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アンチテーゼ/アンライブ  作者: 名無名無
第二章 霧の街のミステリー
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正論をぶつけるのではなく、寄り添うべき相手

「ギルドから言われたこと。ちゃんと覚えてるな?」


「任せてよ。とりあえず、目的地に行くんでしょ?」


「それもだが......」


 アンナとデリバーの二人は、とある依頼や目標のために、街中を地図に従って歩いていた。


 ギルドから伝えられた二つのすべきこと。その一つ目はとても簡単だが、同時にとても難しい。


 なんせ会うまではいいのだが、話し合いがいつも失敗するからだ。


「居場所はわかる?」


「いつまでも小僧探しに時間を使いたくないからな。手っ取り早く、俺の”簡易”魔術で行くぞ」


「うんっ(簡易......? まあこの際、何でもいいや)」


 既に何かしらの方法で、人探しに長けた魔術を発動しているデリバー。

 地図を見ながらなんとか歩いているのだが、意外な場所にその人物は隠れていた。


 人気も随分と減ってしまった、寂れた街を歩き回り、明らかに放棄された空き家の前へと移動する。


「ここだ」と目的地にたどり着いたことを知らせてくれるデリバー。そのままなんの躊躇いもなしに、古い木の扉を豪快に蹴り破って中へと侵入した。


「......誰だ」


「おっと。用があるのは俺じゃねえ。こっちだ」


 目の前の空き家にて、壁を背もたれにして居座っている、聞き慣れた声を放つ男がいた。


 そいつに向かってアンナは歩き出し、目の前でしゃがんで目線と目線を合わせる。お互いに話しやすく、より表情を伺うためだ。


「やあ。今回は説教も喧嘩もナシだ。ウチはお前に協力する。皆でやれば早く終わるよ。マイルス」


「なんだと?」


 心身ともに疲れ切っているのか、明らかに痩せ細っていた男。ここ最近は別行動を取っていた仲間。マイルスに向かって、今までとは全く違う観点から話しかけた。


 ロウが死んでからは会うたびに正論をぶつけ、なんとか立ち直ってもらおうと努力していた。


 しかしこの男にそれを言っても無駄だと、つい最近理解した。言葉は届くだろうが、彼の頑なに強い意思の前では無意味となるだけだ。


 ではどうすれば良いか。それをとある友人に相談し、答えを得ることができた。


 この男に必要なのは”同情”だった。誰も彼も、身内の死に寄って生じるモノを簡単には引き剥がせない。


 今の場合、彼の心に寄り添い、同情しつつ具合を計らって接することが大切である。


 寄り添いすぎてはいけない。さりとて今までのように、一方的に接するのも良くない。あくまで彼の思いに耳を傾け、聞いてやることが大切だ。それが今できる「寄り添い」である。


「......わかってるのか? オレは殺したいんだ。ジジイを殺したヤツを」


 細々と弱々しく、しかしそのギラついた瞳には、「必ずやり遂げる」という黒い炎が灯っていた。

 つまるところ「復讐」だ。彼の瞳は復讐に燃えている。


 この世界では、個人が簡単に他人を殺せる力を持つことができる。魔術や魔法という、人間が扱うには強大すぎる力だ。


 以前の世界で言い表すなら、国民全員が銃を持つ銃社会をイメージしてもらいたい。

 つまり全員が凶器を持っているが、各人々は理性でそれをコントロール。あるいは法律にしたがって禁じている。


「ああ、分かってる。君はそれをできる力を持っている。そしてウチはそれを止めるほど弁論も、力もない。だからその瞬間まで協力するよ。そっちもウチらを利用すればいいさ」


