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魔法教師ロイズ・ロビンは、その距離測定中  作者: 糸のいと
第一章 彼と彼女の距離

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19話 ロイズ・ロビンの家へ、ようこそ



 ユアがセクシーのことで葛藤している間。ターゲットであるはずのロイズは、のん気全開で家を片付けていた。片付けと言っても、全て魔法で片付くから楽チンであるが。


「研究部屋以外使わないから、なんか埃っぽいなぁ。浄化~」


 普段使わないダイニングテーブルなどを浄化していく。埃っぽいのも当たり前、平日はほとんど家で食事を取らない。すなわち、朝、昼、晩の全てを学園で食べている。


 毎日、6時半に起床。家の研究部屋で実験を仕掛け、次に学園の研究室で実験を仕掛けながら朝食。昼は学食でサッサと済ませて実験の様子をチェック。講義を終えたら実験結果を確認し、学食で夕食を取る。明日の実験計画を立てて、22時半に寝る。これが日常だ。枯れている。実験という単語で埋め尽くされている。あと、よく寝ている。


 特に、ユアが助手になってからは、休日も魔法学園に入り浸り。家には寝に帰るだけだった。それ以前の休日は、家の研究部屋にこもっていたのに。


「まさか、家に人を呼ぶとは思わなかったな」


 ロイズは、とても警戒心が強い。人間都市を出た十五歳以降、ずっとそういう環境に身を置いていたからだ。交友関係も狭いし、こうやって家に誰かを呼ぶことはなかった。たまに遊びに来るのは、両親くらいだ。


「そろそろ時間かな~」


 ユアとは研究室で待ち合わせをしていた。いつもの予約転移の設定を解除することなく、9時に研究室に転移してきたユアを連れて、ロイズの家に転移するのだ。


 そうして、8時45分。研究室に着いたロイズは、毎日の日課として、厳重な侵入禁止魔法の状態などをチェックする。

 そこで例の感覚が走る。身体の中心を引っ張られる感覚だ。チラリと時間を見ると8時50分。


 ―― はやっ!


