだ21時といった雰囲気が省全体に漂っている。


 そんな魔法省の最上階の奥の部屋、やたら薄暗い副大臣室では二人の魔法使い――ひげもじゃの副大臣と、その忠臣である補佐官が密談をしていた。



「それで、調査の結果は?」

「はい。事前情報の通り、人間都市で行われているのは、心臓の挙動をデータ化すると言ったもので間違いありません。主に人間のデータを集めているようです。ロイズ・ロビンの他に上級魔法学園の生徒が、4名ほど手伝いをしているようです」

「人間の心臓のデータを集めて、やつは何をしようとしている?」

「確証はありませんが……一つ気になる話がございまして」

「なんだ?」

「はい、人間が魔法使いになったという話です」


 突拍子もない噂話に、ダムソン副大臣は鼻で笑った。


「下らん、根も葉もない」

「いえ、実際に目撃者がいるのです」

「事実か?」

「はい。以前は人間だったはずなのに、魔法を使っている人物がいると。信頼たる人物からの情報です」

「ふむ……」

「今は憶測の域を出ませんが、ロイズ・ロビンは人間を魔法使いにする(すべ)を知っており、それを実行に移している。そして、その為には心臓の挙動データが必要なのではないかと」

「ヒエラルキー最下層の人間を、我らと同じ魔法使いに? それが本当であれば、到底看過できぬ」


 ダムソン副大臣は苦々しい顔付きで、部下から提出された報告書に火をつけた。燃えていく報告書を睨み付けながら、副大臣は「またロイズ・ロビンか……」と言い捨てた。


「ロビンを魔法省に呼び出せ。問いただす」

「早急に」



ーーーーーーーー



 翌週。ロイズと4人の生徒たちは、久々に人間都市の治療医院に集まっていた。

 魔力がゼロになった枯渇症患者の異常値のペアが見つかり、治療実験をしたのだ。その患者というのは、唯一、採血を承諾してくれた患者だ。リグトも含めて、全員で実験を見届けることとなった。

 

「はい、これで魔力共有完了です。どうですか?」

「魔力が……戻りました……」

「どれくらい戻りました~?」

「100%です……信じられない、本当に、治るなんて……。ありがとうございます、本当にありがとうございます」 


 魔力枯渇症の患者が涙ぐみながら深々と頭を下げると、ロイズは笑って「いえいえ~」と軽く答えた。この軽さが何とも言えない天才具合を表している。


 生徒たち4人も、ホッとして喜び合った。この治療実験で研究結果がまとまるというのもあったが、それだけではない。

 愛する妻と幼い子供と離れ離れに暮らしていた患者が、元の生活に戻れることが分かり、単純に嬉しくなったのだ。自分たちが地道にやってきたことが、他者を救う。この体験は何物にも代え難い。


「こちらこそ採血に協力して頂いて感謝です~。あなたの採血サンプルがなければ、治療法の確立は難しかったんで」

「そうでしたか……あのときの採血が役に立ったんですね。同意して本当に良かったです。ありがとうございます」


 完治した患者と異常値のペアの元人間の二人は、気が合うのだろう。やたらと意気投合して、祝杯をあげようと出掛けていった。ちなみに、今回のペアは既婚者の男性同士であった。唯一無二の親友となることだろう。




「というわけで、魔力がゼロになった患者さんの治療方法もこれで確立だね~」 

「魔力がゼロになったとしても、他の魔法使いと魔力共有をした状態で治癒魔法を使い、人間の方を先に魔法使いにする。その後に、異常値のペア同士での魔力共有を行えば良い、と。仮説が立証されましたね!」

「これで魔力枯渇症の患者さんも、じゃんじゃん治せるね~」


 異常値のペアであるロイズとユアが、ニコニコとメモを取りながら喜びを共有していると、そこに割って入るのがやはり金髪だ。


「ってかさ、この異常値のペア探しってどの範囲までやるつもりなわけ?」

「とりあえずは魔力枯渇症の患者さんを治すところまではやりたいよね~」


 すると、現実主義の黒髪も参戦する。


「魔力枯渇症の患者は、指数関数的に(ものすごい勢いで)増えていると聞いてますが。追い付いたところで、また増えるんじゃあキリないですよね」

「そうなんだよね~。まぁ、そこらへんは魔法省と相談かなぁ」

「ってことは、この一連の研究結果をまとめて魔法省に報告するってことっすか?」


 フレイルがユアの頭をぽんぽんと軽く叩きながら『報告したらユアのこともバレるんじゃないか』と批判の意を示してくる。不安そうな彼女に向き合い「それは大丈夫~」と言い切ってみせた。


「木を隠すなら森。ユラリスのことを露見させないために、こうやって異常値のペアと魔力共有した魔法使いの事例を増やしたんだよ~」


 そして、ユアの頭を優しく撫でながら、「大丈夫だよ。ユラリスのことは秘密にしておくからね」と柔らかく伝えた。彼女は少し嬉しそうにはにかみながら、ありがとうございますと言う。魔法教師の指先から、特別な空気が漂う。


