17話 五学年の作戦会議、セクシーで攻めろ
「これより作戦会議を始めます」
「おい、もしかして定期開催なのか?」
「歯の浄化しちゃったから、お菓子食べれないよ~」
夜も遅く、もう寝る時間に作戦会議は開かれた。平日は門限ギリギリまで、休日も朝から晩まで研究室に費やしているユア。五学年の仲良しメンバーを集めるのは、寝る前くらいしか時間がなかったのだ。
そして、招かれたくもないのに招かれたリグトと、らんらんとした目で参加しているカリラは、談話室にパジャマで集合。やいのやいの騒いでいた。パジャマパーティーだ。
「あれぇ、フレイルが半分寝てるよ~」
少し離れたところに、ほぼ寝ているフレイルが転がっていた。
「フレイル起きて!」
「こいつ、パン屋の息子だから早寝早起きなんだよな」
「うける~♪」
フレイルが半分程度いないが、仕方がない。ユアは一つ呼吸を整えて、二人半に問いかけた。
「今日、集まって貰ったのは他でもないわ。研究のためにロイズ先生と学園の外に出るんだけど、何を着て行けばいいかわからないの。手練れの皆さん、教えてください、ぺこり」
手練れの皆さんは、各々「おー」とか「ぐー」とか声を上げて感心する。
「デートってことか? 思いのほか進捗が良いな」
「デート! 楽しそう~、いいな~♪」
連呼されたデートという言葉が無意識下に浸透していったのだろう。フレイルが飛び起きる。
「デート!? 今、デートって言ったか!?」
「あ、フレイルおはぁ~! ユアがね、ロイズ先生とデートするんだってぇ」
「なんだと!? そんな話、聞いてねぇけど!」
ユアは、シーッと人差し指を口に当てる。
「訂正させて。デートではないわ。研究のために少し外出するだけよ」
このメンバーとは仲が良かったが、さすがに本当のことは言えない。教師と生徒。研究のためとは言え、独身男性教師の家に行くだなんて話が広まってしまったら、双方共に人生が詰む。
「なんだ……研究かぁ」
フレイルは、むにゃむにゃと、また夢の中に意識を移行していった。
「それで、男性というか……ロイズ先生はどんな服装が好きだと思う?」
「服ねぇ……そういや恋人の有無は?」
リグトは『服よりもその中身だろう』という渋い表情をして、流れるように『中身がコイツかぁ』という目でユアを一瞥。そっと話題を変えていた。
「恋人とか婚約者はいなかったわ。ただ、その、もしかしたらというか……」
「歯切れ悪いな。ハッキリ話せ。時間の無駄だ」
「……誰とでもそういうことをする男の可能性が、高い」
「詰んでるな。解散でいい?」
「Stay、リグト。見返りは、この食券よ」
「OK、続けて」
そこで、寝ているフレイルの顔にハンカチをかけて遊んでいたカリラが、「えーでもぉ」と意見する。
「別に、そんなの気にしなくてよくない~? 最後、選ばれたらそれでいいじゃん♪」
「さすがカリラ! 私もそれでいいかなって思っていたところなの」
「もてあそばれて、泣きを見るぞ」
「ロイズ先生ならそれも有りよ」
「何でも有りだな」
そこで、ユアが「閑話休題よ」と制する。
「どんな服がいいと思う!?」
「結局、その話題に戻るのか。俺としては、やはり特大のダイヤモンドとか、金のブレスレットとかしてると、たぎるが……」
「却下。そんな特殊な好み、あんただけでしょ。カリラはどう思う?」
「え~、何となくだけど、ロイズ先生はぁ、清楚系が好きだと思う~♪」
「なるほど、清楚ね!」
「……あ、待て。そういえば」
リグトが何かを思い出すようにストップをかけ、フレイルの頭をバシッと叩いた。強めだ。
「フレイル、起きろ。ロイズ・ロビンの好みを聞いてきたとか言ってなかったか?」
