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魔法教師ロイズ・ロビンは、その距離測定中  作者: 糸のいと
最終章 その距離

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83話 良い子、悪い子、我慢の子


「せんせぇ~、なにしてたんですか~?」

「ユラリス、どうしちゃったの!?」


 ユアの持っていたコップを奪い取って、慌てて中身を確認すると、ロイズ好みの超強い酒が入っていた。しかも、割ってない(ストレート)


「ぇえ~、なんでこんなの飲んじゃったの?」

「……だめ?」

「!?! ……ダメではない、かなぁ?」


 甘く小首を傾げる仕草を繰り出してきた彼女に、強く言えないぽんこつロイズ。


「だってぇ、せんせぇがおいしそうに飲んでたから~、飲んでみたくて、ふふふ!」


 彼女は何が楽しいのか、やたら楽しそうにニコニコと笑っていた。


 ―― なにこの生物、めっちゃ可愛いんですけど。えぇー、酔っ払いでこんな可愛い子いるの!? 罪が深すぎない!?


 ロイズの記憶の中にいる酔っ払いと、全く違う可愛らしさに目眩がした。ユアが好きだから可愛く見えるだけであって、真実はただの迷惑な酔っ払いである。


「と、とりあえず、お水を飲もう! 今すぐに! 少しの間、大人しく待ってて!!」


 ロイズがやたら大きな声でそういうと、良い子のユアは「はぁーい」と良い返事をして椅子に座った。

 ロイズは急いで「水」と言いながらコップに水を注いで、「はい、ユラリス」と振り向いて渡そうとすると、彼女はお行儀よく何かを飲んでいた。


「わー! それはお酒だよー!!」

「ぐびぐび、おいしい!」

「あぁダメダメ、お水飲んで。ね?」


 水が入ったグラスを渡すが、ユアは「ふふふ」と何やら楽しそうに笑うだけで、全然飲もうとしてくれない。


「えー……これ、どうすればいいんだろ」

「ふふふ~」


 今までの人生、ロイズは酔っ払いがいたところで『大変だなぁ』と、そっと距離を置いて他人事のように見守るだけであった。

 五学年のときの初お酒パーティーでも、ずっとずっとただ見守る……いや、傍観しているだけだった。傍観というか、もはや無視だ。

 そのため酔っ払いの扱いが、めちゃくちゃ下手だった。面倒がらずに何でもやっておけば良かったと後悔した。


「えーっと、お水飲める?」

「せんせ~。ぎゅっ、ぎゅっ、ぎゅっとしーちゃお~♪ せんせぇにぃーとーびつけっ♪」

「うわっ!」


 ユアは謎の歌を歌いながら、上機嫌でロイズに抱き付いた。抱き付いてばかりの悪い子のユアだ、手慣れたものである。

 ロイズはメンタル面でのあまりの衝撃に、うっかりとグラッときてしまった。足と手に力を入れて色んな意味で踏みとどまった。


 ―― うわっ、、、この感じ、久しいっ!!


 久しぶりの柔らかい感じに嬉しさを感じつつも、「ユラリスー、ダメダヨー」と形ばかりの抵抗を示す。


「だめなの?」

「……いや、ダメではない、かなぁ?」


 意志が薄弱すぎた。


「コホン。とりあえずお水を飲もうね。飲める?」

「せんせぇ、だーいすき」

「……(破壊力)」

「だいすきっ」

「……(俺も大好き)」

「せんせぇは、すき?」

「えーっと、それは、卒業したらってことで」

「もっとぎゅっとしてい?」

「やめてくださいぃー」

「ふふふっ、幸せっ!」

「会話が噛み合わない~(でも幸せー)」


 ロイズに顔を埋めるように、ユアがぎゅっとすると、そりゃ我慢我慢になってしまうわけで。


 ―― これは大変宜しいからこそ、マズいマズい。我慢我慢。


「……ユラリス、ちょっと離れよう?」

「ちゅーしたいです」

「へ!? だ、ダメダメダメ!」

「だめ?」

「ぇえー……ダメ、では、ない、かなぁ?」


 薄弱すぎた意志はどこかに消えた。


「えーい、ちゅっ」


 追い打ちをかけるように、悪戯っ子のユアがキスをする()()をしてくるものだから、ロイズは頭が爆発するかと思った。


 ―― 可愛い、可愛い、可愛い


「ちゅー、しちゃいましょ♪」

「やめてくださいぃー」

「ふふふっ!」

「……あー、これダメだ。ユラリス、ちょっと一度離れ……」


 ちゅっ。


「!!?」


 隙だらけの天才魔法使いは、うっかりとキスをされた。やたら可愛いリップ音が、白い家のリビングに響いた。


「~~~!?!」

「ちゅーしちゃったぁ、ふふふ。せんせ、びっくりしたぁ?」


 ユアはそう言いながら、再びちゅっとキスをしてくる。ロイズは色々と固まってしまい、色々と持て余し、少しでも動いたらとんでもないことになりそうだった。されるがままだった。


 リビングに可愛いリップ音が響く度に、理性が削られる。少し長めにキスをされると、抉り取られる。見つめられると、もう持たない。


 魔力共有なんてしていなくても、理性が切れそうになった。


 ―― もっとしたい、もっと。口開けて……待て待て。あー、ダメだ、拒め


 ロイズはどうにか(理性)を動かして、ユアの口を自分の手で覆った。突然の抵抗に、ユアは不服そうに頬を膨らませた。膨らむ頬で僅かに押し返される手のひらが、何だかくすぐったくて、もどかしかった。


「これ以上は、マズいから」

「むー」


 ―― 怒り方、可愛いかよ……っ!!


