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魔法教師ロイズ・ロビンは、その距離測定中  作者: 糸のいと
第三章 魔法使いと人間の距離

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49話 この大発見が救うもの

切るとこ難しくて、長いです。




「はぁ、さっぱりした~」


 海水でずぶ濡れになったロイズは、軽くシャワーを浴びて着替えをしてから、リビングに戻ってきた。


 魔法使いは、あまりお風呂に入らない。浄化で十分清潔になるからだ。でも、生まれも育ちも人間都市であるロイズは毎日お風呂に入る習慣があったし、浄化では得られない心のさっぱり感が好きだった。

 ちなみに、母親が人間であるユラリス家もお風呂に入る習慣があり、ユアは今でも毎日入浴をしている。


 そうして、さっぱりとしたロイズは、引き続きリビングの大きな窓から、海で遊ぶユアを眺めた。

 あまり女子生徒の水着姿を鑑賞してはならないことなど分かりきっているが、今日は研究も休業。少しくらい……眺めるくらいなら、バチも当たらないだろう。ウォータースライダー作製の報酬だ、ということで割とガン見していた。


「(じーーーー)」


 しばらくガン見した後、さすがにマズいなと思い直した魔法教師は、コーヒーを飲もうとキッチンに足を運んだ。すると、ダイニングテーブルの上に置いてあったネックレスに目が向いた。


「ユラリスのかなぁ」


 男一人暮らしの家にネックレスなどあるはずもない。海水浴中に落としたらいけないと、ユアが外して置いておいたのだろうと思った。


 ―― ユラリスのネックレスかぁ。ふーん。アクセサリーかぁ。……どんなデザインが好きなんだろ……

 

 怪しい教師がここにいる。


 好きな食べ物、好きなケーキ。ユアの好きなものを心のメモに書き留めておくことにしているロイズは、邪な気持ちでスーッと吸い寄せられるようにネックレスに近付いた。じっと見てみると、何やら見覚えがあるような……。


「これ……」


 ロイズは驚愕の表情を浮かべ、ネックレスを手に取って駆け出した。リビングの大きな窓から裸足のまま飛び出して、大きな声で「ユラリス!!」と愛助手の名を呼んだ。

 その様子に、ユアは少し不思議な顔をしながら、ザバッと海から上がって「どうしました?」と首を傾げた。


「このネックレス、ユラリスの!? いつどこで手に入れた?」


 ロイズの手に握られたネックレス。淡い飴色の小さな石が、キラキラと太陽の光を反射していた。

 ユアはロイズの様子から、重要な局面を迎えていることを察して、簡潔に全てを答えた。


「はい、私の物です。手に入れたのは入学式前日。父が入学祝にプレゼントしてくれたんです。貴重な魔力石が使われているとかで、私の魔力が少しでも上がるようにと、願掛けの意味を込めて渡してくれました」


「入学式!? ってことは、入学前は持っていなくて、入学後は持っていた……」

「は、はい。そうなりますが、、、入学後、私の魔力量が上がった原因がネックレスにあるということですか? でも、このネックレスは人間用のもので、魔法使いには意味がないはずです。魔力量アップの効果はないかと……」


 ユアが訝しげにすると、ロイズは「普通の魔法使いには効果はないだろうね」と言った。


「でも、君は元人間。そして、このネックレスの魔力石に込められていた魔力。これは俺の魔力だ」

「え!? ロイズ先生の?」


「間違いない。作ったのも覚えてる。確か……四年半前、人から頼まれて、この魔力石にかなりの量の魔力を封入したんだ。そんなことをしたのは一回だけ。この魔力石だけ。魔力石にはもう殆ど魔力が残って無いみたいけど、僅かに俺の魔力の気配がする」

「四年半前……私が入学する少し前?」

「時期も合致する」


 ユアはネックレスをじっと見て、記憶を思い起こした。


「このネックレス、父が人間都市の知り合いに頼んで、特別に作って貰ったと言っていました。その方は元魔導具の職人さんだと……」

「やっぱり! 俺が頼まれたのはナイアンさんだよ。魔力補充の案内係のナイアンおじいちゃん。とてもお世話になっている人のために『ロイズ・ロビン』の御利益が欲しいって言われたんだ」

