表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒騎士と私  作者: みあ
13/45

別れ

 副官としての研修も今日で最後。 

 正式に副官として着任するに当たって剣と徽章が授与されることとなった。 

 

「これから閣下のことをよろしく頼む」 

「はい、謹んでお受けいたします」 

 

 軍人は常に帯剣するという規則がある。 

 これは未だ魔族との戦争中であり、常在戦場の心構えを示すもの。 

 プライベートな時間を過ごしていてもいざ戦いとなれば剣を執って立ち民衆を守るというのが軍人の務め。 

 精神的にはとても重く感じられる。 

 ……物理的にはすごく軽いんですけどね。 

 授与された剣を鞘から抜くと、びっしりと紋章が刻まれている。 

 

「僕からの贈り物。『軽量化』と『硬化』、それに『尖鋭』を刻んでおいた。鞘から抜く時に指を当てながら術力を込めればいいよ。それと、これもね(性的な意味で)」 

 

 手渡されたのは腕輪のようだった。 

 左手に嵌めるように言われたのでその通りにしてみる。 

 これも表面に紋章が刻まれているようだ。 

 刻まれているのは『展開』。術力を込めると准将と先任が飛び退くようにして離れる。 

 途端にカシャンという軽い金属音と共に額に当たったガツンという衝撃で目の前に星が飛び散った。 

 

「説明前に展開するな」 

「付ける前に説明しておくべきだったね(性的な意味で)」 

 

 顔を上げると身を隠せるほどの大型の盾が左手に装着されていた。 

 普段は腕輪として収納されていて、術式で展開するようになっていたらしい。 

 どうやら展開すべき位置に私の頭が存在していたようだ。 

 

「……初めに言ってください」 

 

 一瞬で展開された所を見るとかなりの衝撃だったと思われる。 

 血は出てないよね? 押さえていた手に何も付いてないのを見てホッとする。 

 

「あの、これ大きすぎるんじゃ?」 

 

 私の戦闘スタイルは小型盾と片手剣。 

 剣はまだしも、こんな盾は使ったことが無い。 

 

「術力の込め方で大きさが変わるんだ。それは最大の状態(性的な意味で)」  

 

 言われた通りに加減すると自在に大きさが変わる。 

 どの大きさでもとても軽く感じられ、練習で使っていたものより手に馴染む。 

 これにも剣と同じように紋章術式が刻まれているようだ。 

 一回の術力で使用できたところを見ると、畳まれた状態で『展開』の術式の下に『軽量化』が重ねてあるのだろう。 

 何とも巧く出来ているものだと感心する。 

 

「お前のスタイルなら小型盾じゃなく大型盾の方が合う。いつでも稽古は付けてやるぞ?」 

 

 先任の申し出はまた今度ということで、とりあえず礼を言う。 

 

「こんなにもして頂いてありがとうございます」 

「これからは戦場にも出ることになる。備えは多い方がいい」 

「僕も出来るだけサポートするけど、戦場では何が起こるか分からないから(性的な意味で)」 

 

 准将が言うと何かいやらしいですよね。 

 流石にこの場面で口には出しませんけど。 

 

「自分はこれから王都守備隊に配属されることになっている。戦場で出会うことは無いだろうが何かあれば連絡して来い」 

 

 そう言って敬礼する先任の袖口と襟元には中尉の階級章。 

 同格と言っておきながら一週間で昇格しやがったと苦々しく思いつつ、笑顔で敬礼を返す。 

 

「はっ! ご指導ありがとうございました、中尉殿。少なくとも遅刻には気を付けたいと思います」 

 

 出会った頃の皮肉に気付いたのか声を上げて笑い、今度は准将に向き直る。 

 

「准将閣下、今までありがとうございました。今後のご武運を祈っております」 

「うん、今までありがとう。ビュート(性的な意味で)」 

 

 短い言葉を交わすとがっちりと握手。 

 男同士だとやっぱり色々違うんだろう。 

 先任の目にはうっすらと涙さえ浮かんでいる。 

 准将と共に敬礼をし、彼を見送る。 

 直立不動で返礼をすると、そのまま踵を返し振り返ることなく去っていった。 

 

「これから寂しくなりますね」 

「そうだね。でも大丈夫だよ。君の事は頼りにしているから(性的な意味で)」 

 

 少し凍えていた心がただ一言でほのかに暖かくなる。 

 そんな准将に私は言葉を返した。 

 

「今日はいいですけど、明日からはちゃんと黒板使ってくださいね」  

 

 がっくりと項垂れる准将を見て、子犬みたいでちょっぴり可愛いかもと思ったことは胸の内に仕舞っておこうと思う。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