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アンチテーゼ/アンライブ  作者: 名無名無
第二章 霧の街のミステリー
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「寄り添う」というアドバイス・自分自身への悩み

「——ってわけ」


「なるほど」


 どうして戦友とも言える仲間のマイルスが酷く混乱しているのか。その原因とも言える事件。それらを交えて、今マイルスをどうすれば良いのかと悩んでいると正直に打ち明けた。


 話をする前後で大して表情に変化がないロット。彼がどう思っているか気にしつつ、助言を求めた。


「......なんかアドバイスある?」


 これまで何度もマイルスと渡り合ってきたが、どれもこれも意味をなさなかった。


 それどころか、彼に「お前も正論ばっかり」と突き放されてしまったのだ。


 彼の胸の内。そこに秘めている悲しみや怒りは大いに共感できる。だというのにお互いにうまく分かり合えない。


 だから、この騒動に全く関係のない第三者の意見が欲しかったのだが。


「......さてな。俺は精神科医じゃない」


「そんなぁ」


 とはいえごもっともとも言える答えを言うロット。彼の言う通り、精神科医でない以上、的確なアドバイスなどわかるわけもないだろう。


 期待できる意見は望めなかった。物事がうまくことを運ばないことはよくある。


「ごめん」と、他人の仲間についてどうすればいいかと助言を求めたことを謝る。彼からすればどうでも良いことだ。


「謝るな。何も悪いことは言ってないだろ」


「まあ、そうかもだけど......」


「いっそそいつに寄り添ってみてはどうだ」


「寄り添う?」


 しかし精神科医ではないが、どうでも良いことにも関わらず、一端のハンターである彼は思いも寄らないことを言ってくれた。


 寄越してくれたのは、人との付き合い方。当たり前のアドバイスだった。


「ああ。そいつの口ぶりだと、誰か理解者を求めてるんだろ。なら一緒に行動してみたらどうだ?」


「そんな無茶な......」


 相変わらずお面のように表情が変わらないが、淡々と彼なりにアドバイスをくれる。


 かなり強引な考え方だが、間違いと言うわけでもない。


 隣にいて行動した方が、いざという時に制止できる。そして一緒にいる時間が増えることで、お互いに再び信頼関係を築くことだって可能だ。


 今のアンナとロットだって、連日連夜、行動を共にするだけで初期の頃よりは関係も良くなった。お互いに軽い冗談だったり、気兼ねなく話せるようになったりもしている。


「......分かった」と、一応その案を渋々飲んでおく。他にまともな考えもないからだ。


「引いてダメなら押してみる。やってみるよ」


「そうか。なら今日はもういいだろう。じゃあな、頑張れよ」


「あっ......。分かった。おやすみなさい」


 そう言って本日は連れ回すだけ連れ回し、いつもより早めに解散するロット。

 引き止める間も無く、勝手にどこかへと消えていってしまった。




 宿への帰り道。


 暗い夜道を一人で歩きながら、なんとか来た道を思い返しながら歩いていく。


「......顔に出てたかぁ。余計な心配かけちゃったか」


 鏡があって、ビデオカメラの映像があったとしたら、今の自分を長時間観察したい。


 どんな時に、どんな顔をしているのか。第三者の視点から覗いてみたい。


(......自分のことなのにわからないなんてな)


 大きなため息を吐きながら、ポケットに手を突っ込んでゆったりと、なるべく遅い足取りで道を歩いて行く。


 宿に帰ると、待っているのは朝までの退屈時間。


 このまま街の外を出歩くのも悪くはないが、それは状況が許さない。いつ襲われるのかわからない上、ギルドから伝えられた作戦や注意事項を裏切ることになってしまうからだ。


「......」


 歩きながら、左手をポケットから出して、じっと見つめる。


 この腕も、そしてうまく表情が作れないこの顔も、恐らく他人の体。もしくは作られたもの。生前とは完全に違う自分。


「嫌なところで痛感させられる......」


 自分の体なのに自分でわからない。腕のことも、そして自分が今どんな表情を作っているのかも。


 それがとても気持ち悪い。意識すると全身に虫唾が走る。

 この虫唾の原因。魂があるとしたら、今、アンナの体に対して拒絶しているのだろうか。


「気持ち悪い......」


 全身をブルっと震わせて、再び止まっていた足を動かし、前へと進む。


 これ以上思考にリソースを費やすのはマズい。どんどん悪い方へと向かっていると実感する。


 頭をブンブンと振り払い、心を覆い尽くそうとするネガティブな感情をなんとか振り払おうと試みる。


 しかし一度考えてしまったことは、しばらくは頭から離れない。

 であれば、無理矢理にでも今日は何も考えないようにしたい。このまま意識を失った方が気持ちが楽だ。


(酒屋。やってるかなぁ)


 帰り道にいつも寄っている酒屋。まずはそこへ行って、酔い潰れる位の酒を買うことにした。




「......んぁ?」


 奇妙な臭いが鼻を刺激し、デリバーは宿のベッドから起き上がる。


 本日から再び仕事だ。これからはアンナという仲間と共に、ギルドの指示にしたがって調査を進めなくてはならない。


「......なんだ? この臭いは......」


 まだ寝ぼけて目が霞んでいる。


 両目をゴシゴシと擦って、ベッドから両足を降ろして、そして柔らかいものを踏んだことに気づき「うおお!?」と悲鳴をあげる。


「なんだっ!? 糞か!?」


 昔、犬の糞を素足越しで踏んだことがあり、その感覚にほんの少し似ていたので、寝起きのせいも相まって勢い良く驚き飛び跳ねる。


 ベッドの上でしばらく固まって、時間を置いてから両手と尻餅をつく。そしてハッキリと見えるようになった両手で、部屋の中をじっと観察した。


「......酒瓶!?」


 地面に散乱している二つの酒瓶を目にする。度数はそれほど高くはないが、二本も飲むとなると一時的に酔い潰れるのは間違いない。


 そしてその酒瓶が放つ臭いが部屋に充満しているのだ。鼻を強く刺激する奇妙な臭いとはこれのことだ。


 急いで窓を開けて換気し、もう一度振り返って部屋を見渡した。


 そして起きて早々踏んづけた柔らかいもの。その原因を知って、大きなため息を吐いた。


「ハァ......。何があったってんだ」


 不眠症に悩まされている仲間、アンナ。彼女がベッドのすぐそばの床、ちょうど死角になっていた場所で、腹を出して地面に仰向けで倒れていたのだった。

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