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アンチテーゼ/アンライブ  作者: 名無名無
第二章 霧の街のミステリー
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二日目の休暇・夜の約束

 ギルドから休暇を言い渡されて、二日目の朝。


 昨夜の一件。その約束を忘れないようにしつつ、起きてきたデリバーと一緒に街を歩いていた。


「朝食はここでいいか?」


「いいね。ちょっと高いけど」


 相変わらず静かな街を歩き、いつもより高い朝食を二人でいただく。


 これが有意義な休日の過ごし方なのだろうか。

 確かにお金を休みの日に、何気ない朝食という行為に少々多額を注ぐだけで気分は変わる。


(前にもこんなことやってたな)


 生前の記憶を思い出し、あの時は週に一回だけお金を奮発し、好きなカフェのデザートセットを食べていたことを思い出した。




 〜〜〜そしてお昼。


「あそこの本屋に行かない? 買った後、あのカフェで食べようよ」


「いいぞ。そういやお前と本屋に行くのも初めてだな」


「だねぇ」


 二人で本屋に入り、隣に隣接しているカフェで本を読みながら飯を食べることに。


「ゲームについての本はっと.......」


 外観が苔の生えた石造の古臭い書店の割には、内装は意外としっかりしている。


 流通したての最新版の本。料理本。小説。絵本。


(漫画もあるのか......)


 アンナのいた世界とは違うが、新刊コーナーの片隅にポツンと漫画が少しだけ置かれている。


(もしかしてこの世界じゃ漫画は売れてないのか?)


 試しに漫画を手に取って表紙を見てみるが、シリーズ物というよりも単発物の漫画だった。


 しかもアンナの知っている単行本よりも薄い。値段もそんなに高くない。


 この世界では漫画は流行ってないのだなと思いつつ、元あった場所に戻して、図書館のように立ち並ぶ本棚の中から目当ての本を探す。


 そしてボードゲームについての本がまとめられている場所を、何とか探し当てる。


 この世界では将棋やチェスのように有名な、名前がわからないボードゲーム。

 それについての本を探し、やっと見つけた。


「必勝法! 完全解説! チェナット!」と表紙に書いてある本だ。駒や盤面が以前やった物と一緒なので、この本で間違いない。


 語呂がチェスにていることから、もしかすると起源が一緒なのか、もしくはチェスが異世界転生した姿かもしれない。


(てか、多分そうだよなぁ)


 駒の形やら盤面からして、おそらくアンナの予測は当たっている。


「......ん?」


 チェナットの本を携えてレジに向かおうとしていると、興味深い本を見つけた。


「スープの作り方か......」


 この世界にある材料で作るスープ。それのレシピが載った本だ。

 とても気になるうえ、作ってみたいという衝動が抑えられず、その本も手にとって会計に向かった。



 出口で待ち合わせしているので、本屋の出口に向かう。


 しばらくしてデリバーも本屋から出てきた。

 彼も良い買い物をしたらしく、珍しく浮かれた様子である。


「なんか嬉しそうだね」


「んっ? そう見えたか? 顔に出てたか、ハハッ」


 指摘すると照れ隠しに笑って「さあ行こうぜ」と隣のカフェに突入。

 そこで贅沢にもランチセットとデザートを頼むデリバーと、デザートセットだけを頼むアンナ。


(アップルパイ。やっぱりどの世界でも最高だ......)


