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アンチテーゼ/アンライブ  作者: 名無名無
第二章 霧の街のミステリー
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銃の魔術の一撃

 ロウの隠れている場所へ、アンナとマイルスが急いで移動する。


「ジジイ! 何か案は?」


 木々に隠れて上手く同化・潜伏し、双眼鏡を持って戦闘をのぞいていたロウ。

 双眼鏡を降ろして、イノシシの化け物を見据えたまま「一応考えたがのぉ」と、少し躊躇うように言った。


 躊躇う様子一つでロウの意図を察したようで、マイルスは「アレをやるつもりか......」と不安を感じさせる表情で、小さな声で呟いた。


「アレって?」とマイルスに聞いてみる。


「......ジジイの最大破壊力を持った魔術だ。使えば体力がなくなって一歩も動けなくなる」


 つまり大技ということだろう。そして反動で動けなくなるということは、外せば状況はかなり悪化する。

 一旦引いて増援を呼ぶ方がいいのではないだろうか。そう思って提案してみると。


「ここであの化け物を仕留めないと、増援を呼びに行く間に犠牲者が増えるだけだ。それに、仮に一人が増援を呼びに行ったとして、オレたちの誰かが欠けたら内一人が死ぬ」


 その状況が分かっていたからこそ、硬い表情で歯を噛み締めるマイルス。ロウも同じように冷や汗を流し、珍しく張り詰めた表情を見せている。


「確かに......」


 言いたいことはわかる。一旦全員で退却するとして、あの化け物の力なら、この場に通りがかった人間を簡単に殺せる。


 そしてアンナたちのうち誰か一人が抜けたとして、増援を呼びに行く間に誰かがバテて死ぬ可能性がある。


 つまり、奴を倒せるチャンスがある以上、逃げるわけにもいかず、今やるしかないのだ。


 ロウが魔術を外したら、動けない彼を背負ってマイルスもろとも化け物の餌食だろう。

 そしてそれを放っておくことができないアンナも食われるに違いない。


「やるしかないね......」


 久しぶりの強敵相手にアンナも覚悟を決め、固唾を飲みこむ。


「そういうわけじゃ。マイルス。準備に時間がかかる。こちらの場所を悟られないよう撹乱するんじゃ。準備ができたら合図を送る」


「ああ。行くぞアンナ」


 マイルスの後に続き、ロウの隠れている場所から飛び出して化け物の前に再び立ちはだかる。


 改めて、とてつもない強大な存在を前にし、一歩間違えたら死ぬかもしれない状況にアンナとマイルスは自然と表情が固まる。


「動きを撹乱するだけでいい! お互い危なかったらカバーだ!」


「分かってる!」


 完全に回復してしまった化け物が、アンナたちに向かって突進してくる。


 そいつを二手に別れる形で避けて、そしてお互いに積極的に攻めることはなく、あくまで「撹乱」が目的なので化け物を翻弄する。


 マイルスは消費魔力を抑えた、威力が低めの銃撃。アンナは片手にナイフを構えて、化け物がマイルスに注意を向けた途端に接近して脚を斬り、敵の注意稼ぎを担当する。


 化け物は痛みで咆哮を上げることもなく、ただひたすらに撃たれて斬られる。まるで動く人形を相手にしている感じだ。


(やっぱり違和感が......)


