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魔法教師ロイズ・ロビンは、その距離測定中  作者: 糸のいと
第一章 彼と彼女の距離

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14話 家に連れ込もうと必死な感じが頂けない



「ユラリス、君に会えて良かった」



 ―― えーー!? きたきたきた!? うっそー! 展開はやぁい!


 雰囲気的に神妙な面持ちをしてはいたものの、内心でユアは大歓喜していた。


 ―― ほとんど何もしてないのに、攻略計画の『親密度アゲアゲ作戦』が完遂したわ! 我ながら恐ろしい手腕ね


 ユアの『ロイズ・ロビン攻略計画』は、研究助手を主軸とした『親密度アゲアゲ作戦』と、友人たちのアドバイスからなる『彼の心をガッチリ作戦』の二流れで進められる予定であった。


 しかし、ロイズのことを『誰とでもそういうことをする男』と、ユアが認定してしまったため、頓挫しているかのように見えた。しかし、ユアはこっそりと着実に進めていたのだ。


 ここで、ユアの計画書の親密度アゲアゲ作戦の部分を抜粋する。


=======

(前略)


〈研究助手主軸の親密度アゲアゲ作戦〉

 ロイズの助手になる→尽くしまくる→ユアなしでは不便な環境を作る→なくてはならない存在に=ロイズにとっての『重要な他者』に!


(以下略)

==========


 ユアがサクッと採血を提案したのは、もちろん知識欲の面もあるが、根底にあるのはロイズのためだ。助手としてではなく、一人の女としてロイズのために採血を了承したのだ。

 平日も門限まで、休日も朝から晩まで研究に時間を捧げると言い切ったのも、この計画に則ってロイズに尽くすためだ。清廉潔白な優等生だなんてとんでもない。

 ユアは、私利私欲まみれの恋する女だ。尽くして尽くして尽くしまくる! それが、こんなに早く花開くとは! 心の中では、ガッツポーズ全開であった。



「それでさ、ユラリスに来てほしいんだけど」

「はい。えっと、どこに?」


 ユアは、先程の『君に会えてよかった』云々のロイズの言葉を脳内録音して、百回ほど再生していた。ロイズの言葉に続きがあったことを認識し、慌てて現実に意識を戻す。

 

「俺の家」


 現実も夢のようだった。


 ―― ぎゃーん! いきなり!? さすが誰とでもそういうことをする男……! でも、ロイズ先生ならそれでもいい、ギャップがいい! それに研究室じゃなくて家で致すということは、私が本命という解釈でフィックスね!


「は、はい……私、その、初めてでよく分からないんですけど」

「大丈夫、任せて!」


 ―― 頼もしい、ステキ! 全部任せる!


「いや~、誰かと一緒にやるなんて思わなかったなぁ。かなり雑多な感じなんだけど、ユラリスが来るまでに少しは片づけておくよ」

「いえ、そんな! 雑多でも愛があれば……ん? いつも一人でするんですか!?」

「うん、一人だよ~」

「??」


 ―― 一人? 私は見てるだけ? え? どういうこと? (想像中)なるほど……乗り越えてみせる! 受け入れて、みせるわ!


「大丈夫です、私、頑張れます!」

「あはは! ユラリスは魔法研究が好きなんだね~。頼もしいなぁ」

「はい、大好き……へ? 研究?」

「うん。学園でやってる研究の他に、個人的に進めてる研究があるんだ。それは家でやってるから、ユラリスに来てほしいなぁって話」


 ―― がーーん! 研究の話だったぁ!


 案の定そういうことである。さすが魔法バカ、タイミング力も語彙力も崩壊している。

 そして、学園でも研究、家でも研究、いつも研究、どこでも研究。もはや変態だ。


「なるほど。そういうことですね。理解しました」


 ユアは、目の前の魔法バカに怒りを感じた。君が必要だとか、出会えて良かったとか口説き文句みたいなことを言って、家に誘っておきながら、まさかの研究。怒りを感じても仕方ない。

 しかし、ここでキレては流れた血(採血)が無駄になるだけだと、グッと堪えた。それに早とちりした自分も悪い、とも思った。だがしかし。


「ダメです、行けません」


 ―― いやーん! 断っちゃった。先生の家に行きたい行きたい行きたいー!


 ユアは、へそを曲げていた。曲がったへそが、彼女にそう言わせていた。変態プレイを想像して、受容する覚悟までしたのだ。へそくらい曲げたって良いはずだ。


「え! なんで!? あ、予定ならユラリスに合わせるし、食事も提供するし、転移で俺が連れてくし、帰りは寮まで送るよ!」


 説得が必死であるが、全くの的外れ。一つもかすっていない。せめて『美味しいケーキを用意しておくよ』くらい言えないものだろうか。

 そして、二十三歳男性教師が、女子生徒を家に連れ込もうと必死な感じが頂けない。


「ロイズ先生、違います」

「え……?(困惑) あー、えーっと、あ! ケーキも出すよ!」


 絞り出した! がんばった!


「違います」


 違った。


 ユアは、わざとらしくため息をついて「ロイズ先生」と言って続けた。


「先生には恋人とか、そういう類いの存在はいらっしゃらないんですか? 私は女です。お相手の方が嫌がるのでは?」


 ここで、さり気なくロイズのお相手の有無を確認するユア。策士である。

 すると、ロイズは、殊更イヤそうな顔をして「いないいない」と首を振る。余程イヤなのだろう、首の振り方が高速だった。


「恋人なんていないし、いらない」


 ロイズの言葉に、ユアはハッとする。


 ―― さすが……誰とでもそういうことをする男は、恋人なんて縛られる関係はイヤということね


 勘違いの連鎖が止まらない。


「結婚願望もないんですか?」

「ないね~。生涯独身だろうなぁ、あはは~」


 ―― がーーん、難易度MAX! 遊び人すぎて笑えない!


「さ、さようでございますか。コホン。例え、お相手がいなかったとしても、男性の家にホイホイ行くなんて、私は出来ません」


 ロイズは、きょとんとしていた。


「ダンセイ? ……あ、俺か!」


 恋愛と離れすぎて、最早、性別把握すら乏しいレベルであった。


「あはは! 大丈夫だよ~。研究パートナーって間柄なわけだし、何も気にしなくて大丈夫大丈夫♪」

「ソウデスカネ。でも男と女ですから」

「ぇえ、オトコトオンナ? 全く問題ないよ~。ユラリスって、()()()()()()しないもん、大丈夫大丈夫♪」

「は?」


 ロイズは、こう思っていた。『ギラギラと欲丸出しで、手段を選ばずに襲いかかってきた薄汚れた女共と、ユラリスは全く違うよ。君は清らかで理知的で勤勉な良い子だ。だから俺を襲うわけない』と。襲われる側の想定であった。


 しかし、ユアはこう受け取った。


 ―― 『お前じゃ勃たない、勘違いするな』ってこと!?!


 確かに経験はないし、手腕もない。真面目だけが取り柄の美人でも何でもない普通の十九歳だ。でも、さすがにムカムカが収まらなかった!


「絶対いきません!」

「え……ユラリス?」


 ユアは、ロイズをジロリと軽く睨んだ。


「行きませんからね!」






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