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魔法教師ロイズ・ロビンは、その距離測定中  作者: 糸のいと
第四章 人と治癒の距離

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76話 ロイズ・ロビンは、もっと君と一緒にいたい  



「さーて、じゃあ今日から心臓波形のデータ取りをやろう、じゃんじゃんやろう」


 人間都市の治療医院に集まったロイズと生徒4人は、量産された心臓波形の魔導具を前に気合いを入れていた。


「今日からじゃんじゃんっていうけど、明日から学園始まるけど?」

「そうなんだよね、放課後に頑張ろうね~」

「まじすか」

「マジです。と言っても、強制じゃないから来られる人だけで大丈夫だよ~」


 ロイズの呑気な物言いに、逆に『行かないといけない感』を受ける不思議。

 助手のユアは勿論バリバリやる気であったし、元々アルバイト目的で来ていたリグトもやる気満々だった。優等生2人の性格をよーく分かっているフレイルとカリ(不真面目組)ラは、そっと視線を合わせて『じゃあ三日に一回くらいやる?』と、何となく示し合わせた。


「じゃあ、フライスとリグオールは、昨日までと同じように、じゃんじゃん治癒しまくってね~」

「「了解」」


「ユラリスとカリストンは、隣の建物で心臓波形のデータ取りをお願いね」

「隣の建物ですか……? 治癒した患者さんのデータ取りをするんですよね?」

「そうだよ~。治癒した患者さんは、隣の建物にそのまま流れて貰って、心臓波形のデータ取りをする。でも、それだけじゃ足りないからね。俺の伝手で、治癒はしないけど心臓波形だけを取らせてくれる人たちも、たくさん呼んでおいたんだ~」

「ロイズ先生の伝手!? ……把握しました」

「了解で~す♪」


 ユアは、ロイズが人間都市生まれのスーパーヒーローであることを思い起こし、『大人数が押し寄せて来るのでは』と、少し身構えた。何も知らないカリラは、ぼーっとしていた。


「先生は何するんすか? ここんとこ殆どいなかったけど」


 カリラの枯渇症完治後から、ずっと治療医院で治癒をしまくっていた4人。心臓波形のデータ取りも行いつつ、ものすごい人数を治癒していた。途切れることはない列に、ヘトヘトの3人と目が爛々としている1人(リグト)、という構図になっていた。


「ごめんごめん! ここんとこ、魔法省の人と話をしたり、色々準備してたんだ。それで、心臓波形のデータ取りを隣の建物でやる許可を貰ったんだよ~。今日は俺も働きまーす」

「あの……それは、人間の魔法使い化について、魔法省に知らせてあるということですか?」


 ユアは父親の立場を考えているのだろう。自分が元人間であることがバレていないか、不安そうに瞳を揺らした。


「ユラリス、心配しなくて大丈夫。研究内容は秘密にして、心臓波形のデータ取りの許可だけ通したから~」

「え、魔法省相手にそんな無理が通せるんですか?」

「通せるか通せないかは分かんないけど、通ったからいいんじゃないかな。あはは!」


 リグトの質問に対し、あっけらかんと答えるロイズ。もし希望通りに魔法省勤めになったとしたら、『ロイズ・ロビン』に手を焼かされるのだろう将来をそっと思い浮かべて、リグトはため息をついた。


 



 そうして、人間都市の『心臓波形屋』が誕生したのだった。初日の今日、ユアの予想的中。ものすごい人数が、心臓波形屋に押し寄せてきていた。


「よぉ、ロビンの坊や! ひっさしぶりだなぁ!」

「ロイズくん、聞いたわよぉ。なんか面白いことやってるんですって~?」


 わらわらとやってくるロイズの知り合いたち。彼らを見つけると、ロイズは顔を明るくして嬉しそうに笑う。


「あー! 来てくれたんだ、ありがとー!」

「それにしても、ちょっと見ない間に大きくなったもんだなぁ」

「大きくって言うか、もう23歳だからね~」

「23歳!? 時の流れが早すぎる」

「大人になったなぁ、驚いたなぁ」


 この心臓波形のデータ取り。魔法省に何も説明をしていないわけだが、人間に対しても殆ど説明をしていない。それでも、ロイズの知り合いや、()()()にロイズ・ロビンに感謝をした人々が、噂を聞きつけてやってくる。人間たちは、今も『人間都市の天才魔法使い』が大好きだった。



