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アンチテーゼ/アンライブ  作者: 名無名無
第二章 霧の街のミステリー
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友人と友人との板挟み

「あと一日だって」


「ああ、聞いた。意外と時間かかってるな」


 デリバーが宿に帰ってきたあとのこと。



 時を待たずして二人はギルドに向かったのだが、何かしら状況が変わったのかと期待しつつもまだ情報整理中だった。


「すいません。もう一日だけお待ちを」とギルドを追い返されてしまったので、後一日のフリータイムができてしまう二人。

 正直、やることをやり尽くした感はある。



「なあ、どうするよ」


「どうすっかねぇ」


 困った様子で腕を組んで、どこか適当なところをぼんやりと見つめながら歩くデリバー。

 対するアンナも案は持ち合わせていない。


「夜はとりあえず飲もうよ」


「まあ、そんぐらいしかやることねえもんな」


「なんか酒カスみたいで嫌だけど」


「お前って時々口が悪いよな。まあ、別にいいんじゃねえの」


「ふぅん......」


 やることが突然無くなると本当に暇になってしまう。


 とりあえず夜は飲みにいくことにしたのだが、日中はどうしようか。


 何か面白いことでも起きないか。そんな思いで宿までの道を適当に歩いていると、アンナがよく知っている特徴的な人の後ろ姿を視界に捉えることができた。


「あれは......」


 いつものように人目のつかない場所。路地裏の入り口、建物の角っこに背もたれを預けて、ボロボロの衣装を身に纏ったハンター。


 そんな格好をしている奴は、思い当たる人物の中で一人しかいない。


「ロットか」


「ん? なんか言ったか?」


 ハンターのロット。彼が、誰かを待っているのか、建物の角にじっと突っ立っていた。


 街の状況が状況であり、人の往来も少ない。だからこそ彼を簡単に発見したのだが。


「いや......。知り合いが目の前にいてさ」


「どこだ? ......ああ、あれか。なんか不憫な雰囲気を感じるな」


「不憫って......否定はしないけどさぁ(そっちも口悪くない?)」


 知り合いのロットが目の前にいること。それをデリバーに指で示して教えてあげる。

 知り合いのハンターの姿を見るや否や、デリバーは彼の容姿を端的に言葉で表した。


 ただ、否定できない部分であり内心そう思っている節もあったので、アンナも首を少し傾げつつ頷く。


(なんのつもりでいるんだろ)


