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魔法教師ロイズ・ロビンは、その距離測定中  作者: 糸のいと
最終章 その距離

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79話 それぞれのペアとの会合



【リグト・リグオールの場合】


「……シンクロ率、98%!! 先生、見つけました!」

「異常値のペア!? 誰の!?」

「リグトです」

「やっと見つかったぁ~!」

「9月から探して約2ヶ月…なかなか見つからないものですね」


 時はすでに11月。心臓波形のデータを取りまくっているロイズたちであったが、なかなか異常値のペアは見つからず、足踏み状態が続いていた。ここに来て、やっと見つかったペアであった。


「えーっと、年齢は21歳、性別は女性ですね」

「明日、会いにいってみよ~!」





 そうして翌日、訪問先にいたリグトの異常値のペアは。


「こんにちは~、ロイズ・ロビンと申します」

「……何か?」


 まあまあ可愛らしい容姿の女性であったが、驚くほど塩対応であった。ユアは内心で『ロイズ・ロビンの名前を出されて塩対応とは……!』と、驚いていた。


「心臓波形のデータ取りにご協力頂いた件で、お話しさせて頂きたく。宜しいでしょうか~?」


 空気の読めない天才魔法使いが物怖じせずに言うと、女性は一瞬迷うように眉をひそめたが、小さく息を吐いて頷いた。


「……まあ、ロイズ・ロビンさんの申し出であれば。どうぞ」


 そう言って仕方無さそうに家にあげてくれたものの、それはロイズに対してだけ。後ろに控えていたユアのことをギロリと見て、「あなたは?」と問い質した。


「失礼しました、助手のユアと申します。同席させて頂いて宜しいでしょうか?」

「宜しくないです。私、魔法使いが嫌いなんで」

「(がーーーん)そ、そうでしたか。申し訳ございません。ロイズ先生、表で待ってますね……リグトが来たら連絡します」

「あ、うん……気をつけてね!」


 人間側の了承が必要なこの魔力共有。初めにロイズとユアが説明をして了承を得たところで、リグトと引き合わせるという手筈になっていた。


 女性恐怖症気味のロイズは、二人きりになってしまったことで若干鳥肌が立ちそうであったものの、距離を取ることで平静を取り戻した。そして、リグトのペアの女性に説明をし始めた。


「……というわけで、これから来るリグト・リグオールという魔法使いと魔力共有をすることで、貴女は魔法使いになることができます~」

「魔法使いに?」

「はい、魔法使いになれます。なりたいですか? なりたくないですか~?」

「なりたいに決まってます」


 食い気味で肯定する女性に対し、ロイズは呑気に「良かったです~」と返した。だが、女性の方は、そんな呑気な雰囲気ではなかった。暗い目で、ロイズを見て返した。


「魔法使いになったら、魔法が使えるんですよね?」

「勿論、使えますよ~」

「そしたら、憎らしい魔法使いをやっつけることもできるんですよね?」

「あー……そういう感じですか~」


 ロイズは、真っ直ぐで優しい愛助手が此処にいなくて良かったなと思いながら、ニコッと笑って返した。


「憎らしい魔法使いというのは、昔ここに来ていた悪い魔法使い? それとも善良な魔法使いも含めた全員? もし前者なら、彼らは人として最低ではあったものの、魔法使いとしては優秀で強かったから相当頑張らないと無理かなぁ」

