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黒騎士と私  作者: みあ
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マコト

「脱いで下さい」 

「えっ? 今ここで? そんな恥ずかしい……(性的な意味で)」 

「私の方がよっぽど恥ずかしいです。さあ早く!」 

「初めてのデートで無理矢理とか酷い(性的な意味で)」 

 

 言葉面だけ見るとまるで私が迫っているように見えるがそんなことはない。 

 ただ単に覆面を脱げと言っているだけである。 

 

「ほら皆見てるし……(性的な意味で)」 

「そりゃ見ますよ! 往来で覆面男が歩いてたら皆見ますよ!」 

 

 さすがに人目が気になってきたので手を引いて路地裏に連れ込む。 

 

「こんな所に連れ込むなんて……(性的な意味で)」 

「斬りますよ? 斬り落としますよ?」 

 

 身体をくねらせる准将を見つつ、腰に下げている剣に手を掛ける。 

 いくら私服とはいえ、軍人である以上は剣を常時携帯している。 

 准将だってそれは同じ。 

 覆面のせいであまりにも怪しい人物以外の何者ではなく、あの子を家族の所に送っている時でさえ私が居なければそれこそ人さらいのように見えただろうことは想像に難くない。 

 

「冗談だよ、冗談。ははは(性的な意味で)」 

 

 途端に慌てる准将。 

 さて、本当に准将なのだろうか? 

 鎧越しでは無いためにいつものくぐもった声ではない。 

 思ったよりも若い声ではあるが鎧の中で反響していたせいだろうか? 

 口調はいつも通り蠱惑的な響きをしている。 

 何より襟元の徽章が准将の位を示しているわけだが同時に覆面が目に入ってくるために信じ難い。 

 

「何? 何か付いてる?(性的な意味で)」 

「覆面が付いてます。どうして顔を隠すんですか?」 

 

 見られたくない大きな傷跡がある、とかだろうか? 

 軍人なら怪我は勲章とか言って見せびらかしている人だっているほど。 

 准将ともなればそれほど問題ではないはずだけど。 

 

「だって恥ずかしいもん(性的な意味で)」 

「もん、じゃありません。顔を見られただけで何が恥ずかしいんです?」  

「ジロジロ見られるから嫌だ(性的な意味で)」 

「覆面付けてる方がジロジロ見られると思います」 

「仕方ないな。ちょっとだけだよ(性的な意味で)」 


 そう言いながらゆっくりと覆面を外していく。 

 最初に気付いたのは髪、真っ直ぐな髪の束がこぼれ落ちて背中に垂れる。 

 そして肝心の顔の方だが別に傷跡があるわけじゃない。普通の顔だ。 

 ただ気になるとすれば。 

 

「女性だったんですか?」 

「違うよ! 確かめてみる?!(性的な意味で)」 

 

 ズボンに手を掛ける准将を制してゆっくりと眺める。 

 見れば見るほどむかついてくるのは何故だろう。 

 きっと私よりも女性らしい綺麗な顔立ちをしているからかもしれない。 

 

「何か腹立ってきた……」 

「そういう反応をされたのは初めてだな……(性的な意味で)」 

 

 大体、何ですかこの髪! 

 癖のない真っ直ぐな艶のある黒髪。 

 毎日ブラッシングに長い時間を割いている私に喧嘩売ってるんですか? 

 後ろに回りこんで肩から下に伸びている髪を引っ張る。 

 

「痛っ! 何? 何するの?(性的な意味で)」 

「女性と間違われたくないなら切っちゃえばいいんですよ、こんなの!」 

 

 ぐいぐいと引っ張っていると危険を感じたのか逃げられる。 

 ちっ。思わず舌打ちが漏れた。 

 

「今、舌打ちしたよね? 女の子が舌打ちとかダメだからね(性的な意味で)」 

「してませんよ、別に」 

 

 髪を庇うような彼の姿を見て、もう触らせてくれないだろうなと思う。 

 細くてサラサラしてたし、そのまま引っこ抜いてやれば良かった。 

 

「何かまた危ないこと考えてる! これは願掛けだから切っちゃダメ!(性的な意味で)」 

「そういうことなら仕方ないですね」 

 

 私だって鬼ではない。 

 理由があるなら無理矢理切ろうなどとは思わない。 

 剣に掛けた手を外す。 

 

「あれ? 元に戻しちゃうんですか?」 

「君に見せたら別の意味で危ない(性的な意味で)」 

 

 再び覆面を付けていく准将はどこか怯えているようだ。 

 しかし、何だって女性顔が問題なんだろう? 

 

「……僕の口調が問題なんだ(性的な意味で)」  

 

 幼い頃は素顔を晒して生活していたという准将。 

 その言動が無用なトラブルを引き起こしていることは被害者である私がよく知っている。 

 准将の人柄をよく知っている人間なら、その言葉に込められた意味を誤解することはない、とは言い切れないが少ないだろう。 

 しかし、ここに美しい容貌が加わるとなるとまた話が変わる。 

 准将がどうしようもない人間だと既に知っている私が惑わされることはまずないだろうが、初対面でいつもの口調で性的な言動を働いた日には私なら間違い無く憲兵を呼ぶ。 

 これが私以外の、例えば、えーと……名前忘れたけどシャロの次の人とかならホイホイと着いて行ってしまいかねない。 

 もしも相手が准将よりも強い人間なら身の危険すらありえるだろう。 

 

「これが原因で養い親に捨てられたからね(性的な意味で)」 

 

 さらっと重い事実を口にする准将に自嘲の響きが感じられた。 


「すみません、私知らなくて……」 

「そりゃそうだよ、初めて他人に話したからね(性的な意味で)」 


 再び口を開いた時にはいつもの軽い口調で。 

 それが逆に痛々しくて。 

 

「んー、悪いと思ってるなら、僕のことはマコトって呼んでよ。昔の名前なんだ(性的な意味で)」 

「マコト……ですか? 変な名前ですね。じゃあ、私のこともアイナでいいですよ?」 

 

 これからデートする相手を階級で呼ぶのはおかしいだろう。 

 と、思い出した。デートだったこれ。 

 

「どうしたの、アイナ?(性的な意味で)」 

 

 結局、覆面男を連れて歩くのか。 

 今回は仕方ない、私一人で恥ずかしい思いをしよう。 

 もうどうにでもなれ。 

 投げやりになりつつ、准将もといマコトの手を引いて大通りに向かった。

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