第五話 ラスタは同級生にゴブりんを初披露し、模擬戦に臨む
王立高等学園の訓練場はにわかに騒がしくなった。
「ゲ、ゲギャ?」
ゴブりんは〈な、なに?〉と首を傾げている。
「しょ、召喚士なのにゴブリンって! アイツ召喚の基本知らないのかよ!」
どうやら、僕がゴブりんを召喚したせいらしい。
たしかにゴブリンを召喚獣に選ぶ〈召喚士〉はいないだろう。
僕だって召喚士の基本は知っている。
もっとも、基本を知ったのはゴブりんを召喚獣にしたあとだけど。
でも僕は、後悔していない。
「気に入らん、気に入らんぞ成り上がり者めッ!」
訓練場に、怒声が響いた。
「ゲギャ?」
僕もゴブりんも振り返る。
「〈召喚士〉のクセにゴブリンだと? 汚らわしく弱く役にも立たんゴブリンを召喚獣にするだと? どういうつもりだ!」
ざわついていた同級生の中から近づいてきたのは、まだ職業による能力を披露していない最後の男子生徒だった。
順番を待ちながらニヤニヤしていた笑顔は消えて、顔を赤くして怒ってるみたいだ。
「そんなモノを召喚して〈召喚士〉がその程度と思われるのは心外だ! 俺が〈召喚士〉とはなんたるか見せてやろう!」
チラッと教師を見る。
教師は黙ったままで、止めるつもりはないらしい。
男子生徒が僕とゴブりんの前に立つ。
男子生徒は目を閉じて胸に手を当て、集中しているようだった。
内なるマナが練られていく。
僕もこっそりマナを練る。
ゴブりんを召喚したから残り少ないけど。
相手が召喚系統を使うと思って油断するなって、師匠にさんざん不意打ちされたからなあ。
そんなことをぼんやり考えられるぐらいには、召喚に時間がかかっていた。
「〈我がマナを喰らいて顕現せよ! 雷角霊馬!〉」
胸に輝く魔法陣から光が走る。
目を細めた僕が見たのは、淡い光をまとった白馬だ。
白馬の額から生えた角は、バチバチと雷をまとっている。
「おおおおおお! マジか! すげえの喚びやがった!」
「召喚系統の職業が二人か。召喚獣の差がヒドいけど」
「学生が召喚するモノじゃないわよこんなの……対軍兵器じゃない」
「下がれ下がれ! 俺たちまで怪我するぞ!」
「くははっ、そうだ! 敵軍の隊列を乱し、モンスターの大群に突っ込む強力な召喚獣こそ〈召喚士〉の本懐! おっと」
霊馬の後ろにいた男子生徒が、ふらっとよろけた。
召喚に必要なマナがギリギリだったんだろう。
師匠の家にあった資料では、いまの〈召喚士〉と召喚獣の基本は彼が言った通りだ。
召喚士がマナを使って喚び出せる限界ぎりぎりの召喚獣と契約する。
敵に強力な一撃をもたらして召喚を解除する、あるいはマナが足りなくなって自然に解除される。
何種類もの召喚獣を契約できる召喚士は少ないし、喚びっぱなしにするとマナが足りなくなる。
いまの召喚士はいわゆる「移動砲台」みたいな扱いだ。
つまり、僕とゴブりんは基本から外れてるわけで。
「模擬戦だ!」
「……え?」
「召喚士と召喚獣のなんたるかを教えてやるッ! ゴブリンを召喚獣とした『できそこない召喚士』め!」
「……あの、先生?」
「ふむ。職業による能力を見せてもらう授業です。いいでしょう」
「……はい?」
「ただし、模擬戦は召喚獣同士。二人もほかの生徒たちも巻き込まれないよう離れるように」
「はあ。……はあ」
ため息が出る。
教師に提案を認められて、男子生徒はにんまり笑った。
同級生は盛り上がってる。あと僕たちから離れていってる。
「……がんばろうか、ゴブりん」
「グ、グギャギャッ!」
ポンと肩を叩くと、ゴブりんは〈え、マジで?〉みたいな表情になった。
言葉が通じるわけじゃないからわからないけど。
もしかしたら〈やるぜやってやるぜ!〉って言ってるのかもしれないし。
魔法専攻の同級生たちは離れて、僕もゴブりんから離れていく。
自信満々な足取りで、男子生徒も離れていく。
充分に離れたところで——
「そのあたりでいいだろう。では、はじめるように」
教師が、僕ら二人の召喚系統の職業持ちに告げた。
「ゴブりん! 防御だ!」
僕の指示を受けて、ゴブりんが盾を構える。
小さな体を縮めて、フチから顔を覗かせて前方を見ている。
「蹂躙せよ、雷角霊馬!」
男子生徒が叫ぶと、霊馬がいななく。
額から生える角からバチバチと音を立てる。
霊馬が走り出した。
雷をまとった角を突き出して、ゴブりんに向かって。
二体の召喚獣が激突する。
接触したのは一瞬。
決着も一瞬。
ひときわ大きな雷音をあげて、霊馬が駆け抜けた。
ゴブりんは——
霊馬に弾き飛ばされ、一瞬悔しそうな顔をして、消えた。
「見たか! これが召喚獣! これが〈召喚士〉の戦いだ!」
男子生徒が胸を張る。
一撃でマナを使い果たしたのか、霊馬が消えていく。
強力な召喚獣、基本通りの運用。
見守っていた同級生たちも、勝者に拍手を送っている。
僕は唇を噛み締めた。
もし、僕のマナの最大量が多かったら。
もし、僕の職業が上位だったら。
ゴブりんに、あんな悔しそうな顔をさせなかったのに。
「わかったら調子に乗らずにひっそり学園生活を送るがいい! 『できそこない召喚士』め!」
男子生徒は満足そうだ。
はしゃぐ同級生たちが彼を囲む。
僕はまた、一人だった。
ゴブりんを守れずに、勝たせられずに。
「雷角霊馬の突進に反応し、盾で受け流そうとするとは。そうか、ゴブリンには職業がある。であれば今後の伸び次第では上位職業になることも」
生徒たちに目をくれず、教師がブツブツ言っている。
うん、一人でもゴブりんの可能性を認めてくれたことを喜ぼう。
ただ——
王立高等学園でも、僕はぼっちになりそうです。