「……後者なら?」

「うーん、貴女の頑張りによるけど、弱い魔法使いをターゲットにするなら可能かと。でも、それは僕が阻止します。だから不可能です」


 ロイズはニコリと笑って、「でも」と言って続けた。


「貴女の気持ちは分かります。とても、分かります。分かりすぎるほどに」


 ロイズが少し遠い目をして答えると、女性は大きくため息をついてから、小さく笑った。


「ロイズ・ロビンに阻止されたんじゃ、不可能でしょうね。諦めます」

「あはは! 恐れ入ります~」

「で、私を魔法使いにして、魔法使い側には何かメリットがあるんですか?」

「ありますよ~。魔力の安定化が得られます。簡単に言うと、魔力枯渇症の予防になります」

「魔力枯渇症の予防……ということは、私がペアの魔法使いを助けることになるってことですか?」

「そうなりますね~」

「それは激しく嫌ですね」


 塩対応の女性が嫌そうな顔をしたところで、ロイズの耳元で『先生、リグトが来ました』と、ユアの声が響いた。ボイスメッセージだ。


「とりあえずリグト・リグオールに会ってから考えましょ~。玄関の外にいるみたいなんで!」

「……まあ、顔くらい拝んであげてもいいですけど。どんな魔法使いが相手でも、私の気持ちは変わらないと思います」


 そう言いながら、塩対応の女性が玄関のドアを開けると。


「あぁ、どうも。あなたが異常値のペアの方ですか。リグト・リグオールです」

「……って、どちゃくそイケメンじゃないですかぁぁああ!!」


 塩対応の女性は、究極のイケメン好きであった。


「くっ……! 少しつり目のSっ気がありそうな感じに黒髪を合わせてくるなんて、イケメンを通り越していっそ卑怯者!」

「よく言われます」

「トッピングに自信過剰キャラとは、満点上乗せK点越えね」

「ちょっと何言ってるかわかんないです」


 ロイズは人知れず『簡単すぎでは』と突っ込んでいたし、ドアの隙間から様子を見ていたユアはガッツリ引いていた。


「えーっと、彼がリグト・リグオールです。どうします? 魔力共有します?」

「大変悩ましいところだけど……イケメンに垣根なし、仕方なし。やります」

「良かったです~。最終確認だけど、二人ともデメリットの件は大丈夫かな?」


 リグトは、淡々と「大丈夫です」と答えた。そんなリグトを食い入るように見ながら、ペアの女性も「大丈夫です」と答えた。本当に大丈夫だろうか。



 そうして二人は手を取り合い、リグトが女性に魔力を流し始めた。さすが出席番号2番。すんなりと魔力を流すことに成功し、カリラとのレベルの違いを見せ付けた。

 すると、三分ほど流し続けた後に、ロイズが「わぁ!」と感嘆の声を出した。


「魔法使いに変化した!!」

「!? 私、魔法使いになっているんですか?」

「なりました、たった今~。まだ感覚が鈍いのかな? でも、異常値のペアで間違いないですね」


 魔法使いに変化する瞬間を目の当たりにするのは、ロイズも初めてであった。少し興奮気味に記録を取りながら『異常値のペア』である確定診断を出した。


 次に、女性に魔力共有の仕方を教え、いよいよ魔力共有というところで、ロイズはちょっとドギマギし始めた。異常値のペアの魔力共有で、とんでもない情事が起こる可能性があるからだ。