 ユアは諦めたように、プイッと顔を背けながら身体を離した。教師の方ではなく、23歳男性としてのロイズが心底ガッカリしていた。感情が複雑だ。


 不満顔のままではあるが、ユアがリビングスペースにあるソファに座ったのを見て、ロイズはホッと息をついた。


 ―― はーーぁ、何かの拷問かな……


 ロイズはどうにか落ち着きたくて、お酒でも飲もうと思い直し、空になったグラス片手に何を飲むか悩んだ。すると『せんせぇ、だーいすき』と、耳元で可愛く甘い声が響くではないか。


 ―― ボイスメッセージ!?


 思わず振り向いてユアを見ると、口元を隠してクスクス笑いながら「とどいたぁ」とか言っている。飲酒によって悪い子のユアが全面的に出てしまっている。悪戯が過ぎる。


『せんせ~』


 耳元で囁かれるような彼女の言葉。さすがは異常値のペアだ、甘くて耳障りの良すぎる声に、ロイズはついうっかりとソファに近付いてしまう。引き寄せられるように。


「ボイスメッセージは禁止~」

『はぁい、わかりましたぁ』

「ユラリス~?」


 禁止と言っても止めない悪戯っ子のユア。目の前で録音したメッセージを送信してくるものだから、甘い声のダブルパンチに酔いしれそうになる。

 少し目を細めて怒った風に咎めると、満面の笑みで返された。


『怒ってるせんせーも、すき』

「~~~!!」


 ―― なんなの、この子ーー! キスしたい。めっちゃくちゃキスしたい。ドロドロにしてやりたい!! あー、もーー!! 教師、やめたーーいぃ!!


 心の中で思いっきりシャウトした。


 これ以上、此処にいては危険だと判断したロイズは、そのままクルッと背を向けて、空のグラスにウイスキーをトクトク注いだ。それをグイッと飲んで、後ろを見ずに呟いてやった。ベロベロの酔っ払いだ、どうせ何もかも覚えていないだろう彼女に、ボイスメッセージを送ってやった。



『悪い子のユラリスも、可愛いね』


 送ったすぐ後にチラッと後ろを振り返ると、真っ赤な顔ではにかむ可愛い子がいた。そんな愛助手()の姿を見て、ロイズは思った。


 ―― お酒は3杯までにしてもらおう……


 一つもルールがなかった間柄に、新しくルールが加えられたのだった。


 



おまけ



 翌日の朝。


「はっ!!」


 ユアが目を覚ますと、そこは……普通に学生寮の自室であった。


「……どうやってここに?」


 記憶を整理してみると。


「昨日は、ロイズ先生からほぼプロポーズをされて、粗方未来を誓い合って、ロイズ先生がヤキモチを焼いてくれたという人生最大の記念日だったはず」


 さすがガリ勉。記憶が定かであった。


「その後、ロイズ先生が誕生日プレゼントをくれるというから舞い上がった私は、ロイズ先生の強いお酒を飲んで……記憶がないわ。この状況から察するに、やらかしたみたいね」


 さすがガリ勉。冷静であった。


 ちなみに、昨日、ベロベロのユアはそのままソファで眠ってしまった為、ロイズが意を決して学生寮のユアの自室に転移で送るという危ない橋を渡った。


 学生寮は異性の入室が固く禁じられている。異性が入室したら、瞬時に寮の監督者である担当教師に通報がいく魔法が掛けられているのだ。

 だがしかし、そこはチート全開の天才魔法使い。通報をされないように忍び込むことなど朝飯前であった。天才魔法使いで良かった。


「ロイズ先生が送ってくれたのかしら……あら?」


 そこでデスクの上を見ると、何やら可愛らしい包装紙に包まれたプレゼントらしきものとメモが置いてあった。


「ロイズ先生の字だわ!」


=======

ユラリスへ


 昨日はお祝いできて嬉しかったです。

 ベロベロのユラリスもいいね◎


 お誕生日おめでとうのプレゼントを渡しそびれたので置いておくね。卒業してもよろしく。


ロイズより

=======


 卒業してもよろしくの一言が、『昨日のは夢じゃないからね』と念を押しているようで、大変匂わせ上手であった。


「……っもーー!! 好きっ!!」


 そして、包装紙を破かないように、慎重にそーっと開けると。


「こ、これは……魔法陣の本…?」


 彼女(予定)且つ、嫁(予定)の20歳の誕生日にまさかの分厚い魔法書。さすが恋愛ぽんこつ野郎である。もっと他になかったのだろうか。


 だが、しかし。


「これは、まさか……超レアモノの魔法陣ブックだわ! ものすごい高価でめったに出回らないという幻の……!? ロイズ先生~~~っ!!」


 めっちゃくちゃ喜ぶ魔法バカの嫁(予定)であった。 


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