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アンチテーゼ/アンライブ  作者: 名無名無
第二章 霧の街のミステリー
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街の北東部 調査

 街の北東。初めてやって来たが、人気(ひとけ)はあまり感じず、歩いていると静けさに包まれてなんだか不気味に感じる。


「何か変わった気配は感じるか、ジジイ?」


「うむぅ......。なんともいえないな」


 これから一週間にわたって、今いる地域全般を調査しなければならない。


 特に異常はないと思うし、今までの話から聞いても謎の腐食現象は規則性があるわけでもない。

 そう考えると腐食現象と対峙するのは、まるで宝くじを引くかのごとくはっきりしない、とても小さな確率だろう。


「北東地域か。特に悪い噂は聞かんがのぉ」


 街の北東。特に何かあるわけでもなく、至って普通の街並みが広がるばかり。

 他の地域と同じく人気が少ないくらいで、普通に道を歩く人や営業しているお店などが目に映る。


「とりあえず聞き込みでもしますか?」


「そうじゃな。各々、ここを集合地点にし、数十分間の聞き込みを始める。よいな?」


 ロウの指示にマイルスと二人で頷き返し、各々聞き込み調査を始めた。




 〜〜〜一人で行動し始めてから体感で数十分以上。

 アンナは街のお店や人の集まる場所を中心に聞き込みを始めた。


 適当なところに目星をつけて、まずは道具を売っている古いお店に入る。


「いらっしゃい!」


 店番をしているのは二十代後半くらいの若いお兄さんだ。少しひょろっとしていて、ちょびっと髭を生やしている。


「こんにちは。ちょっと聞きたいことがあるのですが、よろしいですか?」


「聞きたいこと?」


 尋ねごとをしようとすると、当然ながら疑問を抱いたようで首を傾げられる。

 一から状況を理解してもらう。そのため、店番をしているお兄さんの近くまで寄って、この地域にやって来た理由を軽く説明した。


「特に変わったところはないけど......。それならこの辺りを警備している奴らに聞いた方が早いと思うぜ」


「そうですか。ありがとうございました」


 ひとつ目ははずれ。大した成果を得られなかったようだ。


 残念だったが肩を落とすにはまだ早い。

 それに、聞き込みをしにくるだけなのも申し訳ないので、適当な安値の商品を一つ買って帰る。



 そして次は交番のような場所にて、この街の衛兵をなさっている方々に軽くお話を伺った。


「この地区はいつも通りだよ。もう少し上の地区に行くと人も少ないし、もしかしたら我々が把握できていない事態があるかもしれないけど......」


「上ですか?」


「ああ。この地図を見て」


 衛兵さんたちのいる施設内にある地図を見せられて、今いる位置と「上」の位置を説明された。


 この街の「上」とは、どうやら小さな山を登った先に住宅街があるそうで、そこのことを指差しているらしい。


 昔住んでいた田舎でも、低い土地と高い土地で住宅街が別れていることがあった。山を切り開いた地形に家を建てるとなると、構造上そうなるのだろうか。


(先駆者の人たちはえらい苦労してそうだなぁ)


