表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法教師ロイズ・ロビンは、その距離測定中  作者: 糸のいと
第一章 彼と彼女の距離

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/104

17話 五学年の作戦会議、セクシーで攻めろ



「これより作戦会議を始めます」


「おい、もしかして定期開催なのか?」

「歯の浄化しちゃったから、お菓子食べれないよ~」


 夜も遅く、もう寝る時間に作戦会議は開かれた。平日は門限ギリギリまで、休日も朝から晩まで研究室に費やしているユア。五学年の仲良しメンバーを集めるのは、寝る前くらいしか時間がなかったのだ。


 そして、招かれたくもないのに招かれたリグトと、らんらんとした目で参加しているカリラは、談話室にパジャマで集合。やいのやいの騒いでいた。パジャマパーティーだ。


「あれぇ、フレイルが半分寝てるよ~」


 少し離れたところに、ほぼ寝ているフレイルが転がっていた。


「フレイル起きて!」

「こいつ、パン屋の息子だから早寝早起きなんだよな」

「うける~♪」


 フレイルが半分程度いないが、仕方がない。ユアは一つ呼吸を整えて、二人半に問いかけた。


「今日、集まって貰ったのは他でもないわ。研究のためにロイズ先生と学園の外に出るんだけど、何を着て行けばいいかわからないの。手練れの皆さん、教えてください、ぺこり」


 手練れの皆さんは、各々「おー」とか「ぐー」とか声を上げて感心する。


「デートってことか? 思いのほか進捗が良いな」

「デート! 楽しそう~、いいな~♪」


 連呼されたデートという言葉が無意識下に浸透していったのだろう。フレイルが飛び起きる。


「デート!? 今、デートって言ったか!?」

「あ、フレイルおはぁ~! ユアがね、ロイズ先生とデートするんだってぇ」

「なんだと!? そんな話、聞いてねぇけど!」


 ユアは、シーッと人差し指を口に当てる。


「訂正させて。デートではないわ。研究のために少し外出するだけよ」


 このメンバーとは仲が良かったが、さすがに本当のことは言えない。教師と生徒。研究のためとは言え、独身男性教師の家に行くだなんて話が広まってしまったら、双方共に人生が詰む。


