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3、ヤヨイさんの退職

「ヤヨイさん、その青年が、新人候補ですか?」


 冒険者ギルドの地下室に戻ると、さっきの職員だけでなく、白衣を身につけた男性がいた。白衣とは言っても、かなり汚れているから清潔感はない。


「そうだよ〜。最後の仕事もハズレだったよ。追放ざまぁ支援局が有名になったから、わざと不幸な冒険者のフリをする人が増えてきたよね」


「我々が有名になった弊害ですね。もう少し人を増やす方が良いかな。ヤヨイさんは……」


「ちょっと待って! 私は抜けるわよ? 支援レベル10以上で、交代可能でしょ。私の支援レベルは11だし、新人候補を連れて来たのも彼で3人目だから、ノルマ達成だよ」


 彼女は、引き止められると思ったのか、両手で大きなバツを作っている。派手なメイクをしている大人の女性なのに、子供のような仕草だ。



「ヤヨイさん、一応、確認しますが、本当に抜けるのですか? 壺の支援は無くなりますし、再びこの仕事をしたいと言われても復帰はできません」


 壺の支援って何? 興味をそそられたが、二人の会話に割り込む勇気なんて、僕には無い。


「支援した冒険者達から、パーティへ加入しないかって誘われてるの。もう、以前の私じゃないから、大丈夫よ」


「わかりました。では、ヤヨイさんの壺を作業台に出してください。ご自分で割ることもできますが、どうされますか?」


 彼女は、台の上に、土色の壺を置いた。


「自分で割ると、追放ざまぁ支援局のサービスを受ける権利もなくなるでしょ。そちらにお任せするよ」


「そうですか。わかりました。では、割りますよ?」


「ええ、やってちょうだい」


 白衣を身につけた男性は、どこからかハンマーを取り出した。そして、彼女の意思を再確認した後、土色の壺にハンマーを振り下ろす。


 ガチッ!


 壺を叩いた音にしては変だなと思った直後、土色の壺に亀裂が入り、ボロボロと崩れていく。


 すると中からは、長方形の黒っぽい金属塊が出てきた。ガチャの壺の中身は、金属塊だったのか。



「ヤヨイさん、腕輪は、もう外れますよ」


「アイテムボックスとして使ってたんだけど、中身はどうなるの? 私、大容量の魔法袋なんて、高くて買えないんだけど」


 彼女の左手首には、銀色の腕輪があるのが見える。この仕事を引き受けると、アイテムボックスを借りることができるのか。


「中身は、そちらに一旦出しますよ。その量を見て考えます」


 白衣を身につけた男性は、がらんと広い何もない場所を指差した。


「中身を見られるのは嫌なんだけど……。エドくん、階段の方を向いていてくれる?」


 僕は無言で、その指示に従った。無神経に他人に命令する人には逆らわない方がいい。



「かなりの量がありますね。でも、ガラクタも多そうだから、整理すれば、冒険者ギルドで安価で販売している魔法袋にも入りそうですよ」


「どれも思い出があるんだもん。ここを倉庫として貸してくれるなら、整理できるけど」


「ここは納品に使われるので、貸すことはできません。職員さん、この量が入るアイテムボックスはありますか?」


「赤竜の鱗を使ったアイテムボックスならありますよ。数日前に量産したばかりなので、金貨1枚でお分けできます。販売価格は、金貨5枚ですが」


 金貨!? 僕は見たこともない。確か、銀貨100枚が金貨1枚と同じ価値だ。僕が普段使うのは銅貨だけど。銅貨100枚が銀貨1枚と同じ価値だから、金貨なんて、とんでもない大金だ。


 僕が冒険者ギルドのミッションで得られる報酬は、1回当たり銅貨50枚くらいだった。パーティ5人で分けていたせいもあるけど、宿代が1日銅貨45枚で食事付きだから、毎日銅貨5枚が余る。それを貯めて、服や装備品を買っているんだ。



「では、追放ざまぁ支援局で買いますね。ヤヨイさんの退職金は、赤竜の鱗のアイテムボックスにしましょう」


「それでいいわ。ありがとう」


 何かゴソゴソとしている音は聞こえるが、僕は彼女に言われた通り、階段の方を向いて立っている。



「エドくん、いつまで変な方を向いてるの? 邪魔なんだけど」


 はぁ? 誰が階段の方を向けって言ったんだよ! と言い返したいけど、僕には言えない。


 僕は慌てて、道を開ける。


「じゃあね、エドくん」


 彼女は、ひらひらと手を振って、階段をのぼっていった。もう会うこともないだろうけど、関わりたくないタイプだったな。




「エドさん? お待たせしましたね。私は、追放ざまぁ支援局のアロンと申します。握っていただいていた魔道具を、こちらのトレイに置いてもらえますか」


「あ、は、はい」


 僕は、突然話しかけられて、慌てた。挙動不審な奴だと思われただろうか。だが彼は、笑顔でトレイを持っている。悪い印象は与えなかったみたいで、ホッとした。


 握りしめていた銀色の楕円形の金属を置くと、トレイに番号が表示され、紙が出てきた。トレイも魔道具らしい。


「では、これは預かり証です。この部屋には、監視用の魔道具もあるので、預かり証は不要なんですが、各地共通の決まりとなっています。ご理解ください」


「は、はい」


 預かり証と書かれた紙を渡された。番号は988番だ。意外にも大きな数字に、これが新人候補の数なのかが気になった。だが当然、僕には質問する勇気はない。



「これから、お預かりした情報を解析した後、当局の仕事をお願いするかを判断します。当局がお断りする場合には、慰謝料として銀貨10枚をお支払いします。ご理解ください」


 銀貨? ええっ?


「は、はい」


 詳細を尋ねたい気持ちはあったが、僕はどう切り出せばいいかわからない。


「解析等には、丸一日必要です。今日は受付時間を過ぎてしまいましたから、明日の作業になります。明後日の朝に、ここにお越しください。冒険者ギルドの職員に、預かり証を見せていただければ、カウンター内に入れますから」


 カウンターで、必死にしゃべらなくていいのか。預かり証って最高じゃないか!


「は、はい」


「では、明後日、お待ちしています。当局が仕事をお願いすると判断した場合は、エドさんに使ってもらう壺を用意しておきます。初回は、使い方の指導を兼ねて、担当者が同行しますから、ご安心ください」


「は、はい」


 僕は、返事しかできていないし、仕事を依頼されることはないだろう。だけど、銀貨10枚も慰謝料をもらえるなら、20日分の報酬と同じだ。宿代を払える。


 僕は、そのまま、宿へと戻った。


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