 運ばれてきたアップルパイをゆっくりと堪能しつつ、買ってきた二つの本のうち、チェナットの方を読み漁る。


 デリバーも食事を済ませて、デザートが来るまでの間や、来た後も「旅の道具特集」という本を読んでいた。




 〜〜〜その日の午後。


 アフタヌーンティーにはいい時間だが、二人にとってこの時間帯にお菓子と紅茶を頂くという、貴族のような習慣は身に付いていない。


 代わりにと言っては何だが、宿に戻ってインスタントの飲み物を飲む。


「お前が不眠症の原因ってコーヒーなんじゃないのか?」


「えっ......」


 何気なくコーヒーを啜って本を読んでいたのだが、普段カフェオレしか飲まないデリバーに思わぬことを言われる。


 眉を寄せて疑うような視線で見つめられ「ち、違うよ」と慌てて否定する。


 その後数十分にわたってコーヒーの、それもブラックで飲むことの良さを聞かせてやり、彼がうんざりして「分かったごめん!」と言ってきたタイミングで話を打ち切る。




 〜〜〜そして夜。


 最後に会話してから、ずっと本を読んでいたらあっという間に時間が過ぎていた。


「ちょいちょい。ウチと勝負してくれ」


「ん? ああ、わかった。ちょっと待て」


 チェナットの本を読んでいることから、デリバーが察した様子で盤面と駒の入った小さなケースを取り出す。

 机の上に広げ、試しにデリバーと手合わせしつつ、反省点を覚えながら本に直接書いてメモする。


 一戦一戦の時間が長引くチェナットをやっていると、先に腹を空かせたデリバーのためにゲームを切り上げた。


「どこか食べに行くか」


「うん」


 と言って二人で外へ出て、適当なお店に入り、いつものように飯を食べた。


 ここまでは、いつものように何気ない日を過ごしていたに過ぎない。


 今日という日を振り返って、また日記に楽しかったことを適当に記してそう思っていた。




 〜〜〜そして時刻は日付が変わる頃。ここからが、いつもと違う。


「先に寝てるぞ〜」


「ウチは眠れないっての。おやすみなさい」


 デリバーにベッドを明け渡し、彼が爆睡したのを確認する。


 彼が眠った後、チェナット一式をカバンに詰めて、宿の入り口にてある人を待つ。


 するとまもなく男がやってきた。昨夜、とある約束を交わした男、ロットだ。

 約束通りきてくれたことに感謝である。


「フン。行くぞ」


「どこに?」


「そのゲームがやりやすい場所に、だ」


 こうして二人でチェナットに最適な場所を探し、街頭の近くにあるベンチを使ってチェナットの盤面を広げる。


 そして昼に買った本を取り出して、それを交えながら彼に説明を挟む。


「ここをこうして......。そう! これがこの戦法ね」


「待て。メモする」


「メモならコレあげる」


 こうしてチェナットについて手ほどきしながら、何気ない会話を続ける。



 何戦ほど行っただろうか。


 ボードゲームに熱中しながら、お互いに解説無しで戦えるレベルまできた。


(......麻雀やりながら話すアレと一緒だな)


 俗にいう徹マンと同じく、徹チェナット。

 それを進めていると、ふと気になる話題を切り出してきた。


「......お前は家族とかいるのか?」


 唐突に家庭のことを聞かれて、何の意図があるのか。不思議に思って、顔を上げてロットの顔を見つめる。


 だが彼はいつものように仏頂面で、ボードゲームの方を気にしていた。


 特に深い意図はなく、単に興味本位から来た質問だろうか。


 深い考えはないのだろうと思って、過剰に反応した自分が悪かったなと思う。


 適当に「いたよ」と返事しつつ、こちらのターンが回ってきたので駒を打つ。


「......いた? なら今は......」


「ちょっとややこしいけど......。こっちから消えたっていうか、そのせいで会えないっていうか......。とにかくいたけど、もう会えないんだよ」


 マイルスにも似たような返答をしたなと思いつつ、ロットはどのような反応を示してくれるのか気になって、盤面を見るため俯きながらチラッと上目で彼の様子を見る。


「会えるといいな」


「えっ?」


「?」


 思わず顔を上げて彼の顔を見て驚いてしまい、慌てて口を閉じて「何でもナイヨ」と言って俯き直す。


(なんか思ってた反応と違うなぁ)


 マイルスには質問攻めをされたというのに、ロットは何も疑問を持たないのかいつものように淡々と言葉を返すだけだった。


 彼の反応にどこか違和感を感じるが、会話に気を取られていたせいでゲームに負けそうになっていた。


「集中しなくていいのか?」


「うわっ! やられた!(もしかして作戦か!?)」


 突然関係ない会話を始めた理由が勝つためなのだとしたら、この男はとんでもない策士だ。


「ぐぬぬ......」と唸って何とか一手打つも、次の一手で完全に詰んでしまった。


「ま、参った......」


「......」


 潔く降参を宣言する。


 ハァとため息を吐いて、次のゲームを始めようと盤面を片付けていると、辺りが明るくなってきていることに気づいた。


「あっ......」


 徐々に光が伸びてきて、自分たちがいる場所も光によって照らされ始めている。


 そんなに長くやっていたのかと思い、熱中して時間を忘れていたことに驚いた。


「朝か」


「うん」


「......何かおかしいのか?」


「えっ?」


 日が昇る様子を見ていただけだったのだが、変な顔をしていたのか不思議そうにこちらを見て言ってくるロット。


 首を傾げて彼の顔を見つめていると、こちらの顔を指差して、怪訝な顔で指摘してくる。


「いや、笑顔だから......」


「笑顔?」


 まさか無意識に笑っていたというのだろうか。


 そういえば心臓の鼓動が少しだけ早い。走っただけでもないのに不思議だ。


(......これって)


 この感覚には覚えがある。


(楽しかったのか)


 初めて他人と夜通しまで語り合い、そして朝日を迎えた。

 それが楽しかったのだろう。


 こんな経験、本当に久しぶりかもしれない。

 酒を飲んでハイになるのとも違う。心の底から、純粋に楽しいと思えること。


 きっかけが何であれ、それを自覚した。


「......ハハハ! なるほどねぇ。うん。こんな経験しなかったもんな!」


 突然、大きな声で笑うアンナを見て、ロットは目を丸くして驚く。


 そんな彼の様子も初めて見るのだから、驚きや興奮が重なって居ても立っても居られなくなり、ベンチから立ち上がって数歩前に出る。


 そして体をググッと伸ばし、くるっと後ろを振り返って、こんなくだらないことに付き合ってくれたこの街の友達に感謝の言葉を送った。


「ありがとっ! へへっ」

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