「なんだ……研究かぁ」


 フレイルは、むにゃむにゃと、また夢の中に意識を移行していった。


「それで、男性というか……ロイズ先生はどんな服装が好きだと思う?」

「服ねぇ……そういや恋人の有無は?」


 リグトは『服よりもその中身だろう』という渋い表情をして、流れるように『中身がコイツかぁ』という目でユアを一瞥。そっと話題を変えていた。


「恋人とか婚約者はいなかったわ。ただ、その、もしかしたらというか……」

「歯切れ悪いな。ハッキリ話せ。時間の無駄だ」

「……誰とでもそういうことをする男の可能性が、高い」

「詰んでるな。解散でいい?」

「Stay、リグト。見返りは、この食券よ」

「OK、続けて」


 そこで、寝ているフレイルの顔にハンカチをかけて遊んでいたカリラが、「えーでもぉ」と意見する。


「別に、そんなの気にしなくてよくない~? 最後、選ばれたらそれでいいじゃん♪」

「さすがカリラ! 私もそれでいいかなって思っていたところなの」

「もてあそばれて、泣きを見るぞ」

「ロイズ先生ならそれも有りよ」

「何でも有りだな」


 そこで、ユアが「閑話休題よ」と制する。


「どんな服がいいと思う!?」

「結局、その話題に戻るのか。俺としては、やはり特大のダイヤモンドとか、金のブレスレットとかしてると、たぎるが……」

「却下。そんな特殊な好み、あんただけでしょ。カリラはどう思う?」

「え~、何となくだけど、ロイズ先生はぁ、清楚系が好きだと思う~♪」

「なるほど、清楚ね!」

「……あ、待て。そういえば」


 リグトが何かを思い出すようにストップをかけ、フレイルの頭をバシッと叩いた。強めだ。


「フレイル、起きろ。ロイズ・ロビンの好みを聞いてきたとか言ってなかったか?」

「なんですって!? フレイル起きてー!」

「んー?」


 バシバシと叩かれながら、フレイルはぼんやりと目を開ける。


「ロイズ先生の好みを聞いたってホント!?」

「んー、あー、マナマせんせーにきいた」


 フレイルがむにゃむにゃと話し出すと、リグトが「あぁ、そうだ」と言いながら、もう一度叩く。強い。


「フレイルのやつ、マナマ先生の助手をやってるんだった」

「へぇ、そうなの?」

「マナマ先生の研究は魔法薬草学だろ? パン作りに活かせるとかで、週一で手伝ってるんだって。俺も打診されたが、無償労働はまっぴら御免。断った」

「えぇ~、私だけ助手打診されてなぁーい。かなしー!」

「出席番号40番に、助手依頼なんて来ないだろ」

「あ、そうか~♪」


「でかしたわ、フレイル!」


 ユアは拍手でフレイルを称えつつ、耳元でパチパチと大きな音を立てる。

 フレイルは大きく伸びをして、やっと目をパチリと開けてくれた。金色の瞳が談話室の淡い光を浴びる。


「フレイル、グッジョブよ。スパイ活動ね。それでロイズ先生の好みは?」

「んー? セクシー系、一択」

「なんと!?」


 ユアは衝撃を受けた。あのロイズから『俺の好み? そりゃセクシー系の一択っしょイェイパリピ』的な回答が得られるとは、想像の域を越えていた。しかし、誰とでもそういうことをする男ならば、確かにセクシー系で整合性が取れてしまう。

 

「セクシー系……?」


 ユアは、よく分からなかった。セクシー系とは、どういう服装だろうか。自分が持っている服の中でセクシー系と言ったら、もうバスタオル一枚で闊歩するくらいしか思い付かなかった。


「バスタオル一枚……とかなら準備できるけど、どうかな?」

「セクシー通り越して痴女だ馬鹿」

「手練れのリグト様、なるほど。ならば、如何様にすれば?」


 五学年一のクズい男・リグトは「胸を出していけ」と言う。学食奢り分は働かねばと思った優等生の真面目さと、つちかってきたクズ力が相まって、素敵で的確なアドバイスとなってしまったのだ。


「胸!? この身体にくっ付いている胸を?」


 ユアが自分の胸を見ながら困惑していると、リグトは「それしかない」と言い切った。


「十九年の付き合いだ。幼なじみとして、現実を教えてやろう」

「現実?」

「お前は顔も普通、髪や瞳の色も没個性。頭は良いが、男はそんなの全く求めていない。むしろガッツがありすぎて引く。あと、心根が馬鹿だ」

「おぅふ……現実ってすごい」

「唯一、もし戦える可能性があるとしたら、身体のみ」

「身体!? 私の身体に攻撃力が?」

「難しい質問だな。攻撃力があるとまでは言わないが、平均よりはマシだろう」

「なるほど?」


 ユアは、肩に手を置かれ囁かれる。リグトの手練れ感が伝わり、謎の説得力が談話室に漂う。


「ロイズ・ロビンは身体で、落とせ」

「わ、わかったわ」


 手練れのクズバイスを丸ごと飲み込む。カリラは「アダルティ~」と訳の分からない合いの手を入れてくれた。




 少し離れたソファにだらりと寝転び、フレイルは金色の瞳を細めて意地悪に笑う。


 言わずもがな、ロイズは性をアピールするような格好をした女が大大大嫌いであった。近寄らなくても、ぞわぞわと鳥肌が立つレベルで苦手だ。


 そして、言わずもがな、マナマは『ロイズは、セクシー系の女を見ると顔が歪む』と、フレイルに回答をしていたのだ。なんと、フレイルは諜報員ではなく裏切り者であったのだ! 彼は、ユアに片思いをしているのだから、彼の正義には適っている。


「胸を、出す。身体で、落とす」


 ユアは、聞いたこともない言葉をリピートしながら噛み締めた。


「やってみるわ!」

 





 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