10、はじめてのガチャ
「なっ? 俺より、新人さんの方が大変じゃないっすか。幼馴染に裏切られたなんて……。俺の場合は、そんなに長い友達じゃないっすよ」
ジョーモさんは、僕のことを心配してくれたのだろうか。彼の情報から、希死念慮の文字が消えた。そして、魔道具が見せる彼の光の点滅も収まった。
追放ざまぁ支援局のアロンさんも、彼の光が見えていたはずだ。点滅が収まったことで、僕の方を見て大きく頷いた。
「本当のことを、魔道具に話してくれますか?」
しばらくの沈黙があった。ジョーモさんが話し始めると、赤かった壺は、白色に戻った。
「彼らとは、半年前から遊んでるっすよ。きっかけは、冒険者ギルドの合同ミッションっす。俺のスキルが珍しいと言って、パーティに入らないかと誘われたっす。しばらくは、俺のスキルをネタにして、楽しくやっていたんすけど、俺の能力は、彼らが思っていたものとは違ったらしいっす」
ここまで聞くと、目の前に指示が現れた。適当に相槌を打てというものだ。だが僕は、適当になんてできない。そのまま、ジョーモさんが再び口を開くのを待った。
「ふっ、新人さん。普通ならここで、大変だったなとか言うもんっすよ」
「僕は、普通はわからないです。魔道具のおかげで話ができていますが、僕は人と話すのが苦手なので、じっくり聞く方が向いていると考えました。お話は、ちゃんと聞きます。途中で適当なことは言いたくありません」
僕がそう話すと、ジョーモさんは驚いた顔をしたが、僕の目を真っ直ぐに見てくれるようになった。
「わかった。俺も、ちゃんと話す」
彼の話し方が変わった! 僕は、コクリと頷く。
「俺も、始めからわかっていたんだ。彼らは、俺のスキルをネタにしたいだけで、俺のチカラを必要としていたわけじゃない。だが、俺は、彼らに声をかけてもらえて嬉しかった。女の子にモテる彼らと一緒につるんでいると、俺もイケてる男に見えるんじゃないかと思っていた。彼らは有名だから憧れもあったんだ。彼らから誘われたとき、迷うことなく、所属していたパーティを抜けた」
ジョーモさんの表情が、ガラッと辛そうなものに変わった。ヘラヘラした雰囲気は、完全に消えている。
「所属していたパーティは、俺より下位の冒険者ばかりだった。とても、いい奴らでな。俺が、その前のパーティを能力不足で追放されたとき、たまたま現場を見られていたらしい。10日経ったとき、俺に、パーティに加入してくれと頭を下げに来た。再加入禁止の10日を数えて、俺を待っていたんだぜ。だから俺は、奴らを育ててやろうと決意した。ただ、下位の冒険者の世話は、たまにイラつくこともある。そんなときに、合同ミッションで会った彼らに声をかけられたんだ。俺は喜んで、すぐに移籍しちまった」
えっ? 涙? ジョーモさんの目からは、涙があふれてきた。下位の冒険者ばかりのパーティに戻りたいのだろうか。戻ってはいけないという決まりはないはずだ。
「あぁ、悪い。情けないっすね」
「いえ、大丈夫ですよ」
僕は、最小限の返事だけをした。ジョーモさんは、涙をぬぐって、口を開く。
「俺は、中途半端に、奴らに自信をつけさせてしまったらしい。こっそりと土魔法で支援していたことを告げずに、移籍したんだ。少し前に、奴らがノワール洞窟に鉱石集めに行って、全滅したことを知った。俺が抜けた後に加入したのが新人冒険者らしくてな。新人がいるなら高位冒険者を護衛に付けないと危険なのに、そんな常識も教えてなかった。俺のせいで、みんなを死なせてしまった」
「えっ? あ、すみません。続けてください」
「あぁ。その話を、さっき彼らにしたんだ。彼らは、既に知っていたらしい。おまえが奴らを殺したんだと言って、ゲラゲラと笑われた。俺は、何も言い返せなかった。ただ、目には怒りがにじんでいたらしい。おまえのような目つきの悪いクズは、追放してやると言われた。その後もずっと、弱い冒険者は死んで淘汰されるべきだとか、身の程を知らない冒険者が多すぎるとか、そういう話ばかりだった。だから錬金協会さんが来てくれて、ある意味助かった。俺は頭に血がのぼっていたから、店ごと土魔法で潰していたかもしれない」
不幸な冒険者の話、完了可能、という表示が出た。壺を振って、ガチャボタンを出現させるようにとの指示も出ている。
白い壺を左右にユサユサと振ると、壺が淡い光を放ち始め、目まぐるしく色が変わっていく。そして、真っ黒になったところで変化は止まった。
「壺が、なんかおかしいっすよ」
「大丈夫です。ジョーモさんのお話を、魔道具が整理しているのだと思います。あっ、ガチャのボタンが出現しました。どれか一つを押してみてください」
「ガチャのボタンもおかしいっすよ」
ジョーモさんにそう言われて、僕より先に、アロンさんが壺を確認している。
「本当ですね。通常なら、適当なボタンがランダムで出現しますが、エドさんの壺では、どのボタンが何の種類かが、わかるようになっていますね。左から、武器、防具、魔道具ですか。ボタンは3つだけですね」
アロンさんは、ジョーモさんの深刻な話を聞いたばかりなのに、真っ黒な壺に釘付けだ。自分の興味に正直な人だよな。
「じゃあ、魔道具にしてみるっす」
ジョーモさんは、壺に現れた右のボタンを押した。すると壺の上部から、カプセルが飛び出す。
カプセルが空中で勝手にパカっと割れて消えると、そこには、革の手袋に見える物が浮かんでいた。
説明が出てきたので、僕はそれを読み上げる。
「ジョーモさんが引き当てたのは魔法手袋です。それを使って復讐するも良し、売ってお金に変えても良しです。以上、追放ざまぁ支援局でした」
セリフが終わると、壺はパッと消えた。だが、目の前の文字はまだ消えていない。
「魔法手袋って何っすか?」
僕は、セリフの魔法手袋のところを見てみた。すると、説明が出てくる。
「その魔法手袋は、使用者の魔力量の節約効果があります。また、ジョーモさんのスキル土偶に適した仕様になっています。造形能力や、力の補助効果もあります」
「うひゃ! それって、レアじゃないっすか」
「レア度は、スーパーレアって書いてあります」
「マジっすか!」
「はい。それと、僕の個人的な意見ですが、この壺は、ジョーモさんに、次に出会う冒険者をまた助けてあげてほしいんだと思います。魔法手袋は、その手助けができる魔道具です」