 ロボットのように単調な動きしかせず、そしてアンナたちの攻撃に対して、学習することなく同じ手順で何度も攻撃されている。


 やはり、この化け物には知性を感じられない。まるで一つの命令を延々とこなす、学習能力が搭載されていないロボットのようだ。


「......ロボット」


 もしかすると、この化け物は考えて動いているのではなく、()()()()()()()()()()()()()()()()()のではないだろうか。


 まるでロボットのように。例えば今の場合だと「人を殺す」といった感じの命令に従って動いている。


 とはいえ推測の域を出ない。一度決めた憶測が間違いを選ぶことは大いにある。焦って結論を出す必要は、今はない。


「アンナ! もういい、一旦引くぞ!」


 マイルスの言う通り、何度も攻撃されて脚や目が吹っ飛び、再生中で動けない化け物から離れ、マイルスと合流する。


 彼の様子をちらっと伺うと、随分と汗を垂れ流し、息も荒いが目立った深手は負っていないようだ。


「はぁ、はぁ、ジジイのとこに行くぞっ!」


「......肩を貸すよ」


「す、すまねぇ......」


 横腹を抑えながら、疲労困憊といった様子のマイルスの肩を担いであげて、ロウの隠れている場所まで退却した。


 思いのほか上手くことが運び、合流したロウも安堵の表情で無事に帰ってきたマイルスを見て、そして化け物の方を向き直り銃を構える。


「小娘。老ぼれから一つ、魔術について教えてやろう。同じ旅人としてのぉ」


「魔術についてですか......」


 ロウが変形前の銃を両手で持ち、岩場の上に固定する。

 その表情がどんどんと険しくなっていき、隣で座り込むマイルスと同じように汗を垂れ流し始め、苦しそうな表情で語り始めた。


「良いか......。魔術はその本人の持つ才能を、より強固にしたもの。『魔術』という神秘で強化した、武器にも道具にも、なんだってなれるものじゃ。そしてワシの場合は......。『銃の魔術』じゃ」


 ロウの持っていたハンドガンが光に包まれどんどん大きくなっていき、そして太くなっていく。

 その変化途中で両手を離し、銃が変形仕切るのを待つらしく、一旦変形中の銃から離れて、その間に呼吸を整えて再度話し始めた。


「はぁ、はぁ......。話を戻すのぉ。それぞれの魔術には、多量の魔力と発動のための触媒を引き換えに、奥義となる一撃を扱える。ワシの魔術は銃そのものが触媒じゃから、必要なのは魔力だけなんじゃがのぉ。若い頃と違って、今じゃ一日に一発が限界じゃ」


「限界......。それを超える力を行使すると死ぬってわけですか?」


「死ぬか体の一部を持っていかれるのぉ」


 やはり魔術とは予想以上に過酷で、そして難しいもののようだ。

 そんなものを最初に編み出した人間は、一体どんな経緯で魔術を作り出し、そして広めるに至ったのだろう。


(......そもそも、『魔術』という名の神秘って......人間が考えたものなのか? そもそも『神秘』の定義とは? ウチからしたら魔法も魔術も同じ『神秘』だし......)


 魔法は神秘の再現だと以前教わった。しかし魔術はそうとは限らないようだ。


 今思えば、魔術が神秘を再現するというなら、「銃」がテーマの魔術が存在する方がおかしい。

 銃とは人類文明の武器。人を殺すことに特化した、人間にとっては使い方次第で善悪どちらにもなれる物。


 神秘とはかけ離れているイメージしかない。


(......そんな代物を魔術として強化するか)


 かつての世界、その社会にて銃がどのような悲劇を巻き起こしてきたかを、薄くながら認知している。

 その点を振り返ると、正直銃にあまり良い印象は感じられない。


「よし、撃つとするかのぉ」


 最初は大きくなっていたはずの銃が、今は細長い一本の「何か」に変形している。

 その銃を持って、しっかりと照準を合わせて化け物に向けるロウ。


(なんだこれ?)


 見た目はクロスボウに近いが、しっかりと銃のトリガーとマガジン部分の出っ張りがあり、そして銃身が細長く伸びている。


「衝撃に備えるんだ、アンナ!」


「うわっ!」


 遮蔽物となる岩陰に隠れているマイルスに、思いっきり腕を引っ張られ、地面に尻餅をつける。


「こっちにこい!」


「あ、うん!」


 急いでマイルスの横に座り、衝撃に備えて踏ん張るように丸くなるマイルスを見習って、アンナも同じような姿勢をとった。


「喰らえ、『マキシマム・サイクロン』!」


 変形した銃を化け物に向けて、そして技名を叫ぶロウ。

 するととてつもないエネルギーが、極太ビームとなって化け物に発射された。

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