「……あ! ナイアンさんは、魔導具の工房を開いていたんですよね」

「そう!! お世話になっている人って、ユラリスパパのことだったんだ!」


 二人はネックレスを見て、そして流れるように視線を移してガチッと目を合わせた。


「「見つけた!!」」


 そして、手を取り合って、飛び跳ねた。


「ユラリスの赤紫色が徐々に青くなっていたのは、やっぱり入学後すぐなんだ。原因は、このネックレスを身に着けていたから」

「ということは、ロイズ先生の魔力に引っ張られることで私の血液は青みを増す。そして魔力量が上がった!?」

「常に身に付けていたなら、その可能性が高い!」

「その理由は、私たちの魔力相性が異常に良いから?」

「たぶん!」

「ということは、……きゃっ!!」

「うわっ!」


 はしゃぎすぎたユアが砂浜に足を取られて転ぶと、手を繋いでいたロイズも引っ張られて、二人でドサッと白い浜辺に寝転んだ。


「大丈夫!?」

「ごめんなさい!」


 そのとき、砂浜に赤紫色がポツリと落ちた。


「血が出てる、見せて」


 ロイズが慌ててユアの膝を見ると、貝殻の破片で軽く切っていた。そして、「少し切っちゃったね」と言いながらユアに視線を移すと、当たり前だが彼女は水着だった。


 ―― うわぁ……強い


 何かが強いと感じたロイズは、慌てて膝の傷だけに意識を集中させた。


「ごめんね、支えられなかった~。情けない……」

「先生のせいじゃないです! 私こそ、はしゃいじゃって……ごめんなさい」

「いやー、俺もはしゃいじゃったよ。すぐに治癒しようね~」


 そう言って、ロイズは傷に手を当て治癒魔法を発動させた。10秒ほどの短時間で治癒が終わると同時に、ロイズはハッとしたようにユアに訊ねた。


「前に治癒したのって、いつか覚えてる?」


 ガリ勉のユアは、「4月30日です」と即答した。


「ロイズ先生のお家に初めてお邪魔した(二人の大切な記念)日なので、覚えています」

「青みが増した日付は?」

「5月10日です」

「!!」


 瞬間、謎が解けた快感が全身を貫いた。


 テンションが振り切ってしまった魔法バカのロイズは、「解は治癒魔法だ!!」と言いながら、ユアを抱きしめた。ぎゅーーっと。そして、すぐにバッと離れて、砂浜に文字を書き始めた。


=======


19歳4月15日 赤紫色

◎→19歳4月30日 治癒魔法

19歳5月10日 青みが増した赤紫色


=======


「ここ! 4月30日に治癒魔法をかけてる。治癒魔法は、魔力の共有に似ている部分があるんだ。あぁもう、なんで今まで気付かなかったんだろ~!」

「そうなんですか? 初耳です」


「教本には乗ってないからね~。魔力の共有は、双方が血液の中に魔力を流し合う行為。治癒魔法は、皮膚の表面にだけ魔力を流す行為なんだよ。表面だけとは言え、俺はユラリスに直接魔力を流し入れたんだ」

「だから5月10日の採血時に、一気に青みが増していたんですね!」


 「そうなると」と言いながら、ロイズは思索した。


「確認事項は、三つある」


 ロイズは位置を変えて、砂浜に書き続けた。


「一つ、治癒後である、今現在の血液の色。青みが増しているか、ちゃんと確認したい」


「二つ、ユラリスと魔力相性が、()()()良い人物に治癒魔法を掛けられた場合にも、青みが増すのか。それとも、()()に良い俺だけなのか」


「三つ、治癒魔法ではなく、俺とユラリスが本格的に魔力共有をした場合にどうなるのか。完全な青紫色になるのか」


 ユアは考えるように、ロイズの隣に座り直した。


「二つめですが、これまで治癒魔法をかけてもらったことがあるのは、父と妹とリグトの3人です」

リグオール(リグト)は、そこまで魔力相性が良くないかなぁ。お父さんとも、普通より少し良いくらい。妹さんって三学年のヒズ・ユラリスだよね?」

「はい、ご存知ですか?」

「うん、前に学食で声をかけてくれてさ。『姉がお世話になってます』って、丁寧に挨拶されたよ。ユラリスの妹って感じで、礼儀正しい良い子だった~」

「魔力相性はどうでした?」


 ロイズは「うーん」と思い出すように、指についた砂をパラパラと落とした。


「普通よりは高いけど、そこまでじゃないかな」

「他に、誰か私と魔力相性がかなり良い人がいれば実験ができるんですが……」


 ロイズは「ユラリスの周りだと、フライス(フレイル)が一番良いかなぁ。カリストン(カリラ)も良いけど、ぶっちぎりってわけじゃないし、うーん」と言いながら悩んだ。そして、しばらく考えを巡らせ、突然「あ!!」と思い付いた。


