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5、混ぜ飯

「エド、もう一回やってくれ。ゆっくりな」


 夕方から僕は、食堂の手伝いのために厨房にいる。料理長が混ぜ飯を試食したいと言うから、簡単な物を作ったら、作り方を見たいと言われた。


「食材は……」


「ここにある物なら、何を使っても構わない。別の物も作れるのか?」


「はい。じゃあ、次は、おかず系にします」


 僕は深い鉢に、適当な野菜と魚を放り込んだ。そして、鉢に左手を添え、右手に持った適当な棒で、混ぜ混ぜをする。今回は、魚を丸ごと放り込んだから少し時間がかかったが、僕がイメージした通りの混ぜ飯になる。


「は? 魚の骨や内臓はどこに行った? 調味料も入れてないよな?」


「食べられない部位は、混ぜ混ぜしているうちに、食べられる物に変わります」


 僕は、壺状の物に触れていると、いつもよりは喋れる。


「エド、料理人の俺の目には、信じられない物が映っている。まさか、これで食べられるのか?」


「食べられます」


 別の容器に中身を移すと、料理長はスプーンで試食した。そして目を見開き、他の店員にも試食させている。



「魚をほろほろに煮て、シャキシャキ野菜と混ぜた料理だとしか思えない。味付けも、魚の旨みが出ていて、優しい味だが薄くはない。抜群に美味いですよ、料理長」


「だよな。野菜を放り込んだ上に、魚を生のまま突っ込んで、麺打ち棒で混ぜただけだぞ。こっちの飯なんか、炒めた焼き飯のような味がしている。混ぜただけだぜ?」


 僕は、どう返事すればいいかわからない。スージーが言っていたように、僕は冒険者を諦めて、混ぜ飯の店をする方がいいのだろうか。


 僕は、一人前の冒険者になりたかった。幼馴染のみんなと一緒に、討伐ミッションを受けたかった。だけど僕は、冒険者失格なのかな。



「エド、混ぜ飯以外に何ができるんだ? 冒険者なら、食事係も大事だが」


 料理長も、僕が冒険者失格だと思っているのか。


「薬草が手に入れば、ポーションが作れます」


「ん? 今、放り込んだ深緑色の野菜は、ポーションの素材にもなるぜ? 混ぜ飯の中に入っているが」


「僕がおかずを作ろうと考えたから、混ぜ飯になりました。ポーションを作ろうと考えたら、ポーションの素材以外の物は、ポーションの容器などに変わります」


 今日は絶好調だ。よく喋れる。この深い鉢のおかげかな。使い込まれた調理器具には、僕のスキルにすぐ順応する能力があるから、混ぜ混ぜすると気分も上がる。



「料理長、エドさんのスキルは、俺には未知の物だけど、とんでもなくすごい可能性を秘めていますよ。毒薬を作ろうとすれば、それもできるんじゃないですか」


 僕には毒薬は作れない。以前にも何度か試したことがあるけど、一度も成功したことがないんだ。成功していたら、パーティから追放されることもなかったと思う。


 僕のスキルが冒険者に役立つためには、攻撃力が必要だと考え、毒薬草を壺に入れて混ぜ混ぜしたことがある。毒薬草をすり潰すと毒薬になるはずなのに、ただの野菜ジュースになった。


「いや、この魚の内臓には弱い毒がある。だが、それは完全に消えているだろ。エドのスキルは、人に毒となる物を無効化するんじゃないか?」


「あぁ、そうか。治癒魔法が得意な魔導士が、毒系の魔法を使えないのと同じですね」


 ポーションなら店で買えばいい。あのとき、そう言われた言葉が、僕の胸をえぐる。そして混ぜ飯には飽きる。僕のスキルは、完全な外れスキルだ。



 その日の夕食には、僕が作った混ぜ飯も、小鉢として添えられた。僕は、混ぜ飯を作った後は、ずっと洗い場にいた。ホールからは見えない場所だから、落ち着く。


 モモさんが見に来ると言っていたけど、僕は彼女とは顔を合わせていない。彼女の声が聞こえた気もするけど、顔を上げることはできなかった。


 はぁ、僕は根暗だよな。陰キャすぎる。




 ◇◆◇◆◇



 その翌日は、昼過ぎに起きた。昨夜はなかなか寝付けなかったためだ。このままずっと眠っていたいと思った。だけど、宿代無料のためには、食堂を手伝わないといけない。


 僕は、ダル重い身体を引きずるように、食堂へと降りて行った。



「エド、やっと起きたか! もう昼飯の時間だぜ?」


「あっ、はい。あれ?」


 昨日、昼食時間は食堂はガラガラだと言っていたのに、半分くらいの席がお客さんで埋まっている。


「ふふん、天才エドが発案した食べ放題を始めたんだ。朝飯の定食もできるが、どうする?」


 僕が発案したわけじゃないのに……。だけど、反論する勇気はない。


「朝食をお願いします」


「わかった。あぁ、悪いけど厨房内に入ってくれ。食べ放題にはない小鉢が付くからな。店員用のテーブルに、エドの分の朝食を出すよ」


「は、はい」


 僕は言われた通り、厨房内に入った。店員用のテーブルは、ホールからは見えない奥にある。その椅子に座ると、安心感を感じた。


「朝食だ。この時間は、店員は休憩しないから、ゆっくり食っていいぞ」


「は、はい」


 僕は、厨房内を見ながら、朝食を食べた。みんな、楽しそうな顔をしながら料理を作っている。新人の料理人も、調理を担当しているようだ。



「エドさん、昨日の混ぜ飯、すごく好評だったそうですよ」


 朝食時間にも居るオバサンが、僕に声をかけてきた。これは、試食したいという催促なのだろうか。


 僕は、また返事に困って、軽く頷いただけだ。


「今日から、昼食時間は食べ放題を始めたから、新人の料理人も楽しんでるみたいですよ」


「なぜ……」


「あぁ、食べ放題だからね。料理長が何でもいいから、作って出せって言ってるわ。不味まずいと残されるし、美味しければ大皿が空っぽになるでしょ? 新人の料理人にとっては、腕試しね。料理長や他の料理人も競っているみたい」


 なるほど。それで、みんな楽しそうなのか。



「おう、エドも混ぜ飯を頼むぜ。こんなに客が来るとは思わなかったから、主食が足りてねぇ。料理人が穀物を炊くには、かなり時間がかかるからな」


 朝食のトレイを下げにきた料理長は、僕にも参戦しろと言っているのか? 嫌だとは言えないから、僕は頷く。


 昨日使った深い鉢を取り出すと、乾燥したままの穀物と水を入れ、混ぜ混ぜした。穀物を炊くだけだから、数回混ぜれば完成だ。


「えっ? もう炊けたのですか?」


「はい」


 店員さんは味見をして、目を見開いた。


「料理長、とんでもなく美味しいごはんですよ! すぐに補充してきます」


 役に立てたようで、僕はホッと小さな息を吐いた。そのまま夕食時間まで、ずっと厨房の手伝いをした。



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