「で、では、魔力共有をしてみよう! まずは、さっきみたいにリグオールから魔力を流してあげて」

「はい、いきます」


 リグトが魔力を流すと、女性は「ほぅ」と何やら納得したように頷いていた。


「さっき……人間だったときとは、感覚が全然違いますね」

「どんな感覚ですか!?」

「うーん、爽やかな感じがします。異常な程に爽やか……。あら、急に風鈴の音が聞こえてきたわ。これが魔力共有?」


 ペアの女性の反応は、予想に反して情事の欠片も感じられない、やたら爽やかな顔付きであった。ロイズは、ちょっと訝しげに女性に問い掛けた。


「音が鳴る場合もあるんですね~、初耳です。感覚としては、爽やかな感じだけですか? 他に高揚感みたいなものは……?」

「高揚感はないですね。レモンスカッシュにミントをトッピングして、そのグラスで風鈴と乾杯してる感じです」

「なるほど……?」


 やたら爽やかそうであるが、わからん。


「次は、私から魔力を流せば良いんですよね?」

「お願いします」


 リグトが頷くのを見て、女性が魔力を流すと、リグトも「あぁ、確かに」と頷いた。


「レモンスカッシュにミントをトッピング。風鈴の音も聞こえます。やたら爽やかだな……ロイズ先生、これで魔力共有は終了ですか?」

「うん、これで終わりだよ~。手は離しておっけーです!」


 ロイズのOKが出たため、リグトと女性は手を離した。


「そ、それで、どんな感じ? 特別な感情とか、生まれた?」


 ロイズが意を決して二人に訊ねると、二人は視線を合わせた。


「私としては魔力共有は関係なく、どちゃくそイケメンなんで、いっそ結婚したいですね」

「すみません。俺、金持ちの女性じゃないと付き合えないんです」


 クズだった。


「そこを何とか」

「いや……ごめんなさい。何て言ったら伝わるかな」


 リグトが言いよどむと、女性は「面倒なんで、言葉を選ばずに」と促した。リグトはこくりと頷いた。


「言葉を選ばずに言うと、金持ち相手じゃないとタたないんです」

「!?」


 言葉を選ばなすぎだ。


「どクズじゃないですか」

「よく言われます」


 どクズであった。だが、彼にとっては死活問題だ、仕方ない。

 彼女を作るとデートだの何だのと時間を割かなければならない。その分、バイトの時間が減る。そうすると、稼ぎが減る。大黒柱のリグトの稼ぎが減ると、5人の弟たちが困る。困るっていうか、餓死する。∴彼女=餓死、QED。悲しいドミノ倒しだ。


 それを防ぐため、バイトを減らしても差し支えないレベルに貢いでくれる金持ちの女性とだけしか、お付き合いはしないと固く誓っている、というわけだ。

 そして、その誓いが固すぎて『金』の匂いがしないとタたない男になってしまったのだ。クズくて素敵だ。一周回って、一途で誠意がある。


「仕方ありませんね。時折、顔だけ拝ませて下さい」

「奢ってくれるなら」

「心地良いクズ感。奢ります」


 さすが異常値のペアだ。会話のテンポと言い、利害得失の感覚と言い、息がピッタリである。何よりも容姿至上主義と金至上主義で、その内容は違えども『至上主義』の価値観が似ている。二人ともある意味クズであった。


 ―― エロくもならないし、特別な感情が生まれてる感じもない……?


 ロイズは少し胸を撫で下ろした。教え子がどクズであることに若干引きつつも、安堵した。



 研究結果。異常値のペアと魔力共有をしても、特別な感情は生じない。元々の主義思想が優先される。


 こうして、『リグト・リグオールの場合』は滞りなく?終了した。




【ザッカス・ザックの場合】


 11月中旬、次に見つかったのは、ザッカスの異常値のペアであった。相手は25歳の女性、物腰の柔らかい至って普通の女性であった。

 魔法使い化もすぐに了承してくれて、魔力共有まですんなりと事が運んだ。さすがザッカスの異常値のペアだ、何事もすんなりである。


「……というわけで、こちらが異常値のペアの魔法使いです~」

「こんにちは、ザッカス・ザックと申します。ご了承頂けて助かりました」

「……って、とんでもなく顔が良きぃぃいいい!!!」


 同じ展開であった。


「眩しい……」

「ははは、よく言われる」

「かっこよ……」


 ニコリと微笑めば、誰もが骨抜きになってしまいそうな男・ザッカス。同席していたロイズとユアは、こっそり視線を合わせて『魔力共有でとんでもないことになっちゃうかな』と、心配を共有した。