「いた! そうだよ、あー、そうだった~」

「誰ですか?」

「ザッカスだよ~。そうそう、夏休み中にデートするって話だったんだ」

「……え、そのザッカスさんの話って、まだ生き残ってたんですか?」

「うん、だってザッカスとデートしたいんでしょ?」

「???」


 ユアは、全く分からなかった。ロイズに好かれていると思っているからだ。これはユア的確定事項だ。何なら、卒業したらプロポーズでもしてくれるんじゃないかしら、なんて乙女爆走モードであった。

 それなのに唐突のザッカス。またもやザッカスだ。いつだってザッカスは突然やってくる。


 ユアの戸惑いに気付くこともなく、ロイズはペラペラと話をしていた。


「ザッカスとユラリスの魔力相性、相当良いんだよね~。俺を除けば、ぶっちぎり! ザッカスに治癒魔法を掛けてもらった場合の血液の色を見てみたい!」

「ちなみにザッカスさんと私の魔力相性と、ロイズ先生と私の魔力相性を比較すると、どんな感じなのでしょうか?」

「うーん、大体だけど、フライスとの魔力相性を1とすると、ザッカスとの魔力相性が10。で、俺との魔力相性は1000」

「桁違いですね!?」

「本当にね。異常なんだよ~」


 ロイズは、そこでパッと立ち上がった。


「ザッカスには約束を取り付けておくね。早速、一つめ確認事項だ。現在の血液の色を確認してみよう~!」

「は、はい!」

 

 ユアは浄化の魔法をかけて海水や砂を取り払うと、持参した大きなバスタオルを肩から羽織った。待ちきれない様子でリビングの大きな窓からスタスタと家に入っていくロイズに続いて、ユアも研究部屋にそのまま入った。


 ロイズは、採血魔導具を取り出しながら、


「後で学園の研究室にあるユラリスの赤紫色を持ってこなきゃな~。色の比較をしたいよね」


と、ご機嫌に準備をして、ユアの方にクルリと向き直った。そこで、彼女が水着のままであることに初めて気付いた。とんでもない魔法バカであった。


 ―― うわぁ! めちゃくちゃ強いっ!!


 砂浜(遊び場)にいるときの水着姿と、研究部屋(仕事場)にいるときの水着姿。同じ水着姿なのに、なぜこうも感じ方が異なるのか。何かが強い……何かというか刺激が強かった。


「ご、ごめん。着替えてきて良いよ!」

「??? そうですか?」

「そのまま眠くなるかもしれないし! ぜひ着替えてきてどうぞ!」

「あ、そうですね」

「ぜひ! もし使うならシャワーもどうぞ!」 

「わぁ、嬉しいです。お借りしますね。浄化だけだと、なんか気持ち悪くて」

「同感です、ぜひどうぞ!!」

「ありがとうございます」


 ユアは、そう言ってパタパタとバスルームに移動していった。



 (……ザーーーーー)



 しばらくは、謎が解けた快感に酔いしれていたロイズであるが、次第に冷静になってくる。すると、この状況に居たたまれなさを感じる。小さく聞こえるシャワーの『ザーー』という音が、何だかとても恥ずかしい。


 そわ。


 (……ザーーーーー)


 そわそわ。


 ―― なんか、これって、大丈夫なのかな?


 19歳女子生徒が23歳男性教師の一人暮らしの家で、シャワーを浴びているという状況。字面が強い。


 そわそわそわ。


 初めの頃は、『男と女? はっはー、そんなの大丈夫大丈夫♪』とか言ってた魔法バカが、シャワーの音でそわそわしている。凄まじい成長を感じる。ユアのセクシー攻めのおかげだ。


 そわそわそわそわ。


 ―― って、いやいや、おかしいでしょ! なんで、そわそわしなきゃいけないんだっ!