 ロイズは避けようと思い、引っ張られる方向とは反対に三歩ほど素早く下がった。目の前が淡く光った後に、先程までロイズがいた付近に水色のワンピースを着たユアが現れる。


 ロイズが避けたのが悪かったのだろう。ユアは何かに引っ張られるようにして大きく体勢を崩し、思いっきり転んで床に身体を叩きつけてしまった。


「きゃ、痛っ!」

「うわ! 大丈夫!?」

「は、はい。なんか引っ張られたみたいで……ビックリしました」


 彼女は右腕を押さえながら軽く答える。腕を痛めたのだろうかと、すぐに確認すると、擦り傷と打ち身で赤くなっていた。


「……ごめん、俺が移動したからだ」

「え? いえ、私が鈍くさいだけですよ」


 ―― 今、転移してきた瞬間、ユラリスも引っ張られてた。やっぱりお互いに引っ張り合ってるんだ。俺が無理に避けたから、ユラリスが引きずられた……怪我させた


 胸がズキンと痛んだ。


「ごめん」


 すかさずユアの腕に手を当てて、治癒をする。飴色の魔力がぽわ~と灯り、ユアの腕を温めた。


「わぁ、先生の治癒魔法、ぽかぽかしてあったかくて気持ち良いですね。こんなに心地良いのは初めてです。すごい……気持ち良い……」

「ユラリスと俺の魔力相性が良いからだろうね。魔力相性が悪い者同士が治癒魔法を掛け合うと、効果は激減するんだよ。魔力相性が良いと……ほら、見て」


 擦り傷も打ち身も、跡形もなく消えてなくなり、白い肌に戻る。その間、5秒ほどであった。


「え、もう治ってる! すごい速さですね。私だったら3分くらい掛かっちゃいます」

「俺でも普段なら15秒くらいは掛かると思うけど、やっぱり治癒効果も異常だね~」

「ありがとうございます」


 ニコッと笑うユアを見て、ロイズは少しだけ居心地が悪かった。自分が避けなければこんなことにはならなかったのだと、自責の念が彼の心を大きく占めていた。


「俺が避けたから悪かったんだよ、次からは避けないようにする。ごめんね」

「でも、それじゃあ毎回ぶつかっちゃいますね。ふふっ」

「本当だよね。もし距離をコントロールできるようになったら、俺はユラリスを尊敬するよ。規則性も分かんないし……うーん」


 またもや、魔法のことを考え始めるロイズ。ユアは小さく笑って、「さぁ早く行きましょっ」と、ロイズを急かす。


「そうだった。じゃあ転移するね~」

「はい、お願いします」


 ロイズは頷いて「研究室の全員、家、転移」と呟いた。



 ふわり、ストン。



「はい、到着いらっしゃいませ~」

「わぁ……え? ……ぇえ!?」

「あ、良い反応~! びっくりした?」


 ユアは身体をグルリと回転させる。


「海!」


 驚くのも無理はない。ザッパーンと音を立てて波が寄せては引いていく。ロイズの家は海に囲まれていた。


「これって小さな島……ですか?」

「そう~」

「すごくキレイ……」

「いい天気で眩しいね」


 水面に反射した光が、キラキラと目の中に入り込む。海と空の境界線もあやふやで、ぽっかりと浮かぶ雲がどちらに浮いているのか分からなくなるほどだ。辺り一面、何もない。


「すごく素敵な場所ですね。というか、ここはどこですか?」


 ユアの問いかけに、ロイズは「あっち」と海の向こうを指差した。


「少しだけ見えると思うけど、あっちが魔法学園がある街だよ」

「あ、本当だ。小さく見えますね」

「前は普通に街に住んでたんだけど、転移できるからどこに住んでも不便じゃないなぁと思って、引っ越ししたんだ~」

「これは……風が強くて、浮遊魔法だとここまで飛んで来るのは難しそうですね」

「そうだね、練習が必要だね~」

「うーん、いつまでも先生に頼りきりでは助手として面目ありません。私も頑張って転移魔法マスターします!」

「あはは! 頑張ってね、と言いたいところだけど、ごめんね。俺の魔力を使って転移をしたときだけ出入りができる設定なんだ」

「研究室と同じ、侵入禁止魔法ですか?」

「そう。家にもわんさか実験データがあるから、一応ね」

「なるほど、リスク回避は大切ですよね」


 一応なんて言ってはいるが、こんなところに住んでいるのには理由がある。敵襲をなるべく防ぐためだ。


 ロイズ・ロビンは、国で一番強い魔法使いだと言われている。すなわち、彼を倒せば自分が一番になれるのだ。

 チャレンジ精神あふれる熱血系魔法使いや、嫉妬に駆られる闇落ち系魔法使い、政治的な思惑で喧嘩をふっかけてくる賢い馬鹿系魔法使い、そして研究結果を盗もうとするスパイ系魔法使いなど、ロイズの前に現れて戦いを仕掛けてくる。辟易するほどに。


 彼は基本的に転移で移動をするが、それでも転移で使われた魔力の跡を辿って、居場所を特定してくる手練れもいる。

 以前、街中に住んでいたときは、それで居場所を特定されることが多く、忘れた頃にやってくる敵と戦うのも面倒だったのだ。


 そこでロイズは考えた。魔力は血液の中に存在する。血液は水と相性が悪い。魔力を洗い流すように、周りを大量の水で囲えば、魔力の跡を辿るのが幾らか難しくなるのでは、と。そこで海のど真ん中に居を構えたのだ。結果、予想的中、敵襲ゼロ。

 さらに、島周辺に侵入禁止魔法を施せば、あら不思議。とっても快適な島生活の完成だ。



「ほら、いつまでも海ばっか見てないで、家に入りなよ~。早く研究部屋に来てほしいなー」

「は、はい!」


 ロイズの家は、白一色だった。一階建ての平屋なのに床面積がやたら広い。


「白いですね」

「うん、色とかデザインとか考えるの面倒でさ~。白にしとけば汚れたらすぐ分かるし、砂浜の色と同化して遠目から目立たないし、いいかなぁって」

「遠目から目立つと良くないんですか?」


 ユアを玄関に通しながら、「あー、まあね」と彼女の疑問をサラリと流す。

 もちろん、敵襲を受けにくいという意味であるが、魔法使い同士のゴタゴタなんて、ユアに知らせる気はなかった。彼女のように、真っ直ぐに魔法と向き合っている庇護すべき生徒に対して、そんな汚い現実を突きつけることなどできない。ロイズは二十三歳の教師なのだから。


「奥が研究スペースになってるんだよ~」


 玄関を通ると、リビング、キッチン、ダイニングの三つが一つのスペースにギュッと詰まっていた。この広さの家なのに、驚くほど狭い。

 リビングなんて『とりあえず置いとく?』みたいなノリで、なんとなーく小さなソファがポンと置いてあるだけ。絨毯はおろか、センターテーブルすらない。使っていないのが丸分かりだった。


 そして、やたら狭い生活スペースを通り抜けてドアを開けると。


「逆に広い!」


 ユアは驚いていた。ドアの向こう側には研究スペースがドーンと広がっていたのだ。色々と逆である。


「あはは! 実験したり魔法の練習するために必要な広さ取ったら、こんなに広くなっちゃった」

「え!? ロイズ先生でも魔法の練習をなさるんですか?」

「たくさんするよ~」

「たくさん!?」


 どうやら好奇心を刺激してしまったらしい。彼女は目をキラキラさせる。


「今は、どのような魔法を練習されてるんですか?」

「んー? ナイショです」


 ロイズがニコリと笑って言うと、ユアは少し残念そうにする。それでも、すぐに真面目な顔つきになるのが彼女なのだ。


「それで、私がお手伝いする研究というのはどういうものでしょうか?」

「それなんだけどね」


 研究部屋に入ってすぐ、彼女を椅子に座らせる。黙って座る彼女の表情からすると、続く言葉を待っているようだ。さっきはむき出しにしていた好奇心は、ここではキチンとしまい込む。気になるだろう研究部屋の詳細を聞かず、ロイズに視線を固定させる。やっぱり賢い子だな、と思った。


 それに応えるように、ニコリと笑って教師の顔で言葉を続けた。


「研究の話の前に、社会のお勉強でもしよっか」






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