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アンチテーゼ/アンライブ  作者: 名無名無
第一章 旅の幕開け
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山脈の旅道

 翌日。森を抜けて平原を歩くこと半日。

 地形を下って来たとはいえ、まだ標高が高い場所にあるこの平原では、少し冷たい風が吹いていた。


 髪が風の流れに沿って暴れるため、一度ヘアゴムで髪の根元と先端を纏めて、背中と服の間に収納し対策をしつつ歩いてる。


 今どこにいるのか。山なのか、それとも山谷にあるだけなのか。ただ高い平原だけなのか。

 この世界の地形詳しく把握したわけではないので、それすらわからない。


「うわっ!」


 突然突風が吹き荒れて、体のバランスを崩して転びかける。

 なんとか踏ん張って、前を歩くデリバーの後を追う。


「大丈夫か?」


「平気平気。ちょっとドジっただけ」


「そうか」


 前を歩き続けるデリバーに心配される。

 このまま数十分。さらに数時間と歩き続けて、ようやく平原を通り抜けた。


 しかしそこで見たのは、正直言って「うへぇ」と愚痴をこぼしたくなるような光景だった。


「やっぱ山脈を歩いているだけあって、道のりは険しいな」

「山脈!?」


 目の前に広がっているのは、崖で分断されて草木生い茂る緑の森や草原とは違った、歩くものを拒むかのような大地。通りで険しい道のはずだ。今、アンナたちは山脈を歩いているのだから。


(大きな岩、砂利道、積もっている雪......。一度、山に登ったからわかるけど.......)


 今、立っている大地は草原だ。しかし、崖を挟んで向こう側に繋がる橋を渡ると、あるのは大きな岩や雪の塊が転がっている岩の大地。

 障害物がそこら中にあって、歩くのが辛いのは見てるだけでわかる。


「しかもこの橋を渡れと......」


 目の前に一本だけある橋。横幅は意外と広いが——。


「確かに一本しかない橋ってのは、色々と不吉に思うかもしれんが、目的の街に行くにはこれしか手段がない。ここは空の道は気流があって危険だから、空の便も使えねえしな」


 つまり、この道は皆が通っているということ。そしてそれでも健在の橋ということは、安全なのは間違いないだろう。


「ほれみろ。車輪の跡があるだろ?」


 顎でクイッと、橋の床を示すデリバー。

 確かに、何度も何度も何かが通ったような、大きな乗り物の跡が痕跡となって残っている。


 そういえば橋の幅は、車一つと人間二人くらいが横に並んで歩けるくらい広い。


「渡るぞ」


「え、えぇ......。決心決心......」


 念仏のように唱えながら覚悟を決めて、デリバーの後に続いて橋に片足を突っ込む。

 最初は不安に思いつつ、歩いて見ると特に何もなく、二人は橋を抜けることができた。



 〜〜数時間後。本日の野営地となる場所にて、いつも通りの夜を過ごすため準備をする二人。


「うわっ!」


 野営地の整備をしていると、どこから現れたのかわからないトカゲが肩に引っ付いていたり、時には背中をよじ登って服の中に入り混んでくる。


 その度に「ゾワワァ」と気持ち悪い感触を味わいながら、服を脱いで奴らを追い払っている。


「なんでこんなに......」


「お前が美味しそうなんじゃねえか?」


 こんな時に、アンナが苦しむ姿を見て冗談かましてくるデリバー。

 この気持ち悪さがわからない鬼に向かって「クワッ!」と、犬が威嚇する時のような表情を思い返し威嚇する。


 一応アンナなりの戯れのつもりである。見た目よりはそれほど怒ってはいない。山でのたくましい経験があるせいで、この程度じゃ狼狽えたりはしない。不満は感じるが。


「ウチは自然物じゃないっての」


「ははっ、不思議だなぁ」


「見てないで助けろよぉ!」


 体にまとわりついてきた感覚を思い返して、ブルリと震える。

 そんなアンナの表情を見て苦笑しつつ「ごめんなぁ」と適当に謝られて、適当な冗談をお互いに繰り返しながら、そのまま準備を終える。



 本日は豪華なことに、デリバーの手持ちの小さなテントを借り受けた。

 いつも持ってたのなら取り出して欲しかったが、彼曰く組み立てるのが面倒だったらしい。


「お前と俺が二人で入っても、ギリギリなんとかなる。だがまあ、寝るとなったら一人しか入れないが......」


「ああ、ならウチは必要ないね。いつも通り見回りに徹するよ」


 なんだか申し訳なさそうな様子でこちらの顔を見つめるデリバー。

 その気持ちはわかるが、仕方ないことは仕方ない。


 お互いの生存率を上げるため。危険を効率よく排除するためにも、アンナにとって依存はない。


「まだ飯には時間がある。俺の目が届く範囲で、あちこち見回ってきてもいいぞ」


「了解」


 本日の野営地となる平らな岩の大地から出て、緩やかに下っていく申し訳程度のスロープに沿って下っていく。

 スロープで整備された終着点。そこでは、山から見る絶景とでもいうべきか、樹海や名前も知らない街など、広大な景色が見えた。


 ここは山の中腹なので、山にかかる雲よりかは下だ。それでも少し上を見れば、頂上は雲より上にあるとすぐわかる。


 そして中腹にある開けた土地なので、何もないが大型生物の影も見えない。

 風が少し吹いている程度で、野営地には風が入ってこない構造となっているので、テントが吹き飛ばされることはない。


「気持ち良い......」


 こうして本日はずっとこの場所で黄昏れて、いつも通りの夜を過ごし、そして次の日を迎えた。




 〜〜〜すでに移動だけで二日の時間が過ぎていた。


 そして移動に意外と時間をかけること。過酷な道を歩くこと。それらを踏まえて、もし生前の自分だったらと思うと、おそらくすでにギブアップしていたかもだ。

 そんな険しい旅をしているのだから、人生とは不思議である。


「ふう。やっと見えてきたぞ」


「あれが......」


 岩の大地を進み、徐々に下っていった先に集落を見つけた。

 岩山に逆らうことなく、その急な斜面に家を作り、自然と融合したところだ。


 今いる場所から目視できるのは、家が幾つか建っているのと、大きな教会があること。その他見慣れないものが複数目視できる。


「あそこが集落だな。行くか」


 こうして二人は二日目の午前中に集落へと辿り着くことができたのであった。



 集落は至ってシンプルな作りで、街に見られるような壁がない代わりに、牧場にあるような腰くらいまでの高さの柵で囲われていた。


 集落の入り口には、ボロボロで今にも崩れそうな立て看板があり、そこに「ミストヒル・ビレッジ」と書いてある。集落の名前だろう。


 そしてしっかり街道が舗装されていて、その街道にしたがって歩いていく。


「ここが民宿の宿だな」


(『INN』って書いてある......)


 よくRPGで見慣れている文字と、ベッドのマークがセットとなって、一見普通の家に表札のように貼ってあった。

 その建物のドアを開けて、誰かいないかお邪魔させてもらった。

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