100話 ロイズ・ロビンは、君との距離を ―― last episode
―― やっちゃったぁぁぁあああ!!
色んな意味でやっちゃったロイズは、寝室の窓から差し込む夕焼け小焼けに射され……いや、ぶっ刺されていた。
―― 俺は、なんてことをしてしまったんだぁああああ!!
自分の堪え性の無さに頭を抱える。何が『徐々にゆっくりと』だ。実際には『一気に速やかに』だった。対義語にすると手の早さが際立つ。
卒業式は昨日だ。教師と生徒ではなくなった当日に早速、ユアが家に来て即行で、しかも真っ昼間なのに躊躇なく、思いっきり手を出してしまったわけだ。なんてことをしてしまったのか。仕事が早くて大変素晴らしい。
―― 俺って、こんな手の早い男だったのかぁああ!?
恋愛ぽんこつ魔法バカから、恋愛ウェット激重男に羽化したと思ったら、光の速さでチャラ男になった。大空に羽ばたきすぎだ。
胸中絶叫をしながら抱えた頭を少し緩め、同じシーツに包まって、うつらうつらしている愛しの彼女を見る。押し寄せる多幸感に、ロイズの口元は自動で緩む。
―― でも……すっごい良かった。めっちゃくちゃ可愛かった。幸せすぎる。ユラリスの初めて、一生忘れない……
ロイズは幸せを噛み締めていた。手も早いが、立ち直りも早い男だ。
「ん……あ、ロイズせんせ。ごめんなさい、寝ちゃってました、ふぁ……」
「寝てていいよ~」
デロデロのでれでれ顔で、ロイズは焦げ茶色の髪を優しく撫でる。
恥ずかしそうに「もったいないから、起きていたいです」と、返してくる彼女。
―― っかはぁぁぁああ! 可愛いに殺されるっ!!
ぶっ壊れ気味のロイズであった。
「……身体、つらくない? 痛かったりする?」
「大丈夫です。全然痛くなくて、その、とても……」
顔を真っ赤にして、そんな素晴らしい感想を言われてしまったら、そりゃもうね、ロイズだって男だ。そうなってしまう。慌てて目をそらし、息を吐いて欲を逃がした。
そこでユアは、何かを思い出したような顔をして、そう言えばと恥ずかしそうに続けた。
「その……してるとき、時々魔力流してませんでした?」
「!? ソンナコトシテナイヨ!」
「そうですか、気のせいかしら……」
―― はい、流してました、ごめんなさいぃー!
嘘つきロイズである。
―― 少しでも痛くないようにと思って、バレない程度に浅く魔力を流してましたぁ! もっと気持ち良くなってもらいたくて流してたとか、言えない! 絶対に言えない!
魔力共有をするとエロくなる性質を利用して、こっそりとユアの痛みを和らげていたロイズ。こんな活用方法があるとは、さすが天才魔法使いは全てにおいてジーニアスである。エロジーニアス。
「喉、渇いたよね。お水飲む?」
「あ、はい」
起き上がりつつシーツで身体を隠す彼女の仕草に、またもやロイズは滾りつつ、「コップ」「水」と言って飲み物を用意する。
ロイズの魔力で作られた水が、一糸纏わぬ彼女の身体に入っていく様は。
―― エロい……
煩悩がすごい。
「そうだ、荷物を片付けないといけないんだっけ。部屋はどんな感じがいい~?」
「どんな感じ、とは?」
「ユラリスの私室みたいな感じがいいかなぁ。本棚はたくさんある方がいいよね。それとデスク、クローゼット……うーん、他に必要なものある?」
「いえ、特に……?」
「あと、えっとさ、あのさ……」
視線をそらしながら、ごにょごにょするロイズ。24歳男性がもじもじしている。
「……ベッドは一緒でいい、かな!?」
「~~~っ! は、はい。一緒がいいです」
「本当っ!? 良かったぁ、毎日一緒に寝られるね~。じゃあ、もう少し大きいベッドに変えよう!」
ロイズの顔がパァっと明るくなる。毎日、同じベッドで寝ることを了承しただけで、見て分かる程に喜んだ顔をしてくれる。彼に好かれているのだと実感した。
もちろん、今までだって、ロイズの気持ちを感じ取ってはいた。彼の瞳の奥には、いつもユアを大切に思っている熱があったから。でも、こうやって何の制限もなく近付いてみると、その熱が思っていたよりも深いことに気付かされる。
「じゃあ、部屋を作ろっか」
「作る? あ、荷物を片付けるってことですね」
「ちゃっちゃとやろう~」
ロイズが服を羽織り出すと、そこでユアが「あ」と言った。
「これ、気になったんですけど、先生も魔法陣を刻んでるんですか?」
ロイズの腰骨に刻まれた魔法陣に、そっと触れられる。指先から、熱が伝わった。
―― ~~っ!! 今、そこを触られると、ヤバいんですけど!!