「逆にここより低い土地である『下』の方は我々の管轄じゃない。あそこは大昔に捨てられた土地でね。今も人が手付かずの状態でねぇ」


「手付かずの場所......か(『下』に何かありそうだ)」


 どうやら複雑な事情がお有りの様子だ。少なくとも、彼の表情からはそう感じ取れる雰囲気があった。


 あまり多くを語ろうとしないが、ちょろっと話に出てきた「下」の話。人が手付かずになるには当然理由がある。そこに答えがあるかもしれない。


 それに、部外者のアンナが侵入するには打って付けだろう。

 管轄街の土地に足を踏み入れる。そこで勝手に死のうが、旅人なら文句は言われまい。


「ありがとうございました」


 これで今のところは十分だ。

 そう判断し、個人的に動いていた聞き込みを終える。



 〜〜〜そして先程の集合地点に戻り、先に待ってた二人に情報を共有した。


「大体同じような情報ばかりだな」


「ワシは噂を耳にした老婆から興味深い話を聞いたがのぉ。まずは小娘。お主の方から片付けるとするか。上に行くぞ」


 より可能性のある話は、アンナの聞いた方だと判断。

 そこで三人は纏まって動き、「上」を調査しに行った。


 しかし......期待とは違い、閑散とした住宅街である以上の情報は掴めなかった。


 要するにハズレである。




 〜〜〜その日は「上」の探索で時間を費やし、結局なんの成果もあげられずにギルドに戻った。


 他のグループも大した情報は掴めていないらしく、班のリーダーが情報を共有するため、ギルド内の会議に参加したものの、第一回の情報共有会はあっという間に終わった。



「それじゃあまた明日」


「おう! おやすみ!」


 こうして初日はいつも通り別れて、宿に戻ったアンナはいつも通り眠れない夜を過ごす。


 特に印象に残る出来事はなかったが、暇な時間にノートを開きお絵描きをしたり、今日の内容を少し箇条書きで書いたりしていた。


 そしてペン回しをして遊んでいるうちに、ネイさんの言葉を思い出した。


「......そういえば何か仕掛けがあるって言ってたような」


 ボールペンを目線の高さまで持ち上げて、じっくり睨んでみる。

 試しに分解して見ても、特に何もない。


 今まで普通に使えていたので、例えば電流が流れるいたずらだとしても気づいている。


「この見慣れない文字が仕掛けなのか?」


 別世界のボールペンが基本どのようなデザインをしているか分からないので、ボールペンに書かれている文字が気になる程度しかわからない。


 しばらくじっくり眺めて見るも、結局仕掛けがわからず仕舞いだ。


「......」


 だが分からない。答えがわからないので、仕掛け探しに飽きてしまった。


 ボールペンとノートを片付け、バックパックに詰め込む。


 そしてベッドの上で寝っ転がり、朝になるまでぼーっとして待機することにした。



 〜〜翌朝。

 本日は「下」に行くに関しての作戦会議と、ロウが仕入れた情報の真偽を確かめに行くことに。


 ロウ曰く、ある老婆が聞いた情報らしいが、行きつけの商店街である店の食料が不定期に消え去るという。


 商店街が被害届を出して捜索してもらっているが、大した成果は出ていないということ。

 それに盗まれた品が、例えば「魚一匹」くらいなので、店の不手際として処理されることが多いという。


 最初は「盗まれた!」と怒る店主も、時間が経つうちに本当に盗まれたか自信がなくなり、不注意だったのかもしれないと思うようになっていくらしい。


 店主が高齢であること。そして多発する紛失がもとで、逆に信用をなくしてしまったというが。



「第三者から見てどう思うかのぉ?」


「ちょっと疑わしい部分が拭えないなぁ」


 ロウに問われて素直に返答する。


「というわけじゃ。今朝店主に聞き込みに行ってみたが、近頃は特に何も無いらしくてのぉ。自分でメモをとって管理を徹底するように対策しているとも言っていてなぁ」


 調べたところ、結局事故なのか事件なのか判別が不可能らしい。


 結論を下すなら、間違いなくハズレの情報だろう。


「疑わしい・不審な部分」を洗いざらい調査する以上、ハズレに出くわすことの方が大きいとは思っていたが、思った以上に翻弄されており、逆に自信が無くなってくる。


 日々の日常に懐疑心を抱いて見つめ直すと、確かに片鱗のようなものを感じることはある。

 ただ、どれもこれも検討はずればかりなのだ。


 早く終わると思っていたことなのに、これだと威勢を失うのも無理はない。


 アンナを含めて三人とも困った様子で道沿いで立ち尽くし、呆然としてしまう。次に何をすればよいのかわからない。


「一週間って長くねえか?」


「なんともいえぬなぁ。ふむ......。いっそ、『下』にでも潜るかの? 一応、ギルドの見解じゃとあそこも『北東地域』じゃ。隣接している以上、調査をせねばなるまい」


 残された道はそれしかない。しかし昨日の話から聞いた以上、特に何もなさそうな感じがする。


「本当に何かあるのか......? (何かあるかもしれないけど、『どうせないだろ』っていう気持ちが......)」


「ワシもこの街に住んで長い。『下』に昔行ったことがあるが、古い遺跡があるくらいじゃった」


「確か観光地として整備しようとして、やっぱり諦めたって話だったよな?」


 マイルスの言うことに頷いて「そんな話もあったのぉ」と呟くロウ。

 ここにきて初めて聞いた情報だ。


 手付かずとは聞いていたが、その背景事情までは全く知らなかった。


(だけど......。そんな程度の場所に何かあるのか?)


 だが聞いた話だと、隔絶された魔境とは程遠い。どちらかというとしょうもない理由だ。


 整備できなかった観光地計画の遺跡。そんな場所、三人で探しに行くのは時間の無駄のように感じてしまった。


「ならウチが一人で行こうか? そんな危ない場所じゃないと思うし」


 なので効率よく調査するためにも、数人で別れた方が良い気がした。そのことを提案する。


 そしてそれは他の皆も思っていたようで、ロウが「確かにそのほうが良いな」と言ってくれる。

 正直に言って、彼らが賛同してくれて内心では安堵した。時間の無駄な使い方ほど、地味に腹が立つことはないからだ。


 決まりだ。適当な時間を作って、一人で調査してみよう。


「こんな適当でいいのかねぇ」


 マイルスが少し暗い表情をして呟く。気持ちが沈むのも理解できる。

 その後は特に何もないまま、こうして二日目の調査が終了した。

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