 そうして迎えた魔力共有であるが。


「わぁ、身体がふわふわと浮く感じがします。風を感じます」


 不思議なことに、室内にも関わらず女性の髪はそよそよと風に吹かれていた。


「確かに浮遊感があるね、何とも言えない心地良さというか。鳥になって、緩い竜巻の中で羽ばたいてる感じ。これは新感覚だな」

「浮遊感の他に、高揚感みたいな感覚はありませんか?」


 ユアが恐る恐る聞くと、二人とも首を傾げて否定した。


「では、魔力共有は終了ということで、どうでしょうか? 感情に変化はありますか?」


 これまたユアが恐る恐る聞くと、女性の方は熱っぽい目でザッカスを見ながら頷いた。


「格好良すぎて好きにならざるを得ませんっ!!」

「ザッカスの方は~?」


 ロイズの問い掛けに、ザッカスはチラリと女性の胸らへん……というか胸を見て、ニコッと笑った。愛想笑いであった。


「特別な感情はない、かな。ごめんなさい」

「がーーーん!! 何故ですか!?」

「(胸の大きさが)足りないんで」


 こちらも負けじと、どクズであった。いいぞ、もっとやれ。


「足りない? 何がですか!? 頑張れば足りるようになりますか?」

「いや、それは難しい。惜しいけれど、妥協できないんだ。信念を貫くと決めている。申し訳ないね」

「そんなぁ~」


 とんだ信念である。


「じゃ、じゃあ、これで終了ということでー!!」


 うなだれる女性を横目に、何が足りないのかよく分からないという顔をしているユア。何が足りないのか分かってしまっているロイズは、詳しく聞かれる前に強制終了することにした。



 研究結果。異常値のペアと魔力共有をしても、特別な感情は生じない。元々の好みや性癖が優先される。


 こうして、『ザッカス・ザックの場合』も滞りなく?終了した。





 その日の夕方。ロイズとユアはこれまでのまとめをしていた。


「これまでに異常値のペアと魔力共有をしたのは4組」

「カリラ、リグト、ザッカスさん、そして私たちですよね」

「魔力共有のときに感じる感覚は、どのペアも異なるものだったね~」

「カリラたちは『ぬくぬくの毛布感と味覚』、リグトは『爽やかと聴覚』、ザッカスさんは『浮遊感と風』。いずれも心地良さはあるものの、バラバラですよね」

「と、なると……」


 ―― 俺とユラリスの共有で生じたエロ……コホン、高揚感は俺たちだけの感覚ってことか


「ただ、一つだけ」


 ロイズの考えていることを把握した上で、ユアは記録ノートを片手に人差し指をピンと立てた。


「これまで異常値のペアと魔力共有をした天才型は、ロイズ先生だけなんです」

「……あ、ホントだ~」


 魔法使いは『努力型』『汎用型』『天才型』の三種類に区分される。

 ユアやリグトのように、才能の部分を努力でカバーして飛躍するのが『努力型』。カリラのように、努力の有無に限らず平々凡々な魔法使いは『汎用型』。

 それらに対し、ロイズやフレイルのように才能に溢れる魔法使いは、とても希少で貴重である。そんな彼らを『天才型』と区別している。


 ちなみに、ザッカスやゼア・ユラリスも優秀で超強い魔法使いではあるが、努力型に分類される。天才型は上級魔法学園であっても、各学年に一人程度しかいないレア人材なのだ。

 そして、現在五学年のクラスには、一人だけ。それが、フレイル・フライスである。


「天才型って、努力型や汎用型には分からない感覚があるじゃないですか。だから、持って生まれたセンスの部分が、異常値のペアとの魔力共有の際に発揮されるのであれば、まだ何とも言えませんね」


 さすが筆記試験トップのガリ勉。冷静な分析を繰り出した。


「となると、残る課題は、フライスの魔力共有で判断ってことだね~」

「そうなりますね」


 そうして、心臓波形を取り続けること、11月末。とうとうフレイルの異常値のペアが見つかることとなる。



 


 

お読み頂き、感謝しております。


どクズを書くのが好きです。ごめんなさい。

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