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9、対象者 ① ジョーモ

「錬金協会さんが、何か用っすか?」


 ジョーモさんが立ち上がり、柱の陰から顔を出した。見た目は、思いっきり陽キャだよな。栗色の髪は、ひどいくせ毛だが上手くまとめているし、たぶん流行の最先端の服を着ている。


「ジョーモさん、少しお話を伺いたいので、お時間よろしいでしょうか?」


 追放ざまぁ支援局のアロンさんは、錬金協会としてジョーモさんを探していることにしたようだ。彼が、ジョーモさんの席に近寄っていく。だが、僕は動けない。



「俺、友達と昼飯中なんすよね〜」


 ジョーモさんと同じテーブルにいた人達は、店の出入り口を塞ぐように立つ僕の方を、何度も睨みつけるように見てくる。


「お食事は、お済みのようですね。ちょっと外に出ていただいても、よろしいでしょうか」


「ジョーモ、おまえ、何をやらかしたんだ? やっぱり俺達の判断は正しかったな。もう顔を見せるなよ」


 な、何? 友達じゃないのか?


「おまえは、何をやってもクソだからな。牢屋が似合うぜ。処刑されたら腹抱えて笑うぜ」


「皆さん、何か誤解されているようですが、ジョーモさんには、お話を伺いたいだけですよ。彼のスキルが、錬金協会として、魅力的なものですので」


 アロンさんが大きな声で、ジョーモさんの友達の言葉を否定した。店内にいる人達に聞かせたのだろう。


「俺達は、もう店を出るところだったんで、好きに連れて行ってください。というか、そもそも友達じゃないんで」


 ひどい! 


 彼らは、ゲラゲラと笑いながら席を立った。そして、会計もしないで、僕を睨みつけながら、横を通っていく。


「お客さん、お会計をお願いします!」


 店員さんが慌てて追いかけて行った。


「一番遅い奴が全額払うぜ。俺達は、そういう決まりだからな」


 そう言われては、店員さんは、それ以上は引き止められなかったようだ。店に戻ってきてオロオロしている。


「俺が払うんで、大丈夫っすよ〜」


 ジョーモさんは、へらっと笑って、店員さんにお金を渡している。彼は、いつも、友達の分も強制的に払わされているようだ。この状況に慌てる様子もない。


 僕の目には、魔道具が見せるジョーモさんの光が、泣いているように見えた。ヘラヘラしているし、陽キャに見えるのに、彼は、友達からいじめられているのか。




 ◇◇◇



 店を出ると、アロンさんはジョーモさんを連れて、世間話をしながら歩いた。僕は無言で、二人の後ろからついて行く。さっきの店の付近は人が多いから、離れることにしたのだろう。


「この辺りなら、適度に賑やかですね」


 僕が宿泊している宿屋の近くにある、市場の屋台の椅子に、アロンさんは座った。歩き疲れたのかもしれないな。


「それで錬金協会さんが、俺のスキルの何に興味を持ったんすか? はっきり言ってクズスキルっすよ」


「ジョーモさん、すみません。貴方に用があるのは、私ではなく彼なんです。申し遅れました。私は、錬金協会のアロンでもあるのですが、今日は、追放ざまぁ支援局の仕事で、当局の新人さんのサポートで来ております」


 アロンさんが正直に話すと、これまでヘラヘラしていたジョーモさんの表情が険しくなった。


「追放ざまぁ支援局の新人研修で、なぜ、昼飯を食っていた俺を、嘘をついて呼び出したんすか」


「お食事中、申し訳ありませんでした。彼は、対象者を探すことに慣れていなくて、やっと彼の魔道具に反応が現れたのがジョーモさんだったのです。では、エドさん、ここからは交代しますね。魔道具を起動し、目の前に浮かぶセリフを読み上げてください」



 僕は頷き、口を開く。


「不幸な冒険者を発見しました」


 1行目を読み上げると、対象者を見ろという指示が出た。僕は指示に従って、ジョーモさんの顔を見る。


「不幸な冒険者さんに説明しますね。突然の追放って、ムカつきますよね? 復讐したいですよね? そんなアナタを支援するのが、私達、追放ざまぁ支援局なのです」


 そこまで読み上げると、白い壺が出てきた。さっきは黒かったのに、なぜ白いのだろう?


 壺を手で持ち、対象者に見せるようにと、指示が出た。手で触れると、壺の中の微かな振動を感じた。


 僕は、白い大きな壺を見せて話を続ける。


「この壺は、魔道具です。アナタの不幸な話を聞かせてください。それに応じてレア度が決まります。話が終わったら、ガチャを引くことができるのです。武器や防具そして魔道具の中から、不幸なアナタが復讐するために役立つ物が得られますよ」


 やはり、セリフが決まっていたんだな。


「さぁ、アナタの不幸な話をしちゃってください」


 セリフは、ここまでだ。



「ふぅ、新人さんの研修に付き合わされたくないっすね。ただ、まぁ、錬金協会のその魔道具は、パーティ追放された者を見つけるんすよね。やっぱり、あれは本気で言ってたってことか」


 新たなセリフは出てこない。すると、アロンさんが口を開く。


「我々には守秘義務がありますから、気にせず話してください。当局の局員は、壺を手にした状態で聞いた話は、ご本人以外の人には話せません」


「知ってるっすよ。同じセリフも、飽き飽きするくらい聞いてるっす。今回は、俺のノリが悪いから、パーティ追放されたんすよ。大したことじゃないっす」


 白い壺は、真っ赤に染まった。今、ジョーモさんが話した言葉が、目の前に文字となって書き起こされている。俺のノリが悪いから……大したことじゃないっす……の部分が赤文字になっている。


「うへぇ? なぜ壺の色が変わったんすか」


 あっ、セリフが出てきた。僕は、読み上げる。


「それは、アナタが嘘をついたからですよ」


「嘘を見破る機能が付いたんすか?」


 ジョーモさんは、アロンさんに尋ねた。僕に聞いてもわからないからだよな。



「えーっとですね。私も少し驚いています。ぶっちゃけてしまいますと、とても驚いています」


 全然、説明になってない。ただ彼としては、僕のスキルを話せないのだろう。


 目の前に、新たな文字が出てきた。セリフではない。ジョーモさんに関する新たな情報だ。希死念慮って、自殺願望か。大変だ!



「俺の質問には答えられないんすね。じゃあ、もういいっすよ」


「ジョーモさん、待ってください。アナタは、今、死にとらわれていますよね。この壺が嘘を見破るのは、おそらく僕のスキルです。外れスキルなんですが、そのせいで僕は二日前に、幼馴染のパーティから追放されました。一緒に泊まっていた宿からも、彼らは僕に黙って姿を消しました」


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