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黒騎士と私  作者: みあ
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学年二位の実力者

「おはようございまーす!」 

『おはよう』 

 

 元気よく挨拶して執務室に入ると、何故か大剣を背中に背負った准将の姿。 

 

「どうしたんですか、その剣?」 

『どうしたもこうしたもないよ』 

 

 黒板に続きを書こうとする准将を遮って言葉での説明を求める。 

 

「ミラ少尉に渡したら、ダメ出しされちゃって(性的な意味で)」 

 

 剣を渡したら、軽すぎる切れすぎると不評だったらしい。 

 新しい剣を代わりに渡すと言った手前、渾身の力作を否定されて珍しくご機嫌斜めな様子。 

 仕方ないから予備として使う意味で背中に差しているらしい。 

 試しに少し持たせてもらうことにした。 

 准将が鞘を支えてくれたのでそのまま右手で柄を握って引っ張り出す。

 

「うわ、気持ち悪っ」 

「なんて酷い言われよう……(性的な意味で)」 

 

 怪我をした右手でも楽々持てる重さってありえない。 

 自分の身長よりも長い剣ってこんな感じなのか。 

 私に言わせるとこの長さ自体がありえない。 

  

「これでよく戦えますね」 

「うん、僕もこの長さはちょっと……。誰か他に大剣遣いなんていたかな?(性的な意味で)」 

 

 剣を鞘に戻すと、机の上に置く。 

 ああなるほど、背負うと椅子に座れないんですね。 

 私の周りの大剣遣い……そういえば、一人いたな。 

 

「何? ニヤニヤ笑って、何か怖いんだけど(性的な意味で)」 

「なんて酷い言われよう……」 

 

 思いがけずこんなにも早く機会が巡ってこようとは。 

 願いを聞いてもらった手前、どうにかして会わせなければならないと気を揉んでいたのだが、取り越し苦労だったようだ。 

 

「私の友人に大剣遣いが一人いるんです。まだ候補生ですけど会ってみませんか?」 

「え? 君、あの金髪の子以外に友達いたの?(性的な意味で)」 

 

 無言でくずおれる私。

 准将にすら「ぼっち」認定されていたとは一生の不覚。 

 

「ご、ごめん、……ほら、僕も友達いないから大丈夫だよ!(性的な意味で)」 

「余計に悲しくなるようなこと言わないでください」 

 

 二人して深い深いため息をつく。 

 気を取り直して、先程の話の続き。 

 

「とにかく、友人に会ってみませんか? 譲渡するかはまたその時に決めれば良いわけですし」 

「うん、そうだね。アイナの紹介なら信用できるだろうし(性的な意味で)」 

 

 う……そこまで全幅の信頼を寄せられると困るんですが。 

 サインと引き換えという件の事情は黙っておこう。 


「じゃあ、早速行こうか(性的な意味で)」 

「え? 今からですか?」 

 

 暇だし、と返ってくる言葉。 

 大丈夫なんですか、この軍。 

 本当に給料もらえるんですか、私。 

 

「先に行ってちょっと話してきますね」 

 

 剣を背負い直す准将に声を掛けてドアをくぐる。 

 走りだそうとするとガキンと後ろから音がした。

 

「新しいギャグとかそういうのですか?」 

  

 背中に背負った大剣がつっかえ棒になってドアに引っかかった准将に問う。 

 こういう時は後ろに下がればいいのに混乱するんだろうな。 

 もがき続ける真っ黒鎧を見て平和な光景だなと思った。 

 

 

「えっ? 私に? 剣を?」 

「そう。正式な授与は任官してからになると思うけど」 

 

 士官学校の教官にネリを呼んでもらって演習場に二人きり。 

 最初はセイエル中佐の部屋に行ったのだが不在だった。 

 どうやら軍務局の方に出かけているらしく、すれ違いになったようだ。 

 知られると色々説得が面倒そうだったので幸運だった。 

 

「ただし、会話はダメ。はしゃぐのもダメ。抱き付くのもダメ。大人しく控えめな深窓のご令嬢って雰囲気で」 

 

 狂喜乱舞して息も絶え絶えになり、今は地面に転がって身悶えする友人に注意点を説明する。 

 息を整え、身なりを整え、汚れを払うネリ。 

 その表情は明らかにニヤけているのだが、頬をパンパンと叩いたかと思うとキリッとした表情に切り替わる。 

 ちょっとおかしな友人ネリから孤高の人マリーさんへの切り替えの速さは特筆すべきだろう。 

 やっぱり由緒正しい軍人の家系だけはある。 

 こうしていると実に格好良い。 

 

「じゃあ、ちょっと呼んでくるから待ってて」  

 

 

「あの子?(性的な意味で)」 

「はい、そうです」 

 

 心細そうに演習場に佇むネリ。 

 少しうつむき加減で待っている姿はどこか儚くさえ見える。 

 

「アイナの友人にしては大人しそうな子だね(性的な意味で)」 

「どういう意味ですか」 

 

 どうやら上手く騙せているようだが、何か納得が行かない。 

 彼女に走り寄り、話し掛ける。 

 

「大丈夫?」 

「大丈夫、多分」 

 

