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黒騎士と私  作者: みあ
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「詳しい報告はまだじゃが激戦だったようじゃの」 

 

 ルクセン中将が私の怪我を見やる。 

 准将を見るとつっと目を逸らす。 

 ええまあそうでしょう。 

 思い返してみると、私の怪我って魔物によるものじゃ無いですし。 

 途中で昏倒したのは怪我を治すために術力を使い過ぎたから。 

 左腕の骨折も、右手の裂傷も准将を止める時の物だし、そういえばお腹も殴られましたっけ。 

 

「そうですね。本当に准将には色々とお世話になりました」 

 

 ビクビクと震える准将を見つつ笑顔で言う。

 中将は訝しげな表情だったが流すことにしたようだ。 

 先任はおそらく知っているのだろう。 

 さんざん「バカがバカなことを云々」と言ってくれたわけだし。 

 中将にはあとでこっそり教えておこう。 

 

「本当なら怪我の療養に入ってもらう所じゃが少々気になる報告があっての」 

 

 魔王と出会ったのは本当か? 

 先任と同じ事を問われた。 

 正確には「出会った」わけではなく「会話した」のみ。 

 若い男の声ではあったが姿は見ていない旨を話す。 

 

「そして、このペンダントをもらいました」 

 

 包帯で固められた右手で掬うようにして持ち上げる。 

 横にいた先任が手に取ろうとするがすり抜けてしまう。 

 いつ見ても不思議な光景だ。 

 私には問題なく触れるし、外して中将の前の机に置くと硬質的な音がするというのに。 

 

「ワールドマップ、と呼んだと?」 

「はい、そうです」 

 

 ワールドマップとはこの世界全体を平面に表した地図のこと。 

 今まで黙っていた准将が注釈を付ける。 

 術力を込めると何もない空中に地図が浮かび上がる。

 

「世界とは広いものだな。我々が知らない大陸もある」 

 

 私達が知っているのはこの国がある大陸と南の海の向こうにある大陸のみ。 

 世界にはまだ手付かずの土地があるのだとこれを見て知った。 

 山に囲まれたこの国は海に出る術がない。 

 同じ大陸にありながら海沿いにある隣国ならまだしも、この国では航海術が発達する要素が無かったのである。 

 

「全ては魔物を駆逐してからの話になるかのう」 

 

 赤く光る点がおそらくは魔王の居城だと説明する。 

 そして白く光る点が私。 

 昨日までとは違って点の位置が砦の上に移動している所から見ても間違いない。 

 

「この位置は亡霊都市か……」 

 

 中将が呟く。 

 亡霊都市とは数百年前の魔王との戦争で滅んだ国があった所、らしい。 

 真昼間でもここで亡くなった人達の幽霊が出るとか声が聞こえるとかで誰も寄り付かなくなった禁断の地。 

 私の故郷は王都と亡霊都市の中間点くらい。 

 王都に行く者はあっても好き好んで亡霊都市に行く人間はほとんどいなかっただろう。 

 母が昔話でよく聞かせてくれた話がある。 

 子供の頃に村の青年が肝試しで行ったら五人いたはずが帰ってきたら六人に増えていたとか。 

 増えた六人目がお父さんだとか最終的には惚気話に変化していくわけだが割愛する。 

 

「禁断の地に魔王の居城とはな。似合いすぎて今まで分からんかったのが不思議なくらいじゃ」 

 

 魔王の宣戦布告を受けて十数年、この国は攻勢に出ず守勢で過ごしてきた。 

 それは魔王の居城の位置が判明しなかったというのが一番大きな理由である。 

 もちろん、他国との兼ね合いもあったし、最初の攻勢で砦まで押し込まれて国同士の連携が取れなかったという部分もあるが。 

 

「国王陛下に具申してみよう。わしの生きてる間に魔王との決戦が見れるとはのう」 

 

 ほっほっほっと笑う中将はいつになくご機嫌な様子。 

 退室を促され、先任に連れられて部屋を出る。 

 

「お前もしばらくは療養しろ。怪我が治ったら稽古を付けてやる」 

「そうですね、お願いします」 

 

 そう返事すると、先任は驚いたような顔を見せて立ち止まる。 

 何事かと後ろを振り返るとツカツカと歩み寄ってきて私の額に手を当てる。 

 あったかい手だなー。 

 

「熱でもあるのか、お前?」 

 

 ……失礼な。 

 私だって今回の戦いで色々と思う所があったのだ。 

 

「ミラ少尉には思い上がるなって叱られましたけど、もっと強くなりたいんです」 

 

 強ければ、彼を死なせることは無かっただろう。 

 強ければ、こんな怪我をすることなく准将を止めることが出来ただろう。 

 強ければ……きっと、父を救うことだって出来たはず。 

 もう、何もせずに後悔することだけはしたくない。 

 

「お願いします。私に稽古を付けて下さい!」  

 

 先任に心の底から頭を下げるのはきっと初めてのことだろう。 

 思えば、ここまで真剣になったことは無かったかもしれない。 


「本当に良い顔になったよ、お前は」 

 

 首を傾げていると頭に手をやり、グシャグシャと撫でられる。 

 ちょっ、髪が、セットが乱れる! 

 手の届かない位置まで逃げると、先任は破顔する。 

 私も先任がここまで楽しげに晴れやかに笑うところは初めて見た。 

 

「やる気になったからには地獄を見せてやらないとな」 

「……お手柔らかにお願いします」 

 

 さすがは姉弟と言わんばかりにイイ笑顔を見せる先任を見て、さっそくながら後悔する私だった。

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