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アンチテーゼ/アンライブ  作者: 名無名無
第二章 霧の街のミステリー
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「ハンターズギルド」のハンター

「改めて。こちとら、害獣専門のハンターをやってるモンだ! 名前は『ナット・アクション』ってんだ。よろしく!」


 先程の水汲み場にて再会し、ハンターことナットと自己紹介を交わした。


 彼は害獣専門と言っていたが、ハンターの標的にもそういった分類やらがあるのだろうか。


 ハンターという職業についても、肩書き以外には何もわからない。

 気になるうえに良い機会なので、彼に「ハンター」とはなんなのか。それを詳しく聞いてみる。


「ハンターってのは、獣狩りや害獣狩り。言わずもがな、依頼された生物の狩りを任されている。あと、自前の食料調達のために許可証をもらって狩りをすることもあるなぁ」


「なるほど......」


 危険な猛獣が自然界を淘汰しているこの世界において、基本的に人間が住めるのは外壁に囲まれた街の中だ。


 壁の外には多種多様な生物が住んでいて、中には凶暴な能力を持つ生物もいる。というわけで、人間一人が壁の外で突っ立っていると簡単に殺されてしまう。


 そんな社会だからこそ、獣を狩る専門の職業が出来上がっていても不思議ではないだろう。


 しかし不思議なことに、ハンターと呼ばれる彼らは、ギルド総本山「スカイジャンクション」や「ミストガーデン」では見かけた記憶がない。それに、ハンター専用の窓口は見たこともない。


 その点について深掘りしてみると、「ああ、そういやそうだな」と納得したように頷くナットさん。


「ハンターってのは特別でな。ギルドとは違う『ハンターズギルド』って独自組織が管轄してるんだ。ハンターはかなり専用の狩猟スタイルを身につけるからな。教育機関としても、そしてハンター一人一人(ひとりひとり)のレベルと依頼の折り合いをつけるためにも、ギルドとは別に運営した方がメリットがあるんだ」


「ハンターズギルドか......」


 初めて聞いた単語だ。さながら意味は「ハンターのギルド」ということだろう。


 ハンターの仕事は獣狩りや害獣狩りだという。


 獣あるいは魔物は旅人や冒険者でも、ギルド内に仕事が回ってくることはある。

 そして弱い魔物から名前だけでインパクトを感じる強大な魔物まで、多数を扱っているのが我々のギルドだ。


 それとは別にハンターズギルドも獣狩りを請け負っている。恐らく彼らは、アンナのいた世界でいう熊やら猪やらを中心に狩っているのだろう。


 今まで出会ったハンターたちの装備や戦闘力から、あまり強い敵と相対する事は考えていないと思われる。


 そのことを端的に伝えると「その通り」と言ってくれた。


「ハンターがやるのは獣狩りくらいだ。ドラゴンやら遺跡に潜む未知の敵なんかとは絶対に戦わないな。そんで、ハンターは獣や害獣を殺して、その肉や皮を市場に流通したり、依頼報酬だったりで生活費を稼ぐ。頭より体を動かして稼ぐにもってこいだぜ」


 ハンター業界の稼ぎがどういった仕組みなのかはわからないが、「頭より体を動かす」という言葉通り、腕さえあれば誰でもできる職業だと分かる。


 どれだけ勉強ができなくても、この世界では土木作業員や整備の仕事に加えて、ハンターになって荒稼ぎするという手段もある。


 アンナのいた世界との違いは、例えば猟友会が熊を相手しているか、それとも魔物を相手にしているかの違いだけだろう。


「奥深い......」


「そう思う? 別に大したことねえって! 大袈裟よ、大袈裟!」


 ナットが豪快に笑い、猟銃を壁に立てかけて、水を両手ですくって飲む。


「ぷはぁ!」と声を上げた後、銃を片手で持って「どうでもいい話に付き合ってくれてありがとよ」と言って、ポーチから見たことない道具を取り出した。


「これは?」と受け取った道具を片手で摘み目線まで持ち上げて見る。

 見た目は小指ぐらいのサイズの瓶に、緑の液体が詰まっただけのものだ。何かの薬品だろうか。


「ハンターがよく使う傷薬だ。旅人なら旅先で怪我だってするだろ? 擦り傷ぐらいしか治せない安もんだが、この話の対価として受け取ってくれや」


 ありがたい気持ちで受け取り、ポケットに入れてナットさんに頭を下げる。


 頭を上げると、既に猟銃を肩に担いで、「あばよ」と言って立ち去ろうとする。


「あっ......」


 そこで別れてもよかったのだが。


「ナットさん。引き止めて悪いのですが、街で噂の事件を耳にしたことは?」


 まだ気になっていたこと。それについて、この街に住んでいるハンター目線から何か情報を得られるのではないか。


 そう思って別れ際に尋ねてみたところ、その話を聞いたナットさんは、一瞬驚いた表情を見せて立ち止まった。


「その話かぁ......」と呟いて、眉を寄せて目を瞑り困った表情を浮かべる。


 しばらく待って、「口止めされてんだがよぉ......」と興味深いことを口走ってしまったナットさん。

「詳しく!」と食い気味に聞いたことで、後に引けなくなったと感じたのか、周りをキョロキョロと見始めた。


 この場に誰もいないことを目で確認した後、アンナに屈むように指示し、自らも腰を曲げて屈んだ。


「いいか? ハンターズギルドでは、不安を煽ることは口伝えにするなって言われてんだ。お前さんが訳ありだと察していうけど、絶対に無闇に広げんじゃねえぞ!」


 こそこそと耳打ちするので、無言で頷く。

 その様子を確認し、ナットさんが事件について、知っていることや思っていることを語ってくれた。


「ハンター業界でも例の噂は有名だ。それに昨日、同業者がやられたって話だからな。俺たちも一時的に活動自粛命令が出されたんだが.......」


 ナットさんは銃を持ち上げて。


「まあ、俺みたいに暇を持て余すと、こうやって害獣狩りをするってわけよ」


 と自身に呆れたように呟いた。

 職業病が悪さをした。そんなところだろう。気持ちは分からなくもなく、自然と頷き返す。


「そんで、問題はここからだ。実は......」


 ナットさんが唾を飲み、ブルっと身を震わす。

 ロクでもない話なのは、既にその時点から察していた。


 そして彼が人伝いに聞いたという話を、周りに聞かれないようにとても小さな声で語ってくれた。


「か、回収されたハンターの首無し遺体がよ......。突然起き上がって、しかもうめき声を上げながら数歩だけ歩き回ったらしいんだ!」


 そう語るナットさんの表情は、良い歳した大人がするような表情ではなく、深夜に暗い場所を恐れる子供のごとく、恐怖の色が宿っていた。

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