 何とも心許ない所だが早めに終わらせるべきか。 

 ゆっくりと歩み寄る准将が私に手招きをする。 

 

「何ですか?」 

「剣を渡す前に少し腕を見たいんだけど(性的な意味で)」 

 

 それもそうか。 

 ネリにその旨を話すと、すぐに模擬の大剣を持って来た。 

 准将は鞘に入ったままの自分の剣を正眼に構えた。 

 対するネリは模擬の大剣を両手で握り、下段に構える。 

 准将のことだからいざという時にズッコケそうで怖かったので例の大剣は私が預かっている。 

 

「始め!」 

 

 開始の合図と同時にネリは走り出し、剣を斜め上へと斬り上げる。 

 その斬撃を准将はわずかに後ろに下がることで躱す。 

 しかしネリの足は止まっていない。 

 そのまま追撃するように距離を詰めると振り上げた剣を斬り下ろす。 

 奇しくも私が左腕を折った准将の剣とほぼ同じ剣筋。 

 スッと横に移動する准将。 

 その動きは淀みなく、軽々と躱したように見えたが、ガキッっという衝撃音と同時に准将が後ろに飛び退る。 

 私の方からは准将の身体が影になってよく見えなかった。 

 

「何があったんですか?」 

 

 近くまで下がっていた准将に聞く。 

 

「蹴られた(性的な意味で)」 

「へっ?」 

 

 どうやら大剣の振り上げから振り下ろしまで全てが見せ掛けで本命は足蹴りだったらしい。 

 その蹴った本人はというと准将が全身鎧を着ていたことを忘れてたみたいだけど。 

 それなりに痛かったらしく、少し涙目になってるあたりが実に彼女らしい。  

 

「すごいな、あの子。さすがはアイナの友人だけあって意地が悪い(性的な意味で)」 

「それ、褒めてないですよね」 

 

 感心したような准将の姿がどこか気に食わない。 

 痛みが引いた様子のネリが再び剣を構える。 

 今度は自分の番とばかりに斬り掛かっていく准将。 

 防戦一方になったかと思えば再び伸びる蹴り足。 

 振り上げる准将の剣を後押しするように膝で蹴り上げたと思うと、今度は懐に潜りこむように迫る。 

 准将は蹴り上げられて常よりも高い位置にあった剣を振り下ろす。 

 

「お見事です」 

 

 准将の左手が大剣の腹を叩いて押し退け、剣筋が逸れた所でネリの首元に右手の剣が触れていた。 

 やはり学年二位の実力者。私では届かない位置にいるようにも思える。 

 何か二人だけで楽しまれて仲間はずれになったような気分を紛らわせるように後ろから蹴りつける。 

 

「終わったならさっさと離れてください」 

 

 抱き合うような姿勢で止まっている二人に淡々と告げる。 

 

「えっ、アイナ今黒騎士様を蹴っ―――」 

「てません。気のせいです。気のせい、です」 

 

 気のせいです、と強調するとそのまま黙ってしまうネリ。 

 別に二人が仲良さそうで羨ましかった訳じゃないです。 

 仕事をするのに邪魔だっただけです。 

 

「准将、よろしいですか?」 

 

 私の言葉に頷く准将。 

 抱えていた大剣をネリの両手の上に置く。 

 

「軽っ!? 何これ!」 

 

 准将は少し気落ちしているようにも見える。 

 これで断られたら本当に行き場が無くなってしまうとでも思っているのだろう。 

 

「私、頑張ります。頑張ってこの剣を使いこなして見せます」 

 

 笑顔のネリを見てホッと息を吐く准将。 

 

「その剣、切れ味凄いから気を付けてね」 

「うん、昨日のアイナみたいにならないように気を付ける」 

 

 その話は内緒って言ったでしょ、と小声で囁く。 

 何でもないなんて嘘ついた仕返し、と囁き返すネリ。 

 何のことかと首を傾げる私に彼女は再び囁く。 

 さっきの、ヤキモチでしょ、と。 

 

「な、ななななな、何言ってんの!」 

「あれ? 図星だった? アイナ、顔真っ赤!」 

 

 首を傾げる准将の方をまともに見られなくなった私を他所に、ネリは楽しそうに笑っていた。 

 

 

「そういえば、術式の説明を忘れてた(性的な意味で)」 

「何か色々うやむやになってましたね」 

 

 一度立ち去った演習場にもう一度戻る。 

 ネリとはすれ違わなかったからまだそこにいるはず。 

 

「うへへ、うへ、うへへへへ」 

 

 近付くに連れ、奇妙な声が聞こえてくる。 

 演習場に出た私達が見たのは大剣を胸に押し当てるようにして抱きしめたまま地面を転がり回るネリ。 

 

「うへへへ、うへへへへっ?」 

 

 地面に転がったままのネリと目が合う。 

 時間が止まったかのような深い沈黙が世界を支配した。 

 

「あーー!? 違う! 違うんです黒騎士様! これには深い事情がっ!」 

 

 急いで起き上がろうとして再び転ぶネリを見て准将が呟く。 

 

「やっぱり、君の友達だね(性的な意味で)」 

「そんな信頼はいりません」 

 

 世界は概ね平和のようだった。

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