「なんですって!? フレイル起きてー!」
「んー?」
バシバシと叩かれながら、フレイルはぼんやりと目を開ける。
「ロイズ先生の好みを聞いたってホント!?」
「んー、あー、マナマせんせーにきいた」
フレイルがむにゃむにゃと話し出すと、リグトが「あぁ、そうだ」と言いながら、もう一度叩く。強い。
「フレイルのやつ、マナマ先生の助手をやってるんだった」
「へぇ、そうなの?」
「マナマ先生の研究は魔法薬草学だろ? パン作りに活かせるとかで、週一で手伝ってるんだって。俺も打診されたが、無償労働はまっぴら御免。断った」
「えぇ~、私だけ助手打診されてなぁーい。かなしー!」
「出席番号40番に、助手依頼なんて来ないだろ」
「あ、そうか~♪」
「でかしたわ、フレイル!」
ユアは拍手でフレイルを称えつつ、耳元でパチパチと大きな音を立てる。
フレイルは大きく伸びをして、やっと目をパチリと開けてくれた。金色の瞳が談話室の淡い光を浴びる。
「フレイル、グッジョブよ。スパイ活動ね。それでロイズ先生の好みは?」
「んー? セクシー系、一択」
「なんと!?」
ユアは衝撃を受けた。あのロイズから『俺の好み? そりゃセクシー系の一択っしょイェイパリピ』的な回答が得られるとは、想像の域を越えていた。しかし、誰とでもそういうことをする男ならば、確かにセクシー系で整合性が取れてしまう。
「セクシー系……?」
ユアは、よく分からなかった。セクシー系とは、どういう服装だろうか。自分が持っている服の中でセクシー系と言ったら、もうバスタオル一枚で闊歩するくらいしか思い付かなかった。
「バスタオル一枚……とかなら準備できるけど、どうかな?」
「セクシー通り越して痴女だ馬鹿」
「手練れのリグト様、なるほど。ならば、如何様にすれば?」
五学年一のクズい男・リグトは「胸を出していけ」と言う。学食奢り分は働かねばと思った優等生の真面目さと、つちかってきたクズ力が相まって、素敵で的確なアドバイスとなってしまったのだ。
「胸!? この身体にくっ付いている胸を?」
ユアが自分の胸を見ながら困惑していると、リグトは「それしかない」と言い切った。
「十九年の付き合いだ。幼なじみとして、現実を教えてやろう」
「現実?」
「お前は顔も普通、髪や瞳の色も没個性。頭は良いが、男はそんなの全く求めていない。むしろガッツがありすぎて引く。あと、心根が馬鹿だ」
「おぅふ……現実ってすごい」
「唯一、もし戦える可能性があるとしたら、身体のみ」
「身体!? 私の身体に攻撃力が?」
「難しい質問だな。攻撃力があるとまでは言わないが、平均よりはマシだろう」
「なるほど?」
ユアは、肩に手を置かれ囁かれる。リグトの手練れ感が伝わり、謎の説得力が談話室に漂う。
「ロイズ・ロビンは身体で、落とせ」
「わ、わかったわ」
手練れのクズバイスを丸ごと飲み込む。カリラは「アダルティ~」と訳の分からない合いの手を入れてくれた。
少し離れたソファにだらりと寝転び、フレイルは金色の瞳を細めて意地悪に笑う。
言わずもがな、ロイズは性をアピールするような格好をした女が大大大嫌いであった。近寄らなくても、ぞわぞわと鳥肌が立つレベルで苦手だ。
そして、言わずもがな、マナマは『ロイズは、セクシー系の女を見ると顔が歪む』と、フレイルに回答をしていたのだ。なんと、フレイルは諜報員ではなく裏切り者であったのだ! 彼は、ユアに片思いをしているのだから、彼の正義には適っている。
「胸を、出す。身体で、落とす」
ユアは、聞いたこともない言葉をリピートしながら噛み締めた。
「やってみるわ!」




