13、混ぜ飯とアレンジ料理
「これは肉味噌か? とんでもなく美味いぞ」
タンクの中に大量に出来上がった混ぜ飯を、料理長が味見をして、目を見開いている。
「肉味噌かは知らないですけど、血抜きに失敗した肉塊は普通に使うと臭いが残るので、甘辛く仕上げました」
「料理長、成分サーチをしましたが、衛生面では全く問題はありません。しかも、廃棄用タンクの表面まで、新品同様に衛生的になっています」
「それが、エドのスキルだよ。しかし、大量すぎる肉味噌だな。これは、野菜で包んで食うと美味いだろう。エド、野菜に包むことはできないか?」
料理長は、大量の葉物野菜の木箱を、保管庫から出してきた。だが僕は、混ぜ混ぜしかできない。
「料理長、僕は料理人じゃないから、できないです。僕が作る混ぜ飯は、すべて具材は小さく切り刻まれてしまうから、味付けを変えても、すぐに飽きられてしまうようです」
「ほう! そうか。何もかもエドのスキルに完敗かと思っていたが、それを知れて、やる気が出てきたぜ。ここから先は、料理人の知恵と技術と発想力だな。おまえら、この肉味噌のアレンジ料理を考えるぞ!」
料理長が号令をかけると、店員さん達が皆、キラキラと表情を輝かせた。僕が作った肉料理を味見して、何かを思いついた人から競うように、タンクから取っていく。
「エドの肉味噌は、ごはんにかけても抜群に美味そうだ。大鉢に入れて、ごはんの近くに置いてきてくれ」
料理長がそう命じたときには、もう大鉢に移している人がいた。ごはんが足りなくなるかもな。
「ごはんも炊いておきましょうか?」
「あぁ、今、エドに頼もうと思ったところだ。鍋でも、スキルは使えるか?」
「はい、深い鍋なら大丈夫で……ええっ? それは持てないですよ」
料理長は、僕が見たことないほど大きな鍋を出してきた。いや、見たことはある。お祭りのときに、外で煮込み料理を作っていた巨大鍋だ。
「厨房では使えない鍋だが、エドなら火にかける必要がないから、使えるだろ? 余れば夕食時間にも使えるから、これで頼むぜ」
料理長は喋りながら、もう穀物を巨大鍋に入れ始めた。そして水を入れた桶も、横に準備されている。
「水も適当に入れてください。計量は不要です」
「あぁ、知ってる。ごはんを炊くのは、エドのスキルには勝てないな」
僕は、渡された長い棒を使って、鍋に左手を添え、混ぜ混ぜをした。量が多いから、ごはんを炊くだけなのに、数十回混ぜる必要があったけど、そんなに時間はかからない。
「エドさん、アレンジ料理を持って行ってください!」
厨房から出ようとすると、目をキラキラさせた料理人達が、僕に大きなトレイを渡した。ちゃんと三人分を意識した量になっている。
「ありがとうございます」
僕は、大きなトレイを持って、アロンさんとジョーモさんのいる席に戻った。
「お待たせしました」
「おお! 待ってましたよ。すごい量ですね」
アロンさんが目を輝かせて、トレイを覗き込んでいる。
「僕が作った肉料理を、料理人さん達がアレンジしたんです。これが、僕が作った混ぜ飯です。どうぞ」
テーブルに置くと、アロンさんよりもジョーモさんの方が、先に手を伸ばした。僕の混ぜ飯をスプーンですくって、パクリと食べると、すごい勢いでごはんをかき込んだ。彼には、辛い味付けだったのかな。
「エドさん、めちゃくちゃ美味いっす。ごはんが止まらないっす。これは、肉と味噌が合わさってるんすか?」
「ジョーモさん、ありがとうございます。料理長は、肉味噌だと言ってたけど、僕にはよくわかりません。血抜きを失敗した肉塊を使ったから、臭いが残らないように甘辛くしただけなんですけど」
「これは、なんとも美味ですね。細かくカットされた肉にも、しっかりと旨みが残っています」
「アロンさん、元の肉が高い物だからだと思いますよ。僕が作る混ぜ飯は、すべて細かく切り刻んだ料理になるんです」
「なるほど。『混ぜ壺』というスキルは、壺の中で混ぜ合わせることが基本能力なのですね。非常に興味深いですし、非常に美味です!」
僕も、アレンジ料理に手を伸ばす。
野菜に包んだシンプルな物は、味の想像ができる。いつもは、チャレンジ精神が皆無な僕だが、味の想像ができない物を、取り皿に取ってみた。
これは、揚げ物だよな? カツのように見えるが、普通のカツよりも小さくて丸い。噛むとサクッと音がして、中には、僕の肉料理と白い物が混ざった物が入っていた。すごく美味しい!
「これは、すごいですね。芋のサラダに肉味噌を混ぜて、カツのように揚げてある料理ですか。素晴らしい発想力です」
「あっ、この白いのは、茹でて潰した芋なんですね。カツよりも食べやすい。アロンさんの分析力はすごいです」
「ええ、私は料理であっても、探究心が抑えられません」
アロンさんは、痩せているのによく食べる。
「エドさんのスキルは、外れスキルじゃないっすよ。料理が並ぶテーブルを見ても、わかるんじゃないっすか? 肉味噌とごはんの前に、列が出来てるっす」
「ありがとうございます。でも、冒険者としてはどうなのか、わからないですけどね」
ジョーモさんは、僕を気遣ってくれているんだな。彼は、見た目は陽キャだし、声をかけにくい雰囲気だけど、とても優しい人だと思う。
だから彼は、パーティ移籍をしたことを、死ぬほど悔やんでいるのだろう。新人を加入させたパーティが全滅したことは、辛いことだけど、ジョーモさんに責任はないと思う。冒険者ギルドだって、ミッションを受注するときに注意を促したはずだ。
ジョーモさんが引いたガチャで、支援用の魔道具が出たのは、やはり、彼が前を向くためには、トラウマを克服する必要があるからだと思う。
「あっ! そうだ! ジョーモさんに、ご協力をお願いしたいことがあったんでした。食べ過ぎて、忘れるところでしたよ」
「アンケートっすよね?」
「こちらです。お願いできませんか」
アロンさんは、どこからか紙を取り出し、ジョーモさんに渡した。聞かれたくない話は、書面にしてあるのか。
ジョーモさんは、ペンを持ち、さーっと目を通しながら、何かを書き込んでいく。たまに僕の顔を見るから、僕に関するアンケートなのかもしれない。
「書けたっす。これって、経験値は入るんすか?」
「報酬が少ないため、経験値は通常の2倍になります」
「じゃあ、エドさんが参加するなら、やってもいいっすよ」
えっ? 僕が何?




