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黒騎士と私  作者: みあ
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戦場

ここら辺りから残酷表現があるかと思います。 

気を付けてと言ってもどうしようもありませんが、覚悟してお読みください。 

「こんなもんで残酷とかちゃんちゃらおかしいぜ」とおっしゃる方も、「気持ち悪い」とおっしゃる方もおられるとは思いますが、進行上どうしようもないところですので気を付けてお進み下さい。 


 宿舎に向かう途中でミラ少尉と出会った。 

 既に知らせは聞いていたのだろう。 

 当然のことながら完全装備だ。 

 

「アイナ少尉、状況は?」 

「街の北部で准将が既に迎撃しています。数はこの前よりもずっと多いです」 

 

 そう、と少し思案していた彼女はすぐに顔を上げると私の姿を上から下まで眺めて微笑みながら言う。 

 

「早く武装して来なさい。無理はしないで」 

「ミラ少尉もお気をつけて」 

 

 彼女と別れて、走り続ける。 

 見知った隊員に声を掛けられては状況を伝えるという繰り返し。 

 そして、別れ際に必ず言われる「無理するな」。 

 思えば、准将にも同じ事を言われたような覚えがある。 

 そんなに無茶をするような人間に見えるのだろうか? 

 とりあえず、その事は放っといて宛てがわれていた自室に急ぐ。 

 人気の無くなった宿舎は静かで、とても外で戦闘が起こっているとは思えないほど。 

 

「鎧、鎧っと、あった」 

 

 防刃服を着るのには時間が掛かる。 

 今はその時間さえ惜しい。 

 ワンピースの上に直接鎧を身に付けると冷たさを感じた。 

 ただ、それもすぐに内から沸き上がってきた熱に塗りつぶされる。 

 

「アイナ=シューストー、これより出陣します」 

 

 心を奮い立たせるように戦場へと走る。 

 仲間たちが戦っている北の荒地へと。 

 

 

 人々は建物の中で震えているのだろうか? 

 人っ子一人見当たらない商店街を走り抜ける。 

 准将と過ごした先ほどのひと時が嘘のように静まり返っていた。 

 これが今のこの国における現状だ。 

 人々の営みのすぐ裏では魔物達が爛々とその眼を光らせて舌なめずりしている。 

 生活と戦場が密接に重なっているこの世界の在り方はおかしいとさえ思う。 

 元凶は魔王、とされている。 

 誰も見たことのない、けれども誰からも忌み嫌われる魔王。 

 魔王が歴史上に現れるのはこれが初めてではない。 

 この国が建国されたのも元はといえば魔王による蹂躙によって疲弊した人々が寄り集まったから。 

 失われた騎士エンテッザと英雄ルクセンによって魔王が倒された後、故郷を奪われた者たちが創り上げた新たな故郷。 

 それがこの国なのだ。 

 最初の王は英雄ルクセンが仕えていた青年だったという。 

 人々をまとめ上げ、世界を憂い、自分の騎士を遣わした青年はやがて王となる。 

 それが建国史の始まりの物語。 

 もう、数百年も前の本当かどうかも分からない建国の歴史である。 

 

「騎士様!」 

 

 ひょっとして私のことだろうか? 

 突然呼び止められて足を止める。 

 振り返ると、建物の入口から身を乗り出す年の頃は三十前後の女性の姿。 

 扉の向こうからは大勢の人の気配。  

 

「どうしました? 何かありましたか?」 

「息子の姿が見えないんです。昼から北口の商店に行くと言ったままで……」 

 

 魔物達の侵攻は街の北側から。 

 人々の避難は出来ているのだろうか? 

 准将が接敵して進軍の足は止まったはず。 

 既に避難は完了していると思いたいが……。 

 聞けば、十二歳の男の子だという。 

 ずいぶん若い頃に産んだ子供ですね、と心中で思ったが今は関係がない。 

 

「分かりました、探してみます」 

「お願いします、騎士様」 

 

 騎士様などと言われるのはくすぐったい。 

 確かに軍人は剣を賜ることこそ騎士の名残とも言われてはいるが、現在ではそのまま軍人と呼ばれることが多い。 

 軍を束ね、国王陛下に仕える将官なら騎士と呼ばれてもおかしくはないとは思うのだけれど。 

 

「こんな……」 

 

 やっとたどり着いた北口は酷い有様だった。 

 建物は崩れ、あるいは斜めに真っ直ぐ断ち切られていたり。 

 どうやったらこんな風に建物が崩れるのか不思議ではあるが、今はそんなの気にしてる場合じゃない。 

 倒れた男性の上に魔物が馬乗りになって手にした鈍器を叩きつけている。 

 もうピクリとも動かない死体だと分かっているだろうに、それでもなお下卑た笑いを浮かべながらなぶり続ける姿に嫌悪しか浮かばない。 

 私の腰くらいしか無い小型の魔物は醜悪な笑みを浮かべて肉の塊に成り果てた死体を踏みにじる。 

 そいつが剣を抜きながら走り寄る私に気付いたか否かはわからない。 

 銀閃が走り、下卑た笑いを断ち切った。 

 魔物の肉を切る感触は無かった。 

 しかし、魔物は頭部を上下二つに分けられて血を噴き出して転がっている。 

 魔物特有の緑色の血が真っ赤な血と混ざり合う。 

 私がはっきりとこの目で見た初めての戦場は緑と赤とで彩られていた。

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