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アンチテーゼ/アンライブ  作者: 名無名無
第二章 霧の街のミステリー
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休暇は自然の中で

「オレは......」


 マイルスは、優しく声をかけ気にかけてくれた同僚が去っていく後ろ姿を見送る。


 隣には初めて見る若い男がいたが、彼は仲間だろうか。それとも、マイルスと同じように親と子供のような関係だろうか。


 見たところ年はそれほど離れていない。もしかすると兄弟のような関係なのかもしれない。


「......」


 彼らの姿が見えなくなるまで目で追って、再び一人になったのを自覚する。

 アンナに言われた言葉。それらを振り返る。



「......でも、ウチはもう家族に会えない。絶対に」


「もし彼らがウチの生き様をどこかで見てたらと思うと、惨めな生き方はしたくないよね」



 他にも色々と言っていたが、あの女はまるで自分も同じような経験をし、その苦しみを抜け出す手段を教えるかの如く言葉をかけてきた。


 最初は手を振り払った。アンナとマイルスは違う。同じ痛みなんて共有できるはずがないと信じていたからだ。

 しかし、人間は誰しも家族を失う時が来る。アンナもマイルスもその時が早かっただけ。


「......惨めか」


 確かに惨めかもしれない。悲しみを乗り越えられず、心にぽっかりと穴が空き、ロウを殺した男を殺すために動いていたということが。


 しかしそれは妥当なのではないだろうか。

 そもそも、なぜ身内を殺された被害者の遺族が、加害者に優しくしなければならないのだろうか。


「......なんでだ」


 おかしい。この世界のシステムはどうして「耐える」ことを要求するのだろうか。


 いっそのこと、殺人は処刑。それくらいのインパクトがなければ、豚箱にぶち込まれることをものともしない快楽殺人鬼どもは同じ過ちを繰り返す。


 それを歴史が何度も証明している。


 特に悲惨な出来事になると、魔術による大規模テロ事件なども存在している。だと言うのに彼らに下されるのはあくまで「終身刑」と「魔術封印措置」のみだ。豚箱の中で、税金を貪り永遠と生きているのだ。


 その強制終身雇用を求めて、一生に一度の大規模犯罪を起こし、わざと牢獄に行きたがる貧乏人も時たま出てくる。


「納得いかねえ......」


 はらわたが煮え繰り返る怒り。それがマイルスを再び取り込んでいく。


「......許せねぇ」


 怒りの理由。それはロウを殺されたこと。そして唐突に訪れる理不尽な暴力に対し、「我慢」を強要するこの世界のシステムそのもの。


「なんで......クソっ!」


 地面にあった石ころを蹴り、満足いかず拾って思いっきり投げ飛ばす。それでも怒りはおさまらない。


 その明白な理由が、マイルスの怒りを煮立たせている。

「クソがっ!」と怒りの言葉を地面に向かって吐き捨てる。


 しかし、本当のところ「我慢」がどうとか、そんな理由なんてどうでも良いのかもしれない。それは建前であって、本当は復讐をしたいだけなのかもしれない。


 そして、ロウはおそらくマイルスの「復讐」なんて望んでいないだろう。


 そんなのマイルスならわかっている。しかしどうしても我慢できない。

 見知らぬ敵はロウの命を奪った。弱っていたところを、卑劣な手段で殺したのだ。


「絶対に見つけてやる......!」


 左手に収まる銃を強く握り、歯を強く食いしばって、涙で濡れた顔を怒りで歪める。


 この銃で、必ず殺す。人を殺した経験はないが、たとえ犯罪になろうと知ったこっちゃない。


 これはロウとマイルス、そして卑劣な敵との問題だ。


 ——邪魔するやつは全て排除する。そして、どんな手段を使っても必ず仕留める。


(例え味方でも、邪魔するなら......)


 胸の中に生まれて初めて、怒りに混じって奇妙な感情が渦巻き増幅していくのを感じた。




「ふあぁ......」


「寝不足?」


 隣で大きなあくびをかきながら、川に流れる魚を釣ろうと竿を構えているデリバーに問いかけた。


 もう一度あくびをして、片手で涙を取り払って頷き返してくる。

 無類の強さを誇る彼でも睡眠は敵なのだろう。


「そっちはどうだ〜」


「うん、イケそう」


 アンナは湿っていない適当な枝を拾ってきて、一箇所に集めている。


 今いる場所は、街を出て数キロ先を歩いたところにあるキャンプ場だ。

 ではどうしてキャンプ場にいるのか。


 理由は簡単だ。アンナとデリバーが休暇に何をするか選んだ結果、いつもやっているように自然の中で寝泊まりすることを選んだのだ。


 娯楽に浸ってお酒を飲んだり、少し危険な雰囲気が漂う店に行ったりしても問題はなかったのだが、彼ら二人が真に落ち着ける場所こそ自然の中だったのだ。


 マイルスと別れた後、どこへ行こうかと考えていると、唐突にキャンプの提案をしてきたのである。


 近くにキャンプ場があること。シーズンオフだから人がいない。つまり気楽に楽しめる。



「まずは体と心の休養だ。つべこべ言わず行くぞ!」


「えっと......。わかったよ、もう......」



 そのような説明と強制連行によって、一旦宿に戻って道具を取りに行った。


 最初は乗り気では無かったものの、デリバーの確固たる意思によって、道具を持ち込んでキャンプをすることに。


 実際、人も少なく自分たちだけの空間を作り出せて、そして自分たちだけで過ごすことのできる時間はストレスを軽減させるのは間違いない。


 その点で言えばキャンプは最高のアイデアだった。徐々にその考えに呑まれ始めてしまったのである。


 ちなみに費用はキャンプ場内の施設をある程度利用しなければ、ものすごく安上がりなので、金銭面もそこまで心配いらない。


「テントはここら辺?」


「おう! あんまり火に近づけんなよ〜」


 テントを張る準備をし、焚き火の予定地と上手く距離を合わせる。


 キャンプ道具は普段使っている旅の道具で済ませた。


 そして今いる場所は人によって手入れされた自然の大地。眺めは最高で、大きな湖を挟んだ先に山が見え、湖を囲むようにキャンプ場ができている。とても自然を堪能できる場所だ。


 そして何より気持ちが楽になるのは、ここだと危険な魔物やらが出現しないこと。全て管理された土地なので、危険生物の侵入は一切許されていないのだ。


 だから今夜は二人とも気が楽に、思うがままに野営を楽しめるのである。


「くそ〜、釣れねぇ! アンナ、変わってくれ! 俺はもう折れた!」


 釣竿を地面にほっぽってテントのところに向かってくるデリバー。とてもイラついている様子だ。


「はいはい」と仕方がなさそうに彼と入れ違い、彼がほったらかしにした釣竿を持ってその場に佇む。


 時には小さなキャンピングチェアに座り、時には立ち上がって様子を見て、しばらくして一匹釣り上げる。


「どれくらい釣ろうかなぁ」と、日々の危険から解放されたアンナは、鼻歌まじりに釣りを楽しんでいた。

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