「あ、うん、刻んでマス!」
溢れそうな欲を切り刻んで、色々と収めた。危ないところであった。
「何の魔法陣なんですか? とっても綺麗……」
「んー、ユラリスならいっか。ほら、俺って魔法陣を描かずに、言葉だけで魔法を発動させてるでしょ? この魔法陣が、その秘密」
「これが!? な、なるほど……」
「別に普及させてもいいんだけどね~。取り扱いが繊細で、頭の中でちゃんとイメージが出来てないと魔法の暴発が起きるんだ。だから、秘密にしてる」
「秘密」
「そう~。ユラリスだけが知ってる、俺の秘密だね」
「私だけ……? すっごく嬉しいです」
これだけのことで、喜んでくれる彼女。
―― 可愛いなぁ、可愛い、好きだなぁ
「ユラリス」
思わずキスをすると、二人の視線が絡まって空気がとろける。そんな空気を吸い込んでしまうと、どうしても欲が出てしまうロイズ。絡まった視線を慌てて解いた。
―― 初めてだったんだから、連続はダメ! 我慢、我慢
欲は限りがないから。どこまでいっても、我慢、我慢である。
「ふ、服を着よう!」
「そ、そうしましょう!」
そうして、夕方。
「うわぁ、暗くなってきた。でも、やっちゃおう! ユラリスも外出るよ~」
ロイズはふわっと浮遊して、そのまま窓から外に出てしまう。ユアは不思議に思いながらも追いかけた。
何が始まるのか。白い家を真上から眺めていると、その横でロイズは目を閉じてブツブツ言い始める。どうやらイメージを深めているようだ。
「じゃあ、いくよ~」
「は、はい?」
ロイズが何やら呟くと、白い家の壁や屋根が生き物のように蠢いた。
まず、屋根がヨイショと重い腰をあげてどいてくれた。すると、お人形のお家みたいに、家の中の様子が空からよーく見えるようになった。
次に、元々あった壁がサササッといなくなってくれて、新しい壁がにょきにょきっと生えながら、可愛らしい壁紙にお着替えをしていた。お洒落さんな壁である。
壁が居心地良さそうに場所を決めると、壁に合わせて床がヨイショと広がった。と、思ったら、本棚やデスクがポンポンと作られ、テクテクと歩いて床の上にドッコイショ。
隣の部屋をよく見ると、先程まで寝ていたベッドがにょきにょきと伸びをするように、大きく成長していた。見違えるように成長したベッドは、いつの間にか二人用になっていた。
「ふぅ、とりあえずはこんな感じ? また明日、ちょこちょこ直したりしようね~」
そう言いながら、最後に屋根をパタリと閉じて、増築完了。
「って、ぇええ!? ロイズ先生、自分で家を作れるんですか!?」
「うん、できるよ~」
「あっという間に、部屋が出来ましたね……」
驚きを通り越して目眩がする。普通の魔法使いはこんなこと出来ない。専門の建築魔法使いたちに多額のお金を払って、あーだこーだ言いながら、数日かけて家造りをするのだ。
「あ、普通は頼んでやってもらうんだっけ~?」
「そうです。ロイズ先生、凄すぎます……」
「あはは! 慣れれば簡単だよ~」
ユアだって、簡単な食器くらいなら作れる。だが、服や靴、さらに家具ともなると絶対無理。細部までイメージが行き届かないのだ。そのため、その道のプロが魔法で作ったものを購入している。
この一連の流れで、ロイズの金払いがやたら良い理由が分かってしまった。この調子で、何でも自分で出来るのだろう。きっとお金を使うことが極端に少ないはずだ。もしかしたら、食費くらいかも。
加えて、上級魔法学園のエリート教師。そう言えば、魔法省に協力する代わりに『お小遣い』を貰っているとか言っていたような。
収入は多いのに、支出が極端に少ない。金が有り余っているのも頷ける。
「なるほど、それで専属助手なんて提案ができたわけですね……納得しました」
「うん?」
「やはり、『ロイズ・ロビン』は想像を超えてきますね。気を引き締めなければっ!」
「??(気を引き締めてるユラリスも可愛いなぁ)」
そして、増築された家に入って、ようやく荷物の箱を開けようとしたら、「任せて~」とまたもや天才魔法使いがしゃしゃり出る。スパダリか?
