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アンチテーゼ/アンライブ  作者: 名無名無
第二章 霧の街のミステリー
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見知らぬ人たちと魔物退治

「行ったか......」


 名前も知らない青髪の女。親切に食料を分けてくれたが、その程度で尻尾を振るような男ではない。

 空腹が多少改善したところで、結局根本的な解決にはなっていない。腹は減ったままだ。


 善意のつもりで置いていったのだと思われる残りの容器も、余計なお世話である。頂いた以上、勝手に食べるだけだが。


「......フン」


 ボロボロの布を羽織りフードのように被る男は、青髪の女が家を出てしばらくした後。

 腰のあたりにこっそり隠してあった、ナイフと小さな袋を取り出した。


「食料を......集めないと......」


 男は袋を懐に仕舞い、ナイフを取り出しやすい位置に隠し持つ。


 そして気配を探りながら扉を開けて、外に出て行った。



「......」


 宿に戻り、荷物を置いてふとテーブルを見ると、一枚の置き手紙があった。


 それを手に取り読んだところ、後ろめたさを感じることとなった。


「アンナへ。お前がこの街で何をするか。土産話を楽しみに待ってる!」


 デリバーの筆跡だ。クセのある文字なのですぐに分かった。


 昨夜、アンナが飲み歩いていた時にでも書いて置いていったのだろうか。だとすると、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。


 手紙を握る手に力がこもって、少しだけクシャりと歪めて握りしめた。


「頑張ります......」


 そして不甲斐ない自分を戒めるべく、置き手紙をしっかりノートに挟み、ついでに顔を自分の手ではたく。

 ペチンと小さな音が鳴るだけで、あまり痛みなど感じなかったが、鼓舞するにはちょうどいい。


「......まずは風呂! そしてギルド!」


 誰もいない部屋で自分に言い聞かせるように言って、アンナは身支度を整えギルドに向かった。



 〜〜〜この街のギルドはいつも人がいない。


 先日聞いた話の通りなら、冒険者や旅人も怪奇事件が怖くて依頼どころじゃないのだろうか。

 それとも単に元から人が少ないのか。


 どちらにせよ、アンナは自分で選択して動くのみ。


 ギルドのカウンター右横にあるクエストボードへ向かい、早速内容を拝見する。


 確か以前デリバーと話し合った時、自分に見合うやつを受けろとか言われた記憶がある。


「えっと......」


 ある場所の探索。採集依頼。その他諸々。

 アンナのレベルだと、冒険者が受ける依頼と内容が被っていることが多い。


 それに街に滞在する以上、旅人向けの依頼を受けるのは難しい。ほとんどが街へ移動する際についでに受ける配達依頼ばかりだからだ。


 なので、以前やったような採集依頼など、便利屋のまがいごとをするしかないのだが。


「これでいいかなぁ」


 街に滞在する旅人でも、冒険者向けでもある依頼。その中から適当に選び、受注するためにカウンターに向かった。


 人生で二つ目となる依頼。「街の北西に住み着いた魔物の討伐」だ。

 推奨人数が一人〜三人と念を押して書いてあるが、化け物じみた能力を持つアンナならなんとかなるだろう。


 そう思ってカウンターに依頼用紙を提出しようと手を伸ばすと、後ろから誰かに声をかけられた。


「よう!」


 聞き覚えのある声だ。

 後ろを振り返って確認すると、昨日出会った二人組の若い方、マイルスだった。


「なんかやつれてるけど大丈夫か?」


「元からこんな顔だよ」


 昨夜飲みすぎてやらかしたなんて口が裂けても言えない。

 なので堅物のような表情を取り繕い、そっけなく返事をしてあげる。


 別に何か突っ込まれるわけでもなかったが、マイルスがアンナの持つ依頼の紙を見て、そいつを取り上げて勝手に読み始めた。


「ちょ......」


「お前、一人でこれやるつもりだったのか? 何かあったらどうすんだ?」


「腕には自信がある」


 しかめっつらして依頼の紙とアンナを交互に見るマイルス。

 マイルスの言うことも分かるので、アンナはうまいこと反論できない。


「用がないなら行ってもいいかな?」


 このまま相手をしていると「俺も行く」とか言われそうなので、とっととこの場から離れたかったのだが。


 予想通り、マイルスに「ダメだっ!」と強く否定され、紙を上に上げてアンナの手が届かないようにする。

 身長はマイルスの方が上だ。手を伸ばされるとどうしようもない。


「はぁ」とため息が出てしまうアンナ。諦めの意思が伝わったのか、マイルスがこれまた予想通りの提案をしてきた。


「俺たちと一緒にこの依頼を受けようぜ」


 俺たちと言うことは、恐らくあの老人も一緒だろう。


 なんだか面倒なことに巻き込まれてしまったが、後に引けない状況になってしまった。


 もう一度ため息を吐いて、無言で頷き、アンナはマイルスと行動をともにすることにした。




 マイルス。ロウ。二人の男たちと組み、一組の小隊として動くアンナたち。

 街の北西にある目的地に向かいながら雑談を重ねるうちに、彼らのことについて色々と情報を得ることができた。


 まずロウは別の街からやってきた元旅人で、この街に住むこと決め、余り余る活力でなんでも屋として「冒険者」になったらしい。


 マイルスは幼い頃に両親と別れ、保護施設で孤独に生きていたところをロウに救われたらしい。あまりに幼いときだったため、両親の記憶はないとのこと。


 お互い計画したわけでもなく、運命的な出会いをし、そして二人の絆はまるで本物の親子。もしくは孫と祖父のような関係になっていったと言う。


 そして同時にマイルスはロウの弟子でもある。世界を旅してきたロウの下で経験を積み、いつの日か彼を超える旅人になりたいらしい。


「夢があるっていいな」


「だろぉ! だからかな、旅人のお前が羨ましいぜ!」


「その歳で旅を始めるとは立派なもんさのぉ。ワシがデビューしたのはお前さんよりもっと後の年代に......」


 ロウがついつい長話を始め、それをマイルスが「ジジイ、ストップだ!」と止める。

 血は繋がっていなくても、愛情によって結ばれている関係。


(......いいな)


 愛情を壊す側(人殺し)としての経験を積んだことがあるアンナ。その反動のせいか、愛情を目の前で見ると胸が痛くなり、同時にそれを望む気持ちも僅かに湧いてくるようになった。


「っと......。落ち着けアンナ......」


 小声で自分に言い聞かせ、雑念を払う。今は仕事中だ。深すぎる思考はよろしくない。


 気を紛らわすのも兼ねて、仕事に集中するため、懐から地図を取り出す。


 目的地まであと少し。獣狩りといえど、油断すればどんな人間でも死んでしまう。

 ましてや今回の依頼は推奨人数が定められている。注意してかからねばならない。


「マイルス。ロウさん。もうすぐです」


「ああ、分かってる」


「心配されんでも、ちゃんとやるわい」


 ロウ、マイルス、アンナの三人は、獣に荒らされたと思われる小さな森の入り口に辿り着いた。

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