 歩くのをやめて、わざわざ二人でロットの姿を遠目から見つめている。


 このまま素通りするのも、なんだか申し訳なく感じてしまい、腕を組んで勝手に思い悩む。


 するとロットを遠目に見たまま、「行ってこい。俺はここで待ってる」と言い出すデリバー。何か妙な気を遣わせてしまったようだ。


「え。.......そ、そうか」


 邪魔しちゃ悪いと思ったが、せっかく出会ってしまったのだし話しかけるくらいなら迷惑ではないだろう。


 デリバーに「ごめん、待ってて」と言って別れ、ロットの方へ駆け出す。



 誰かの足音が近づいてくるのを察した途端、路地裏から身を乗り出し、ロットはこちらへと向かってきた。


「よう。待ってたぞ」


「えっ、ウチに用があったの?」


 真っ直ぐとこちらに寄ってきて、フードの下から濁った白い瞳でこちらを見つめてくるロット。

 相変わらずなんとも言えない不気味な男だが、話した感じだと悪い男ではない。


 しかしそんな怪しさ全開の男が、わざわざアンナを待ち伏せしていたとなると、何かあるのではないかと感くぐってしまう。


「えっと......。何用で?」


「......なぜいつも身構える。俺もハンターだ。そして、お前らが行った場所について情報を教えたのも俺だ。なら......言いたいことはわかるな?」


「言いたいこと?」


 確かにロウとマイルスと共に向かい、そしてロウが死んでしまった場所。そこを教えてくれたのはロットだった。


 そして彼もハンターである。通りすがりのハンターを死なせてしまい、そしてその死体が謎の挙動をしたとの情報がハンターズギルドに伝わったと聞いた。


 もしかすると、ロットは何か別の情報を抱いたのかもしれない。


「それってもしかして......」


「ああ。そうだ。俺の言いたいこと。まずは......」


 口を開き、チラッとアンナの後ろ。まるで誰かの姿を捉えるように、奥の方に視線を移すロット。


 その視線がどこに向いているのか分からないが、とりあえず彼の語る言葉に耳を傾けようとする。


 だが彼が口を開き言葉を発しようとすると、一歩踏み出してよろけだした。

 しかも突然、片膝をついて苦しそうにお腹をさする。


「うっ......」


「ちょ、どうし——」


 顔色に元気がない。それに若干、苦しそうだ。


 どこか痛むのか。異変を感じて咄嗟にそれを尋ねようとすると、彼の腹から大きな音が鳴った。


「......あー。なるほどね」


「ちっ......」


 なぜかいつも空腹の状態で、アンナはロットと出会う。


 満足に食べられるほど稼げていないのだろうか。

 身なりや今までの状況からして、彼も相当困っているに違いない。


「全く......。ほれ、ついてきな。一緒にご飯くらいはいいでしょ?」


「......またこうなるか。ああ、存分に甘えてやる」


「はいはい(ずいぶん素直になってくれたなぁ)」


 ロットに手を差し伸べて、アンナの手を掴ませる。


 そして思いっきり手を引っ張り、力なくふらふらと立ち上がる彼の手を優しく引っ張り、デリバーの方へ連れて行くことに。


「......あいつか」


「ん?」


「いや、なんでも......おい」


「?」


 途中、何かを言いかけてデリバーの方を見るロットだったが、「話は今日の夜中でいいか?」と小声で尋ねてきたので、どうせやることもない夜中なら大丈夫だと思い無言で頷いた。


 その後、彼を誘導するように手を引っ張り、デリバーが待っていたところにて立ち止まる。


「そのボロ雑巾みてえな奴は?」


 ロットを連れてくるや否や、いきなり失礼な物言いでロットを表現するデリバー。


 あまりに直接的な物言いに、流石のロットも起こるだろうなと思っていただ、言われた当人はどうとも思っていない様子だった。


「知り合いのロット。お互いに変な面倒を見合ってる仲でね。今回はこっちから面倒を見てるんだ」


 明らかに不審者のような身なりをしているロットを、当初は怪訝な目で見るも、アンナが言うなら大丈夫だろうと判断したようで、何も言わずに同行を許可してくれた。


 対するロットはデリバーをじっと見て、お互いに目線が合うとプイッと視線を逸らす。


「? 俺の顔に何か?」


「いや......。別に」


(......なんだこの微妙な空気感)


 一瞬の挙動不審ともいうべきか。不可解な言動をするロット。

 デリバーも彼の態度に何かを感じたのか、いつも他人にとる態度とは違う様子を見せてくる。


 ロットとデリバーの両者が作り出す微妙な空気感に、板挟みにされながらも、アンナたちはとりあえず昼食を取るために移動を開始した。




 奇妙なメンツで、街に長年根付いている適当な老舗の定食店を訪れた一向。


「えっと......(これはやっちゃったかなぁ......)」


 久しぶりに冷や汗をかきながら、お互いに向かい合って座るロットとデリバーの二人を交互に、忙しなく見るアンナ。


 なぜこうも落ち着かない様子なのか。


 その答えは、彼ら二人がいがみあうわけでもなく、道中お互いに無言で話そうとしないまま。

 しかも、店の中でも両者じっと見つめ合うだけだからだ。


 デリバーの隣に座って、横に置いてあるメニューを持って二人の間にポンと置き尋ねる。


「お、お二人は何か......(ああこれ、この空気イヤだぁ〜!)」


「「俺はこれ」」


「うおっ......(ハモった......。なんとも言えない、気まずい空気が重くのしかかるッ!)」


 二人で同じものを食べるようで、しかも二人同時に声を発する。


「て、店員さーん!」


 老舗の店長を務めるおばちゃんに、ゆっくりハキハキと話して注文をとってもらい、再び地獄のような空気が流れる二人の間柄を保つことに。


「ど、どうして黙ってるのかなぁ。デリバーさん?」


「ん? 別に話すことねえならいいだろ」


「同じく」


「って訳だ。まあ、気軽に行こうや」


(そういうの良くないと思うなウチは!)


 喉から出かけた言葉をググッと押し込んで「あはは、そうですね」と敬語口調で答えて苦笑いする。


 この様子からして、二人はコミュニケーションのスタイルが同じで、お互いに興味がなければ聞かない人種のせいで、お互いに口を開かないという今の状況になっているのだろうか。

 と個人的に推測する。


 しかもお互いに言葉は話さずとも、なぜかわからないがじっと見つめ合っている。


 側から見れば、一触即発寸前の睨み合いにも思える。

 現に、店内にいる客のうち数人は、こちらのテーブルの様子を怪訝な目で見つめているようだ。


 その視線がいたたまれない。

 そして内心、気苦労が増していくばかりがして、生きた心地がしなくなってくる。


(な、なぜなんだ! わからん、この二人が何を考えているのか!)


 人間関係の複雑さはどの世界でも変わらない。


 今の状況をわかりやすく例えるなら、中学の時に仲の良かった友達と、高校の時の友人と一緒に飯に誘って、お互いが気まずくしているアレと似ている状況だ。


 しかし今回は例外で、お互いに根が図太くて、そしてかなり強固なアイデンティティを持っているせいか、両者見つめあうという奇妙な空気が漂ってしまっている。


 その二人を同じ空間に引き入れてしまったこと。


(ウチのバカヤロー!)


 そしてこの状況を予測することができなかった自分を、心の中で猛烈にタコ殴りにするアンナであった。

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