「よいしょ」
ロイズがそう言うと、荷物がふわふわ浮いて、作りたての部屋に隊列を作って進んでいく。
「どこに何を入れるか教えてね~。全部やってあげるから」
「……ロイズ先生と一緒にいたら、私、ダメ魔法使いになりそうなんですけど……」
「あはは! ダメ魔法使いのユラリスもいいね~」
荷物を開けて貰ったり並べて貰ったり、ユアはほとんど何もせずに引っ越しが完了してしまった。ラクすぎて怖い。
「あ、これ昨日の卒業式で降らせた花だ~」
「はい、花屋さんでプリザーブドフラワーにしてもらおうと思って」
「俺、やろうか? プリザーブドってことは、このまま枯れないようにすればいいんだよね」
「そんな魔法まで!?」
「あはは! やっぱりユラリスの反応、いいよね~」
ロイズは、花に何種類か魔法を掛けて「これで枯れないよ」と言いながら渡してくれた。
「大切にします、ありがとうございます」
『大切』という言葉で、ロイズは思い出す。卒業式のとき、ユアが『大切な思い出』と言っていたことを。
「そう言えば、入学式のときに花を降らせたことが、大切な思い出とか言ってたよね」
「はい、初恋の思い出といいますか……ふふっ」
―― ハツコイノオモイデ? ……は? はぁ!?
ロイズの身体のどこからか、ピキッと音が鳴る。心か頭か、その両方か。結構、ピキッてた。
「へー? ふーん? ソウナンダー」
「このお花を見ると思い出して、ドキドキします」
「ドキドキぃ!? ……へー、入学式で? ふーん……ひ、一目惚れってやつ?」
「一目惚れ!? あ、でも今思うと、そうなのかもしれませんね。元々、名前も人柄も知ってたから、一目惚れというと言葉が違うかもしれませんが」
「ふーん、元々知ってたんだぁ、へー、ソウナンダぁ??」
―― すっごいイライラする。なんでそんな話するかなぁ!? どこのどいつだよ。別に初恋とか、どうでもいいけど! ユラリスは未来永劫、俺のユラリスだし。別に、別に、どうでもいいけど!
「同級生?」
「何がですか?」
「相手、誰なのかなーって。別にね、どうでもいいんだけどね? まあ一応、(そいつと関わり合うのを妨害するために)聞いておこうかなって。どうでもいいんだけどね?」
すると、ユアはきょとんとした。
「先生です」
「センセイぃい?」
―― ユラリスって教師が好きなの!? 教師ってだけで、恋しちゃうの? 待て待て待て。ユラリスが当時一学年のときに、若い男の教師……二学年のアイツか!?
昨日までは、にこやかに雑談をするような割と仲良しの同僚だったのにも関わらず、もう二度と言葉を交わさないと心に決めたロイズ。心がとっても狭い。心の隙間がゼロ距離だ。
「ふーん、二学年の先生か。どういうところが良かったの? 別にどうでもいいんだけどね?」
―― 優しさ? 魔法の技術? ユラリスが良いと思ったところを、全部潰す。全身全霊をかけて潰して、美しき初恋の思い出の全てを消し去ってみせる!
