35話 五学年の作戦会議、フレイルの妨害
「では、作戦会議を始めます」
「出た。この無駄な時間。部屋戻っていいか?」
「Stay、リグト。アイスクリームの無料券10枚よ。これから夏本番、転売は固いわ」
「OK、続けて」
またもや夜も遅く、ユアは招集をかけた。
「見てみて、フレイルが寝てるよ~♪」
そして、またもやフレイルは寝ていた。
「フレイルのことは一旦置いておきましょう。今日の議題は、どうやってロイズ先生と距離を詰めていくかよ! 忌憚なきご意見を」
ユアがメモを片手に、手練れの皆様にお伺いを立てると、リグトはワザとらしく大きなため息をついた。
「面倒だから、とりあえず脱いで迫ってみたら?」
「ひゅ~! リグト、クズいぃ~♪」
ユアは「えーっと、脱いで迫る……と」とか言いながらメモを取っていた。そんなメモを取ってどうするつもりだろうか。
「夏だしぃ~、海に連れてってもらって水着でドキリ! みたいなのはぁ~?」
カリラがそう言うと、ユアは「水着でドキリ……と」と、またメモをした。ガリ勉だ。
「そもそもにロイズ・ロビンと研究室以外で会うことあるのか?」
毎週のようにロイズの家に言っているわけだが、それは秘密のヒミツで置いておいて。
「研究の一貫で、今度ロイズ先生と一泊で人間都市に行く予定があるわ」
「一泊!!?!」
そこでフレイルがバッチリと目を覚ました。今回は一気に目が覚めたようで、金色の目をガッと見開いてユアに詰め寄った。
「一泊って言ったか!?」
「研究の一貫でね。出張みたいなものよ。ところで男の人はどんな下着が好きなのかしら?」
「下着ぃ!? ヤる気まんまんじゃねぇか!」
「下品なことを言わないで。万が一のためよ、万が一」
フレイルは焦った。先日のロイズの雰囲気から、万が一は起きないだろうとは思ったが、万が一が万が一にでも起きたら『フレイル終了のお知らせ』だ。
「に、人間都市は一度見てみたかったんだ。俺も行く」
「え? ダメよ。研究の一貫って言ったでしょう? 先生の魔力補充を見学しにいくんだから。遊びじゃないのよ」
下着がどーのとか言っていた女とは思えない真面目さであった。しかし、フレイルは引かなかった。そりゃそうだ、下着がどーのとか言ってる状況を易々と黙って見過ごせない。
「遊びなわけあるか、これは至って真面目な知識欲だ。ロイズ・ロビンに聞いてみて、あいつが良いって言ったら同行するからな?」
「え」
ユアは焦った。せっかく二人きりの旅行の予定が、なぜか邪魔者が付いてくると言っているのだ。これは看過できなかった。
「分かったわ。明日、ロイズ先生に聞いておくわね」
勿論、聞く気なんてサラサラない。聞いたけどダメだったとフレイルに回答すればいいと思ったのだ。悪い女だ。
「……お前、聞く気ねぇだろ?」
「ぎくり」
フレイルは、お見通しであった。
「バーカ。今から俺が聞くから無駄な抵抗すんなよ? カリラはどうするー?」
「え~どうしようかなぁ。うーん」
カリラは迷うように頬に手を当て、それから「行ってみようかなぁ~♪」と答えた。
「りょーかい。リグトはバイトだよな?」
フレイルの問いかけに、リグトは内職の手を止めて「魔力補充の見学か……」と呟いた。
「いや、俺も魔力補充は見てみたい。行く」
「お、珍しい~。おっけー」
フレイルはそう言うと、魔法陣を描き始めた。
「なにその魔法陣?」
「ショートメッセージが送れる魔法陣。前にさー、通信魔法を使おうとしたらすげぇムズくて。無理だったから、代わりにコレ作った」
「す、すごい。さすが天才型……悔しい!」
「便利そうだな」
「ちょっとコツがいるけどな」
フレイルはサラサラとメッセージを書いて、魔力を込めてロイズに送った。
「でも、もう夜遅いし、返事も来ないかもしれないし、そしたら私が」
「あ、返事来た」
「早すぎない?」
フレイルがまた魔力を込めてメッセージを開封すると、文字が浮かび上がってきた。
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フレイル・フライスへ
人間都市行き三名追加、了解したよ~。みんな勉強熱心で、ロイズ先生はとても嬉しいです。
この魔法、便利だね。フライスが作ったのかな、すごいね! はなまる◎
ロイズ・ロビンより
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「了解しちゃってるぅ……くっ! はなまる◎ズルい!」
「よっしゃ!」
こうして人間都市一泊旅行にフレイル、カリラ、リグトの三人も参加することになったのだ。




