6、エドのガチャ壺
翌朝、僕は早い時間に起きることができた。昨日は、昼過ぎからずっと厨房の手伝いをしたから、疲れてすぐに眠ったためだろう。
朝食を食べた後、宿のフロントに鍵を預けていると、料理長がロビーまで、僕を追ってきた。
「エド、出掛けるのか?」
「は、はい」
「そうか。夕方までには戻るよな?」
料理長は、心配そうな顔をしているように見えた。昨日、僕をこき使ったという自覚があるのだろうか。
僕は、軽く頷くと、宿屋を出た。
◇◇◇
「あの、これ……」
冒険者ギルドに行くと、カウンターの横にいた職員さんに、預かり証を見せた。
「あぁ、錬金協会か。事務所の中に階段があるよ」
やはり、預かり証は最高だな! 見せるだけで、何も説明しなくていい。
僕は、カウンター内に入ると、会議室のような部屋から、地下への階段を降りて行った。
◇◇◇
「エドさん、おはようございます。ようこそ、錬金協会へ。早い到着でしたね。担当者を呼びますから、少しお待ちくださいね」
「お、おはようございます」
預かり証を見せると、紙には番号しか書いてないのに、職員さんは僕の名前を知っていた。
一昨日と同じく、こんな広い部屋に、職員さんは二人しかいない。大きな扉の先に何があるのか気になるけど、僕には、そんな質問をする勇気はない。
大きな扉が開いた。
一昨日に会った白衣の男性が、ワゴンを押して、部屋に入ってくる。奥がチラッと見えたけど、よくわからない。何かの工房なのか、扉を開けたときに大きな音が響いていた。
「エドさん、おはようございます。お待たせしましたね。念のため、もう一度、自己紹介をしておきますね。私は、追放ざまぁ支援局のアロンです。エドさんを担当することになりました。よろしくお願いします」
「あ、おはようございます」
僕は、おはようしか言えないのか。もはや、無口どころか、コミュ障じゃないか。しかし、担当って……。
「あぁ、エドさん、そんな顔をしないでください。私達は、何も気にしません。貴方を紹介したヤヨイさんも、初めは全く会話ができない人でしたから」
「えっ? そう……」
派手なメイクをしていたし、明るい女性だと思っていたけど、彼女も話すことが苦手だったのか。
「はい、私達がスカウトをお願いするのは、エドさんのような、心優しい冒険者さんです。あぁ、長々と説明をするより、身につけてもらう方が早いですね」
彼がワゴンに掛けていた布を外すと、透明な液体を入れた丸い水槽のような物が出てきた。その横には、銀色の輪っかがある。
「こちらが、本体なんですよ。左手を出してください」
彼は、銀色の輪っかを、僕の左手首にハメた。ブカブカだったのに、スーッと小さくなり、僕の左手首にピッタリのサイズになった。
「これが本体って、どういうことだ……って、あれ? 僕、普通に喋っていますか?」
返事しかできない僕が、考えたことを口から喋っている。一体、何が起こったんだ?
「ええ、ちゃんと話されていますよ。今、装着してもらった腕輪は、壺を収納するアイテムボックスです。また、追放ざまぁ支援局の業務に必要なセリフを記憶している魔道具でもあります。そのため、腕輪を装着することで、話し下手な人でも、スムーズな会話ができるのです」
「すごい魔道具なんですね」
「ありがとうございます。これが錬金協会の技術です。それでは、これから壺の形成を行いましょう。エドさんのスキルは『混ぜ壺』なのですね。非常に珍しいスキルを持っておられるから、驚きました」
「なぜ、僕のスキルを知ってるんですか」
「一昨日に、測定の魔道具で測らせていただきました。エドさんのスキルやステイタス、さらには思考の傾向なども測定済みです。すべての情報は、その腕輪が記憶しています。こちらの水金属に触れてください」
「水金属? 水槽の中身のことですか」
不思議だった。ポンポンと言葉が出てくる。話すことは、こんなにも簡単なことだったのか。
「これは、この世界にあるすべての鉱物を溶かした物です。この状態から、エドさんに合う壺が形成されます。腕輪のある左手で、水金属の表面に触れてください」
「わかりました」
僕は、水槽に手を入れた。ズボッと入ってしまうのかと注意していたら、水面に見える表面に触れることしかできない。硬いわけじゃないが、沈まない。不思議すぎる。
少しそのまま待っていると、水のように透明だった物は、黒っぽい色に変わってきた。そういえば、金髪の派手なメイクの女性の土色の壺の中身は、黒っぽくて長方形の金属塊だったよな。
「エドさん、もう手を離してもらって大丈夫ですよ」
「はい、では。ええっ?」
水面から手を離すと、黒っぽい水金属は、僕の手を追いかけるように水槽から出てきて、銀色の腕輪にすべて吸い込まれてしまった。
「今、エドさんの中で、壺が形成されています。あっ、説明を失念しておりました。水金属がエドさんの体内を駆け巡っていますので、エドさんは影響を受けてしまいます。酷いときには中毒症状が出ますが、お薬を用意していますので、ご安心ください」
きっと彼は、わざと話さなかったんだと思う。僕は、他人の表情の変化には敏感なんだ。
なぜか職員さんは、大きな姿見を用意している。中毒症状が出るなら、椅子を用意すべきだと思うけど。
「おや? 腕輪が輝きましたね。壺の形成が完了したようです。エドさん、体調に変化はありませんか?」
彼にそう言われて腕輪を見てみると、淡い光を放っていた。腕輪に触れてみると、僕の目の前にパッと大きな壺が現れた。空中に浮かぶのか。だが、色が違う。吸い込まれそうな黒色、漆黒の壺だ。
姿見を用意していた職員さんが、小さく、えっ? と声を漏らして固まっている。僕の身体に異変があるのかと、鏡に映る姿を見てみたが、前髪がボサボサすぎるのが気になったが、特に変わりはなさそうだ。
「これは、驚きましたね。そうか、これがスキル『混ぜ壺』ということなのですね」
「僕の何かが、おかしいのですか?」
「いえ、エドさんの場合は、壺よりもエドさんの方が、主人のようです。普通は、壺の個性の影響を受けて、髪色や肌の色が変わるのです。しかしエドさんは、髪色は茶髪のままですし、肌の色にも変化はありません。そして、漆黒の壺は、初めて出現しました。この壺から作り出される品は、すべてレアな物になりそうですね」
ガチャを引くと、すべてがレアな物ってこと?