「ロイズ先生、大人気ですね」


 作業の合間、ユアがロイズに話し掛けると、ロイズは少し照れくさそうにしながらも「嬉しいよね」と、優しい目をした。人間都市の人々のことが、大好きなのだろう。『人間の皆を幸せにしたい』と、その優しい瞳が語っていた。


「ロイズ先生は、夢が叶ったら……この研究が終わったら、その後はどうなさるんですか?」


 ユアが心細いような小さな声で問い掛けると、ロイズはきょとんとした顔をして、それから「あはは!」と笑った。


「何も変わらないよ~。魔法は不思議と謎だらけ。まだまだ、底も奥行きも見えないからね。研究したいことは他にもたくさんあるよ~。魔法学園の先生もやんなきゃだしね」

「そうなんですね。ふふ、楽しそうですね」


 そこで、ロイズはハッとした。今じゃないか、と。これから先も一緒にいたいと『匂わせる』のは、今ではないか。

 元々、ロイズ専属の助手として卒業後に雇いたいと打診するつもりであった。何かとバタバタしていて、全く打診できていなかったが。


 ―― えっと、『卒業後、ユラリスも一緒に研究を続けない?』って、軽く言えばいいよね


 ユアとの間にあった一歩分の距離を、ロイズはスーッと移動して「あのさ」と、声をかけた。


「はい、何ですか?」

「あの、えっと、」


 言おうとした瞬間、心臓がバクバクと大きく跳ね上がり、ロイズは言葉を詰まらせてしまった。


 ―― あ、あれ? すっごい緊張する……


 卒業後も一緒に研究を続けようと言うだけなのに、緊張で胸が張り裂けるんじゃないかというほどに心臓が大きく早く動いていた。こんなに緊張するなんて、生まれて初めてであった。


「先生?」


 ユアが不思議そうに首を傾げると、ロイズはハッとして「な、なんでもない!」と言って作業に戻った。平たく言えば、チキった。


 ―― チャンスだったのにーー! 俺のばかー!


 心臓波形のデータを取りまくりながらも、不甲斐ない自分を心の中で殴り飛ばしていた。

 言いたいのに、言えない。言えばいいだけなのに、何故だか言えない。まさしく、恋だ。




 ―― 夢が叶ったら、かぁ


 人々に優しく受け答えをしながら、一生懸命に心臓波形を取る愛助手の姿を、ぼんやりと眺めてみる。


 この夏の間に、随分と人間都市の雰囲気が変わったことを、ロイズも肌で感じていた。

 治療医院に4人も魔法使いがいて、その優しい魔法使いたちがドタバタと、あっちにこっちに忙しく治癒しまくっている姿。これは人間たちにとっては、衝撃的であった。


 人間にとって魔法使いは、強欲で怠惰で傲慢なイメージだ。でも、治療医院の魔法使いたちは、そのイメージと大きくかけ離れていた。

 暑い日には氷を出して、並ぶのが辛くないように気を使ってくれる。一人でも多くの患者を治癒しようと、フルパワーでサクサクと捌いていく。優しく声を掛け合って、『ありがとう』と『ごめんなさい』が飛び交う優しい空間。笑顔で交わす挨拶に、解けていく心。


 人間と魔法使いは、同じく『人』だ。そう思っている彼らの言葉と行動が、少しずつ少しずつ、人間の心を治癒していく。


 ―― なんか、いい雰囲気~


 人間ではないのに人間が大好きで、魔法使いなのに魔法使いが嫌いだった、15歳の頃。そんな昔の自分を思い返して、今と比べてみたりして、ロイズは少し可笑しくなった。



 ―― 明日から新学期。よーし、やるぞー!



 夏の間に得た変化。

 魔法使いと人間の心の距離。手繰り寄せた研究成果。そして、恋する気持ちと、二人の距離。


 それらを大事に抱えて、新学期が始まる。



 ぱんぴろりん♪ ぱんぴろりん♪ ぱん♪



 


【第四章 人と治癒の距離】終




お読み頂き、感謝です!


次で最終章です。あと23話程度で完結です。

最後までお付き合い頂けると、嬉しく存じます。

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