「そ、そうだ。今のうちに研究室からユラリスの赤紫色を持ってこよう。『研究室、転移』」


 手持ち無沙汰になった、そわそわロイズは、学園の研究室(安住の地)転移(逃亡)をした。


 ふわり、ストン。


「えーっと、昨日の夜採血してもらったのがコレね。あとは、テキトーにまとめて持って行こう~」


 ついでに仕掛けていた実験をチラッと見つつ、「治癒魔法かぁ、なんで気づかなかったんだろうな~」とか、ご機嫌に独り言を言っていた。


「さて、そろそろ戻ろっと。採血採血~♪」


 ロイズは採血保管ケースを小脇に抱えたまま、ご機嫌で「家、てんぃ……」と言ったところで、瞬時に口を手で押さえた。ギリギリセーフ!! ……かと思ったが、色んな意味でアウトだ。



 ふわり、ストン。ザーーーー。




「~~~っ!!」


 大バカ者がここにいた。ユアに引っ張られる距離を考えると、転移先の玄関からバスルームまでギリギリ範囲内に入っているというのに、うっかりと転移してしまった大バカ(天才)者が、こちらだ。


 ―― うわぁぁぁぁあああ!!


 シャワーを浴びている女子生徒の真後ろ、その距離1m。教師がストンと転移をした。そのままストンと無職確定なこの事態。

 フラグ回収が早い上に、着替え中どころかお風呂中に転移。さすが予想の上をいくソフトラッキースケベ体質だ。


 ―― うわ、うわ、うわぁあああ!


 ロイズは、心の中で絶叫していた。一言も声は出さなかったし、目も隠さなかった。めっちゃ見てた。

 一方で、ユアはちょうど髪を洗っているところだったため、目を瞑っていた。しかも、ロイズはユアの真後ろに転移していたため、淡い光も気付かなかった。

 それ即ち、ロイズが風呂転移(のぞき)をしていることに全く気付いていなかった。幸運中の幸運だ。


 ―― やばいやばいやばい! 死ね俺!!!


 ロイズは、すぐに『研究室、転移』と呟こうと思ったが、またもや口を手で押さえつけた。もう少し見ていたかったからではない。呟いたら、声でバレるからだ。

 結果、超高速で魔法陣を描いて、すぐさま離脱した。久しぶりに転移魔法陣を描いた。すごく速く描けた。天才でよかった。



 そうして戻ってきた、研究室(安住の地)


「……うわぁあああ!! 俺は、なんてことをぉおおお!! 誰か俺を生き埋めにしてくれぇええええ!!」


 床に頭がめり込むレベルで取り乱した。いやいや、取り乱したいのはユアの方だ。こんな事故、あるだろうか。大変けしからん。


 ロイズは、シャワーが掛かってずぶ濡れのズボンや、白衣の裾をそのままに、どうして良いか分からないこの感情と欲を堪えて耐えた。この記憶を絶やしたくて、いっそ息の根が絶えないかな、とか思った。


 でも、ロイズは成長を遂げていた。


 しばらく放心していたが、やがて『そもそもに結構キワドイ水着姿も見てるからセーフじゃん?』とか『水着と裸は同じだ。セーフだ』とか『彼女は気付いてないからセーフだな』とか、割とタフなことを考え始めた。バイアスが掛かりまくっている。

 幸か不幸か、ユアのセクシー攻撃が功を奏して、突発性エロに耐性が出来始めているロイズ。セーフ判定が甘い。


「うん、大丈夫。後ろ姿だけしか見てない。前は見てない。大丈夫、まだセーフ(教師)だ!!」


 一体、何がセーフなのか。ロイズの中で、後ろ姿ならセーフという謎のルールが追加された。もう二度と施行されることはないルールだろう。


「セーフだから、忘れよう! そうしよう!!」


 ロイズは、セーフ判定を下したお風呂転移の案件を、丸ごと墓に埋めた。生き埋めに出来ない自分の代わりに、記憶を埋葬した。誰も墓参りに来れない忘却の墓だ。南無阿弥陀仏。


