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魔法教師ロイズ・ロビンは、その距離測定中  作者: 糸のいと
第四章 人と治癒の距離

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72話 永遠不変のドライな幼なじみ

ユアとリグトの回です



「魔力共有は無事に完了しました」

「ユラリス、ありがとう~。ど、どうだった?」

「大丈夫でした、特に問題はありませんでした」

「そっか、良かったぁ~」

「本当に、良かったです……」


 ロイズとユアは、お互い労い合いながらも安堵した。同性でもあんな感じになるのであれば、異常値のペアによる魔力共有をしたがらない人が続出するところであった。


 メンズたちも店内に戻り、カリラとマリーに異常がなさそうなことを目視で確認したロイズは、採血魔導具を取り出しながら「じゃあ、」と言った。


「魔力共有の結果を確認してみようか。まずは、カリストンの方から」

「はぁい♪」

「今の魔力の残量は?」


 カリラはお腹に手を当てて、「あ!」と声をあげた。


「戻ってるぅーー! 100%だぁ~!!」


 それを聞いたユアは「カリラ~!」と感嘆の声をあげて、親友をぎゅっと抱き締めた。

 リグトとフレイルもホッとしたように表情を緩め、「みんなありがとう~!」と飛び上がってお礼を言うカリラと、ハイタッチで喜びを分かち合った。


 一方、空気の読めない天才魔法使いは、ニコッと笑う程度でサクサクと進行中であった。


「カリストン、もう少し確認してみよう」

「へいぃ?」   

「簡単な魔法を使ってみてくれる?」

「おっけーです~。えーっと、丸描いてぇ、三角一つで、ほいっと『火~』!」

「あ! そのまま魔法陣に手を(かざ)したままにして」


 すぐに魔法陣から手を離そうとしていたカリラは、ピタッと止まって「熱い~」と言っていた。


「よーし、それくらいでいいかな~。今、魔力残量どれくらい??」

「95%くらいです~」

「じゃあ、コレ食べてみて!」


 ロイズが簡素なパンを渡すと、カリラは「お菓子が良かったなぁ~」と文句を言いながらパクパク食べた。


「残量は?」

「あ! 戻ったぁ、100%でーす! いやっほぅ♪」

「じゃあ、次は採血と心臓波形のデータ取りだね!」


 ロイズが採血魔導具をユアに渡すと、フレイルが呆れたように一言物申した。


「次から次へと……一旦は喜ぶとかねぇのかよ、先生」

「本当、ロイズってロイズよねぇ」

「ロイズはロイズですけど、何か!? これは国中の魔法使いが助かるか助からないかの、大事な実証実験の初回なんだよ~。調べられることはすぐに調べとかないと、経時変化とかあるかもでしょ?」


 ロイズが真面目に言うと五学年の生徒は「確かに……」と言って納得していた。だが、ロイズの本心の大半は、単純に早く結果を知りたいという好奇心であるが。魔法バカが過ぎる。


 そして、カリラの採血結果。ロイズ同様に、やはり青紫色が濃くなっていた。


「うん、同じ結果だね。この青紫色は、魔力の源であるキラキラ成分の保護液の役目を果たしている。魔力共有によって濃度が増して、保存力は従来の20倍になっている、はず」

「そこらへんは追加実験が必要ですね」


 ユアが合いの手を入れると、ロイズはニコッと笑って頷いた。


「じゃあ次はマリーの採血だね!」

「あ、そうだったわね。はい、どーぞ」


 ユアがマリーの左手に採血魔導具を取り付けて、三拍後。


「青紫色だわ。これで完全体ってことね!」

「ひゅ~♪」


 マリーがカリラとハイタッチで喜びを共有している横で、マリーの採血結果をリグトが食い入るように見ながら「青紫色だ……」と呟いた。


「ユア、お前も青紫色になったのか?」


 リグトがユアに一歩近付いて問い質すと、ユアはロイズに「私の採血サンプルはありますか?」と訊ねた。


「あるよ~。見せていいの?」

「はい、お願いします」


 リグトは真剣な目でユアの青紫色を受け取った。そのまま少し離れたところにあった魔法灯まで移動し、それに(かざ)して照らした。


 他のメンバーがやんややんやと騒ぎながら心臓波形などのデータ取りをしている横で、リグトは黙って青紫色を見ていた。

 それに気づいたユアは、無言でリグトの隣に立って青紫色を同じように見た。幼なじみ二人が、元赤紫色のそれをじっと見ていた。


「青紫色だな」

「言うの遅くなってごめん」

「別にいい。いつから?」

「二週間前」

「ゼアさんには?」

「伝えた。ふふっ、泣いて喜んでたわ」

「そうか……だろうな」


 リグトは、ほんの少しだけ柔らかく笑って、青紫色のガラス容器をクルッと回転させて、角度を変えて、もう一度見た。


「まあ、これで出席番号1番は俺のもんだな」

「なんでよ?」

「だって、ガリ勉する理由、なくなっただろ」


 リグトが見下すように言うものだから、ユアは睨み上げるようにして「お生憎様」と返した。

 魔法灯からの光が青紫色を透過して、二人に青紫色の影が落とされる。もう赤紫色ではない、その色。ユアは少しだけ喉の奥が熱くなった。


「リグト、ありがとね」


 そして、ぽつりと小さくお礼を言うと、リグトは「別に」と小さく返すだけ。


 しばらくぼんやりと青紫色を見ていたリグトは、見飽きたという感じで、突然ガラス容器を翳すのを止めた。


「ユア」


 それをユアに手渡すと、ユアは何も言わずにそれを受け取る。


「お疲れ」

「そっちこそ」

「本当、超疲れた。特大の()()だからな?」

「そこはお互い様でしょ」

「1番、ちゃんと譲れよ?」

「し・つ・こ・い」


 ユアが嫌そうな顔をすると、リグトはいつもの意地悪な顔で笑って、ユアの(ひたい)目掛けてデコピン一発お見舞いしてやった。ユアは「痛っ」と軽く前髪を整えながら、リグトを睨んだ。


 頭を撫でたり、抱き合ったり、ハイタッチをしたり、そういう距離感ではない幼なじみ二人。視線を合わせるだけで、15年間を労い合った。


「おめでと」

「ありがと」


 近くもなければ遠くもない。支え合ってきたわけでも、なくてはならない存在でもない。苦労した赤紫色の思い出話をするわけでも、希望に満ち溢れた青紫色を語るわけでもない。ただ家が隣同士で、たまたま片方が赤紫色だっただけの二人。


 一歩離れた幼なじみ。その距離、ずっと変わらない。

 



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