 しかしマイルスを放っておけば、そんなの関係なしに必ず敵を殺すだろう。


 彼を復讐に取り憑かれた鬼へとさせたくない。あくまで人のまま、身も心もを化け物になってほしくはないのだ。


 人を殺せばツケが回ってくる。人殺しの感覚は最悪だ。思い出すだけで手を切り落としたくなる。


 そして復讐だって、最初は気持ち良くても、後味が段々と悪くなっていく。それは想像もつかない苦しみになるだろう。


「だから協力しな。どんとこい!!」


 協力的な姿勢を見せているが、本音は真逆だ。

 それでも、同じ土俵に立たないと話は進まない。


 自己を抑えて彼に寄り添う。その第一歩として、ゆっくりと立ち上がり右手を差し伸ばす。


 すると彼はその手とアンナの顔を交互に見つめ、口の端を不敵に釣り上げて笑みを浮かべ、面白おかしそうに笑って言った。


「......ハッ!! なるほどな! 言っとくが、邪魔したら容赦しねえぞ」


 威圧的な瞳で睨む彼の目を、怖気つかず受け止め無言で頷き返す。

 伸ばした手に対して、マイルスも無言で手を伸ばし、彼の手を引っ張って立ち上がらせる。


 これで第一の依頼完了だ。


 ひとまず進展したことにホッとするも、それはすぐさま別の疑問によってかき消された。


 掴んだマイルスの手をじっと見つめながら、時々にぎにぎする。


「......なんだよ」


「飯。食べてる?」


 不服そうな様子で、ジィッとお互いに掴み合う手とアンナの顔を見つめるマイルス。


 彼が少々気味悪く思うのも理解できる。しかし彼の手を握り返す理由は、アンナの手を握るその手には全く力がこもっていなかったからだ。


 痩せて目に隈まで浮かんでいるのだ。今まで相当無茶な生活をしてきたのだろう。


「最低限しか食べていない。そんな顔だな。さてアンナ、どうする?」


 側で様子を見守っていたデリバーがこちらに歩み寄ってくる。


 マイルスの手を離してやり、作り笑いを浮かべてマイルスをじっと見る。

 自分的には「不敵な笑み」というヤツを浮かべたかったのだが、どうやら上手くいっていないようで「き、気持ち悪!!」とうわずった声で引かれた。


「むっ......。まあ文句は後で言うとして。とりあえず、まずはマイルス。着替えなり飯なり済ませてくるよ」


「なっ、勝手に決めるな......うおっ!! は、離せ!」


 今の非力な彼の力では、無理やり手をつかんで引っ張るアンナの力には逆らえない。


 それを承知の上で、アンナはマイルスの手をつかんで離さず、とりあえず近場の飯屋に連れて行くことにした。




 〜〜〜お昼ごろの街の中。

 飯のために移動をしていた。


 そして適当なところに行こうとするが、そのままお店に入るのをマイルスが嫌がるので、仕方なしに適当な物を買い歩きしながら食わせていた。


「も、もういい......」


「よし。それじゃ次は着替えと入浴か。早速マイルスの家でやるか。やってあげるよ」


「い、いい!! ......なんかお前。前とは違って大胆になったか?」


 以前と雰囲気が変わったと思われたのか、観察するような(まなこ)でこちらを見つめてくる。


 大胆にと言うより、とりあえずやらなければいけない。やってあげないといけないと思い、率直に行動しただけだ。相手の顔色を伺うような、余計な心配の一切を排除した上で。


 つまるところ「やりたいことをやる」ことに専念していた。今やりたかったのは、マイルスの健康回復である。


「ハハっ!! 諦めろ。俺が手解きした結果だ。以前より、ちょいと我が強くなっちまったのさ」


「手解き?」


 素直に教わったことをもとに行動に移す姿がおかしかったのか、「くくっ......」面白そうに吹き出して笑うデリバー。そしてそんな彼を見て、マイルスはますます訳がわからないといった様子である。


「ほら! とりあえず着替えて! そんなボロボロで臭かったらどうしようもないでしょ!」


「く、臭っ!? ......ちっ。身だしなみに時間なんていらねえだろ」


 ぶつぶつと文句を言うマイルスの手を引っ張り、地図を見ながら彼の家まで強制連行。


 そして自宅のお風呂へ彼をぶち込み、その間利用する部屋だけの埃を排除し掃除してやった。



 全てのことが済み、いよいよ本来の仕事の開始だ。


「(家政婦かよ......)......で。なんかアテはあんのか?」


「ああ、マイルスは途中でいなくなったから知らないのか。ギルドから伝えられた情報。そして指示。それをもとに、今から動くんだよ」


 風呂上がりのマイルスを手招きして呼び寄せ、借りたキッチンテーブルの上に地図と数枚の紙を置く。


「これは......。写真か」


「俺から要点を色々と説明させてもらおう」


 机の上に置かれた数枚の写真。そして地図に示された新たな印。

 それらについて、デリバーが説明を始めた。

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