 ちゃりらんぽん~♪


 そこで治療医院の柱時計が鳴った。なんとも言えない調子外れの音が、たまらない。


「あ、ロイズ先生。もう約束の時間ですよ」

「本当だ~。あー、憂鬱ー、いきたくないー」


 駄々をこねてみると、それを珍しがった生徒たちは不思議そうにする。


「実はさ~、魔法省にお呼び出しされてて、行かなきゃいけないんだよね」

「へぇ~、大変そう~♪」

「何の呼び出しっすか?」


 ロイズは不満そうに頬杖をついて、先生らしからぬ表情をする。


「さぁね~。まぁ、呼び出しはよくされるんだけど、いつも断ってるから」

「魔法省からの呼び出しを断る!?」


 衝撃を受けているリグトの様子に、ロイズは「あはは!」と笑った。


「よくつまんない用事で呼び出すんだよ~。断ると魔法紙で案件を送付してくるから、それで事足りるし」

「んじゃ、なんで今日は呼び出しに応じたんすか?」  

「三回も断ったのに食い下がってきたから仕方なくでーす。憂鬱~」


 本当に面倒で仕方がない。呼び出し時間にも関わらず全く動こうとしないロイズ。とうとう真面目な優等生のユアに「ロイズ先生」と促されてしまった。愛助手に促されたら、そりゃ行かないわけにはいくまい。


「仕方ないので、行ってきます~。みんなは治療医院のお手伝いしたり、帰る人は帰ってもいいからね!」

「はい。先生もお気をつけて」


 ユアがニコリと微笑んで見送ると、ロイズは悪い気はしない様子で……というか、結構嬉しくなりつつ「魔法省本部の総会議室、転移」と呟いて、魔法省に出向いた。



 ふわり、ストン。



「こんにちは~」


 総会議室に転移したロイズは、ズラリと並んだ魔法省の面々を何となくサラッと眺めながら、一応ぺこりと挨拶をした。このやたら重々しい雰囲気が、呼び出しを憂鬱にさせる原因なのだと気付いてほしいものだ。


「で、今回の用件は何ですか~?」


 しかし、そんな重々しい雰囲気を物ともせず、天才魔法使いは近くにあった椅子に勝手に座って、魔法省側を急かす。


「ロイズ・ロビン殿。()()()招待に応じて頂いたこと、感謝申し上げる」


 総会議室の中で最も上座に座っていたダムソン副大臣から、イヤミたっぷりに感謝の意が放たれる。ロイズは「いえいえ~」と、これまた軽く返事をするだけ。副大臣は、あからさまに苦々しい顔をしてから、すぐに真顔に戻って話をし始めた。悪意も善意もない真顔だ。

 

「今日呼び出しをしたのは他でもない。貴殿に依頼をした魔力枯渇症の治療法確立の研究について、進捗を確認したくてね」


 ロイズは少し首を傾げながら、「そうですか~」と相槌を打った。


 ―― 進捗確認のために、副大臣が自ら出張るなんて気合い入ってるな~


「なかなか良いデータが揃ってますよ~。魔法省の方でも研究してるんですよね?」

「あぁ、うちの研究チームにも同時並行で治療法を探らせているが……芳しくない」

「そうですか。まぁ、そのうち良い報告をするんで気長に待ってて下さい~」


 ロイズが用は済んだだろうと言わんばかりに立ち上がると、副大臣が「それはいつ頃になりそうかね?」と投げかけてきた。


「近いうちに、とだけ言っておきます~」

「魔力枯渇症の状況は悪化し続けているものでね。なるべく早くの解決をお願いしたい」

「それなら、早いとこ研究に戻っていいですか~? 用件はこれで終わりですよね」


 ロイズが転移をしようとすると、ダムソン副大臣が大きく咳払いをした。まだ用件がある、ということだろう。


「ロビン殿。話を打ち切りたくて仕方がない様子だが……なにか隠し事でも?」

「……どういう意味です?」

「心臓波形のデータ取り、この真の目的を確認したい」


 ダムソン副大臣は淡々と問い質してくる。面倒に感じたロイズは「あ~」と言いながら首の後ろ付近を掻いた。


「そのうち御説明しますよ~」

「申し訳ないが、そのうちだなんて呑気に構えてらいられない」

「と、いいますと?」

「奇妙な話を聞いたものでね」


 何も言わずに眉を顰めるだけで続きを促すと、ダムソン副大臣は口の端を吊り上げた。


「人間が魔法使いに変化した、と」


 その言葉が総会議室に響いた。


 魔法省側も初耳だったのだろう、副大臣とその補佐と思わしき人物以外は信じられないと言った様子。会議室が静かにざわめき立つ。


 ―― あちゃー、思ったより早かったなぁ


 想定していなかったわけではない。想定より早かったというだけだ。魔法使いになった元人間の数名は、今も人間都市で生活をしている。噂話が広がって、魔法省まで到達することは想定内であった。


「はぁ、仕方ないですね~。……今日は資料を用意していないので、日を改めて研究結果を持ってきますよ」


 この言葉で、人間が魔法使い化することが事実であると肯定された。総会議室は大きく騒がしくなる。


「な!? 本当に人間が魔法使いに!?」

「馬鹿な! 二つは違う種族だ」

「いやしかし、人間から魔法使いが生まれる事例も極稀にあったはず……二つは同一種族なのでは?」 

「馬鹿らしい! その出生記録は誤りだ!」

「だが、こうやって、」


 そこで副大臣が目で合図を送り、補佐官が「静粛に!」と声を張り上げた。


「騒がしくしてすまないね。その研究結果というのは、いつ頃教えて貰える?」

「こうなっちゃったら仕方ないですね。いつでも良いですよ~」

「明日は?」

「わぁ、引くくらいがっつきますね」 


 一言余計である。眉をひそめる魔法省の面々を見回して、ロイズは告げた。


「わかりました。では、明日、これまでの研究結果を報告しまょうか」








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