物騒だ。ユアが『顔です』とか答えたらどうするんだ。面子という意味ではなく、物理的に顔が潰れることになるではないか。
一方、ユアは突然の二学年の先生の登場に、またもやきょっとーーん。
「あの、ロイズ先生です」
「ん? なにが?」
「あれ、言ってませんでしたっけ? 入学式のときに、当時五学年のロイズ先輩に恋をしたんです」
「……へ?」
「元々、『ロイズ・ロビン』のことは知っていて、それが入学の理由でした。入学式でロイズ先生を見て、魔法を使う姿を見て、……どうしようもなく、好きになりました」
「ぇえ!!?」
「だから、卒業式のときにネクタイが欲しかったんです。ずっと、遠くから見てるだけの片思いでしたけどね。ふふっ、恥ずかしいです」
そこで、ロイズは思い出す。
―― そうだ。五学年の初講義の日、学食に転移したとき、距離は10cmだったんだ。あの時、すでに好きになってくれてたってことだ
「一学年のときからだったの!?」
「ふふっ、そうです。片思い歴は、丸四年。やっと近くにいられると思って、進級するときは嬉しくてドキドキしてました」
「四年間も……本当に?」
「はい。初講義の岩壁チャレンジで頑張れば、ロイズ先生とランチをご一緒できると思って、魔力切れギリギリまで全力を出しました」
「そうだったの!?」
それで魔力量おばけであるという嘘をつく羽目になったことを生温く思い出し、ユアは少し遠い目をした。でも、その下らない嘘で人類が救われたのだから、まあ、結果オーライである。
「全然、知らなかった……」
先程の苛立ちが嘘みたいに消え去って、頭の上からふわ~っと幸せの塊みたいな何かが降ってくる。喜び、嬉しさ、ドキドキ、そういう幸せなものが詰まって、特別なプレゼントみたいに手の中に降りてきた。
―― う、嬉しい……。なにこれ、すっごい嬉しい。うわ、やばい、泣きそう
「それくらい、ロイズ先生のことが大好きなんです」
「~~~っ!!」
―― くぅ……! 可愛い、可愛い、可愛い!!
「ロイズ先生は、いつ頃から、私のことを良いなって思って下さったんですか?」
世界一可愛らしい質問に、ロイズはデレデレしながら記憶を辿った。
「それね~。なんというか、グラデーションみたいになってて、境目が分かんないんだよね。そもそもに、俺って女性恐怖症気味で、近寄られるだけで鳥肌立っちゃうんだけどさ」
「そう言えば、そうでしたね!?」
「でも、ユラリスだけは、本当に初めから大丈夫で。一つもイヤじゃなくて。その時点で、もう俺の特別だった」
「異常値のペアだから……?」
「分からない。一目惚れみたいなことだったのかもしれないし、異常値のペアだったからかもしれないし。それは、今後の研究テーマだね~」
こんなラブい話の最中でさえ研究の話が出てくるとは、魔法バカは健在だ。安心だ。
「でも、はっきりと自覚したのは八月かなぁ。ユラリスが青紫色になったとき」
「八月!? 思っていたのと違いました……」
「そうなの?」
「七月の魔力補充の社会科見学で、先生は私のこと好きなのかなーって……オモッテマシタ。うぅ勘違い、恥ずかしいです!!」
ユアが恥ずかしそうに悶えるものだから、ロイズはとにかく彼女が愛しくて、込み上げる想いをそのままに、触れるだけのキスをした。
「~~~っ!」
「ユラリスって、驚くほど可愛いよね」
「か、かわ……っ!?」
「うん、可愛い」
心の中では四六時中、可愛い可愛いと連呼しているロイズであるが、あまり言葉にはして来なかった。言葉にしてはならない関係だったから。
「はぁ……なんか……私の方が好きで好きで仕方がなくて、このまま一生、ロイズ先生に振り回されてしまいそうです……」
「ぇえ?? どっちかと言うと、俺の方がユラリスのこと好きだと思うけどなぁ」
「~~っ! ほら、もう、そういうとこですよ! 振り回される未来が見えます」
なんというラブラブな会話だろうか。昨日まで一つも言葉にしなかった癖に、ああなっちゃったら、こうなっちゃって、こんなことになっちゃったわけだ。
せき止められない甘い会話が、波の音に乗っかって、波紋みたいに広がった。
でも、こんな愛にまみれた会話をスパッとせき止めるのが、この魔法バカだ。
「……じゃあ、検証してみようか?」
魔法教師が、ニヤリと笑った。
「検証?」
「ユラリスと、俺。どっちの気持ちが大きいか。実験してみる?」
好奇心と探究心を詰め込んだ、その飴色の瞳がキラキラと輝く。それを見てしまったら、魔法が大好きな助手は、こう答えてしまう。
「やります!」
「じゃあ、転移実験をしよう」