「とにかく、戻らないと……」


 そろそろ、ユアがシャワーから出て待っているかもしれない時間だ。女の子のシャワーの所要時間なんて分からないけど、たぶん、そろそろのはずだ。


「『家、てん……』。待て待て待て、これ本当に大丈夫なのかな。怖っ!!」


 同じ過ちは繰り返せない。次は、前から見ることになったらアウトだ。

 ロイズは、しばらくシャワーの所要時間について「うーん」と悩んだものの、「ザッカス・ザック、通信」と呟いて、友人(ブレーン)を頼ることにした。


「あ、もしもし、ザッカス~?」

「ロイズか、なんだ? 今めちゃくちゃ忙しいんだけど」

「ザッカスはいつでも忙しいね~」

「お前はいつでも呑気だな。で、用件は?」

「女の子のシャワーって何分くらいかかるの??」

「ぶはっ…!!?!」

「今、ユラリスがシャワー入ってるんだけど、諸事情があって何分くらいかかるか知りたいんだよね~」

「お、おう? 諸事情が何か知りたいような知りたくないような」

「大した事情じゃないよ~、あはは!」

「そ、そうか……?」

「それで何分くらいかなぁ」

「そもそも魔法使いは浄化で済ますから悩ましい質問だが……うーん、軽くシャワーを浴びるくらいなら10分、髪を洗うとなると15分、その後に着替えたり髪乾かしたり化粧したりで、長くて20分。トータル30~40分程あればいいだろう」

「40分ね! ありがと~」

「なぁ、まさかとは思うが、、、」

「なに~?」

「……いや、なんでもない。立場上、聞かない方が安全だ(ゼア・ユラリスを思い出して身震い)」


「あ、そうそう別件なんだけど、ユラリスとデートする日程詰めたくてさ。いつ休みか分かった~?」

「!!?! 不可思議が過ぎる」

「なるべく早く会わせたいんだよね~」

「お、おう? 今度の金曜の午後から火曜まで夏期休暇をもぎ取ったけど」

「休み少なっ! ブラックぅ~。じゃあ金曜の午後で!」

「わ、分かった。……ぇえ? 本当に会うのか?」

「うん、ユラリスも楽しみにしてるよ~。じゃあね!」

「おう……?」


 ツー、ツー、ツー、ツー。


 ―― 40分ということは、あと10分くらい……


「はぁ、危なかった」



ーーーーーーー



「はぁ、サッパリした」


 その頃、ユアはワンピース姿でバスルームから戻ってきた。しかし、ロイズの姿はない。


「ロイズ先生~?」


 研究部屋にもどこにもいない。そこでユアは『学園に私の赤紫色を取りに行ってるのかな』と、一人納得してお茶を飲んだりしながら待っていた。

 それから10分後。目の前が淡く光ったかと思ったら、距離20cmほどでロイズが転移で帰ってきた。ユアを見て、ロイズは思いっきり胸を撫で下ろした。


「よ、良かった。ふぅ……」

「どうかしました?」

「~~~っ!! ナニモナイヨ!」

「?? 血液、持ってきて頂いたんですよね?」

「ソウダヨ! ソレダケダヨ!」

「あら? なんか血液サンプルが濡れてますよ」

「!!」


 うっかりロイズは、シャワーで濡れたガラスケースを乾かして来なかった。証拠隠滅が下手くそだった。


「あ、もしかして、研究室で何か実験やってきたんですね? もー、私がシャワーあびてる隙に、悪い先生ですね、ふふっ」

「ハイ、モウシワケゴザイマセン。仰ルトオリデス」

「??」


 ―― 悪い先生でごめんなさいっ!!


 ロイズは胸中土下座しつつ、真面目スイッチを思いっきりONにした。そうするしかなかった。


「さ、採血をしよう!! 今すぐにっ!」

「は、はい。お願いします」





 さて、場所を移して、真っ白な研究部屋(仕事モード)。真面目スイッチ点灯だ。


 採血魔導具を片手に、二人は真剣な面持ちで向かい合っていた。


「このタイミングで青みが増していれば……」

「私は完全な魔法使い(青紫色)に近付いていく、はず」


 二人は視線を合わせて頷いた。その瞳には『期待』という光が、キラキラと輝いていた。

 ユアが左手をそっと差し出すと、ロイズはその手をそっと取って、まるで指輪でもはめるかのように大切そうに魔導具を取り付けた。


 ちょうど、三拍後。

 魔導具によって採られた赤紫色は。


「青みが、増してる!!」

「ロイズ先生~~っ!!」

「ユラリス~~っ!!」


 二人は右手を合わせて、ハイタッチで喜びを分かち合った。



 そうなのだ。ユアの赤紫色の血液。これは人間から魔法使いになる途中で、()()()をしている状態である。

 ロイズの魔力を少しずつ流し込まれたユアは、その度に血液の色を変化させ、段々と透き通るような青紫色になっていく。


 完全な青紫色になったとき、彼女は完全なる『魔法使い』となる。


 人間から魔法使いへ。

 その色の変化がもたらす『効果』。


 この日、海の真ん中にぽつんとある大きな家で、大きな事実が発見された。この発見は、国中の魔法使いと人間を救う第一歩となったのだった。


 




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