「転移実験……?」
真っ白な研究部屋の広いスペースで、二人は向かい合わせに立った。教師と生徒ではなく、ただの魔法使い同士として。
「これから、俺が転移をする。どっちの予測値が当たるか、確かめてみよう?」
「望むところです」
いつかの転移実験。ロイズに『一人の魔法使い』として認めてもらえた、あの転移距離予測実験だ。
「行くよ。設定距離、5m」
「はい! 予測値……ゼロ」
ユアは速くなる心拍数に、その距離はゼロだと予測した。
「俺の予測は、5m」
ロイズが「転移」と呟くと、淡い光と共にふわりストン。
「『距離測定中……記録、5m』」
「え!?」
「今度は、俺の予測値がピッタリだったね~」
ロイズがイタズラに笑うと、ユアは少し悔しそうに口を尖らせた。
「……そうなんです。もう随分前から、予測値と測定値に差異が出るようになっていて……」
「いつから差異が出たか、分かる?」
「はい。ちょうど、青紫色になった頃からです」
さすが、ガリ勉。即答するところが本当にガリ勉だ。
「なので、魔力共有の影響かもと思ったのですが、理論からすると、私の仮説は違和感があって……」
ブツブツと頭良さそうなことを言うユア。ロイズは「あはは!」と笑った。
「やっぱり、ユラリスはいいね~。本当に好い」
「あ、その感じ……。ロイズ先生は、原因が分かってるんですよね?」
ロイズは人差し指に魔力を込めて、空中に波線を描き出した。飴色に光る二つの波線が、白い部屋で光り輝く。まるでイルミネーションみたいな講義だ。
「異常値のペア間での、転移位置のズレ。これは、二人の心臓の挙動……要は、心拍数が極端にズレた際に起こる」
「はい。なので、私の心拍数からすると、予測値はゼロです。だって、こんなにドキドキしてますから。心拍数のズレが無いなんて……え?」
その瞬間、ユアは一つの事実に気付いて、目を見開いた。5m先には、口元を隠して楽しそうにしている、魔法教師がいた。
「全く同じ、心拍数……ってことですか?」
「正解」
ユアは自分の心臓をぎゅっと抑えて、真っ赤な顔で「先生も、こんなに……?」と、信じられないという様子で呟く。
「俺がユラリスのことをどれくらい好きか、分かった?」
出会った頃にあった距離、謎と答えの距離、生徒と教師の距離、そして人間と魔法使いの距離。
色々な距離を測って、手繰り寄せて、その距離をゼロにしてきたけれど。
「この距離だけは、ゼロにならないように頑張るよ」
ロイズはユアにそっと近付いた。
ケンカをしても、おじいちゃんおばあちゃんになっても、この距離だけはゼロにならないように。空いた愛しい5mを、一歩一歩、手繰り寄せるように歩いていく。
手繰り寄せた二人の、その距離。
5m、4m、3m、2m、1m。
「ずっと、測定していてくださいね、ロイズ先生?」
8cm、7、6、5、4。
「誓うよ、ずっと」
3、2、1、ゼロ。
海の真ん中、白い家、二つの心音が重なり合って、強め合う。
ずっと、こうしていたいから。
今日も、魔法教師ロイズ・ロビンは、その距離測定中。
【魔法教師ロイズ・ロビンは、その距離測定中】・完
完結です。
ここまで読んで頂いた方、お付き合い頂きまして、本当にありがとうございます。
評価、ブクマ、いいね等、頂いたこと、一生の宝物にして、泣きながら感謝します。
本当にありがとうございました!
以下、蛇足。
ーーーーーー
あとがき
一応、魔法研究物の小説でしたが、いかがでしたでしょうか。距離感分からなくてメジャー片手に小説を書いたのは初めてでした。
お付き合いいただき、感謝しかないです。ありがとうございます!
どこかの後書きでロイズの名前のスペルについて触れましたが、ユアのスペルはYourです。
ユラリス家の家族の名前からお分かりかと思いますが、そのままYourです。安直。
なので、ロイズと結婚してロビン姓を名乗ったら、
Your・Loving
になって、『あなたの愛する女性は、私』=『運命の相手』みたいな感じにならないかなと思い、名付けました。
教師と生徒の、ロイズとユア。そのせいでイチャイチャが少なかったのが心残りです。
ドロドロに溶けてイチャイチャしつつ、また新しい謎を見つけながら、ずっと仲良くしていて欲しいですね。二人に幸あれ!
番外編とか後日談でイチャイチャを書きたいなとは思っていますが、持ち弾はゼロなので未定です。
(追記→2024年2月番外編を追加しました)
最後に。もしお時間がありましたら、↓の☆でポイントを入れていただけると、今後の励みになります!
よろしくお願い申し上げます。




